◆短くわかる民事裁判◆
上告理由の記載方式:最高裁への上告
上告に際しては、上告状か、上告理由書に、上告の理由を記載しなければなりません(民事訴訟法第315条第1項)。
そして、民事訴訟法第315条第2項は「上告の理由は、最高裁判所規則で定める方式により記載しなければならない。」と定め、さらに民事訴訟法第316条第1項第2号は、上告状に上告理由の記載がなく提出期限までに上告理由書を提出しなかった場合と上告理由の記載が第315条第2項に違反しているときには原裁判所が決定で上告を却下しなければならないことを定めています。
つまり、上告理由を最高裁判所規則が定める方式によって記載しない場合は事件記録が上告裁判所に送られることなく原裁判所で上告が却下されることになっているのです。
上告理由の記載についての最高裁判所規則が定める方式は、最高裁への上告については次のようになっています。
「判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とする上告の場合における上告の理由の記載は、憲法の条項を掲記し、憲法に違反する事由を示してしなければならない。この場合において、その事由が訴訟手続に関するものであるときは、憲法に違反する事実を掲記しなければならない。」(民事訴訟規則第190条第1項)
「法第三百十二条(上告の理由)第二項各号に掲げる事由があることを理由とする上告の場合における上告の理由の記載は、その条項及びこれに該当する事実を示してしなければならない。」(民事訴訟規則第190条第2項)
主張されている上告理由のすべてが上の2点(民事訴訟規則第190条第1項、第2項)を満たさない(上の方式を満たして記載された上告理由が1つもない)場合は、原裁判所(高等裁判所)の補正命令の対象となり、補正命令があっても補正しないときには上告却下決定がなされることになります(民事訴訟規則第196条、民事訴訟法第316条第1項第2号)。
民事訴訟規則は、最高裁への上告に適用されるものとして、判例違反を主張する場合の当該判例を具体的に特定すること(民事訴訟規則第192条)と「上告の理由は、具体的に記載しなければならない。」(民事訴訟規則第193条)を定めていますが、これらの規定(方式)の違反は上告却下決定の対象とはされていません(民事訴訟規則第196条第2項参照)。
結局、最高裁への上告の場合で言えば、憲法違反・憲法解釈の誤りの主張では、問題とする憲法の条項と「憲法に違反する事由」、その事由が訴訟手続に関するものであるときにはさらに「憲法に違反する事実」を記載しなければならず、民事訴訟法第312条第2項各号のいわゆる絶対的上告理由の主張では民事訴訟法第312条第2項のどの号に当たるのかと「これに該当する事実」を記載しなければならないということになります。
「憲法に違反する事由」、「憲法に違反する事実」って何でしょう。上告理由の記載方式に関して、この民事訴訟規則の規定以上に詳しくかみ砕いて説明しているものは、探してもなかなか見当たりません。法律用語辞典の類いでは「事由」は「理由または原因となる事実」というように説明されるのが通例です。結局どちらも「事実」じゃないか、どう違うんだと思うでしょうね。
法律家業界の一般的理解というか感覚では、要するにどの程度まで具体的な記載を求めるか、相当程度抽象的でよい場合に「事由」、具体的に特定する必要があるときに「事実」と言っているのだと思います。私の得意分野の労働事件・解雇事件では、例えば「解雇事由」としては就業規則で定める解雇事由「著しく協調性に欠けるため業務に支障を生じさせ、改善の見込みがないとき」に当たるとして使用者が解雇したとき、裁判ではその解雇事由を基礎づける事実を使用者側で主張立証する必要があり、そのときには単に就業規則上の解雇事由ではなく、具体的に当該労働者がいつ誰に対してどのような言動をし、それにより業務にどのような支障を生じ、上司等がいつどのように注意指導をし、その後に当該労働者がいつどのような言動をして改善の見込みがないと言えるのかなどを立証しなければなりません。
現実の事件でどの程度まで特定すれば足りるかをあらかじめ説明するのは難しい(だから、そういうことを書いた文献とかサイトは見当たらない)のですが、例えば憲法第13条(幸福追求権等)違反を主張する場合に、「原判決は憲法第13条に違反している」では、単に憲法の条項を記載しているにとどまり、「憲法に違反する事由」を記載していないということになると考えられます。原判決が○○とした判断は、そのような解釈によれば上告人に××のような事態を強いることになり、上告人が△△する権利を侵害するから憲法第13条に違反するというレベルの記載をすれば、一応「憲法に違反する事由」は記載しているということになるのではないかと思います。もちろん、その程度の記載で最高裁が上告理由ありと判断することはとても考えられず、真面目に上告する以上、事実も理由も詳細に踏み込んで書くことになり、弁護士が上告するなら当然そうしますが、まったく上告理由を記載していないとか方式に違反していると言われない最小限をあえて説明するならそれくらいかと思うというところです。
事由が訴訟手続に関するものであるときは、原判決の判断の内容ではなく、原判決の訴訟手続が法令違反とか憲法違反と主張することになりますが、その場合、その訴訟手続自体は原判決に記載されていないのがふつうです。ですから、その場合は、具体的に原判決に至る訴訟手続で何があったのかを示した上で、それがどのように憲法違反なのかを主張する必要があります。一般の方が多く主張する憲法第31条(適正手続)違反や憲法第32条(裁判を受ける権利)違反を主張する場合、訴訟手続に関する事由を主張することになりますから、単に憲法第31条違反とか憲法第32条違反というだけでは上告理由の体をなさず、まずは問題とする事実(いつ誰がどうしたのかなど)を具体的に記載した上で、それがなぜ上告人のどのような(手続上の)権利を侵害しているのかを論ずることが最低限必要になります。
民事訴訟法第312条第2項の絶対的上告理由は、いずれも訴訟手続に関するものですので、民事訴訟法第312条第2項各号に定められている事由(例えば6号の「判決に理由を付せず、又は理由に食い違いがあること」)が、いわば違反する事由で、それに加えて、それに該当する「事実」を記載する必要があるということです。
上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
モバイル新館の「最高裁への上告(民事裁判)」、
「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。
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