たぶん週1エッセイ◆
東京電力はどこまで嘘つきなのか5/今度はビデオが真っ暗

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 2013年3月13日、川内博史前衆議院議員が福島第一原発1号機の原子炉建屋4階に調査に入りました。その調査には東京電力から3名が同行し、東京電力側でビデオを撮影し、当初はその撮影したビデオのファイルは公開される手はずだったのですが、翌14日になり、東京電力からビデオは暗くて何も映っていないので公開しないと川内前議員に連絡があるという事件が発生しました。
 この件については、基本的には伝聞にはなりますが、川内前議員とお話しした経緯があるので、その当事者として事実を記録に残しておきたいと思います。

川内前議員の調査の経緯と川内前議員から聞いたお話
 この調査は民主党の議員・前議員が福島第一原発に赴いて行ったもので、川内前議員が1号機原子炉建屋4階、他の議員・前議員は4号機の使用済み燃料プールに行くということでした。当初は田中三彦さんにも声がかかり一緒に行く可能性があるということで東京電力側にも予告したということですが、田中三彦さんは国会に再調査を要請している段階でもあり然るべき態勢で入りたい、一度入ってしまうともう入れたということで拒否される可能性があるということから民主党の調査団には同行しないということになりました。
 そういう経緯もあり、私たちは、調査終了後に川内前議員と打ち合わせを行い、調査の内容についてお話しを聞くことができました。
 以下、川内前議員から、調査終了後の14日午前中に聞いた話です。東京電力は、入る前の段階では、ビデオは東京電力が撮影するが撮影したメディアは川内前議員が持ち帰ってよいといっていたということです。そして、川内前議員が何か所か気になるところについて東電の撮影者に撮影を指示し、同行した東電の説明者に何回かこれは何かと聞いたがいずれも「わからない」という答えだったとのことです。また、2011年10月18日のビデオでは天井が崩落して明かりが差していた北側はなぜか暗くなっており大変見えにくかったそうです。北側の明るさについては2011年10月18日のビデオとはかなり様子が違ったということです。調査を終了すると、東京電力は、ビデオを撮影したメディアは渡せないと態度を変え、その代わりに今晩中にホームページで公開すると約束したそうです。
 ところが、14日朝になってもビデオ映像は公開されず、昼頃になって、川内前議員に東京電力から、「ビデオは暗くて何も映っていなかったから公開しない」と連絡があったそうです。 

 ここで、私は、川内前議員の話から、川内前議員が何回か東京電力の説明者に質問をしたが「わからない」という答えに終始し、何か所か川内前議員が撮影を指示した上で、東京電力が、最初は記録メディアを持ち帰ってよいといっていたのに態度を変えて記録メディアを渡さないといいだしたことに注目したいと思います。この態度変更は、東京電力が、このビデオをこのまま公開させてはならないと判断したためと考えられるのです。

東京電力の釈明会見
 15日に開かれた東京電力の記者会見で、東京電力は、ビデオカメラに放射性物質による汚染を防ぐためのビニール袋による養生のために巻いたテープがレンズに付着したためにレンズカバーが閉じたものと思われる、撮影者は液晶モニタは暗いものの撮影中の赤ランプが点灯していたので録画されていると思っていた、歩行中は安全確保のために液晶モニタを見なかったために映像が撮れていないとは気付かなかったという趣旨の釈明をしました(東京電力の釈明資料はこちら)。
 まずは、東京電力の釈明内容を説明しましょう。撮影に使用されたビデオカメラはこのカメラだそうです。
 このカメラを原子炉建屋に持ち込むときに、放射性物質(ちり・埃等)による汚染を防ぐためにビニール袋で下のように「養生」をします。下の写真、向かって右側にいる人が右手にビデオカメラを持っていてその腕ごと大きなビニール袋をかぶせているのがわかるでしょうか。こういう形でビニール袋をかぶせ、口をテープで巻いて止めていきます。このテープの端がビデオカメラのレンズに付着してレンズのカバーが閉まったのではないかというのです。
 そして、ビニール袋で養生しているために、液晶モニターもビニール袋越しになるので見えにくかったというのです。

真っ暗ビデオとその検討
 東京電力は、川内前議員の要求と記者会見での要請に従い、2013年3月15日夜、その真っ暗ビデオをホームページで公表しました(こちら)。
 このビデオは1号機原子炉建屋1階から4階までの移動中(8分22秒)、1号機原子炉建屋4階(15分33秒)、1号機原子炉建屋4階から1階まで移動中(6分26秒)に分割されています。以下、この1号機原子炉建屋4階のビデオを紹介します。
 まず4階に入ってすぐの0分25秒頃、川内前議員は大物搬入口の撮影を指示しています。音声で「大物搬入口はこれ?」「これ、ちょっと撮っといて」という声が記録されています。このときの東京電力が公表した真っ暗ビデオの映像がこれです。
厳密に言うと、大物搬入口は、1階から5階まで吹き抜けになっていますが、川内前議員の関心は、ビデオの音声で蓋のことを聞いていることからもわかるように、4階の天井側の開口部です(そのことは、私たちとの打ち合わせでも、調査終了後のお話でもそういっていました)。その大物搬入口の4階天井側開口部を、東京電力が2012年11月30日に撮影したというビデオからキャプチャーしたのが下の写真です。
 さて、撮影者は、これを撮ってといわれたら、当然、液晶モニターでちゃんとそれが映っているか確認しますよね。東京電力の釈明会見での説明者(尾野昌之原子力立地本部長代理)は、暗いところでの撮影と強調していましたが、この被写体の大物搬入口はこんなに明るいんです。目の前の被写体がこんなに明るくて、液晶モニターが上側の写真のように真っ暗だったら、これでビデオがおかしいと思わない人はいませんよね。
 繰り返しになりますが、これは、川内前議員が原子炉建屋4階についてすぐにこれを撮してくれと指示したところです。どんな素人の撮影者でも、これを撮してくれと指示されて撮るんですから、当然に液晶モニターで確認するはずですし、この2枚の写真を見比べればわかるように、本当に上側の真っ暗撮影状態だったらおかしいと気付かないはずがありません。そして、原子炉建屋4階についてまだすぐ時点ですから、本当にビデオが真っ暗撮影状態であれば、そこでおかしいとなり、レンズカバーが閉まっていただけなら見ればすぐにわかって、その場で修正できたはずです。それにもかかわらず、おかしいという発言も、修正も行われなかったのです。
 次に、東京電力公表の真っ暗ビデオの2分31秒あたりで、川内議員は「B系の蒸気配管を見たいんですけど」といい、東京電力の説明者が案内していき、3分19秒あたりで東京電力の説明者が「上にライト当てて」といい、4分あたりで「上の方、撮影」と指示しています。このときの真っ暗ビデオの映像がこれです。
 ここでも、撮影対象は、ライトを当てて照らされているわけですし、やはり特定の場所を指示してここを撮影するようにいわれているわけですから、撮影者は、当然、液晶モニターで確認しているはずです。それで、このモニター画像を見て、おかしいと気付かないなど、考えられません。
 同様に、東京電力公表の真っ暗ビデオの7分02秒あたりで川内前議員が、「ダクトを撮って」と指示し、7分07秒あたりで、東京電力の説明者が「今、先生が照らしているところを撮影してございます」といっています。その時の真っ暗ビデオの映像がこれです。
 ここでも、東京電力の説明者の発言から、撮影対象を川内前議員がライトで照らし、そのライトで照らした対象をビデオ撮影するように撮影者はいわれ、またはこの言い方からすると説明者自身がモニターで確認しているようにさえ受け取れます。いずれにしても、ライトで照らされた対象物を撮影しようとしているわけで、これまた液晶モニターで確認しないはずがありません。

 東京電力がいう、ビデオ撮影に失敗したが撮影が終了するまで気がつかなかったなどということはおよそ考えられません。

東京電力会見担当者の傲慢
 東京電力は「2重に養生していた上に、歩行中は安全確認のためモニタを見られなかったことから、撮影した映像を確認していなかった」と発表しましたが、先程来説明しているように、川内前議員は、ここを撮ってくれ等の指示をしているわけです。その時に、撮影者が液晶モニターを確認しないということがありうるでしょうか。その撮影者は何を撮っているかも確認しないでビデオカメラをまったく当てずっぽうに回していたとでもいうのでしょうか。
 これまでビデオカメラというものをまったく見たこともない人ならばさておき、ビデオ撮影が初めてでない人がそういうことをするはずがありません。2013年3月15日の記者会見でフリーライターの木野龍逸さんがその撮影者は撮影経験がないのかということを繰り返し聞きました。これは、東京電力の荒唐無稽な説明を聞けば、誰でも疑問に思うことだと思います。それに対して、東京電力の説明者の尾野昌之原子力立地本部長代理は、撮影は初めてではない、専門家ではないから一般的な使用経験だと答えました。木野さんが、もし経験のない人にやらせてその結果川内前議員らが被ばくして調査したことが無駄になったのなら大変だ、きちんと経験について確認して答えて欲しいとさらに質問を重ねると、尾野昌之原子力立地本部長代理は、声を荒げて、「本人は大変なショックを受けている」、「ものの言い方には気をつけて欲しい」「軽々に今のようなことを言っていただくのは大変心外です」「あんまりいい加減なことは言わないでいただきたい」と逆ギレして「これ以上ご説明する気はありません」と断言しました(ニコニコ動画のアーカイブを試聴できる人は1時間26分25秒あたりから1時間31分あたりまでを是非見て欲しい。東京電力の傲慢さを象徴する映像だと思います)。東京電力は、自分が、常識人なら信用するはずがないまったく荒唐無稽な説明をしておいて、それについて誰もが感じるような当然の疑問をぶつけると語気を荒げて非難する、そこまで傲慢な会社なのだと改めて実感しました。

1号機原子炉建屋4階の怪
 1号機の原子炉建屋4階は、私たち国会事故調が現地調査をしたいというと、東京電力の見解によれば(東電の第三者委員会の結論でもありますが)「担当者の思い込みによって誤った説明がなされ」て調査を断念させられ、それが発覚して現場を見せないとはいえなくなって調査には全面協力すると東京電力がいうので川内前議員が立ち入ると、東京電力の説明によれば「撮影ミス」によって、ビデオの記録は残らず、いずれも「何らかの意図によるものではない」が結果として1号機原子炉建屋4階の状況については、東京電力が自ら撮影して自ら公表した以外の記録は一切残らないという事態になっています。1号機原子炉建屋4階に迫ると、なぜか異常なことが起こるようです。
 偶然が積み重なって、これらのことが起こっているとしたら、1号機原子炉建屋4階にはたたりでもあるのでしょうか。そう考えるよりは、東京電力本社が伏魔殿だと考える方がわかりやすいと、私は思うのですが。

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