庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

    ◆法律相談の話
  弁護士とセカンドオピニオン

 法律相談で、すでに弁護士に依頼中の相談者の方が、その弁護士の仕事が適切かを聞いてくることが時々あります。普通に法律相談センターで相談を受けていてもありますし、法律相談センターの委員として弁護士会にクレームが来たときの事情聴取をするときにはまず間違いなく聞かれます。
 そういう経験からいうと、これは判断が難しいんです。別に弁護士仲間だから遠慮しているというわけじゃなくて、ことがらの性質上、難しいんです。

  法律相談の元になる事実

 弁護士の判断やアドヴァイスは、相談者の抱えている紛争や問題をまず事実として把握して、その事実を前提に法的な枠組み・手段を考えていきます。元になる事実が違えば、当然、答は変わります。客観的な事実が同じでも、弁護士が把握した事実が違えば答は変わります。
 弁護士が法律相談の場などで事実を把握する材料は、相談者の方の話と相談者の方が持ってきた(見せてくれた)資料だけです。客観的な事実が同じでも、相談者の方の話し方によって、弁護士の把握する事実は変わるわけです。
 相談者の方が、自分から、弁護士が事実関係を把握するのに必要な(または適切な)情報を全て出してくれるということは、あまりありません。相談者の方には、関連する多数の情報のうち弁護士にとって重要なものが何かを自分で判断することが、普通はできません。また、相談者の方にとって、あまり話したくない事情・心情があることもあるでしょう。通常は、弁護士の側で、相談者の方の話を聞きながら弁護士に必要だけれどもまだ話されていない情報を聞き出していくわけですが、それも相談者の方との話の流れの中でのことですし、弁護士の側のセンス・経験(さらには体調も・・・)によって聞き逃しもあります。相談者の方の話を補充してくれる関係資料も、相談者の方が持ってきていなければ見ることができません。
 このように、法律相談は、相談者の方がどの事実をどう話すか、どの資料を見せるかによって、答が変わりうるという性質を持っています。
 医者の場合なら、相談者の方が症状をうまく話せない場合でも、検査をすれば、相談者(患者)の身体の客観的なデータは得ることができます。でも法律相談の場合、そういうものはありません。

  相手方のある話

 法律問題は、通常は、紛争の相手方やその紛争に利害関係がある人がいます。そうすると、問題を解決するための方針を立てるにも、相談者(依頼者)の話だけでは判断できないことがあります。全く同じ事実関係でも、相手方や利害関係人がどう考えているか(これからどう動こうとしているか)によって、最善の手段が変わりうるわけです。
 そうすると、相手方の動向の予測によっても、法律相談の答・弁護士の方針は変わりうることになります。しかし、この判断が、また、弁護士のセンス・経験で変わってくるところがあり、他の弁護士がした判断を「誤り」ということは難しいわけです。
 さらに、現実に事件を受任して相手方と交渉を始めれば、相手方からも情報が入ります。相談者から聞いている話と相手方から聞く話が全く違うことは珍しくありません。相手方から主張の根拠となる資料を見せられることも、当然にあります。その結果、弁護士が、相談者の話の全てが真実というわけではないと判断することもありますし、相手方の主張にもある程度の理由があると判断することもあります。そうなれば、現実的な解決のあり方の判断も変わってくることは十分にあり得るわけです。
 そういう事情を、後から相談された弁護士が、相談者の方から聞き取ることは、多くの場合、難しいです。相談者自身が十分に把握していないことがありますし、相談者が依頼中の弁護士の方針に不満を持っている場合語ってくれないことがあるわけです。
 そのあたりの事情もあり、後から相談を受けた弁護士としては、自分が今把握している事実関係と依頼を受けている弁護士が把握している事実関係が違うのではないかという懸念を持ってしまいます。そして事実関係が違えば答も変わるという関係にある以上、依頼を受けている弁護士の判断や方針が「誤り」と判断することには、不安を感じます。

  事件記録のある話

 そして、すでに裁判になっている事件の場合、双方から裁判所に提出された書類(全体を「事件記録」といっています)があります。それを持ってきてもらえば、裁判の場面での対応については、一応判断できます(ただ、上に述べたような事情から、紛争全体の解決の方針としての判断には別の事情があるかも知れませんけど)。これは、医者の場合にカルテを持ってセカンドオピニオンを求めるようなものですね。しかし、この記録が、カルテの場合よりも分厚いことが多いんですね。通常、これは法律相談センターなどでの30分程度の法律相談では、目を通す時間が足りません。予めそういう相談だと言ってもらって時間を長めに確保したとしても、率直にいって、相談者の方の前で長時間事件記録を読み続けるのは無理です。相談者の方が前で待っていれば、やはり時々は何か言わなくちゃと思いますから、落ち着いて読めません。現実的には、記録を預かって時間のあるときに目を通して、後日再度来てもらってその時に中身に入るということになるでしょう。でも、弁護士にとっては、そういう相談は、手間がとてもかかって得るところは少ない(現実には読むのに3時間4時間かかってもそれに見合う相談料を取るのは難しいでしょう)ですから、あまりやりたくない相談です。

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