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  ◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆
   原子力規制庁の指示による臨界事故対策対象機器削減の誤り

 臨界事故が発生したときに臨界を収束させたり発生した放射性物質の放出を抑制するなどの臨界事故拡大防止対策について、事業者の日本原燃が23の機器で臨界事故の可能性があり、拡大防止対策が必要であり実施するというのを、原子力規制庁が対象機器を削減するように指示し、それを受けて日本原燃が臨界事故拡大防止対策の対象を8機器に減少させていたことがわかりました。削減対象には、日本原燃が行った臨界事故評価で拡大防止対策が失敗したときの放射性物質放出量が最大となる(臨界事故想定の代表的機器とされている溶解槽での臨界事故の4倍以上もの放射性物質が放出される)プルトニウム系統の漏洩液受け皿が軒並み含まれています。臨界事故が発生したときの放出放射能量が大きいところほど臨界事故拡大防止対策の対象から外されたのです。その外した理由は、監視カメラを付けて作業員が2時間に1回見ることにしたから臨界事故は起こらないと評価したというのです。
 事業者が対策をすると言っているのをやらなくていいと指示するのが規制当局でしょうか。臨界事故が発生したときの放出量が多いところの臨界事故拡大防止対策(放射性物質放出抑制策)をしなくていい、それも目視確認の工程を1つ増やしたから臨界事故は起こらないと評価したなどというのはあまりにも不合理です。現在の原子力規制は、福島事故前より大きく後退しているのではないでしょうか。
    
 提出した準備書面の内容を基本的にそのまま掲載します。【 】書きで、一部説明を追加しています。
 この裁判の被告は原子力規制委員会、原子力規制庁はその事務方です。

 ☆原告準備書面(180) 被告の指示による臨界事故対策対象機器削減の誤り

第1 はじめに
 再処理施設については、臨界に達する可能性がある機器についてはすべて事故拡大防止のために未臨界に移行する等の対策が要求されており、事業者である日本原燃は2015年7月6日の適合性審査会合以降は、本件再処理工場においては臨界事故が発生する可能性があるために臨界事故対策の対象とする機器が23機器あるという姿勢を一貫してとり続けていた。ところが、2019年9月25日に至り、原子力規制庁は、日本原燃の想定が過剰であり臨界事故対策を要する機器をもっと絞るように指示し、これに応じて日本原燃は同月30日、臨界事故対策対象機器を8機器に限定し、それを前提に被告が変更許可を行った。
 被告は、事業者が臨界事故が発生する可能性があるとして選定した機器について、臨界事故対策を要しないとして重大事故対策(事故拡大防止対策)を怠らせたものであり、本件再処理工場に対する変更許可は、福島原発事故の反省と教訓に基づく現在の規制基準に反するものであり、その調査審議の姿勢は福島原発事故前のものに他ならないものであって、本件再処理工場の変更許可の調査審議及び判断の過程には看過しがたい過誤欠落があるというべきである。

第2 現在の規制基準上要求される臨界事故対策
 1 現行規制基準の定め

 原子炉等規制法第44条の2第1項は「重大事故(略)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の再処理の事業を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。」を再処理事業指定の要件とし(同項第2号)、この要件は、再処理事業指定の変更許可処分の要件ともなっている(同法第44条の4第3項)。
 この「重大事故」は使用済燃料の再処理の事業に関する規則第1条の3により「設計上定める条件より厳しい条件の下において発生する事故であつて、次に掲げるものとする。」とされ、「次に掲げるもの」の筆頭に「セル内において発生する臨界事故」が挙げられている。
 上記要件の審査基準として定められた「使用済燃料の再処理の事業に係る再処理事業者の重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力に係る審査基準」は、「臨界事故の拡大を防止するための手順等」として、「再処理事業者において、セル内において核燃料物質が臨界に達することを防止するための機能を有する施設において、再処理規則第1条の3第1号に規定する重大事故の拡大を防止するために必要な次に掲げる手順等が適切に整備されているか、又は整備される方針が適切に示されていること。」として「一 未臨界に移行し、及び未臨界を維持するために必要な手順等 二 臨界事故が発生した設備に接続する換気系統の配管の流路を遮断するために必要な手順等及び換気系統の配管内が加圧状態になった場合にセル内に設置された配管の外部へ放射性物質を排出するために必要な手順等 三 臨界事故が発生した場合において放射性物質の放出による影響を緩和するために必要な手順等」を「次に掲げる手順等」としている。

 2 審査基準の趣旨
 上記審査基準を作成した「核燃料施設等の新規制基準に関する検討チーム」では、重大事故対策に関して次のような議論がなされていた。
 第6回会合(2013年5月28日)では、安井緊急事態対策監が「結局、設計基準事故で対処しているから、起こらないんだというふうに考えちゃうと、シビアアクシデントの議論というのは進まないんです。それを突破してしまったことが起こったらどうするんだということを考えるのがシビアアクシデント対策だと思いますので、そこはやっぱり考え方の基本を変えて、いろいろ対策してあるから起こらないんだということを考えちゃうと、結局、3.11以前に戻ってしまうと思いまして、ここははっきり、この場は頭を切り替えて考えたほうがいいんじゃないかと思います。」と発言し(核燃料施設等の新規制基準に関する検討チーム第6回会合議事録=甲E第137号証17ページ)、福島原発事故後の規制基準においては設計基準レベルで対策しているから重大事故は起こらないとして重大事故対策の対象から外すということがあってはならないことを明らかにしている。
 第9回会合(2013年6月17日)では、西村規制調整官が「臨界が起きる可能性があるところは、おっしゃるとおり、未臨界にするための措置を講じてもらうということです。」と発言し(核燃料施設等の新規制基準に関する検討チーム第9回会合議事録=甲E第138号証47ページ)、臨界に達する可能性がある機器については、未臨界に移行させるための措置を講じる必要があることを明らかにしている。
 第14回会合(2013年7月17日)では、長谷川管理官補佐が、「臨界の防止対策については、これまでの設計基準で十分な対策がとられているといったところも含めまして、重大事故の対策は臨界が起きて発生以降ということに、ここを少し変更をしてございます。よって、四角の中が臨界事故に対処するため、設計基準で措置した手段に加えて、臨界事故の収束・再発防止に関する手段、それから機器換気系の流路を閉止して放射性物質をセル内に導く手段、影響緩和に関する手段ということで、ここは三つの手段、先ほど四つが基本でしたけれども、ここは防止のほうを、この三つの手段ということで要求を変更してございます。」と発言し(核燃料施設等の新規制基準に関する検討チーム第14回会合議事録=甲E第139号証8ページ)、臨界事故の収束・再発防止に関する手段等の重大事故対策は、設計基準で十分な対策が取られているところについても行う必要があることを明らかにしている。
 以上のように、現行の審査基準は、その作成時における議論においても、特に臨界事故については、発生防止対策(設計基準対応)が十分になされていても、それにより臨界事故が起こらないなどとして臨界事故の収束・再発防止対策(未臨界への移行措置)等の事故拡大防止対策の対象から外すことは許されないということを大前提としていたものである。

第3 本件再処理工場の適合性審査における臨界事故対策の推移
 1 日本原燃による臨界事故対策対象機器の選定と臨界事故評価

 原告らが準備書面(138)で指摘したとおり、日本原燃は、2015年1月26日の審査会合において、臨界事故の想定を福島原発事故前の安全審査でも想定していた溶解槽の臨界事故(福島原発事故前の安全審査では唯一の臨界事故想定であった)の他にプルトニウム溶液誤移送による臨界事故として第7一時貯留処理槽、低レベル無塩廃液受槽への誤移送による臨界事故3ケース(4機器:溶解槽は2つあるため)を挙げて説明したが、この3ケース以外で臨界事故が起こりえないという説明が不十分であると指摘され、同年7月6日の審査会合では、臨界に達する可能性があるとして臨界事故を想定すべき機器は23機器との説明を行った。これらの対象機器についての臨界事故発生後の未臨界への移行措置は、常設の可溶性中性子吸収剤注入装置が設置されている溶解槽以外では、すべて手動ポンプとバケツとホースによる手作業で可溶性中性子吸収材(ガドリニウム溶液)を注入するというものであった。
 日本原燃は、同日以後は、臨界に達する可能性があり臨界事故対策の対象とする機器は23機器との姿勢で一貫していた。
 日本原燃が2017年6月22日の審査会合に提出した資料では、日本原燃が本件再処理工場において臨界に達する可能性があるとして臨界事故対策対象機器と選定した23機器と、それらの機器で臨界事故が発生した際の対処に成功した場合と対処に失敗した場合の放射性物質の放出量評価は上の表【上記資料の435ページ】のとおりである。
 対処に成功した場合において放射性物質放出量が最大となる機器は精製建屋の油水分離槽セル漏洩液受皿、プルトニウム精製塔セル漏洩液受皿、プルトニウム溶液一時貯槽セル漏洩液受皿の3機器【日本原燃の評価で44億ベクレル】であり、対処に失敗した場合の放射性物質放出量が最大となるのは上記3機器に加えて、放射性配管分岐第1セル漏洩液受皿1、放射性配管分岐第1セル漏洩液受皿2、プルトニウム濃縮缶供給槽セル漏洩液受皿の6機器【日本原燃の評価で1900億ベクレル】であった。これらの機器の臨界事故で日本原燃が評価した放射性物質放出量は、臨界事故想定の最も代表的な機器である溶解槽の場合【日本原燃の評価で、対処に成功した場合で11億ベクレル、失敗した場合で430億ベクレル】と比べて、対処に成功した場合も、失敗した場合もいずれも4倍ないしそれ以上に達している。

 2 原子力規制庁による臨界事故対策対象機器の削減指示
 (1) 2019年9月25日審査会合

 日本原燃が臨界事故対策対象機器を23機器と選定してそれに対し疑義が述べられることもなく4年が経過した後、2019年9月25日の審査会合において、原子力規制庁の平野豪新規制基準適合性審査チーム員が、「これまでの会合等の説明ですと、一部の設備につきましては核的制限値を上回ることをもって臨界のおそれがあるといった設備があって、真に対策を要する設備でないところについても臨界のおそれがあるといって選定されてしまっていたように見受けられます。現実的に起こる臨界事故に対して、ちょっと整理する必要があるのではというふうなところがありまして、再処理施設で受け入れる燃料の仕様であったり、設備の仕様、あるいは再処理工程で取り扱われる溶液の状態、主に臨界の観点からいきますと核燃料の濃度の上限、これが設備の仕様等で出ている上限があったりするのだと思っているんですけども、こういったものを踏まえて起こり得ない、あるいはその蓋然性が低いということについて、定量的に整理をしていただいて、その対策の要否を整理して説明いただきたいと考えております。」と発言し(2019年9月25日適合性審査会合議事録=甲E第140号証13ページ)、臨界事故対策対象機器の削減を指示した。

 (2) 2019年9月26日事業者ヒアリング
 その翌日、2019年9月26日に原子力規制庁による日本原燃のヒアリングが行われた。この事業者ヒアリングは、会議映像も議事録も公開されず、原子力規制庁がヒアリングを実施したことと簡単な議事要旨、事業者からの提出資料のみを公開しているものである。
 この日、日本原燃が原子力規制庁に提出した資料では、日本原燃は臨界事故対策対象機器を23機器としたまま(2019年9月26日事業者ヒアリング提出資料=甲E第141号証8ページ参照)、それまではポンプとバケツとホースで手動で行うとしていた未臨界への移行措置を中性子吸収材の自動供給に変更するとされている(同10ページ)。日本原燃は、対策対象機器を23機器のままで、すべての機器について可溶性中性子吸収材(ガドリニウム溶液)供給を自動供給、すなわち常設の機器により未臨界への移行措置を行うと、臨界事故対策を格段に強化することを提案したのである。
 ところが、この日のヒアリングでは、原子力規制庁が日本原燃に対し、今後の審査会合で「臨界事故の蓋然性が低いとして重大事故等対策の対象から外す設備等については、考慮している対策の信頼性を具体的に説明する」ことを求めたとされている(2019年9月26日事業者ヒアリング議事要旨=甲E第142号証)。
 日本原燃はこの日、臨界事故対策対象機器を23機器のままで削減しないで臨界事故対策を強化するという内容の資料を提出してこのヒアリングに臨んだのに、この日のヒアリングで、一部の機器を「臨界事故の蓋然性が低いとして重大事故等対策の対象から外す」ことが決定されているのである。
 この経緯を見れば、この日、日本原燃の希望によってではなく、原子力規制庁の指示によって、本件再処理工場の臨界事故対策対象機器の削減が決まったことが明らかである。

 (3) 臨界事故対策対象機器の8機器への削減
 2019年9月26日の事業者ヒアリングを受けて、日本原燃は同月30日の事業者ヒアリングに、臨界事故対策対象機器を8機器に削減するという資料を提出した(2019年9月30日事業者ヒアリング提出資料=甲E第143号証)。
 ここで、本件再処理工場の臨界事故対策対象機器は、溶解槽A、溶解槽B、エンドピース酸洗浄槽A、エンドピース酸洗浄槽B、ハル洗浄槽A、ハル洗浄槽B、第5一時貯留処理槽、第7一時貯留処理槽(プルトニウム溶液の誤移送の場合に限定)の8機器のみとなった。
 日本原燃は、この日以降は、本件再処理工場の臨界事故対策対象機器はこの8機器とする姿勢をとり続け、被告は、それを前提に本件再処理工場の変更許可を行った。

第4 本件再処理工場の変更許可の誤り
 1 規制基準違反

 第2で述べたとおり、福島原発事故の反省と教訓に基づいて作成された現行の規制基準においては、臨界事故に関しては、設計基準で十分な対策が取られているところについても未臨界への移行措置等の重大事故対策が行われるべきであり、発生防止対策(設計基準対応)が十分になされていても、それにより臨界事故が起こらないなどとして臨界事故の収束・再発防止対策(未臨界への移行措置)等の事故拡大防止対策の対象から外すことは許されないということを大前提としていたものである。
 事業者自身においてさえ、臨界に達する可能性、すなわち臨界事故の可能性があると評価した機器について、臨界事故が発生した場合の対策である未臨界への移行措置等の対策対象から外したことは、まず何より現行規制基準に違反するものというべきである。

 2 被告の審査姿勢の誤り
 被告は、原告らが準備書面(174)で指摘したとおり、既に行った変更許可が実は規制基準を満たさなかったことが発覚したときでさえ、事業者の裁判への影響を優先して指導を回避するという姿勢を取ってきた。【注:毎日新聞がスクープした関西電力の原発について大山生竹テフラの火山灰層厚が許可で前提とされた10cmではなく実際は25cmに及ぶことがわかり、すでに行われていた再稼働許可が規制基準を満たさないことが判明したにもかかわらず、更田委員長が事業者の裁判への影響に配慮して規制の発動を手加減したという問題】
 被告が、本件再処理工場について、あろうことか事業者でさえ臨界事故が起こる可能性があり臨界事故対策対象機器とすべきと評価していた機器を臨界事故対策対象から外すように指導したことは、被告が規制基準を守る意思と原子力施設の安全を守る意思に欠け、事業者以上に安全対策を軽視し事業者に配慮し忖度する姿勢を取っていることを如実に示している。
 このような姿勢で行われた本件再処理工場の適合性審査(安全審査)には、調査審議及び判断の過程に看過しがたい過誤欠落があるというべきである。

 3 被告の指導による臨界事故対策外しの評価
 被告の指導により、日本原燃が臨界事故対策対象機器から外したものには、前述の日本原燃の評価で臨界事故が発生した場合の放射性物質放出量が最大となる機器がすべて含まれている。対処に成功した場合において放射性物質放出量が最大となる機器と評価された精製建屋の油水分離槽セル漏洩液受皿、プルトニウム精製塔セル漏洩液受皿、プルトニウム溶液一時貯槽セル漏洩液受皿の3機器も、対処に失敗した場合の放射性物質放出量が最大となると評価された精製建屋の油水分離槽セル漏洩液受皿、プルトニウム精製塔セル漏洩液受皿、プルトニウム溶液一時貯槽セル漏洩液受皿、放射性配管分岐第1セル漏洩液受皿1、放射性配管分岐第1セル漏洩液受皿2、プルトニウム濃縮缶供給槽セル漏洩液受皿の6機器も、これらはいずれもその機器で臨界事故が発生した場合には、代表的な臨界事故想定機器である溶解槽で臨界事故が発生した場合よりも4倍以上の放射性物質放出に至ると評価されたにもかかわらず、すべてが、被告の指導により、臨界事故対象機器から外されたのである。【対処に失敗したら最大量の放射性物質が漏洩することになる、そういう機器は、ふつうの考えでは最もその「対処」である臨界事故拡大防止対策が必要な箇所に思えるが、原子力規制庁は、臨界事故拡大防止対策は不要、すなわち対処しなくていいというのである】
 これらの機器について、日本原燃が臨界事故対策機器から外した理由は、漏洩液受皿の集液部を確認できるカメラを設置することにし、2時間に1度カメラを確認することにしたという人為的な確認を1つ増やしたということだけである(2019年9月30日事業者ヒアリング提出資料=甲E第143号証)。
 臨界事故が発生した場合に、放射性物質放出量が最大となる機器について、ただ目視確認の工程を1つ増やしたから、それで臨界事故が発生した場合の対策(未臨界への移行等の措置)の対象機器から外してよいなどという判断がどうしてできるのであろうか。このような臨界事故対策の削減を容認すること自体が信じがたいものであるが、被告は事業者が希望したわけでさえないのにそれを積極的に指導したのである。被告には、福島原発事故の反省と教訓どころか、およそ原子力施設の安全を守ろうという意思がないのではないかと強い懸念を持たざるを得ない。
 上記の点から見ても、臨界事故対策対象機器を削減し、また削減を容認した本件再処理工場の変更許可の判断は不合理であり、取消を免れないというべきである。
以上

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