庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

   ◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆

 低レベル放射性廃棄物処分場控訴審判決を読んで

 仙台高等裁判所第1民事部は、2008年1月22日、六ヶ所低レベル放射性廃棄物処分場の事業許可取消訴訟について住民側の控訴を棄却する判決を言い渡しました。
 この判決は、低レベル放射性廃棄物処分場の危険性を軽視し、事実認定で住民側の立証について異様に厳しいハードルを課し、他面日本原燃のデータ隠しには大変寛大な立場を取っている点に特徴があります。

  原告適格について

 仙台高裁判決は、施設から20km以内に居住する10名の原告についてだけ訴えを起こす資格(原告適格:げんこくてきかく)を認めました。
 この点は、六ヶ所村在住の原告にだけ原告適格を認めた1審判決よりはまともな判断です。放出された放射性物質が村境で止まる訳はないのですから。
 この仙台高裁判決は、低レベル廃棄物処分場での事故の被害の程度は「他の原子力施設に比して制限的なものであり」として、この施設で想定される事故によって直接的かつ重大な被害を受けることが想定されるのは、広めに見ても施設から20km前後の範囲内に居住する住民に限られるものというべきであるとしています。確かに低レベル放射性廃棄物処分場は原発や再処理工場のような危険性がかなり高いものと比べる限りは相対的に危険が低いと言えるでしょう。しかし、実はこの施設に集積される放射能の総量は非常に大きなもので、例えば巨大地震のような全体に一気に損傷が生じるような形での大事故があった場合に漏洩する放射性物質の量はかなりとんでもない量になり得ます。危険性が低いと甘く見ていると酷いことになりかねません。

  耐震設計で考慮すべき活断層について

 中越沖地震で柏崎刈羽原発を安全審査で想定したよりも遥かに大きな揺れが襲い、原子力施設の耐震設計のあり方が注目されている中、中越沖地震後初めての高裁判決となったこの判決は、「地震により発生する可能性のある放射線による環境への影響の観点から見た施設の重要度の如何にかかわりなく、全ての活断層を等しく考慮に入れて、大地震が発生することを予期した耐震設計をすることを要求するのは現実的とはいえない。」と述べています。ここでも低レベル放射性廃棄物処分場は危険性が低いから活断層全てを考慮した耐震設計などしなくていいというのです。
 この判決は、「その存在が明らかであって、かつ、活動度が高い活断層」は考慮すべきだとしています。しかし、現実には、活断層研究で最も権威のある活断層研究会の「日本の活断層」で確実度がTでないものは一律に対象から外し、青森県の他の原子力施設で安全審査の検討対象となった活断層でさえも「日本の活断層」に載っていないことを理由に外しておきながら、他方「日本の活断層」が確実な活断層としている海域の84kmに及ぶ活断層は別の理由を挙げて「当然考慮すべき活断層とまではいえないというべきである」として、結局のところ考慮すべき活断層は1つもないとしています。
 「日本の活断層」に掲載されていないところで起こった地震で安全審査の想定を遥かに超える揺れが生じて原発の建屋の壁や機器が損傷した中越沖地震を経験しながら、こんな判決が書ける神経には驚きます。

  断層沿いの破砕帯/水みちの有無について

 六ヶ所村低レベル放射性廃棄物処分場は、地下水の豊富な敷地に地下水位の下側に放射性廃棄物を埋めてしまうという極めて大胆な構想の処分場です。常識的にはそういう施設は地下水が侵入してこない地下水位の低い土地に立地されるべきですが、他に手を挙げる地域がないためにこのようなことになってしまいました(国側の証人は地下水の中に浸かっていれば安定して腐敗しにくいなどと苦しい言い訳をしていますが)。
 そのため、その地下水の流速が速いと廃棄体(ドラム缶)から漏洩した放射性廃棄物がすぐに他の地域に移動して他の地域を汚染してしまいますので、地下水の流速が遅いことが許可の条件となっています。もし敷地内に地下水が通りやすい「水みち」があるとこの条件を満たさなくなるわけです。
 ところが、この施設の敷地内にf−a断層、f−b断層と名付けられた2つの断層が走っていることがわかりました(1審判決も指摘しているように日本原燃は当初この事実自体を隠していました)。そして、この断層沿いに断層活動による破砕帯があるのではないか、それが水みちとなっているのではないかが大きな争点となったのです。
 仙台高裁判決は、断層周辺に透水係数(流速)がかなり高い場所が複数存在していること、ラドン法(地中から岩盤の割れ目を通って地表に出てくるラドンガスを測定することで割れ目を検出する方法)による調査で断層沿いの複数の地点でラドン濃度が高くなっていること、岩盤透水試験で断層のある深さに達した途端に透水量が一気に上昇した地点があること、シュミットロックハンマーによる反発度検査で断層境界部が他の部分より反発度が低いことなどを認めています。これらはいずれも断層沿いに破砕帯があり水みちとなっていることを示唆する事実です。それでもこの判決は水の通りやすい部分が「連続している」とは言い切れないとして「水みちが存在することを示すものとはいえない」としています。
 この事件では、日本原燃がボーリングデータの一部しか安全審査に提出していないことから、1審判決は日本原燃が地質柱状図を隠している疑いがあると指摘しました(1審判決についてはこちら)。私たちは日本原燃が提出しなかった地質柱状図の提出を求め、仙台高裁もそれを採用し、3つのボーリング孔について日本原燃が隠していた柱状図が提出されました。それを見ると、やはり断層付近に多数の割れ目が走っていました。私たちは仙台高裁が認めた破砕帯の存在を示唆する事実にこれを合わせればとどめとなって当然に水みちの存在が認められると考えていました。しかし、仙台高裁は、なぜかこれを併せて考えずに柱状図以外のことがらについて先に述べたように「水みちが存在することを示すものとはいえない」と一旦判断し、柱状図のデータについては、割れ目が多数あることから「これから直ちにf−a、f−b断層沿いに水の透りやすい破砕帯が存在すると認めるのは無理がある。」とか岩石の弱い部分があること「をもってf−a断層の破砕帯の存在に起因するものと速断することはできない。」とか割れ目に粘土が挟まっていることから「この部分に破砕帯があるとみるには根拠が十分とはいえない」としています。仙台高裁の判断手法は、なぜか柱状図データについては他の証拠と総合するのではなく、それ1本で破砕帯があるといえるところまでいかないと破砕帯の存在を認めないという判断をしています。これは証拠判断の手法として異常ですし、住民側にかなり異様に高い立証責任のハードルを課すものです。
 その上、ボーリング柱状図については、1審判決が日本原燃がデータ隠しをしている疑いを指摘し、出せといったらまさしくデータを隠していたことがわかり、その内容も案の定割れ目だらけで日本原燃に不利なものだった訳です。普通に考えればこういう経緯なら日本原燃に対する苦言が呈されるということになるはずです。しかし、仙台高裁判決は、日本原燃が「地盤条件が相対的に良好なことが明示されている地質柱状図のみを意図的に選んで提出したとまでは速断できず」と、日本原燃をかばう判示をしています。ちょっと信じられないですね。

  地下水位の変動領域について

 六ヶ所村低レベル放射性廃棄物処分場は、雪融け水などのため地下水位の季節変動が非常に大きく、年間の地下水位の変動が4m前後に達する地点があります。アメリカの立地基準では地下水位の変動領域に放射性廃棄物地中処分場を立地することはいかなる場合でも認められないとされています。
 六ヶ所村低レベル放射性廃棄物処分場では廃棄体(ドラム缶)が地下水位の下に埋められることになっていますが、安全審査中に日本原燃が提出した地下水位観測記録によれば、その地下水位は大きく低下しています。低下が続けばいずれ埋設場所の高さまで地下水位が下がり年間変動領域に入ってしまうことになります。そして安全審査は1990年10月まで続けられたのに日本原燃の地下水位観測データは1988年3月の図面を最後に安全審査に提出されなくなりました。
 仙台高裁判決は、「埋設設備群から離れたところも含めて全体に地下水位が下がっているとは認められない」とし、日本原燃が「昭和63年3月以降についても観測データを保持しているにもかかわらず、その後の観測データを安全審査に提出しなかったからといって、これをその後の地下水位が申請者に不利な方向に動いているためと決めつけることはできない。」としました。処分場から離れたところのことを理由に処分場のすぐ近くのことを帳消しにできる訳じゃないし、それ以前は出しているものが出さなくなれば普通は不利な点があるからでしょうし現に隠していたボーリングデータは悪かったわけですし、それでこういう判示ってちょっと信じられません。

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