たぶん週1エッセイ◆
先生と呼ばれるほどの・・・
 弁護士は、人様から「先生」と呼ばれることの多い業種の1つです。
 弁護士になりたての頃は、特に年上の人から「先生」なんて呼ばれるのは違和感があって、「先生なんて呼ばないでください」とか「さん付けで十分ですから」なんて言っていましたが、だんだんめんどうになってそういうことも言わなくなってずいぶんになります。いつのまにか、依頼者も同年配や年下の割合が高くなっていますし。
 小学生の娘の国語の教材に、教師・医者・弁護士・議員などの敬称は「先生」であると書かれているのを見て、久しぶりに意識しました。

   呼び方よりも・・・

 いちいち断りはしませんし、毎日そう言われているので、「先生」と呼ばれても違和感は感じなくなりましたが、今でも「先生」と呼ばれたいというわけではありません。さん付けで違和感も反感も感じません。
 呼び方よりも相手が関係をどう評価しているかの方が気になります。弁護士の仕事は、他のサービス業と違って相手方のある仕事ですし、法律に沿ってフェアな妥当性のある解決を考える必要があります。自分は依頼者なんだから、金を払っているんだから言うとおりにしろという態度は、言葉づかいがどんなに丁寧でも、カチンと来ます。また、弁護士の前では「先生、先生」とことさらに言う依頼者の自宅に電話をかけたときに家族が出て名乗ると「お父さん、弁護士から電話」(伊東先生ではなく、伊東さんでも伊東弁護士でもなく、「弁護士」です)なんて大声で言われたりしたこともあります。自宅でどういう話し方をしているのか、よくわかりますね。

   業界では

 弁護士の業界の中でも、弁護士は多くの場合、相手を呼ぶとき「先生」と呼びあっています。年下には「先生」をつけない主義の弁護士もいますが、「先生」と呼ばれないと気分を害する弁護士もいますので、私は、年齢に関係なく「先生」付けで呼んでいます。むしろ研修所の同期は、弁護士になる前(従って「先生」と呼ばれる前)の修習生時代から知っているのでなんとなく先生とは呼びにくくて、同期だけさん付けで呼んだりもしますが。
 業界外部からは、変に感じるでしょうけど、相手によってはそう呼ばないと気分を害することもあり得るのと、名前がわからない(ど忘れした)ときにも単に「先生」と呼んでお話をすれば話が通じるという便利さから、そうしています。
 ただ、弁護士会の立場で、他の弁護士の依頼者にその弁護士をどう呼ぶかは、ちょっと悩ましい思いがあります。弁護士会の法律相談センターの受任審査手続や苦情対応などをするときには、依頼者の前で「○○先生」と呼ぶと、依頼者に弁護士に対して敬称を使うよう強要しているような気がするので、私は「○○弁護士」と呼ぶようにしています。それも、どうも取って付けたような感じがしたりするのですが。

   裁判所では

 裁判所との関係は、ちょっと微妙です。
 法律の書きぶりでは、弁護士は裁判所からかなり下位にあります。民事訴訟法では、弁護士は裁判所に「出頭」することになっていますし、裁判所に出す「期日請書(きじつうけしょ)」の書式でも「出頭いたします」と書くことになっています。刑事訴訟法はもっとはっきり書き分けてあって、公判期日には、裁判官と裁判所書記官は「列席」、検察官は「出席」、弁護人と被告人は「出頭」です。ただ刑事訴訟法も改正しているうちに気が回らなくなったのか、公判前整理手続期日(こうはんまえせいりてつづききじつ)だけは検察官も「出頭」になっています(刑事訴訟法第316条の7)けどね。
 民事事件で裁判所の事務官から呼ばれるときは、部によって、「先生」だったり、「弁護士」だったり、「代理人」だったり、さん付けだったりいろいろです。裁判官から呼ばれるときもそうです。次第に「先生」の割合が増えてきているようにも感じますけど。裁判官から「先生」と呼ばれるときに、こちらは裁判官を「先生」とは呼び返せないので、そこはまたちょっとやりにくかったりもするのですが・・・

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