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私のお薦め本
the Half-Blood Prince を原書で読む
 ハリー・ポッターを1巻から5巻まで読んだ上で、6巻を読んだファンにとっては、ファンの予測を裏切る巧みなストーリー展開だと、私は思います。ただ、それはハリー・ポッターファンが持つ先入観のためで、もしこれまでハリー・ポッターを読んだことがない人が6巻を読んだとしたら、「ひねりがない」と思うんじゃないでしょうか。
 ハリー・ポッターファンがたぶん、まず困惑するのはスネイプです。第2章で、スネイプとベラトリックスの会話が続き、スネイプが2重スパイであること、スネイプがいかにヴォルデモートの信頼を勝ち取っているかが、語られています。これを見たハリー・ポッターファンは、5巻で不死鳥の騎士団のメンバーとして正義の側になりすぎたスネイプを1巻、2巻あたりの怪しいスネイプに戻そうとしているのだと思います。そして、そうする以上、その後ハリーがいかにスネイプを疑い、嫌っても、やはりスネイプはダンブルドアの側なのだという結論が用意されていると予測します。私は、そう思っていました。
 続いてマルフォイです。やはり第2章で、マルフォイの母ナルシッサからスネイプにマルフォイがヴォルデモートから重大な使命を課せられたが心配だという相談があります。そしてハリーはマルフォイを疑い続けます。ケイティ・ベルが殺されかけたこと、ロンが殺されかけたこと。これもやはりハリー・ポッターファンならマルフォイが従事していたのは別の使命で犯人は別人だったという結論が用意されていると思うでしょう。私はそう思っていました。
 そして、何といってもダンブルドアです。第27章でダンブルドアがアバダ・ケダブラに倒れたとき、ハリー・ポッターファンは誰しもダンブルドアは復活すると思ったでしょう。第30章(終章)のタイトルが「白い墓」(The White Tomb)であるとはいえ、第29章でフォークスが哀悼の歌を歌い続けるのを見ると、やはりダンブルドアはよみがえるのではと期待します。私は残り5ページくらいになるまでそう信じていました。
 しかし・・・
 第5巻が始めから終わりまで暗くて重苦しくて読んでいて快感がなかったのに比べると、6巻の前半・中盤は明るい気持ちで読めます。アーサー・ウィーズリーは出世してウィーズリー家は金銭的余裕ができる。ハリーはグリフィンドールクィディッチチームのキャプテンになる。ハリーは新しい魔法薬学の先生スラグホーンにかわいがられ、謎の「混血のプリンス」(the Half-Blood Prince:静山社版では「半純血のプリンス」)の教科書のおかげで魔法薬学の成績も急上昇する。ハリーは女子学生にモテモテ、ロンもモテモテになりラベンダー・ブラウンとラブラブになる。そしてクィディッチも・・・。前半でハリーファンにとって不愉快なできごとは、ハリーがマルフォイに透明マントを見破られて叩きのめされるシーンくらいでしょう。前半は、まるで1巻や2巻に戻ったような楽しい気分です。
 ハリーが6巻になってジニー・ウィーズリーに思いを寄せるあたりは、何で今頃?とも思いますが、まあ、そのあたりが男女の仲の綾と読んでおきましょう。
 第27章からは、一気に話が展開し(第26章からともいえますけど)、暗い結末を迎えます。このあたり、1、2巻の雰囲気で始まって5巻の雰囲気で終わったというところでしょうか。
 6巻では、ヴォルデモートについての謎が相当程度解かれて、昔からのハリー・ポッターファンには読んで満足する部分となっています。ただ、他方で、ペンシーブに現れるヴォルデモートが今ひとつ小粒で、敵役として物足りなさを感じてしまいました。
 そして、the Half-Blood Prince が誰かの謎解きは、さんざん期待を持たせたあげく、それも日本語タイトルで「謎のプリンス」とまで謎解きをクローズアップしたことを考えると、物足りない感じがします(静山社版についていうと、原書にはない「謎のプリンス」を日本語版「付録」の「ふくろう通信」では the Mysterious Prince としていますが、「謎」は riddle でもありますし、読者が勝手にやはりヴォルデモート(本名トム・リドル)かなんて勘ぐってくれたらラッキーなんて思惑もあるのかも。)。まあ、the Half-Blood Princeは7巻で確実に登場しますから、さらに謎解きがあるのかも知れませんけど。でも7巻では新たに登場したR.A.B.が誰かの謎の方が問題ですからね。
 6巻の結果として、7巻では、ハリーとロン、ハーマイオニーがホグワーツには戻らず(ホグワーツが存続するかもわかりませんが)、ヴォルデモートのHorcruxes (ローリングの造語。ローリングのサイトでは、誰か先に使ってないかとGoogleで検索して該当なしを確認して使用したと書いています。松岡さんがどういう訳語を作るか楽しみでしたが、ホークラックス=カタカナそのまま&「分霊箱」になりました)4つを探し求める旅をし、その過程で謎のR.A.B.およびthe Half-Blood Prince と出会って闘うか交渉するかして、最後にヴォルデモートと対決という図式がひかれました。これまでの学園ものから、未知の国での冒険ものに変わるわけですが、5巻で学園ものとしての限界も見えてきてましたから、いい展開と考えましょう。
 ということで、やはり、全巻読み続けたハリー・ポッターファンにとっての7巻(最終巻)へのつなぎという色彩は強いですが、ハリー・ポッターファンにとっては、よくできた読み物と思います。
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(2005.8.22記、2006.10.9更新)

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