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短くわかる民事裁判◆
強制執行の便宜のための判決の更正
 勝訴した原告が、判決を受けても任意に従わない被告に対して強制執行をする際、被告の氏名や住所の記載が登記簿の記載や銀行への届出と違っていると、法務局や銀行から強制執行を拒否されたり難航するということがままあります。
 原告側で予め調査して強制執行に支障がないような表示を裁判所に求めておくべきではありますが、法務局や銀行に許否や難色を示されて初めてわかるということもありますし、被告の転居、それが住民票の異動を伴っているかなど、後で判明するということも完全に避けることはできません。
 そういう事情がある場合に、原告側では、法務局や銀行が受け容れるように判決の記載(特に被告の氏名・住所等の表示)を更正して欲しいという需要は、実務上、生じます。

 判決の更正ができるのは「判決計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤りがあるとき」とされています(民事訴訟法第257条第1項)。
 判決の更正は、判決に「誤り」がないとできないでしょうか。

 貸金請求訴訟で、被告が住民票所在地以外の場所に居住し、その住所が判明していて、被告はその住所で訴状副本等の送達を受けており、裁判上の支障が何もないことから、判決の被告の住所としてはその実際の住所のみが記載されました。しかし、被告は判決を受けても任意に支払わず、判決後転居し、住民票も異動しました。そうなると、原告側では強制執行のために現住所に居住する被告と判決記載の被告が同一人であることを執行裁判所に示さなければなりませんが、それは通常は住民票の記載(連続性)で行います。すると、判決に住民票上の住所の記載がないと、住民票によって同一人であることを示すことができません。
 そこで原告が第1審裁判所(東京簡裁)に対し、判決時の被告の住民票上の住所を併記するよう更正の申立てをしたところ、東京簡裁1996年12月29日決定は、明白な誤謬に当たらないとして更正申立てを却下しました。原告(申立人)が即時抗告し、即時抗告審(東京地裁1997年3月31日決定:判例時報1613号114ページ)は、「現在の強制執行の実務においては、被告が判決後に転居した後に、原告が強制執行を申し立てる際には、右新住所を記載して同所を送達場所とする必要があり、判決に記載された住所と強制執行申立て時の住所が異なる場合には、住民票上の住所の連続によって被告と債務者の同一性を明らかにする必要があるものとされているところ、裁判所の意思と表現の間に食い違いがあるとはいえない場合であっても、更正決定制度の目的、訴訟経済の観点から、特に判決に基づく執行、戸籍訂正、登記等を容易にするために必要があるときは、同条項の類推適用が認められるものと解され(最高裁判所昭和43年2月23日第二小法廷判決・民集22巻2号296頁参照)、また、表現の「誤謬」とまではいえない程度の不明瞭な表現を明確にし、あるいはより適切な表現に改めることも許されるというべきであることから、判決に基づく執行を容易にするため、本判決においても、これを更正して被告の住民票上の住所を併記するのが相当である。」として、原決定を取り消し、判決に被告の住民票上の住所の記載を加えました。
※判決が引用している最高裁1968年2月23日第二小法廷判決は、裁判所は原告が求めたとおりに判決したのであり裁判所が間違えたわけではないけれども原告が自分が求めているものを書き間違えた場合でも更正できるということを述べているもので、この最高裁判決が、特に判決に基づく執行、戸籍訂正、登記等を容易にするために必要があるときは、同条項の類推適用が認められるとしているわけではありません。

 裁判所は、自分は間違っていないから更正しないなどという態度を取るのではなく、判決が有効に機能するよう、現実的で柔軟な対応をしてほしいと思います。

 判決については、モバイル新館のもばいる 「弁論の終結と判決」でも説明しています。 

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