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  まだ最高裁がある?(民事裁判編)

【注:刑事裁判についてはこちら】→まだ最高裁がある?(刑事編)
もくじ:index
 上告理由:上告等にはどういう理由が必要か GO
 上告等の手続:期間制限等 GO
 最高裁での審理の実情:ほとんどは弁論が開かれず棄却 GO
 上告が受理される/上告が認められるとき GO
 口頭弁論 GO
 最高裁での弁護士の対応 GO
 「まだ最高裁がある」は本当? GO
    はてなブックマークに追加   まだ最高裁がある?(民事裁判編) 庶民の弁護士 伊東良徳
 高等裁判所の判決にも不満がある場合、最高裁判所に上告(じょうこく)をする道はあります。
 (民事事件では、第1審が簡易裁判所の事件は、控訴審が地方裁判所、上告審は高等裁判所です。この場合、高裁判決に憲法違反、憲法解釈の誤りがあるときには最高裁に「特別上告」をすることができます。以下では基本的に地方裁判所が第1審で第2審が高等裁判所、上告審は最高裁判所のケースを想定して説明します)

  上告理由:上告等ができる場合

   上告理由(最高裁)

 民事事件の場合、最高裁への上告理由は、憲法違反とその他若干だけです。「その他若干」のほとんどは、手続上の、現実にはありそうにないことですが、その中に1つ「判決に理由を付せず、または理由に食い違いがあること」というものがあります。これは、弁護士がよく上告理由に使います。

   上告受理申立て(最高裁)

 これと別に、最高裁では、上告受理申立て(じょうこくじゅりもうしたて)という制度があります。上告受理申立ての理由は最高裁判例に反すること(最高裁判例がないときは高裁判例に反すること)その他法令の解釈に関する重要な事項を含むことです。上告受理申立ては、理由があれば必ず受理されるわけではなく、最高裁が受理するかどうかを自由に決められることになっています。要するに最高裁が、判断したいと思えば受理するし、そうでなければ受理しないということです。
 (上告受理申立ては、最高裁特有の制度です。高等裁判所が上告審裁判所の場合、つまり第1審が簡易裁判所の事件では、上告受理申立てはできません。高等裁判所への上告では、「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があること」も上告理由となりますので、最高裁の場合の上告受理申立てに当たるものは上告で処理することになります。)
最高裁は法律審…
 最高裁は、少なくとも民事裁判については、自らを法律審と自己規定し、原審(高裁まで)の事実認定が誤っているという主張には、基本的には耳を貸しません。厳密には、上告理由の一つの「判決の理由に食い違いがあること」には、原判決が挙げる証拠と事実認定の食い違いも含まれるはずですが、最高裁がそれを用いて事実認定を覆すことは極めて稀です。近年、最高裁は、上告受理申立て理由書に民事訴訟法が定める上告受理申立理由の記載がないとして高裁が上告受理申立てを却下したケースで、上告受理申立て理由書に原判決が経験則に違反しているとの記載があるのだから高裁が上告受理申立て理由の記載がないとして却下することは法令違反として、何度か却下決定を破棄しています。そこでも最高裁は、経験則違反が上告受理申立理由となり得ることを述べているのですが、それも、その経験則違反の主張が上告受理申立て理由となるかどうかは最高裁が判断する(高裁には判断権限はない)ということで、実際に最高裁が原判決の認定に経験則違反(の違法)があるといって原判決を破棄する例は、やはりかなり稀です。
 原発訴訟では、最高裁は、この「法律審としての性格」を楯に柏崎刈羽原発訴訟で高裁の口頭弁論終結後に中越沖地震が起こって安全審査で想定した最大想定地震を超える揺れが現実に発生したことは無視するという姿勢を取りました(それについてはこちら)が、他方、もんじゅ訴訟では原判決の事実認定を大幅に組み替えて国を逆転勝訴させています。
 最高裁は、現実にはそういった使い分けをしているように見受けられますが、現実問題として、通常の民事裁判で最高裁が、原判決の事実認定が間違っているという主張を取り上げる可能性はほぼないと考えておくべきでしょう。

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  上告等の手続

 上告も上告受理申立ても、控訴審の判決書が送られてきてから2週間以内に(判決書が送られてきた日が月曜日ならその2週間後の月曜日までに。判決書を裁判所で受け取った場合は、送られてはきませんので受け取った日が基準になります。なお、後で説明するようにその日が土日祝日・年末年始に当たるときは次の平日まで延びます)行わなければなりません。上告状(じょうこくじょう)、上告受理申立書は、書類上の宛先は上告審裁判所宛で書きますが、提出先は控訴審裁判所(の事件受付、民事受付)です。
 上告受理申立書を期限の6日も前に郵便局の配達日指定郵便で3日後必着(期限の3日前を指定)で提出したのに郵便局の引き受けの際の行き違いで郵便局員が間違った日を配達シールに記入した結果、期限の4日後に控訴審裁判所に配達されたという事案で、上告受理申立てが期間経過後の不適法な申立てとして控訴審裁判所(高裁)で却下され、最高裁への抗告も棄却されたというケースが公表されています。郵送による提出は、かなり慎重を期する必要があります。

 上告状、上告受理申立書には、当事者の住所、氏名、原判決の表示(裁判所、事件番号、判決言い渡し日、主文)を記載しなければなりません。
 当事者の表記は、上告は、上告する側は「上告人(じょうこくにん)」、上告される側は「被上告人(ひじょうこくにん)」、上告受理申立ては、申し立てる側は「申立人(もうしたてにん)」、申し立てられる側は「相手方(あいてがた)」になります。
 法律上要求される上告状、上告受理申立書の記載事項は一応それだけですが、上告審の審理対象と判決の対象は上告等の範囲に限定されますし、上告状、上告受理申立書に貼る印紙の額は上告等の範囲を基準として算定しますので、現実には上告等の範囲も記載しなければなりません。全部敗訴した人が上告等をする場合は「全部不服であるから上告(上告受理申立てを)する」と記載し、一部敗訴した人が上告等をする場合は「上告人(上告受理申立人)敗訴部分につき不服であるから上告(上告受理申立を)する」と記載するのがふつうです。
 上告状には「上告の趣旨」、上告受理申立書には「上告受理申立ての趣旨」を記載しますが、控訴状の場合と違って、具体的な主文の形にせず、上告の趣旨は「原判決を破棄し、さらに相当の裁判を求める。」、上告受理申立ての趣旨は「本件上告を受理する。原判決を破棄し、さらに相当の裁判を求める。」とするのが、ふつうだと思います(私は、それで済ませています)。最高裁の場合、上告等が認められて原判決が破棄される場合でも、最高裁が自判せずに差し戻すことも多いこと、と言って、上告する側が差し戻しを求めるというのもふさわしくないなどの事情で、そのような記載が行われているのだろうと思います。
 高裁判決に不服がある場合、最高裁に上告と上告受理申立てを両方行うのがふつうです。こういうやり方は、最高裁の負担を軽減するために行われた法改正の趣旨にそぐわないものではありますが、現実問題として、不服申立の理由は後から考えることが多く、また理由書の提出期限まであれこれ考えているうちに、最初に考えていたのとは大きく異なる理由を発見し、それがより適切に思える(説得力がある)ということがままあります。その時点で、その理由が「上告理由」の方によりうまく当てはまると判断されるのに上告受理申立てしかしていないとか、逆のパターンになると後悔することになります。そういうことを考え、そして上告、上告受理申立ての際の印紙代が、両方を1通の書面で行う場合は片方の分だけで済む(上告か上告受理申立ての一方だけを行う場合でも、両方行う場合でも、費用は同じ)ことからすれば、弁護士の実務としては、とりあえず両方申し立てようということになるのです。
 最高裁判所に上告と上告受理申立てを同時に行う場合、1通の書面(上告状兼上告受理申立書)で行うことができます。
 上告状、上告受理申立書に貼る印紙は、上告等の範囲を基準に計算します。この点は控訴の場合と同じですので、考え方は「控訴の話(民事裁判)」の説明を見てください。印紙額は、1審の場合の金額の2倍になります。予納郵券は、東京高裁の判決に対する上告、上告受理申立の場合、相手が1人であれば5600円です。
 上告・上告受理申立ての理由は、上告状等に書いてもかまいませんが、書く必要はなく、ふつうは書きません。上告理由、上告受理申立て理由は、別に「上告理由書」「上告受理申立て理由書」を提出するのがふつうです。

 高裁の判決に対して最高裁に上告・上告受理申立てをすると、高裁で事件番号がつきます。上告は(ネオ)、上告受理申立ては(ネ受)です。控訴の場合と違って、上告理由書、上告受理申立て理由書は、事件記録が高裁にあるうちに提出しますので、理由書に記載する事件番号は、この(ネオ)番号、(ネ受)番号になります。

 民事裁判では、上告や上告受理申立てをすると、「上告提起通知書(じょうこくていきつうちしょ)」・「上告受理申立て通知書(じょうこくじゅりもうしたてつうちしょ)」が(控訴審判決の担当部から特別送達郵便で)送られてきます。これは、上告や上告受理申立てをした側だけでなく、された側にも送られます。上告、上告受理申立てをされた側は、控訴審で弁護士を代理人にしていた場合でも、本人宛に(自宅に)送られてくる場合があります。担当部によって、控訴審の弁護士に、上告審も担当するかを聞いてきて、上告審も担当すると答えて委任状を提出すると、弁護士宛に送られるか弁護士が(実際には事務員が)受け取りに行くという扱いをする場合もあります(上告、上告受理申立てをされた側への通知書の送達は、上告、上告受理申立てをした側と同時に行う必要はなく、後からでかまわないので、そういう扱いをしてくれる場合もあります)。
 上告、上告受理申立てをした側(こちらは弁護士を代理人にしていれば、その弁護士宛に送られてきます。より正確に言えば、上告状、上告受理申立書に「送達場所」と記載したところに送られてきます)に上告提起通知書、上告受理申立て通知書が送られてきた日(上告、上告受理申立てをした日から通知書が送られてくるまでの間は、せいぜい数日ということが多いです。ときには、上告、上告受理申立てをした日から通知書が来るまで1か月以上なんていうこともありますが、レアケースで、それを期待すべきではないでしょう)から50日以内に(7週間後の次の曜日と考えると数えやすいです。上告提起通知書・上告受理申立て通知書が送られてきた日が月曜日なら、その7週間後の火曜日までに。ただし、後で説明するようにその日が土日祝日・年末年始に当たるときは次の平日まで延びます)上告理由書や上告受理申立て理由書を提出しなければなりません。控訴理由書の場合と違って、これに遅れると、記録は最高裁に送られずに控訴審裁判所の段階で自動的に上告却下・上告受理申立て却下となります。この50日の期間は、法定期間(ほうていきかん)で、不変期間(ふへんきかん)ではありませんので、裁判所の判断で延長することは可能です。普通の事件ではまず延長してくれませんけど。
 上告理由書、上告受理申立て理由書は、郵送または持参して提出しなければならず、ファクシミリで送っても提出したことにはなりません(控訴理由書とは扱いが違うので注意)。したがって、提出先の控訴審裁判所が遠方の場合、余裕を持って用意して送らないと期限を過ぎる危険があります(私は、今は、控訴審裁判所が遠方の場合、上告理由書等は3日程度前にレターパックで郵送して追跡サービスで配達を確認するとともに、追跡サービス上配達が危ういときに備えて提出期限の日にいざとなったら自分か事務員が持って行けるように日程を空けるようにしています)。東京都内から福岡高裁に宅配便業者に翌日午後5時までの配達日時を指定して発送し、宅配便業者は航空機による輸送を予定していたが仕分けの際の手違いで陸送となって期限に1日遅れ、期間内に理由書が提出されなかったことを理由に上告及び上告受理申立てが控訴審裁判所(高裁)で却下され、最高裁への抗告も棄却されたというケースが公表されています。
 上告・上告受理申立ての期間も、上告理由書・上告受理申立て理由書の提出期限も、法的には書類の「送達を受けた日」から計算します。ふつうの場合、送達を受けた日は書類が送られてきて手元に届いた日です(それで、上では一般にわかりやすいように「送られてきた日から」と説明しています)が、例外的に不在時に書類が届いて不在連絡票が入っていても放置して書類が裁判所に戻ったような場合、裁判所が2度目は「郵便に付する送達」にすると、裁判所が書類を発送した日が「送達を受けた日」と扱われてしまいます(郵便に付する送達については「裁判所の呼出を無視すると」で説明しています)ので、そういうときは送られてきた日から数えると間違うことになります(こんな異例なことまで説明する必要があるとは思いませんでしたが、そういう相談事例がありましたので)。また、これらの期間をカウントする時、最終日が土日祝日・年末年始(12月29日〜1月3日)に当たる場合は、その次の平日まで期限が延びます。厳密に言うとそういう微妙な点があり、上告・上告受理申立て期限、上告理由書・上告受理申立て理由書提出期限は、1日でも遅れると取り返しがつかない厳しい期限ですから、裁判所(原審の担当部の書記官)に電話して最終日を確認しておいた方が安全です。

 上告理由書や上告受理申立て理由書が提出されると、事件記録が控訴審裁判所から上告審裁判所に送られます。この段階で、最高裁での事件番号がつき、担当する小法廷(最高裁は、第一小法廷、第二小法廷、第三小法廷の3つの小法廷に、民事事件も刑事事件も全部係属します)が決まります。
 記録が上告審裁判所に届くと、上告や上告受理申立てをされた側にも「記録到着通知書」が送られます。これは文字通り事件記録が上告審裁判所に着いたというだけで、決して上告なり上告受理申立てが受理されたという通知ではありません。この記録到着通知によって、当事者は、最高裁での事件番号(上告は(オ)、上告受理申立ては(受))と担当小法廷を知ることになります。 

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  最高裁での審理の実情

   事件の審議の実情

 最高裁は、日本に1つしかなく、3つの部(小法廷)に分かれていますが、3つの部15人の裁判官ですべての事件を担当します。そこに年間数千件の上告や上告受理申立てがなされるわけです。
 上告事件、上告受理申立て事件には、機械的に担当調査官と主任裁判官が割り当てられます。まず調査官が上告理由書、上告受理申立て理由書を読んで事件を持ち回り審議事件と(審議室)審議事件に分類します。(引用文献の「最高裁判所は変わったか」では「審議室審議事件」の用語が使われていますが、「弁護士から裁判官へ」「最高裁回想録」では単に「審議事件」とされています)
 事件の大半は、持ち回り審議事件とされて、調査官報告書と1審・2審判決、上告理由書・上告受理申立て理由書等をセットにして、順次その事件を担当する小法廷の裁判官に回覧され、異論がなければ審議を終了し、その時点で上告棄却・不受理となります。この場合、最初に主任裁判官が検討し、その後他の裁判官が検討します。その過程で主任裁判官や別の裁判官から異論が出されて(審議室)審議事件にした方がよいとなれば、(審議室)審議事件になりますが、そういうことは極めて少ないということです。
 (審議室)審議事件の場合、比較的詳細な調査官報告書が出され、各裁判官が事前に調査官報告書や上告理由書・上告受理申立て理由書等を検討した上で、原則として週1回その小法廷の裁判官が一堂に会して開かれる審議の場で各裁判官が意見を述べ、議論することになります。
(以上は、滝井繁男「最高裁判所は変わったか」岩波書店、2009年、19〜23ページによっています)
 審議事件となるのは全体の5〜6%で、最高裁に係属する事件の約95%は持ち回り審議事件となるそうです(藤田宙靖「最高裁回想録 学者判事の七年半」有斐閣、2012年、42ページ、62〜63ページ、70〜71ページ)。
 それぞれの裁判官が1日に記録検討をして判断をする事件は20件から30件に上り、簡単な事件では記録検討が数分で終わることもあるそうです。(審議室)審議事件での審議では、各裁判官が自分の意見を書いた審議メモを配布することも多く、口頭であまり激烈なやりとりはないそうです。(以上は、那須弘平判事インタビュー「二弁フロンティア」2010年1・2月合併号26〜28ページ)

   ほとんどは口頭弁論を開かずに上告棄却・上告不受理

 最高裁では、上告を棄却する(控訴審判決通り。上告した側の全面敗訴)ときには、口頭弁論を開く必要がありません。もちろん、上告を棄却する場合でも最高裁側で口頭弁論を開くのは自由ですが、忙しい最高裁としては、法律上必要でないときに口頭弁論を開くことはほとんどありません(ただし、絶対ないとは言えず、ごくまれに口頭弁論を開きながら上告棄却ということもあります)。
 ですから、最高裁の場合、口頭弁論を開くという指定があれば、控訴審判決は何らかの変更がなされるのが通常で、そうでなく判決なり決定が来れば、中身は見るまでもなく上告棄却・上告不受理となります。(もっとも、これについては最高裁が内部的に結論を出してから弁論を開くようになったのは1980年代くらい以降の慣行で、以前はそうでなかったという大野正男元最高裁判事の指摘があります。大野正男「弁護士から裁判官へ」岩波書店、2000年、45〜48ページ)
 そして、最高裁の事件の大半は、口頭弁論が開かれることなく上告棄却・上告不受理となります。最高裁が、被上告人に上告理由書の副本を送達して答弁書の提出を求めた上で、口頭弁論を開かず上告受理決定もしないで判決で上告棄却するということもあります。しかし、最高裁が、上告理由が「明らかに」民事訴訟法が定める上告理由に当たらないと判断したときは、判決ではなく決定で上告を棄却することができ、上告不受理も決定でできますので、実際には上告・上告受理申立て事件のほとんどは、決定で上告棄却・上告不受理とされています。上告棄却の決定にはほとんど理由は書かれておらず(適法な上告理由に該当しないと書かれているだけ)、上告不受理の決定には理由は書かれません。上告棄却・不受理決定は、特別送達ではなく、簡易書留で送られてきます。
 但し、その判決・決定がいつ来るかは、口頭弁論が開かれなければ予告されず、時期は予測できません。はっきりいって何でもない事件が何年も寝かされたり、それなりに理由があると考えられる事件でもあっという間に棄却されたりします。2022年に最高裁が行った上告棄却決定(1821件:却下16件を含む)の記録到着後決定までの期間は2か月以内が595件、2か月超3か月以内が429件、3か月超6か月以内が623件、6か月超1年以内が149件、1年超2年以内が25件、同じく2022年に最高裁が行った上告不受理決定(2255件)の記録到着後決定までの期間は2か月以内が665件、2か月超3か月以内が499件、3か月超6か月以内が854件、6か月超1年以内が212件、1年超2年以内が25件です。過半数(60%程度)の事件は3か月以内、大部分(85%〜90%くらい)の事件は6か月以内に決定で棄却・不受理されているということになります(2020年は、最高裁から棄却・不受理決定が来るまでの期間が例年より長くなっていましたが、2021年以降は概ねコロナ直前の2019年の水準に戻っています)が、1年以上(最高裁に記録が到着してから1年以上ですから、上告・上告受理申立時からは概ね1年3か月以上)たって、まったく何の連絡もなく、上告棄却理由は定型の三行半(みくだりはん)、不受理理由の記載もない1枚紙+当事者目録+書記官の正本認証だけの薄っぺらい決定が届くというケースもときどき(2022年では1%強くらい)あるわけです。
 民事事件(行政事件を除く)の最高裁への上告と上告受理申立てについての、2013年以降の10年間の各年度の既済件数(判決、決定等により終了した件数)、原判決破棄件数、既済件数中の破棄率を見ると次の通りになっています(最高裁での民事事件としては1審が簡裁の事件の高裁の判決に対する特別上告が年間数十件ありますが、これは除いています)。原判決破棄の割合は、ばらつきはありますが、ならして約1%です(最近の10年を見ると、それ以前よりさらに減少傾向にあるように見えます)。言い換えれば、上告棄却(または却下)・不受理が97%程度を占めています(取り下げその他が2%前後)。

年    上告  上告受理  合計
 既済  破棄  破棄率  既済  破棄  破棄率  既済  破棄 破棄率 
 2013  2281  2  0.09%  2815  20  0.71%  5096  22  0.43%
 2014  2075  3  0.14%  2709  29  1.07%  4784  32  0.67%
 2015  2033  3  0.15%  2620  22  0.84%  4653  25  0.54%
 2016  1970  5  0.25%  2506  22  0.88%  4476  27  0.60%
 2017  1788  0  0.00%  2244  14  0.62%  4032  14  0.35%
 2018 1711  1 0.06% 2063 16 0.78% 3774 17  0.45%
 2019 1679 0  0.00% 2079  27  1.30%  3758  27  0.72%
 2020 1538 0 0.00% 1910 27 1.41% 3448 27 0.78%
2021 1570 0 0.00% 1916 20 1.04% 3486 20 0.57%
 2022  1841  7  0.38%  2308  16  0.69%  4149  23  0.55%

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   上告が受理されるとき・上告が認められるとき

 他方、上告受理申立てが受理される場合は、上告審として受理するという決定がなされます。現実的には、最高裁が上告受理をするときは、多くは控訴審判決が見直されるときですから、口頭弁論も開かれることになります。その場合、受理決定があり、その後口頭弁論期日が開かれ、判決期日が指定されて判決という手順になります。
 このように、上告審で原判決が破棄される(上告された側が敗訴する)場合は、最高裁が口頭弁論期日を指定するので、事前にわかることになります。そうすると、どうしても判決を避けたい場合は、被告なら請求を認諾(にんだく:原告が裁判で請求した判決の結論部分となる金銭の支払とか明け渡しとかをする義務があることを認めること)する、原告なら請求の放棄(原告が裁判で請求した権利がないと自ら認めること)をするという手段があることになります。もちろん、請求を認諾すれば、請求された内容を実行する(自ら実行しなければ強制執行される)ことになり、金銭の請求なら請求された額をそのまま支払うことになりますし、当然、自分に非があるから認諾したのだと評価されることになります。しかし、世の中にはそれでもどうしても判決を避けたいという輩が存在するのです。プロミスは、子会社のクオークローンを廃業させてクオークローンの顧客を自分の顧客として吸収しながら過払い金の返還義務は引き継がないという態度を取っていましたが、これについてプロミスが勝った高裁判決に対して最高裁が2012年2月3日過払い債権者の上告受理申立て(って、私がやった事件ですけど)を受理して2012年3月30日午後4時から口頭弁論を開くことになりました。するとプロミスは、水面下で請求額の2倍払うから訴えを取り下げてくれといいだし、こちらが拒否すると2012年3月15日付で請求を認諾するという答弁書を出してきました(事実関係については、「プロミスの場合」を見てください)。そうなると、個別事件としてはプロミスは請求満額を支払わなければならないことになりますが、最高裁の判決がなされないことで、背後に控える極めて多数の同様の立場にある過払い債権者に対してプロミスは支払を拒否し続けることが予想され、問題の根本的な解決が遠のくことになります。こういう認諾が認められてしまうと、多数の事件を抱える財力のある者(例えば多数の被害者を生み迫害している連中)は、最高裁が口頭弁論期日を指定したほんのわずかな事件でだけ請求を認諾してその事件限りで支払をして他の圧倒的多数の事件では支払を拒否し続けて巨額の支払を不当に免れるという不正義が横行することにもなりかねません。そうなってしまうと最高裁の存在意義さえ問われる事態となってしまうと思うのですが。

 上告受理をするけれども、口頭弁論を開かずに判決がなされることもあるようです(司法統計で見ると、上告受理のうち4分の1前後が棄却になっています)。その場合、上告受理決定があり、判決期日が連絡されます。こういうときは、控訴審判決の結論(主文)はそのままですが、理由部分について見直しがなされ、最高裁の判断が示されることになります。
 上告が認められる場合は、上告については「受理決定」はありませんので、口頭弁論期日が開かれて、判決期日が指定されて判決という流れになります。

   口頭弁論期日指定も上告受理決定もなく答弁書提出が命じられるとき

 口頭弁論を開いたり上告を受理すると決めていない場合でも、最高裁の判断で、相手方に上告理由書や上告受理申立て理由書を送って、それに対する答弁書の提出を命じることもできます。これは民事訴訟規則にそういう規定がありますが、現実にはかなり例外的なケースです。
 柏崎刈羽原発訴訟の上告審で、最高裁は、口頭弁論を開く決定も上告受理決定もしないで、国側に答弁書(上告理由書・上告受理申立て理由書に対する反論)の提出を命じました。この件では、国側の反論書に対して住民側が再反論書を提出し、さらに提出するといっていたのですが、最高裁は予告なく、上告棄却・上告不受理決定を行いました。

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   口頭弁論

 上で書いてますように、2012年3月30日、プロミス相手の事件で、私にとっては民事裁判では初めて最高裁で口頭弁論を行いました(刑事事件では、ずいぶん昔、1992年11月にやりましたけど。その話は「まだ最高裁がある?刑事事件編」を見てください)。その事例で、口頭弁論が行われる場合の段取りを説明してみましょう。
 最高裁が口頭弁論を開くことを決めると、まず書記官から連絡があり、期日の日程調整をします。その時点では、まだ決定ではないから口外しないように釘を刺されます。それで日程が決まったところで、口頭弁論期日呼出状が送られてきます。上告受理の場合は、それと同時に上告受理決定調書が送られてきます。上告受理決定調書には、主文として「本件を上告審として受理する」と記載され、多くの場合、上告受理申立て理由書のうち特定の項目以外を「排除する」と記載されます。排除されなかった部分が最高裁での審理の対象となり、最高裁がその排除されなかった申立理由を採用するか、少なくともその部分で原判決を変更しようとしているということを読み取ることができます。
 相手方(被上告人)に対しては、答弁書を提出するように最高裁から催告がなされます。
 答弁書が出され、口頭弁論期日が近づくと、書記官から弁論の時間について調整がなされます。事件の性質にもよりますが、一般の民事事件では、最高裁側はせいぜい10分程度を想定しているようです。当事者がもっと時間を欲しいといっても値切られます。書記官との話が平行線になると担当調査官が出てきてより強力に説得されることになります。
 最高裁は、口頭弁論で述べる内容を予め書面にして口頭弁論期日の1週間前までに提出するように求めます。この書類を「弁論要旨」と呼んでいます(法律の規定はありませんが)。そして、それをチェックして、「品位に欠ける」点があると、調査官が、不適切なので差し替えるように求めてきます。プロミス相手の事件で、私が、実際には過払いなのに当事者を切り替えることで過払いでないかのように騙して取立をするプロミスらの手口について、弁論要旨で「被上告人らのような社会悪というべき連中の不法なビジネス」と書いたら、調査官から最高裁の法廷でそのような品位のないことを述べてはならない、弁論要旨を差し替えるようにと電話が来ました。
 このように、最高裁での口頭弁論は、予め、書記官や調査官が、発言をする順番と時間、さらには内容まで確認して、ハプニングがなく予定通りにつつがなく行われるように調整しています。最高裁裁判官経験者が書いた本で、最高裁での弁論はつまらないと嘆いているのを見た覚えがありますが、裁判官の目に触れる前に何から何まで事務方で縛っていることにも、その原因があるように、私には思えました(率直にいって、調査官と調整しているうちに、かなり意欲がそげました)。
 最高裁での口頭弁論について、藤田宙靖元最高裁判事は「最高裁における口頭弁論というのは、当事者による弁論の時間も、前以ての折衝によって枠が厳格に決められており(裁判所側でこの折衝に当たるのは、その事件の担当書記官である)、弁論当日、当事者は、それを堅く守ることが要請される。裁判長の訴訟指揮(法廷での発言)については、調査官の原案を基に詳細なシナリオが作られていて、裁判官は、原則としてそれを読み上げるだけである。なお当事者側も、通例は、あらかじめ了承したシナリオに従い、前以て提出されている弁論書通り『陳述します』と発言するだけであって、はっきり言ってしまえば、ほとんど陳腐ともいうべき儀式であるに過ぎない。」と書いています(「最高裁回想録 学者判事の七年半」有斐閣、2012年、50ページ)。
 当事者の「弁論」については、大野正男元最高裁判事も、「弁論が行われる日でも、上告理由もその答弁も『先に提出した書面の通り』ということですぐ終わってしまうのがほとんどであり、五分もかからないで終了した。」(「弁護士から裁判官へ」岩波書店、2000年、8ページ、45ページ)としています。

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  最高裁での弁護士の対応

   上告する側(高裁で負けた側)では

 上告する側の場合、つまり高裁で負けた場合、上告審は、実質的に上告理由書(上告受理申立てについては上告受理申立て理由書)一本に勝負をかけることになります。
 実際の審理では、担当調査官が持ち回り審議事件にするか(審議室)審理事件にするかを決め、持ち回り審議事件については(裁判官から異論が出ない限り)裁判官が集まっての議論はせずに上告棄却・不受理となることになります。(審議室)審議事件でも、調査官報告書が重要な資料となります。その意味では、調査官の説得が重要な意味を持ちますが、よほどの事件でなければ調査官は面会に応じてくれません。
 最高裁では、上告理由書・上告受理申立て理由書の提出期限が厳しいので、期限内には一応の理由を書いて、後日補充書を提出するということを、弁護士はよくやります。しかし、私は、大野正男裁判官(第二東京弁護士会出身の著名弁護士です)が最高裁判事を定年退官した後で書いた本の中で、「上告理由の追加が理由補充書という形で提出されることがあるが、上告理由書の提出日は規則で定めてあるのだから、新しい主張はできないし、単なる補充であっても、よほどの理由のない限り精読しないのが通例である。」(「弁護士から裁判官へ」岩波書店、2000年、44ページ)と書いているのを見て、補充書を出すのは、基本的にやめにしました。

   上告された側(高裁で勝った側)では

 控訴審で勝った事件での上告審の対応は若干微妙です。最高裁が口頭弁論を開くことにならない限り、相手方が出した上告理由書・上告受理申立て理由書は原則として送られてきません。しかし、口頭弁論が開かれるときは事実上負けるときですから、黙って待っているというわけにも行きません。そこで自主的に委任状を出して事件記録の謄写の手続をして相手方が出した上告理由書・上告受理申立て理由書をコピーを入手する(事件記録が控訴審裁判所にある段階)か、上告審裁判所への上告理由書・上告受理申立て理由書送達申請をして上告理由書・上告受理申立て理由書の副本を入手する(事件記録が上告審裁判所に送られた段階)か、します。それを読んで、反論すべきかはまた悩ましいところです。依頼者は反論して欲しいということになりますが、たいしたことがないとかさらにいえば、多少は相手の言い分にも理由がありそうだが重要ではないというときは黙殺した方がいいと私は判断しています。なまじ大仰な反論をすることで何か重要な論点があると最高裁に注目されるとかえって損になりかねません。
 ただ、相手が国の場合は、たいしたことなくても反論しておく方が無難かなとは思います。最高裁は国の上告・上告受理申立てについては気をつかうでしょうから。

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  まだ最高裁がある?

 まだ最高裁がある、とはいいますが、最初の方にも書いたように、最高裁が事実誤認や実質的には事実誤認を他の理由(例えば理由不備)をつけて救った例は、70年あまりに及ぶ最高裁の歴史の中でほんの数えるほどです。確率でいえば、まさに「万一」の世界です。
 ただ、法律論に関していえば、最近、最高裁がわりと活発に控訴審判決の取消をしている傾向はあります。従来の右とか左とか、治安とか人権とかそういうイデオロギー的な方向性と関係なく、意外に思い切った判決が書かれている(だから人権という観点からはプラス方向に感じるものもマイナス方向に感じるものもごちゃ混ぜにあります)感じです。ちょっとその辺は目が離せないですね。
(このページを、最高裁が原判決を破棄したり上告受理すること自体が「万一」という趣旨に誤って引用しているサイトがいくつかありますが、上に書いてあることは、事実誤認が実質的な理由で最高裁が救ったケースはかなり少ないが、他方、法律論の誤りを理由に原判決を破棄したり上告受理するケースはそれなりにはあるということです)

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