庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

    ◆女の子が楽しく読める読書ガイド
  シャバヌ 砂漠の風の娘 (原題 SHABANU)

 スザンネ・ステープルズ作 1989年  続編「シャバヌ ハベリの窓辺にて」はこちら
 パキスタンのチョリスターン砂漠で生きる遊牧民の少女の物語。
 イスラムの戒律と慣習の中で精一杯自分らしく生きようとする姿を描くとか、「わたしはこの砂漠の風のような自由な心で生きていたい」「慣習のくびきの中で精一杯自分らしく生きようとする姿を生き生きと描く物語」というような帯、見返しの紹介を見て、ちょっと期待して読んだのですが。
 主人公は12歳の少女シャバヌ。1つ上の姉が女らしく美しくひ弱で生活力がなく描かれ、これと対比してシャバヌは自由に力強く描かれています。
 しかし、シャバヌ自身、姉にはひ弱で従順な様子に反発する気持ちと自分も姉のように美しく女らしくなりたいというアンビバレントな気持ちに揺れています。
 暴力夫と別れて自立して娘と2人暮らししているシャルマおばさんは、怖いもの知らずでずけずけものを言う。シャバヌはそのシャルマおばさんが大好き。そのシャルマおばさんは、親族の都合で勝手に結婚相手を決められた(変えられた)シャバヌに心の秘密をかくししたたかに生きることを勧めます。「自分を見失うんじゃないよ。自分を見失わない限り、かならず道はある。」「来たくなったらいつでもおいで」とも。
 結婚するか、シャルマおばさんの元に逃げ込むか最後まで迷ったシャバヌは、夜家を抜け出し砂漠をシャルマおばさんの元に向かいます。ところがついてきたラクダが骨折して動けなくなったのを見殺しにできず父の追跡を待ち、父に捕まって罰を受けながら、シャルマおばさんの言葉をかみしめてラストシーンとなります。
 シャルマおばさんの人物像に魅力を感じますし、イスラムの世界の中で(イスラムに限らず現実の世界で)生きる少女を描くには単純な理念型よりも説得力はありますが、結局は親と政治家の力に屈してしまう物語とも読めます。考えさせる材料としては評価できるのですが。読んでいて、ラストはこのまま逃げ切って欲しかったなという気がしました。
 テーマがテーマですから、ある意味当然ですが、全体に重く、「楽しく読める」にはつらいものがあります。あと、ラクダの交尾の様子が生々しく、親や姉を巡り性生活の話も出てきて、小学生の娘に読み聞かせるのはちょっと・・・
 中高生あたりに議論の材料として読んでもらう、くらいの位置づけでしょうか。

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