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短くわかる民事裁判◆
上告受理申立て理由の記載方式違反を理由とする却下決定
 上告受理申立て理由の記載方式で説明したように、最高裁判所規則(実際には民事訴訟規則)で定める上告受理申立て理由の記載方式のうち、補正命令の対象となるのは民事訴訟規則第199条第1項及びそこで準用されている同規則第191条第2項、第3項のみ(民事訴訟規則第199条第2項、第196条第1項)であり、記載方式違反を理由とする上告受理申立て却下(民事訴訟規則第199条第2項、第196条第2項、民事訴訟法第316条第1項第2号)は、その補正命令を受けた申立人が定められた期間内に補正しないときになされることとされています(民事訴訟規則第196条第2項)。
 そうすると、理由の記載方式違反による上告受理申立て却下決定は、判例違反その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むことの記載がない(民事訴訟規則第199条第1項違反)、法令の条項または内容が掲記されていない(民事訴訟規則第191条第2項違反)、問題となる法令が訴訟手続に関するものであるときに原判決のこれに違反する事実が掲記されていない(民事訴訟規則第191条第3項違反)のいずれかの場合以外には行い得ないと解されます。

 しかし、1999年度裁判所書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版掲載の上告受理申立て却下決定(上告受理申立ての理由の記載方式違反の場合)の参考例(266ページ)には、却下決定の理由として「上告受理申立ての理由につき、判例等と相反する場合にあってはその判例を具体的に示し、その他法令の解釈に関する重要な事項を含むことを理由とするときは法令の条項又は内容を掲記しこれに該当する事実を示して記載したものに補正するよう期間を定めて命じたところ、その命令は平成○○年○○月○○日申立人に到達した。これに対し、申立人は平成○○年○○月○○日付け理由補正書を提出したが、これによっても、いまだ適式な補正がされたものと認めることはできない。」と記載されています。
 判例の具体的摘示を定める民事訴訟規則第192条は補正命令の対象とされていませんし、そもそも上告受理申立て理由の判例違反は「法令の解釈に関する重要な事項を含む」ことの例示に過ぎず上告受理申立て理由として記載は義務づけられていません。「法令に違反する事由」の記載が補正命令の対象かは議論の余地がありそうですが、法令に違反する「事実」の記載が要求されているのはその法令が訴訟手続に関するものの場合だけです。そうすると、この補正命令は、判例の具体的な摘示を求めている点及び法令が訴訟手続に関するものである場合という限定をせずに該当する「事実」の記載を求めている点において、民事訴訟規則第196条第1項に違反するもののように見えます。
 この記載は「参考例」で実例そのものではないのでしょうけれども、裁判官が作成し裁判所書記官の実務に用いるべきものとして頒布されているものであることからして、裁判実務でこのような運用が現になされているか少なくとも広く容認されているものと推測できます。
 補正命令や却下決定が表面に出てくるケースはあまりありません。実務では、比較的ルーズにというか裁判官の感覚で必要以上の補正が命じられ、それに応じられないと却下決定がなされているという可能性があることを考慮して、対応することが必要でしょう。

 上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「最高裁への上告(民事裁判)」もばいる「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。

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