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  ◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆
   航空機落下確率評価に関する適合性審査の誤り(その2)

 原子力規制委員会の航空機落下問題の規制基準とされている航空機落下確率評価基準こちらから入手できます)は、「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」にはその実際の状況を考慮して原子炉施設への航空機落下の確率を評価することを求めているのに、日本原燃と原子力規制委員会はこの基準を無視してその評価を行いませんでした。そのことを2022年6月17日の期日に原告ら準備書面(191)で指摘したところ、2022年12月23日の期日に被告原子力規制委員会はそれでいいのだと開き直った反論をしてきました。そこで、評価基準をそのように解釈適用することは誤りであるということに焦点を絞った反論をすることにしました。
 ここでは、落下確率の評価が科学的に合理的かという技術的な議論以前に、原子力規制庁が審査基準を守らなかったということが問題となっています。審査基準に違反して行った適合性審査も変更許可も、そのこと自体で違法無効です。
    
 法廷での口頭プレゼンを大まかに再現した上で、提出した準備書面をほぼそのまま掲載します。
 被告は原子力規制委員会、補助参加人は日本原燃株式会社(六ヶ所再処理工場の運営事業者)です。

法廷での口頭プレゼンの再現
 今回の準備書面は、被告が前回提出した航空機落下確率評価に関する被告準備書面(9)に対する反論ですが、航空機落下確率評価の科学的な合理性に関する反論は次回に行うことにして、本日は、それ以前の、被告の適合性審査が審査基準を守っていない、審査基準に違反してなされたものだから違法無効だということを論じます。
 本日の話は、専ら、被告の審査基準である航空機落下確率評価基準(こちらから入手できます)の解釈について論じますので、その規定を映しながらやります。

 航空機落下確率評価基準の4(3)1)は、「自衛隊機又は米軍機の落下事故」中の「訓練空域内で訓練中及び訓練空域外を飛行中の落下事故」について、「原則として原子炉施設及びその周辺上空からの訓練空域の自衛隊機又は米軍機の落下を原子炉施設の立地点ごとに評価する必要がある」としつつ、「現時点ではこのような飛行形態で原子炉施設周辺に自衛隊機あるいは米軍機が落下した事例がないことに鑑み、自衛隊機又は米軍機が陸上に落下する確率の全国平均値を用いるものとする」としています。
 この前段部分は、立地点ごとに評価するのが原則でありそうする必要があるのだけれども、現時点ではそういう原子炉施設周辺の訓練空域での訓練飛行中に落下した事例がないのでしかたなく全国平均値で評価するとしているんですね。
 その上で、航空機落下確率評価基準は、それに引き続いて「ただし、今後、原子炉施設の上空あるいはその周辺の訓練空域で訓練中の自衛隊機又は米軍機が落下した場合や、原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合は、こうした実際の状況を考慮して原子炉施設への航空機落下の確率を評価する。」と定めています。
 つまり、この後段のただし書き部分は、原子炉施設周辺で訓練中の飛行機が現実に落下した場合か、落下事故がなくても原子炉施設周辺の訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなった場合は、全国平均値を用いるのではなくて、実際の状況を考慮して落下確率を評価する、「評価方法を検討する」とかじゃなくて、端的に「落下の確率を評価する」と定めているんです。

 六ヶ所再処理工場については、近隣に三沢対地射爆撃場というのがあり、そこで訓練飛行をしていますので、これが「原子炉施設周辺に存在する訓練空域」にあたることは明らかです。その三沢対地射爆撃場での訓練飛行回数については、補助参加人の日本原燃が、業者に依頼して調査をしていて、年間数万回、一番多い年は年間6万8669回の訓練飛行がなされたことを報告していますし、被告の適合性審査に提出された数字でも近年は約2万回とされています。被告の適合性審査には提出しなかったが、この裁判で日本原燃が裏付け資料の提出を拒否しながら回数だけ述べているところでは最近は年間数千回となっているとのことです。この訓練飛行回数は、「明らかに他の地域より著しく多い」ものです。

 原告らは、本件再処理工場周辺に三沢対地射爆撃場が存在し、年間数万機もの航空機が訓練飛行をしているのですから、原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなっていることが明らかであり、先程来述べている航空機落下確率評価基準の定めに照らし、訓練飛行回数を考慮した評価、端的に言えば訓練飛行回数をパラメータに入れた評価式による落下確率評価をすることが必要だと主張しているのです。

 これに対して、被告の準備書面(9)は、その前半で長々と述べていますが、結局のところ言っているのは、航空機落下確率評価基準の定めは、「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断された場合」でも全国「平均値を用いるかどうかを慎重に検討すべき場合を示した」に過ぎないということです。

 被告は、まるで専門技術裁量を言い総合評価と言えば何でも許されるかのように誤解しているようですが、行政庁は自ら定めて公表した審査基準に反することはできません。
 航空機落下確率評価基準は、その文言・構造上、「原子炉施設の上空あるいはその周辺の訓練空域で訓練中の自衛隊機又は米軍機が落下した場合」または「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」のいずれかを要件とし、その要件を満たす場合には「こうした実際の状況を考慮して原子炉施設への航空機落下の確率を評価する。」という効果を定めています。
 ここにいう「こうした実際の状況」は、「原子炉施設の上空あるいはその周辺の訓練空域で訓練中の自衛隊機又は米軍機が落下した場合」は現実の落下事故、「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」は周辺の訓練空域での訓練飛行回数を指していると読むのが自然です。
 とりわけ、後者の「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」は、現実に事故が生じていない場合でも、訓練飛行の回数が多いということのみを基準としていることからも、訓練飛行の回数をこそ考慮することを求めていると考えられます。
 しかも、この定めが、落下確率の全国平均値を用いるべきことに続くただし書きとして規定されているところに、「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」という、「他の地域よりも著しく多くなった」ことを基準とする要件を挙げているのは、正にそれ自体が全国平均値を用いることが正当化できない典型例であることに照らし、「こうした実際の状況を考慮して原子炉施設への航空機落下の確率を評価する。」という規範は、この場合には全国平均値を用いることが正当化できず、それ以外の方法により落下確率を評価すべきことを定めていると読むのが自然です。
 加えて、被告自身もこのただし書きの趣旨については、準備書面の25ページの注5の末尾では、航空機落下確率評価基準が策定された当時は各訓練空域ごとの訓練飛行回数を把握することは極めて困難であるが、これらが把握できるようになった場合には立地点ごとに評価するという原則に則り評価されうると書いていますし、準備書面の26ページの注6の末尾では、私もこの準備書面を読んで驚いたのですが、なんと、訓練空域ごとの訓練飛行回数に係るデータの入手が可能になった場合にまでこれらのデータを評価に用いないとするのは合理的ではない、各データの入手ができるようになった場合にはこれらのデータを評価に用いるべきとまで書いているんです。訓練飛行回数のデータが入手できたらそれを評価に用いないのは不合理だ、訓練飛行回数のデータを評価に用いるべきだと、自分でも認めているんですよ。 

 これまで述べたところから明らかなように、航空機落下確率評価基準は、「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」にはその訓練飛行の回数のデータを用いて落下確率評価をすること、つまり訓練飛行回数をパラメータに入れた評価式を用いた評価をすることを求めているもので、単に「平均値を用いるかどうかを慎重に検討」すればよいとするものではありません。被告の主張は、言い逃れのために基準の解釈を恣意的に曲げるものと言うべきです。

 被告は、その他のことを含めて実際の状況を総合考慮したと主張しているのですが、多数回の訓練飛行があるのに何故それをパラメータに入れた評価をしなくてよいかという理由は、ほとんど説明していません。
 準備書面であれこれ言っているところは、結局、日本原燃が「三沢対地訓練区域で対地射爆撃訓練飛行中の航空機が施設に墜落する可能性は極めて小さい」と評価したということくらいで、それも引用している証拠を見ると、日本原燃が「三沢対地訓練区域で対地射爆撃訓練飛行中の航空機が施設に墜落する可能性は極めて小さいが」という言葉を書いているところばかりで、どうしてそう評価できるかも何も説明されてないんですね。

 一歩譲って、訓練飛行回数をパラメータに入れた評価式で評価してみたけれども、その結果が全国平均値を用いた場合よりも小さかったというのであれば、そういう考え方もあると思うんです。しかし、被告の適合性審査では、訓練飛行回数をパラメータに入れた評価式の検討は一切行っていないんです。被告は、原告らが提出した、もともと科技庁の安全審査に提出されたものですが、甲D第385号証とか、被告側で提出した乙D第85号証とかでは、まさに訓練飛行回数をパラメータに入れた評価式で評価して、その結果落下確率が10−7を超えているものがあるのですが、それについて不合理だと主張しています。その被告の主張に対する反論は次回に行いますが、それを置いても、被告が不合理だというのなら被告の方で合理的だと考える評価式を作って計算すればいいじゃないですか。それなのにそういうことを一切やらなかったのです。

 まとめになりますが、航空機落下確率評価基準の定め、その文言からは、そして被告自身が主張する航空機落下確率評価基準のただし書きの趣旨に照らしても、本件再処理工場周辺での訓練飛行回数が明らかに他の地域より著しく多いという事実がある以上、その訓練飛行回数を考慮した(それをパラメータに入れた)落下確率評価を行うべきであるのに、それを行うことなくなされた被告の適合性審査と事業指定変更許可は、審査基準に違反するものであるから違法というほかありません。

 ☆原告準備書面(196) 航空機落下確率評価に関する適合性審査の誤り(その2)

第1 はじめに
 原告らは2022年6月10日提出の原告ら準備書面(191)において、本件再処理工場の適合性審査に際して、被告が、本件再処理工場周辺の訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域よりも著しく多いにもかかわらず、航空機落下確率評価に用いられる審査基準である「実用発電用原子炉施設への航空機落下確率に対する評価基準」(乙E第15号証。以下「航空機落下確率評価基準」という。こちらから入手できます)の文言に反して訓練飛行の回数に基づく落下確率評価を実施せず、さらに言えば訓練飛行の回数を考慮した試算が提出されたのにこれを無視して、全国平均の事故確率を用いたことの誤りを論じ、その結果、被告が本件再処理工場への航空機落下確率を不当に低く評価し、またF16の落下に対する防護設計としてまったく不十分な重量20tの航空機が速度150m/s(メートル毎秒)で衝突した場合の衝撃荷重に対する防護設計をしていることを理由に、F16と同程度かそれ以下のものの墜落事故については10分の1の係数を乗ずることとして、評価した落下確率の総和が10−7(回/年)を超えないとして、既存以上の防護設計を求めることなく審査基準に適合したと認めて変更許可を行ったことの誤りなどを、航空機落下確率評価基準の定めを具体的に引用し、また本件再処理工場の事業指定の際の行政庁審査(当時の1次審査)メモ中の資料を提出した上で指摘した。
 被告の新訴被告準備書面(9)は、この原告ら準備書面(191)に対して縷々反論している。
 本準備書面では、上記被告準備書面(9)のうち前半の航空機落下確率評価基準の解釈適用の誤りについて、できるだけ簡明に指摘することにする。被告準備書面(9)の後半の落下確率評価の具体的な手法や本件再処理工場の防護設計基準(衝突速度150メートル毎秒)の不合理性等については、技術的な検討を要するので、さらに検討の上次回に論じることにする。

第2 三沢対地射爆撃場の訓練飛行回数の不考慮
 1 航空機落下確率評価基準4(3) 1)の定め
 航空機落下確率評価基準4(3)1)は、「自衛隊機又は米軍機の落下事故」中の「訓練空域内で訓練中及び訓練空域外を飛行中の落下事故」について、「原則として原子炉施設及びその周辺上空からの自衛隊機又は米軍機の落下を原子炉施設の立地点ごとに評価する必要がある」としつつ、「現時点では」落下事例がないことを理由に、上空に訓練空域が存在する場合(評価方法@:乙E第15号証基準−8ページ)以外については、全国平均の落下事故率を用いた落下確率評価を求めている(同号証基準−7〜9ページ)。その上で、航空機落下確率評価基準は、「ただし、今後、原子炉施設の上空あるいはその周辺の訓練空域で訓練中の自衛隊機又は米軍機が落下した場合や、原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合は、こうした実際の状況を考慮して原子炉施設への航空機落下の確率を評価する。」と定めている(同号証基準−8ページ)。
 2 原告らの主張
 原告らは、本件再処理工場周辺に三沢対地射爆撃場が存在し、年間数万機もの航空機が訓練飛行をしているのであるから、原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなっていることが明らかであり、上記航空機落下確率評価基準の定めに照らし、訓練飛行回数を考慮した評価をすることが必要であり、本件再処理工場の安全審査の過程で訓練飛行回数を考慮した(訓練飛行回数をパラメータに入れた計算式による)落下確率評価(甲D第385号証、乙D第85号証)が提出されているのであるから、これを無視して全国平均の事故率に基づいて落下確率評価をした本件適合性審査は誤りであることを指摘した(原告ら準備書面(191)第3:同準備書面9〜14ページ)。
 3 被告の主張
 被告準備書面(9)第2の1(2)ア(同準備書面15〜26ページ)の主張は、大量の紙幅を費やしているが、要するに、専門技術裁量を強調した上で、上記航空機落下確率評価基準の定めは、「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断された場合」でも全国「平均値を用いるかどうかを慎重に検討すべき場合を示した」に過ぎないというものである。
 また、被告は、同準備書面第2の1(2)イ(同準備書面26〜31ページ)で、訓練飛行の回数や訓練飛行に用いられている機種、訓練飛行の形態等を「総合的に検討した上で、本件平均値を用いた航空機落下確率評価に問題がないことを確認している」から、看過しがたい過誤欠落はないと主張している。
 4 被告の主張の誤り
 被告は、まるで専門技術裁量を言い総合評価と言えば何でも許されるかのように誤解しているようであるが、行政庁は自ら定めた(審査に適用すると決定した)審査基準に反することはできない。
 航空機落下確率評価基準の上記の定めは、その文言・構造上、「原子炉施設の上空あるいはその周辺の訓練空域で訓練中の自衛隊機又は米軍機が落下した場合」または「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」のいずれかを要件とし、その要件を満たす場合には「こうした実際の状況を考慮して原子炉施設への航空機落下の確率を評価する。」という効果(規範)を定めているものである。
 ここにいう「こうした実際の状況」は、「原子炉施設の上空あるいはその周辺の訓練空域で訓練中の自衛隊機又は米軍機が落下した場合」は現実の落下事故、「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」は周辺の訓練空域での訓練飛行回数を指していると読むのが自然である。
 とりわけ、後者の「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」は、現実の事故を前提とせず(落下した場合とは並列された別の要件である)、訓練飛行の回数のみを基準としていることからも、訓練飛行の回数をこそ考慮することを求めていると解される。
 しかも、この定めが、落下確率の全国平均値を用いるべきことに続くただし書きとして規定されているところに、「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」という、「他の地域よりも著しく多くなった」ことを基準とする要件を挙げているのは、正にそれ自体が全国平均値を用いることが正当化できない典型例であることに照らし、「こうした実際の状況を考慮して原子炉施設への航空機落下の確率を評価する。」という規範は、この場合には全国平均値を用いることが正当化できず、それ以外の方法により落下確率を評価すべきことを定めていると読むのが自然である。
 加えて、被告自身もこのただし書きの趣旨は、航空機落下確率評価基準が策定された当時は各訓練空域ごとの訓練飛行回数を把握することは極めて困難であるが、これらが把握できるようになった場合には立地点ごとに評価するという原則に則り評価される(被告準備書面(9)25ページ注5末尾)、訓練空域ごとの訓練飛行回数に係るデータが入手可能になった場合にまでこれらのデータを評価に用いないとするのは合理的ではない、各データが入手できるようになった場合にはこれらのデータを評価に用いるべき(同準備書面26ページ注6末尾)としているのであり、この定めの趣旨は、訓練飛行回数が把握できた場合にはその訓練飛行回数のデータを用いて「航空機落下の確率を評価する」ことにあるというべきである。
 したがって、航空機落下確率評価基準は、「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」にはその訓練飛行の回数のデータを用いて落下確率評価をすることを求めているのであり、単に「平均値を用いるかどうかを慎重に検討」すればよいとするものではない。被告の主張は、言い逃れのために基準の解釈を恣意的に曲げるものと言うべきである。
 被告は、訓練飛行回数をも含めた総合考慮をしたとしているが、訓練飛行回数が著しく多いにもかかわらず、なぜ訓練飛行回数を考慮した(パラメータに入れた)確率評価をせず全国平均事故率(と施設面積)による確率評価でよいのかの説明は、ないに等しい。被告準備書面中では本件再処理工場周辺での訓練中の落下事故がないこと(被告準備書面(9)28ページ)、過去20年間に訓練空域外で落下した機種で三沢基地に配備されている機種が3機にとどまること(被告準備書面(9)30ページ)が挙げられている。しかし、航空機落下確率評価基準で訓練飛行回数が著しく多くなった場合は、訓練中の事故が発生した場合とは独立に挙げられた要件であるから、航空機落下確率評価基準は、事故の実績とは関係なく、訓練飛行回数が著しく多いことそのものを考慮して航空機落下の確率を評価することを求めているのであり、被告の主張は的外れであり、言い訳にもなっていない。被告準備書面(9)が挙げるそれ以外の事情は、補助参加人が訓練飛行のコース等を考慮して「三沢対地訓練区域で対地射爆撃訓練飛行中の航空機が施設に墜落する可能性は極めて小さい」と評価したこと、被告がそれを追認したことが記載されている(被告準備書面(9)29〜31ページ)程度であるが、墜落する可能性が極めて小さいとの評価が合理的である根拠は何ら示されていない。驚くべきことに、被告準備書面(9)で「三沢対地訓練区域で対地射爆撃訓練飛行中の航空機が施設に墜落する可能性は極めて小さい」との記載で引用している丙E第2号証46ページ、乙D第50号証11ページ及び80ページは、すべてその「三沢対地訓練区域で対地射爆撃訓練飛行中の航空機が施設に墜落する可能性は極めて小さいが」という言葉が書かれているだけでその根拠はまったく示していないのである。そして被告が本件平均値を用いた審査に問題がないことを確認したという主張で引用している乙A第53号証101ページ及び102ページも、米軍機又は自衛隊機の落下事故については、「本件再処理工場上空には訓練空域がないことから、訓練空域外を飛行する自衛隊機及び米軍機を対象として航空機落下の発生確率評価を行う。」「規制委員会は、申請者による航空機落下事故の分類及び評価の要否について、施設の周辺環境を考慮しており、航空機落下確率評価基準を踏まえたものであることを確認した。」との記載があるのみで、何故に施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多いにもかかわらずその訓練飛行回数のデータに基づく落下確率評価をせずに全国平均値で評価してよいのかの理由はまったく示されていないのである。
 航空機落下確率評価基準の定め、その文言からは、そして被告自身が主張する航空機落下確率評価基準のただし書きの趣旨に照らしても、本件再処理工場周辺での訓練飛行回数が明らかに他の地域より著しく多いという事実がある以上、その訓練飛行回数を考慮した(それをパラメータに入れた)落下確率評価を行うべきであり、それを行うことなく(実際には三菱原子力工業等のメーカーが行って、基準値である10−7を超える結果が出ているのにそれを無視して)なされた被告の適合性審査と事業指定変更許可は、審査基準に違反するものであるから違法というほかない。
 5 「他の地域よりも著しく多くなった」の要件該当性
 なお、航空機落下確率評価基準にいう「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」への該当性については、特に議論するまでもなく明らかと思料するが、念のために述べておく。
 まず「今後(中略)多くなった」については、被告自身が現時点では訓練飛行のデータを把握することが困難であることから全国平均を用いることとしたが、「今後、各訓練空域ごとの訓練飛行回数に係るデータ(中略)の入手が可能になった場合にまでこれらのデータを評価に用いないとするのは合理的でない」としており(被告準備書面(9)25〜26ページ注5、注6参照)、データが入手できるかできないかの問題であって、訓練飛行回数が航空機落下確率評価基準策定時よりも相対的に多くなったことが求められているわけではないことは、被告も争わないと思料する。
 そして、本件再処理工場においては補助参加人が委託した業者の調査によって年間数万回(多いときは6万8669回)にも及ぶ訓練飛行がなされていることが判明しているのであるから、航空機落下確率評価基準にいう「原子炉施設周辺に存在する訓練空域での訓練飛行の回数が明らかに他の地域より著しく多くなったと判断される場合」に該当することは明らかと思料する。訓練飛行回数が、補助参加人が裏付け資料の開示を拒否しつつ数字だけを述べているように近年は年間数千回となっているとしても、それが他の地域より著しく多いことには変わりないと思料する(航空機落下確率評価基準が、訓練空域外での落下事故率の全国平均値を用いるべきでない例外として定めていることに照らし、ここにいう「他の地域」は、他の訓練空域という意味ではなく、訓練空域以外の地域の意味であると解される)。
 その点に関して被告は、補助参加人の調査結果であるから正確な飛行回数は検証困難などと述べている(被告準備書面(9)27〜28ページ)が、事業者である補助参加人の提出したデータでさえ年間数万回の訓練飛行が記録されているのであるから、少なくともその回数の訓練飛行があることを前提とするのが当然であり、それに余裕を見るべきことは言えても、訓練飛行回数がそれだけあることを無視することはおよそ許されないと言うべきである。
以上

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