庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

    ◆刑事事件の話
  刑事弁護が必要なわけ

  どうして悪い人を弁護するのですか

 これは弁護士にとって答えることがとても難しい質問です。後で具体例を挙げて詳しく説明しますが、あえて一言で言えば、真実を明らかにしたりそれを評価して適切な刑罰を判断することは簡単ではなくて、人間が正しい判断に近づくためには、訴える側の専門家(検察官)とともに訴えられた側の専門家(弁護人)が必要だということを人間は歴史の中で教訓として学んだのだということです。
 この質問に対して、訴えられた人(被告人)が犯人かどうかはわからないというのが、多くの弁護士の答です。確かに訴えられた人が「自分は無実だ」と言っている事件ではそういうことになります。
 しかし、実際に弁護士として受ける事件では、訴えられた人が「確かにやった」と自分で言っていることの方が多いのが実情です。
 訴えられた人が現実に犯罪を犯している場合でも、事件に関する様々な事実関係や訴えられた人に関する様々な事実が、刑罰を決めるために重要な役割を果たします。例えば、同じ殺人でも、被害者から悪口を言われてかっとなって殺してしまったような場合懲役8年とか10年とかいうことが多い(いや、「かつては多かった」というべきでしょうね。最近は量刑相場がどんどん厳しくなっていますから)のですが、お金を取るために殺したような場合は死刑や無期懲役(厳密には終身刑ではありませんが終身刑に近いもの)になることが多いのです。
 こういう事実は黙っていても裁判に出てくるわけではなくて、証拠書類や証人の証言という形で裁判所に出さなければなりません。このようにして事実を裁判に出すことを立証といいますが、こういう事実の立証や出てきた事実をどう評価するかということが、実際の裁判ではとても重要なのです。
 その事実の立証や評価のために、検察官も弁護人も一所懸命に活動するのです。
 抽象的に言ってもわかりにくいので、具体例で見ていきましょう。
 ここでは題材として、みなさんがたぶん一度はどこかで読んだことがある「ああ無情」( レ・ミゼラブル Les Miserables )のジャン=バルジャンが2度目の裁判を受けた時のケースを用います。
 次のページで「ああ無情」の中から関係しそうな事実を要約し、その事実が裁判で立証されているとした場合に、検察官がどのような意見を述べ、弁護人がどのような意見を述べるかを試しにやってみます。もちろん、実際の裁判ならもっと細かく事実が立証されますから、検察官や弁護人の意見ももっと詳しくなりますし、法律用語が使われます。ここでは、比較的短く、わかりやすい言い回しでやってみました。
 次のページのケースを読んだ段階でみなさんならジャン=バルジャンの犯罪をどう評価するでしょうか。それはその次の検察官の意見を読んだ後どう影響されるでしょうか。弁護人の意見を読んだ後どう影響されるでしょうか。検察官と弁護人の意見をどちらも読んだ後で考えることは最初にケースを読んだ時と同じでしょうか。 

ジャン=バルジャンのケースに進む

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