◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆
班目発言で明確になった安全審査の不合理性・違法性
原子力施設の安全審査の最高責任者である原子力安全委員長自身が、安全審査で使われてきた重要な指針とそれに基づく安全審査が誤りであったことを認めたことから、伊方原発訴訟最高裁判決の判断基準に従えば、それだけで六ヶ所再処理工場の安全審査も、これまで行われてきた他の原子力施設の安全審査も不合理であり違法となることを論じます。
提出した準備書面の内容を基本的にそのまま掲載します。
基本的に法律論の書面ですが、それほど込み入っていないので難しくはないと思います。
☆原告準備書面(108) 班目発言で明確になった安全審査の不合理性・違法性
第1 はじめに
2012年2月15日、国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(以下「国会事故調」という)の第4回委員会において、参考人として出席した班目春樹原子力安全委員長は、安全審査指針に瑕疵があること及び安全審査指針の不合理性、安全審査指針に基づく安全審査の瑕疵を認める発言を行った。原子力施設に対する安全審査の最高責任者である現職の原子力安全委員長が安全審査指針の不合理性と、この指針に基づく安全審査の看過しがたい過誤を認めたのであるから、この一事をもってしても、本件安全審査を含むこれまでのすべての原子力施設の安全審査が違法であることが明らかである。
以下、少し具体的に論じる。
第2 伊方原発訴訟最高裁判決の基準
最高裁は1994年10月29日第一小法廷判決(いわゆる伊方原発訴訟最高裁判決)において、原子炉設置許可処分取消訴訟における違法性の判断基準を次のとおり判示している。
「原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。」(注:この裁判は原子力安全委員会が設置される前になされた原子炉設置許可処分が対象なので、「原子力委員会」とされていますが、この部分は、現在はすべて「原子力安全委員会」と読み替えることになります)
ここで最高裁は、原子炉設置許可処分が違法と判断される場合として、@調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があるとき、A当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるときを挙げている。従って、安全審査に用いられた具体的審査基準、すなわち指針に「不合理な点がある」ときは、行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められるだけで、原子炉設置許可処分は違法と判断されるのである。
そして伊方原発訴訟最高裁判決は、直接には原子炉設置許可処分についてのものであるが、この趣旨が原子炉等規制法上原子炉設置許可処分と同等の位置づけを持つ再処理事業指定処分にも当てはまることは当然の理である。
第3 原子炉立地審査指針と本件安全審査
1 原子炉立地審査指針
原子炉立地審査指針は、敷地周辺の事象、原子炉の特性、安全防護施設等を考慮し、技術的見地からみて、最悪の場合には起るかもしれないと考えられる重大な事故を「重大事故」、更に、重大事故を超えるような技術的見地からは起るとは考えられない事故(例えば、重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちのいくつかが動作しないと仮想し、それに相当する放射性物質の放散を仮想するもの)を「仮想事故」と定義し、重大事故時に居住者がめやす線量を超える被曝をするおそれがある地域を非居住地域とし、仮想事故時に居住者がめやす線量を超える被曝をするおそれがある地域を低人口地帯とすることなどを定めている。
2 再処理工場の立地評価事故と審査指針
再処理施設安全審査指針は「指針3 安全評価」において、立地評価事故を以下のとおり定めている。
3.立地評価事故の評価
(1) 再処理施設と一般公衆との離隔距離の妥当性を評価するために、設計基準事象よりはその発生する可能性は更に小さいが、設計基準事象の範囲を超える放射性物質の放出量を工学的観点から仮想し、これを立地評価事故とすること。
(2) 一般公衆との離隔距離の評価に当たっては、「核燃料施設の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について」を適用するほか、「原子炉立地審査指針」及び「原子炉立地審査指針を適用する際に必要な暫定的な判断のめやす」を参考とすること。
この再処理工場における立地評価事故の評価基準は、「立地評価事故」の定義が「原子炉立地審査指針」の仮想事故に相当するものである上に、その評価に当たっては「原子炉立地審査指針」そのものを参考にすることと明記している。
すなわち、再処理工場の安全審査においても、現実には「原子炉立地審査指針」が審査基準として用いられている。
3 六ヶ所再処理工場の安全審査と原子炉立地審査指針
六ヶ所再処理工場の安全審査の安全審査書において「5.安全審査」の最後の「5.3 立地評価事故の解析」は、「以上の解析の結果は、『核燃料施設の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について』及び『原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて』を満足するものであり、一般公衆との離隔は十分確保されているものと判断する。」とされており、これが安全審査書のまとめとなっている。
このように、本件安全審査においても、原子炉立地審査指針は直接に安全審査の具体的基準として用いられており、行政庁の判断はまさしくこれに依拠してなされたものである。
4 事業指定処分の要件と原子炉立地審査指針
本件処分である再処理事業指定処分の要件は、原子炉等規制法第44条の2第1項で定められているが、その最も重要な基準であり、また安全審査の基準となるのは同項第4号の「再処理施設の位置、構造及び設備が使用済燃料、使用済燃料から分離された物又はこれらによって汚染された物による災害の防止上支障がないものであること。」である。
この「災害の防止上支障がない」ことは、究極的には事故時に周辺住民に放射線被害を与えないことを意味しているのであるから、事故時の周辺住民の被曝評価である立地評価事故の評価は再処理事業の指定に直結する極めて重要なものであり、また安全審査の根幹をなす部分であるというべきである。
すなわち、六ヶ所再処理工場の安全審査において立地評価事故の評価に用いられた具体的審査基準である「原子炉立地審査指針」は、安全審査の指針の中でも極めて重要なものであり、それに基づいて行われた立地評価事故の評価は安全審査の極めて重大なポイントとなっている。
第4 班目発言とその重大性
1 班目発言の内容
さて、六ヶ所再処理工場の安全審査に用いられた重要な具体的審査基準である「原子炉立地審査指針」とそれに基づく仮想事故の評価(すなわち再処理工場においては立地評価事故の評価)について、現職の原子力安全委員長である班目春樹氏は、国会事故調において、冒頭、安全審査指針類には多数の瑕疵があったことを認めざるを得ないと謝罪した上で、その後の委員の質問に対し、次のように発言した。
「今までのですね例えば立地指針に書いてあることだと仮想事故だとかいいながらも実は非常に甘甘の評価をしてですね、あまり出ないように相当強引な計算をやっているところがございます」
「とんでもない計算違いというかむしろ逆に、敷地周辺には被害が及ぼさないということ、の結果になるように考えられたのが仮想事故だと思わざるを得ない」
上記の班目発言は以下のところで視聴できます(衆議院テレビ ビデオライブラリ 2012年2月15日分)。
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=41555&media_type=wb
開始から56分過ぎあたりに1つめの発言、1時間8分過ぎあたりに2つめの発言が出てきます。
なお、会議録(テープ起こし)はこちら(8ページと9ページ)。
2 班目発言の意味
前者の発言は、原子炉立地審査指針に基づく仮想事故の評価が、極めて甘く、その前提となる放射性物質放出量の評価も住民が被曝する結果とならないように「相当強引な計算」が行われてきたという事実を認めるものであり、本件安全審査も含むこれまでの原子力施設の仮想事故の評価が重大な誤りを含むものであることを認めるものである。これは、本件安全審査を含むこれまでの原子力施設の安全審査に「看過しがたい過誤」があることを認めるものである。
後者の発言は、「仮想事故」という概念そのものないしはその想定規模が敷地周辺に被害を及ぼさないという結果になるような放出量を想定したものであり、現実の事故での放出量よりも1万倍も低い、始めに結果ありきの不合理な想定であったことを認めるものである。
第5 まとめ
このように、安全審査の最高責任者である現職の原子力安全委員長が、本件安全審査に用いられた具体的基準である「原子炉立地審査指針」が不合理なものであることを認め、本件安全審査も含むこれまでの原子力施設の安全審査の仮想事故、すなわち再処理工場では立地評価事故の評価に看過しがたい過誤があったことを認めているのである。そして、先に述べたように立地評価は再処理事業指定の基準に直結する安全審査の枢要部分である。
このことからすれば、伊方原発訴訟最高裁判決の基準に従えば、本件安全審査の調査審議において用いられた具体的審査基準である「原子炉立地審査指針」に不合理な点があり事業指定がこれに依拠してされたものであることは既に明白であり、また本件安全審査を含むこれまでの原子力施設の安全審査のうち事業指定の基準にも直結する重要部分である立地評価事故の評価に当たって看過しがたい過誤があり事業指定がこれに依拠してされたものであることもまた明白なのである。
よって、この一事をもってしても、本件安全審査が不合理であり違法であることが明らかである。
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