庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「ザ・ブリザード」
ここがポイント
 困難な試練に挑む2人の最後まで諦めない姿勢と、現場を理解しない上官の理不尽な命令への対応がテーマ
 予告編の「定員12人の小型警備艇で32人の生存者をどうやって救助するのか」を真に受けると失望する

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 アメリカ沿岸警備隊史上最も偉大な救出劇とされるSSペンドルトン号遭難事件を描いた映画「ザ・ブリザード」を見てきました。
 封切り2日目日曜日、新宿ピカデリースクリーン2(301席)午前10時50分の上映は3割くらいの入り。観客の多数派は、中高年男性一人客。マッチョなテーマのためか、辺野古で反基地運動・環境保護運動の弾圧の先頭に立った海上保安庁の評判が地に落ちたせいか、公開直後のディズニー映画とは信じられないほど若い女性客の姿を見ませんでした。まぁアメリカでも2016年1月末の公開で公開初週末の興収が第4位、2週目で第7位、その後はトップ10に入らずですから、日本でも不発に終わるのはやむなしというべきでしょうか。

 1952年2月、前年に漁船の遭難を救出できず8名が死んだことを後ろめたく思う沿岸警備隊員バーニー・ウェバー(クリス・パイン)は、交際中の電話交換手ミリアム(ホリデー・グレンジャー)との結婚を控えていた。タンカーの遭難事故で沿岸警備隊員の多くが出払った後、マサチューセッツ州ケープコッド沖で2つに割れて遭難した別のタンカーSSペンドルトン号が通信不能状態で漂流していることを漁師から聞いて知ったバーニーは、司令官クラフ(エリック・バナ)の命令により4名で小型の警備艇でSSペンドルトン号の救出に向かう。嵐の中をケープコッドの砂州を乗り越える途中で羅針盤を失い、乗組員から引き返そうと言われてもバーニーはSSペンドルトン号の探索を諦めず…というお話。

 ストーリーは、2つに割れて船尾部分だけで漂流するSSペンドルトン号の中で、混乱し対立する乗組員たちをまとめ、沈没までの時間を稼ぐために手動で操舵しながら浅瀬に座礁させ、ポンプで海水を排出する作業を続ける機関士シーバート(ケイシー・アフレック)の不屈の闘いと、前年の救出失敗への後悔と周囲からの非難、婚約者の思いに挟まれながら、無謀とも言える救出ミッションに挑むバーニーの不屈の闘いの2局面で展開していきます。テーマも、困難な試練に挑む2人の最後まで諦めない姿勢と、現場を理解しない上官の理不尽な命令への対応にあります。
 予告編でも「それは最も不可能な救出ミッション。迫るタイムリミット、生存者32人を、定員12人の救助艇で救え」とナレーションが入り、公式サイトでも、「それは、アメリカ沿岸警備隊史上、最も不可能な救出ミッション−生存者32人/救助艇の定員12人− 全員で生還か、それとも…。」と書かれていて、定員12人の小型警備艇(バーニーら隊員4人がすでに乗っている)で32人の生存者をどうやって救助するのかがポイントに見えます。そこからすると、SSペンドルトン号から次々と縄ばしごで降りてくる乗組員たちの間で「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)のような展開があるのか、バーニーが何か妙案というかアクロバティックな解決策をひねり出すのかと、期待してしまいます。また港から外洋へ出る過程では大波に翻弄され四苦八苦したのですから、帰りも、一難去ってまた一難みたいな展開を予想しました。しかし、その部分は、実話に基づくという制約があるからでしょうけれども、あまりにもあっさりと地味な展開で、観客の期待を裏切っています。前半のテンションを維持できず後半息切れというか見せ場に欠けるために、興行的に失敗しているのだろうと思います。
 予告編の余計な刷り込みを排除して冷静に見れば、バーニーとシーバートの海に生きる男たちの困難な状況での不屈の闘いみたいな売り方をすれば、それなりにしみじみとした感動を与えるものとして評価できると思うのですが。

 沿岸警備隊が常駐しているような港町に灯台がないのか、停電してみんなで桟橋に行こうという人々が桟橋に着くと車のライトを消すのはなぜか(何のために桟橋に行ったの?)、それから「タイタニック」では強調されていた冬の海の冷たい海水の威力(怖さ)が微塵も描かれず、SSペンドルトン号の中での作業でも、救助艇に乗るために海に飛び込む際にも海水に浸かった乗組員たちが凍死することがないどころか凍える様子さえ見せないのはなぜ、など、小型救助艇が大波に翻弄されるこの作品の見せ場のはずのシーンがいかにもプラモデルで撮ってますと見えるのをもう少しどうにかできないのかということを除外しても、疑問が多く残りました。

 この作品、なぜディズニーなのだろうと不思議に思いました(まぁスター・ウォーズもエピソード7からディズニーが買い取ってますし、儲かるものなら何でもありなんでしょうけど)が、SSペンドルトン号の遭難場所、バーニーらが苦心惨憺して乗り越えた砂州は、マサチューセッツ州の「ケープコッド」、つまり東京ディズニーシーで(ミニーが航海に出るミッキーのために作ったテディベアの)ダッフィーが住むエリアなんですね。なるほどそういうことかと、いやあまり納得できませんが (-_-;)
(2016.2.28記)

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