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   ◆刑事事件の話

 逮捕された人はどうなるのですか

 ほとんどの場合、警察の留置場に23日間(詳しくは後で説明しますが実際には多くの場合22日間)身柄拘束され、その間に検察官が公判請求をするかどうかを決めます。公判請求された場合、起訴後もそのまま身柄拘束が続きます。
 検察官が直接逮捕する場合(特捜部の事件など)は様子が違いますので「逮捕された人はどうなるのですか(特捜部事件の場合)」を見てください

  大方の流れ

 警察に逮捕された場合(逮捕される場合のほとんど)は、まず取り調べを受けて比較的簡単な供述調書を作った上で48時間(2日間)以内に一旦検察庁に連れて行かれます。そこで検察官から短時間の取り調べを受けます。東京地検の場合、この時の検察官は、その日の当番で、事件を担当する検察官はその後で別に決めます。検察官が短時間の取り調べをして、弁解録取書(べんかいろくしゅしょ)という簡単な供述調書を作ります。検察官は、検察官のところへ送られてきてから24時間以内に、裁判所に勾留請求(こうりゅうせいきゅう)をします。この段階で検察官が身柄拘束の必要がないと判断した場合は、勾留請求をしないで釈放されます。この段階での釈放は、本来逮捕するような罪でない場合で住所がはっきりしている場合くらいで、実際にはまれです。
 勾留請求があると、一旦裁判所に連れて行かれ、裁判官から、容疑事実について本当にやったのかどうか、何か言い分があるのかを簡単に聞かれます。これを勾留質問(こうりゅうしつもん)といいます。
 裁判所は、勾留質問をした後に、10日間の勾留をするかどうかを判断し、勾留する場合、勾留状を発布します。検察官の勾留請求が認められないことは、ごくごくまれです。10日間の勾留でも足りない場合、検察官は勾留延長の請求をします。この時は被疑者は裁判所には呼ばれません。検察官の勾留延長請求について認められないことはごくごくまれです。
 結局、普通の場合、逮捕されて2日目に検察庁に連れて行かれ、3日目に裁判所に連れて行かれ、その後多くの場合20日間(従って逮捕されてから23日間)身柄拘束されます。ただ、正確に言うと、最初の勾留期間の10日間は勾留請求の日を含めてカウントしますので、現実には逮捕から22日間になることが多く、また勾留期間の終わりが休日に当たる場合には勾留請求の期間自体を短くすることもありますので、さらに短い場合もあります。

  弁護人の選任など

 逮捕されると警察官や検察官から、弁護人を選任できること、法律で定められた刑の最高限が懲役3年を超える犯罪(実質的には大半の犯罪)の容疑で勾留された場合には現金・預貯金が50万円以上ないなどの場合には国選弁護人を付けることができることを知らされます。警察官、検察官が知らせなかった場合でも遅くとも勾留質問の時には裁判官が知らせることになります。
 かつては、被疑者の段階、つまり起訴される前の段階では国選弁護人の制度はなく、弁護士会が自主的に行ってきた当番弁護士制度(身柄拘束中の被疑者やその家族の要請で、その日の当番として待機している弁護士が初回は無料で面会に行く制度)と法律扶助協会(司法支援センターの前身)の被疑者援助制度で、弁護士費用を支払えない被疑者に対して実質的には弁護士会の負担で弁護人を付けてきました。現在は、法律上の制度として法律で定められた刑の最高限が懲役3年を超える犯罪(実質的には大半の犯罪)の容疑で勾留された場合には国選弁護人が付けられることになっています。
 国選弁護人の選任の請求は、警察に置いてある国選弁護人選任請求書と資力申告書に記入して行います。法律上の刑の最高限の要件を満たし、現金・預貯金が50万円未満の場合は、被疑者国選弁護人名簿に登録している弁護士が面会に来て、その後の選任手続を行い、国選弁護人として弁護活動をすることになります。
 現金・預貯金が50万円以上あるけど国選弁護人を希望する場合は、弁護士会に私選弁護人の選任を請求して、それでも私選弁護人となる弁護士がいないということが要件になります。このあたりちょっとまどろっこしい話になります。身柄を拘束されている被疑者が弁護士会に私選弁護人の選任請求をするには実際上は当番弁護士を呼ぶしかないですし、地域ごとに運用が違う部分もあったりしますので、まずは警察なり裁判所を通じて当番弁護士を呼んで面会に来た当番弁護士と相談してみてください。
 私選弁護人を希望する場合は、知っている弁護士がいれば警察からその弁護士に連絡してもらい、その弁護士が面会に来ればそこで話し合った上で、「弁護人選任届(べんごにんせんにんとどけ)」(業界用語では「弁選(べんせん)」と略されます)を作成します。弁護人選任届は、弁護士が検察庁か警察に提出します。
 知っている弁護士がいないけど私選弁護人を選任したいとか、国選弁護人を付けられない場合(刑の最高限が懲役3年以下の犯罪の容疑とか、現金・預貯金が50万円以上あって弁護士会に私選弁護人請求をした私選弁護人となる弁護士がいないという要件がクリアできないとき:これ、すごくまどろっこしい表現ですが、運用上かなり微妙な話ですので、当番弁護士など弁護士会から派遣された弁護士とよく話し合ってください)には、やはり当番弁護士を呼んで、その弁護士を私選弁護人に選任することができます(実質的にはそうせざるを得ないわけですが)。

 国選弁護人と私選弁護人の違いは、@私選弁護人は誰を弁護人にするかを被疑者が選べるが、国選弁護人の場合選べない(同じことですが、私選弁護人は気に入らなければ被疑者が解任できるが、国選弁護人は気に入らなくても解任できないということにもなります)、A私選弁護人は逮捕後すぐに、さらにいえば逮捕前からでも選任できるが、国選弁護人は勾留決定後にしか選任されない、B私選弁護人の費用はその弁護士の基準により話し合って決め、全額被疑者の自己負担だが、国選弁護人の費用は基準がはっきり決められており通常私選弁護人の費用より(相当)安く、被疑者が負担せずに済む場合もある(起訴された場合はその判決の際に、不起訴の場合は別に裁判所が決めます)という点にあります。

  家族との面会や差し入れなど

 留置場に入れられるときは、所持品の検査をされ、所持品のほとんど(衣服と洗面道具など以外)は取りあげられて警察が預かります。携帯電話は確実に取りあげられます(今時は通信履歴や電話番号のメモリーが、共犯者や関係者捜しのための重要な証拠扱いされます)。
 逮捕のとき、家族・知人等で連絡したい先を聞かれます。たいてい1か所にしろと言われますが、そこには警察が電話で逮捕されたことを知らせてくれます。この時知り合いの弁護士がいれば、弁護士に連絡してもらうことができます。
 勾留決定のとき、同時に弁護士以外の者との面会を禁止する決定がつくことがあります。これを接見禁止(せっけんきんし)と呼んでいます。共犯者がいる事件ではほぼ間違いなくつけられます。
 接見禁止がつかなければ、家族・知人も面会や差し入れをすることができます。ただし、弁護士以外は平日の9時から5時まで(5時近い時間に行くとほとんど会えません)しか面会できませんし、取調中や検察庁などに行っている日は会えません。行く前に警察の留置課に電話してその日の予定を確認してから行った方がいいです。差し入れは衣服についてはひも類がすべて外されますので、ベルトやひもで締めるタイプのものは使い物になりません。ベルトなし(もちろんサスペンダーもなし)でズボンがはける人はいいですが、結局はゴムで締めるタイプのジャージ類がいちばん便利ということになります。接見禁止でなければ、手紙も送ったり差し入れることができます。ただし、全文警察が内容を読んでチェックします。日用品については、特に愛用のものでなければ、中で買えるようにお金を入れる方が被疑者には便利なことがままあります。また被疑者の多くは退屈だから本・雑誌を入れて欲しいと言います。

  取り調べの回数は?

 逮捕された人は、多くの事件では、実は、逮捕直後か勾留決定直後に警察で取り調べを受けてこれまでの経歴等の身上調書(しんじょうちょうしょ)と事件についての供述調書をつくると、犯行を認めている事件だと、その後はあまり取り調べはなく、10日間の勾留の終わり近くに1回(中間調べと呼ばれています)と延長後の勾留の終わり近くに1回検察官の取り調べがあるだけということもあります。その間に事件現場に連れて行かれて説明をする(引きあたりと呼ばれます)ことが多いです。もちろん、犯行を否認している場合や、認めてはいるけれども被害者の話や現場の状況と違うことを言っている場合は、取り調べの回数が多くなります。
 犯行を認めている事件の場合、被疑者は取り調べもなくて退屈し、さっさと終わらせて欲しいと考えますが、ほとんどの場合、それでも23日間(多くの場合22日間)身柄拘束が続きます。被疑者の取り調べ以外に共犯者や被害者その他の関係者の取り調べをして被疑者の供述とあっているか確認する必要があります。また証拠物の鑑定が必要な場合もあります(薬物の事件は必ず鑑定をします)。自宅などの家宅捜索をして差し押さえたものを検討したりもします。そういう被疑者の取り調べ以外にもしなければならないことがあり、その後で被疑者を取り調べする必要がある訳です。それに加えて、警察も検察官も(弁護士もそうですが)同時に多数の事件を抱えています。もしその1件だけに集中すれば数日で終わらせることができるとしても、多数の事件があるためにそうはいきません。当然締め切り(勾留満期)が近い事件を先にやることになります。その結果大部分の事件は勾留(延長後の)満期まで、つまり23日間(多くの場合22日間)身柄拘束が続いた上で検察官がそのぎりぎりに起訴・不起訴を決めるということになるのです。

  検察官の処分の後の扱い

 検察官が、不起訴とした場合には、多くの場合(たいてい満期の日の夕方に決めます。満期の日が日曜祝日の場合はその前に決めることが多いですが)、その日の夜に釈放されます。罰金に決めた場合は、普通、最後の検察官調べで略式手続(りゃくしきてつづき。検察官の主張通りに認めて罰金にするために手続を省略して書類だけで裁判所の命令を出す手続。必ず被告人の同意が必要です)の同意を求められます。それで一旦警察に戻されて、たいてい勾留の満期日に裁判所に連れて行かれ、罰金の命令を受け取り、普通は、その場で罰金を支払って(弁護人経由で家族等から罰金分のお金を事前に差し入れてもらって払うのが普通です)釈放されます。
 検察官が公判請求(正式の裁判を請求する起訴。略式手続以外の起訴は公判請求です)した場合は、そのまま起訴後も身柄拘束が続きます。釈放されるためには、保釈の手続を取る必要があります。

  【刑事事件の話をお読みいただく上での注意】

 私は2007年5月以降基本的には刑事事件を受けていません。その後のことについても若干のフォローをしている場合もありますが、基本的には2007年5月までの私の経験に基づいて当時の実務を書いたものです。現在の刑事裁判実務で重要な事件で行われている裁判員裁判や、そのための公判前整理手続、また被害者参加制度などは、私自身まったく経験していないのでまったく触れていません。
 また、2007年5月以前の刑事裁判実務としても、地方によって実務の実情が異なることもありますし、もちろん、刑事事件や弁護のあり方は事件ごとに異なる事情に応じて変わりますし、私が担当した事件についても私の対応がベストであったとは限りません。
 そういう限界のあるものとしてお読みください。

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