◆短くわかる民事裁判◆
上告受理申立て理由の記載方式
上告受理申立てに際しては、上告受理申立書か、上告受理申立て理由書に、上告受理申立ての理由を記載しなければなりません(民事訴訟法第318条第5項、第315条第1項)。
そして、民事訴訟法第315条第2項は「上告の理由は、最高裁判所規則で定める方式により記載しなければならない。」と定め、さらに民事訴訟法第316条第1項第2号は、上告状に上告理由の記載がなく提出期限までに上告理由書を提出しなかった場合と上告理由の記載が第315条第2項に違反しているときには原裁判所が決定で上告を却下しなければならないことを定め、これらの規定が上告受理申立てに準用されています(民事訴訟法第318条第5項)。
つまり、上告受理申立て理由を最高裁判所規則が定める方式によって記載しない場合は事件記録が上告裁判所に送られることなく原裁判所で上告受理申立てが却下されることになっているのです。
上告受理申立て理由の記載についての最高裁判所規則が定める方式は、次のようになっています。
「上告受理の申立ての理由の記載は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断があることその他の法令の解釈に関する重要な事項を含むことを示してしなければならない。」(民事訴訟規則第199条第1項)
「前項の規定により法令を示すには、その法令の条項又は内容(成文法以外の法令については、その趣旨)を掲記しなければならない。」(民事訴訟規則第199条第1項、第191条第2項)
「第一項の規定により法令に違反する事由を示す場合において、その法令が訴訟手続に関するものであるときは、これに違反する事実を掲記しなければならない。」(民事訴訟規則第199条第1項、第191条第3項)
※民事訴訟規則は、上告受理申立てに上告の規定を準用するに際して、民事訴訟規則第191条第1項は準用せず、それに代えて民事訴訟規則第199条第1項を定め、その中で民事訴訟規則第191条第2項、第3項を準用しています。民事訴訟規則191条第1項が「法令の違反」「法令に違反する事由」としているところが「法令の解釈に関する重要な事項を含む」に代えられているわけですが、そうすると民事訴訟規則第191条第3項の「第1項の規定により法令に違反する事由を示す場合において」をどう読むのか、上告受理申立てにおいて、「法令の解釈に関する重要な事項を含む」ことに加え「法令に違反する事由」を記載する必要があるのかは、不明瞭であるように見えます。
この点、東京高裁が用いている「上告受理申立書の提出について」(上告受理申立て通知書に同封されてくる)では、「上告受理申立ての理由は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断があることその他の法令の解釈に関する重要な事項を含むことを示して記載してください。この場合において法令を示すには、その法令の条項又は内容(成文法以外の法令については、その趣旨)を掲記してください。また、法令が訴訟手続に関するものであるときは、これに違反する事実を掲記してください。」と記載されています。
主張されている上告受理申立て理由のすべてが上の3点(民事訴訟規則第199条第1項、第191条第2項、第3項)を満たさない(上の方式を満たして記載された上告受理申立て理由が1つもない)場合は、原裁判所(地方裁判所)の補正命令の対象となり、補正命令があっても補正しないときには上告受理申立て却下決定がなされることになります(民事訴訟規則第199条第2項、196条、民事訴訟法第316条)。
民事訴訟規則は、上告受理申立てに適用されるものとして、判例違反を主張する場合の当該判例を具体的に特定すること(民事訴訟規則第199条第2項、第192条)と「上告の理由は、具体的に記載しなければならない。」(民事訴訟規則第199条第2項、第193条)を定めていますが、これらの規定(方式)の違反は上告却下決定の対象とはされていません(民事訴訟規則第199条第2項、第196条第2項参照)。
結局、上告受理申立ての場合、上告受理申立て理由である判例違反その他の法令の解釈上重要な事項を含むことを示し、問題とする法令の条項(またはその法令の内容)を示し、問題とする法令が訴訟手続に関するものであるときには「法令に違反する事実」を記載しなければならないということになります(訴訟手続に関する法令以外の法令を問題とするときに原判決が「法令に違反する事由」を記載する必要があるのか、法令に違反するかどうかはおいて「法令の解釈に関する重要な事項を含む」ことのみで足りるかは、不明瞭な点が残ります)。
上告受理申立て理由の判例違反その他の法令の解釈上重要な事項を含むことで、判例違反は法令の解釈に関する重要な事項の例示ですから、判例違反を指摘しなければならないわけではありません。一般の方には、判例違反を指摘しなければならないものと思い込んだ上で、かなり無理な(弁護士の目にはこじつけや、こじつけにさえならない荒唐無稽な)判例違反の主張をする方が少なくありません。無理矢理判例違反という必要はありませんので、最終的に「法令の解釈に関する重要な事項を含む」ということに持って行くことが大事であり、また必要です。
以下、「法令に違反する事由」の記載も必要と考える場合に合わせて、「法令に違反する事由」と「法令に違反する事実」の記載について説明します(「上告理由の記載方式:高裁への上告」の説明と同じです)
「法令に違反する事由」、「法令に違反する事実」って何でしょう。上告理由の記載方式に関して、この民事訴訟規則の規定以上に詳しくかみ砕いて説明しているものは、探してもなかなか見当たりません。法律用語辞典の類いでは「事由」は「理由または原因となる事実」というように説明されるのが通例です。結局どちらも「事実」じゃないか、どう違うんだと思うでしょうね。
法律家業界の一般的理解というか感覚では、要するにどの程度まで具体的な記載を求めるか、相当程度抽象的でよい場合に「事由」、具体的に特定する必要があるときに「事実」と言っているのだと思います。私の得意分野の労働事件・解雇事件では、例えば「解雇事由」としては就業規則で定める解雇事由「著しく協調性に欠けるため業務に支障を生じさせ、改善の見込みがないとき」に当たるとして使用者が解雇したとき、裁判ではその解雇事由を基礎づける事実を使用者側で主張立証する必要があり、そのときには単に就業規則上の解雇事由ではなく、具体的に当該労働者がいつ誰に対してどのような言動をし、それにより業務にどのような支障を生じ、上司等がいつどのように注意指導をし、その後に当該労働者がいつどのような言動をして改善の見込みがないと言えるのかなどを立証しなければなりません。
現実の事件でどの程度まで特定すれば足りるかをあらかじめ説明するのは難しい(だから、そういうことを書いた文献とかサイトは見当たらない)のですが、解雇事件で解雇有効と判断されて敗訴した労働者が上告する場合に、「原判決は解雇権濫用法理の解釈を誤っている」だけでは違反している法令の内容を示しただけで「法令に違反する事由」を示したとは言えず、原判決は上告人の行為による被上告人の業務上の支障の程度について(あるいは被上告人の注意指導、上告人に対する配置転換の打診もなかったこと等)十分検討することなく(あるいは考慮せず等)本件解雇を社会通念上相当として本件解雇を有効と判断したものであり、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)の解釈を誤っており、この違法が判決に影響を及ぼすことが明らかである程度の記載があれば、一応「法令に違反する事由」は記載しているということになるだろうと思います。もちろん、その程度の記載で最高裁が上告を受理するとか、上告受理申立て理由があると判断することはとても考えられず、真面目に上告する以上、事実も理由も詳細に踏み込んで書くことになり、弁護士が上告受理申立てをするなら当然そうしますが、まったく上告受理申立て理由を記載していないとか方式に違反していると言われない最小限をあえて説明するならそれくらいかと思うというところです。
法令が訴訟手続に関するものである場合、例えば相談でよく聞くパターンで、控訴審の弁論終結後に弁論再開を申し立てたが再開されなかった(無視された)という主張であれば、少なくとも弁論終結と弁論再開申立て等の事実経緯の主張は必要になります(その場合は訴訟記録上明らかなことが多いでしょうけど)。
上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
モバイル新館の「最高裁への上告(民事裁判)」、
「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。
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