庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「隣人X 疑惑の彼女」
ここがポイント
 差別と排斥の問題を扱う作品だが、原作にあった虐げられた者の大企業への怨嗟を消すなど腰が引けている感がある
 心で見なくちゃの台詞は沁みるが、心で見て、弱者を踏みつける極悪週刊誌記者を許すべきなのか、疑問に思う
    
 人間の姿をコピーして生きる惑星難民Xが受け入れられている世界でXと疑われた者とスクープを狙う記者を描いた映画「隣人X 疑惑の彼女」を見てきました。
 公開3日目日曜日、新宿ピカデリーシアター5(157席)午前10時45分の上映は8割くらいの入り。

 人間の姿をコピーして生きることができる惑星難民Xをアメリカが受け入れることを決定し、日本政府もそれに追随したが、世間ではそれを不安視する声があり、週刊東都は日本に暮らしているXを暴き出す記事を目論み、うだつが上がらない契約記者笹憲太郎(林遣都)は、編集部が絞り込んだX候補のうち2人、コンビニと宝くじ売り場でバイトする柏木良子(上野樹里)と柏木が勤めるコンビニと別に居酒屋でバイトする台湾からの留学生林怡蓮(ファン・ペイチャ)を見張り盗撮していたが、意を決して宝くじ売り場でスクラッチくじを買い、柏木に話しかけ食事に誘い…というお話。

 宇宙人/地球外生命体への畏怖と排斥を描くことで外国人等の排斥・差別を問い、排外意識と偏見を煽るメディアの問題を指摘する作品ではあります。
 しかし、原作が持つ底辺を生きる/虐げられた者の怨嗟の念を、原作の最初のエピソードの中心人物の派遣社員土留紗央関係を全部カットすることで大企業正社員と派遣労働者の格差と派遣労働者の恨みと哀しみを消し去り、主人公となる柏木良子の両親が経営するコンビニが近くに直営店を出店されて苦しみ高額の違約金のために中途解約もできない(原作126ページ)という加盟店の本部への恨みに触れない(微妙なニュアンスはあったかもしれませんが、少なくともはっきりとは言わない)など、大企業への恨みを描かない姿勢が感じられます。排外主義の問題に集中したとおっしゃるのかもしれませんが。

 主人公の柏木を本が好きな人物にして、星の王子さまの「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」という台詞を言わせ、この作品でのキーワードにされています(原作にはなし)。それはそれで、ちょっと沁みるのですが、ただそういうことなら、弱者を踏みにじり、異端を排斥することを商売のタネにしている極悪雑誌社の記者笹を心で見て、いい人だと評価したり、許すべきものなのか、私には疑問に思えました。

 原作は2020年10月に読んでいて(読書日記は2020年10月の03.で紹介)、今回映画を見て改めて読むと、前に読んだときよりちょっといいかなと思いました。
 映画では、土留紗央関係が全部カット、柏木良子は過去の経緯カット、柏木とコンビニでともに勤めるベトナム人を台湾人に変更、笹は祖母が生きていて施設に入所していて笹はそのために金に困っていたことに変更、原作では出てこない雑誌社側のことを追加し、柏木が本好きで、報道後転居してブックカフェを開くことに変更しています。原作よりも柏木を比較的純粋で意志を明確に持つ人物にして笹にも苦しい心情があったと描きラブストーリーに寄せている印象です。
(2023.12.3記)

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