庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

女の子が楽しく読める読書ガイド
海賊ジョリーの冒険 
ここがポイント
 気が強くけんかっ早い海賊の少女が主人公の物語
 海賊の娘ソールダッドも格好いい
 巻が進むにつれ迷いや気後れが増え輝きが減るが、あきらめずに打開しようとする姿は好ましい

 お薦め度:星イメージ星イメージわりとお薦め/ 

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カイ・マイヤー作
 1巻:死霊の売人(原題 : Die Wellenläufer ) 2003年
 2巻:海上都市エレニウム(原題 :Die Muschelmagier ) 2004年
 3巻:深海の支配者(原題:Die Wasserweber) 2004年
 原作では「Wellenläufer-Trilogie」とされていて「海賊ジョリー」ではなく「波の上を走る人:ミズスマシ」のシリーズのようです(ドイツ語のことはよくわかりませんけど・・・)。
 長くつ下のピッピは海賊になりたいという破天荒な少女でしたが、ドイツで最近、海賊の少女が主人公のファンタジーが生まれました。ピッピのような明るい話ではありませんが。
 ジョリーは、1692年のポート・ロイヤルの大地震の時に解き放たれた魔力の影響で生まれた、水面上を歩くことのできる「ミズスマシ」の生き残り。子どもの時に奴隷市場で海賊のキャプテン・バノンに買われて海賊として育てられたジョリーが14歳になったとき、キャプテン・バノンら仲間の海賊を罠にはめられて失い、ただ1人生き残ったところから物語が始まります。孤島に流れ着いたジョリーを救った少年ムンクもミズスマシの生き残りでしたが、怪物に両親を殺され、謎の「死霊の売人」に導かれてジョリーとともに航海に出ます。死霊の売人はジョリーらに「暗黒の海」(マーレ・テネブロズム)の一部が我々の世界に口を開けて怪物を送り込んでくる、その危機が迫っていると告げます。キャプテン・バノンらを探し、またその仇を討ちたいジョリー、両親の仇を討ちたいムンク、海上の城「エレニウム」にミズスマシを連れて行く使命を帯びた死霊の売人・・・それぞれの思惑を乗せて冒険が続きます(1巻はこのあたりまで)。海上都市エレニウムに着き、「原初の父」の指導を受け、「貝の魔法」や水中を自由に遊泳・歩行することが可能になったムンクとジョリーは海中で「大渦潮」(マールシュトローム)と戦い「暗黒の海」への門を閉ざすことを期待されます。ムンクはその道を突き進みますが、ジョリーは、ムンクの変貌への違和感や人々の期待の重圧もあり、疑問を持ちます。そこにキャプテン・バノンらの失踪問題の意外な進展や人間関係の問題が絡み、「水の機織り女」から「邪悪とは何か」と問いかけられ原初の父や死霊の売人の正体を含め混沌としてきます。その中でジョリーは大渦潮との戦いに向け気持ちを整理します(2巻はこのあたりまで)。3巻に入り、ジョリーとムンクは「大渦潮」を封じ込めるため海中を海溝へと向かい、エレニウムでは押し寄せる怪物(クラバウター)や海賊・人食い族混成軍との闘いが続きます。ジョリーたちの前には数千年前の「ミズスマシ」アイナが現れ、ジョリーとムンクとアイナの親近感と猜疑心の駆け引きが繰り広げられ、ついに「大渦潮」の根源にたどり着いてストーリーが大展開します。
 ジョリーは、荒くれ者の海賊の中で育っただけあって、気が強く、けんかっ早い少女に描かれています。キャプテン・バノンに対する陰謀を探るため、海賊の根城にたどりつくと、ムンクを置き去りにして(酔い潰して)単身海賊の首領の館に忍び込み、ナイフをのど元に突きつけて秘密を吐かせようとします。
 そこで同じ首領を仇とねらっていた別の海賊の娘ソールダッドと鉢合わせします。このソールダッドがまたかっこいいんです。ジョリーがナイフを突きつけて首領から聞き出そうとしてうまくいかないのを見て、まどろっこしいとばかりに、首領の顔に拳をたたき込んで鼻の骨を折り、股間を踏みつけ・・・2巻3巻ではソールダッドの輝きが少し色あせ、不安に押しつぶされそうな心情や闘い傷だらけになるシーンが続きますが、3巻の最後にまた敵の海賊の首領タイロンと1対1の闘いで魅せてくれます(3巻334~337頁)。
 ジョリーは、特に2巻以降、悩みや自分の力への疑いなどから、どちらかというと弱気の部分が増えますが、悩みながら事態を打開していく姿勢は、少し痛々しい感じもありますが、評価できます。
 1巻の後半では、冒険を主導する死霊の売人、航海を進める船長ウォーカーと航海士ブエナベントゥーレ、魔法の力を強めてついには魔法で敵の船を沈めるムンクと、次第に男性陣の活躍が目についてきます。2巻に入るとジョリーの泣く姿や心の弱さ・体力のなさが強調されるシーンが増える感じがします。ソールダッドも2巻でも海賊の首領と大立ち回りを演じますが、やや女らしさが強調される印象があります。また、最終的には、冒険ものから、ソールダッドはウォーカー、ジョリーはグリフィンとのラブストーリーの方にシフトして行く感じです。
 ちょっと途中から迷いやか弱さが強調される点があるのは気になりますが、海賊の少女という設定、ジョリーの元気のよさと最後まであきらめずに事態を打開しようとする姿勢、ソールダッドのかっこよさで、お薦めしておきます。

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