たぶん週1エッセイ◆
映画「ルート・アイリッシュ」

 イラクに駐留する戦争請負業者を描いた映画「ルート・アイリッシュ」を見てきました。
 封切り2週目土曜日、全国で4館東京では唯一の上映館銀座テアトルシネマ(150席)午前9時50分の上映は7〜8割の入り。観客層は中高年中心。

 幼い頃からの親友フランキー(ジョン・ビショップ)がイラクから遺体でリバプールに戻ってきたのを見たファーガス(マーク・ウォーマック)は、ファーガスが戦友のクレイグの失った目をからかった者を殴って留置場にいる間にフランキーが何度も緊急の電話を入れてきていたことを知り、後悔と失意の念を持ち、フランキーをイラクで護衛業務に当たらせていた戦争請負業者の説明に強い疑問を持つ。そして、フランキーがホステスを介してファーガスに託けた携帯には、同僚のネルソン(トレヴァー・ウィリアムズ)がタクシーを銃撃して少年たちを含む一家を皆殺しにしたことに激しく抗議するフランキーの姿が映っていた。自分もかつてイラクで従軍しその後戦争請負業者として独立し、フランキーをイラクへと誘ったファーガスは、保釈中でイギリスから出国できないことに苛立ちながら、イラクの元戦友に連絡してフランキーの足取りを追う。ファーガスの調査を知った戦争請負業者とネルソンは・・・というお話。

 駐留部隊が民間人をゲリラと疑い、あるいはスパイの摘発と称して虐殺し拷問し、しかし軍隊とそれに代わる戦争請負業者は何をしても罪を問われない、そんなイラク戦争の不正義を、その行為を正当化しながら続けてきたイギリス人帰還兵の心の闇と死の商人への怒りの視点から描いたものです。
 単純な不正義の指摘ではなく、相手が持っているのは携帯ではなく爆弾かもしれない、一瞬の躊躇が自分の死につながる戦場を経験し、誤射も仕方がないと言い立てるファーガスを通じて、しかしそれでも戦争請負業者のあくどさを浮かび上がらせるのが、そしてファーガス自身の後悔と悲しみを言葉でなく語らせるのが、巧いと思いました。
 フランキーが意趣返しに繰り返し張り付かされた、グリーンゾーンと空港を結ぶ「世界一危険な道路」。それを「ルート・アイリッシュ」と呼んでいることをめぐるイギリスの立ち位置からしても、イラクだけのことかという問いかけもあるのでしょう/あると思いたい。

 イラク戦争のことを置いてみると、やたらと昔の男っぽい作風です。突っ張り怒鳴りけんかをし、しかしフランキーへの友情や戦争で負った心の傷といったところでは繊細なところがあり、でもそれを隠そうとし、といったファーガスのキャラで、昔風のダンディを描きながら、ファーガスにも正義があるというわけでもなく弱さも抱えているというところでかっこよさで終わらせない、という深みを持たせています。
 フランキーへの追慕の情をともに強く持ちつつ、関係を持ってしまうファーガスとフランキーの妻レイチェル(アンドレア・ロウ)。そこに後悔や後ろめたさがまるで描かれないのは、ともに相手の背景にフランキーを見ているためでしょうか。ふつうの作品ならそこには後ろめたさがあり湿っぽくなるはずなんですが、一緒にフランキーの無念を晴らそうとかそういう言い訳さえなく、といってあっけらかんとしているわけでもなく、ごくふつうのことのようにしています。レイチェルサイドでは、夫が妻の自分よりも慕い強く結ばれていた男への興味と嫉妬、ファーガスサイドでは、単純にそれがダンディって感じの処理でもありますが。でも・・・それにしても、親友が死んで、すぐその妻とHしちゃうかなぁ。私の感性では、ちょっとついて行けない。

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