庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「恋愛裁判」
ここがポイント
 芸能事務所の請求を棄却した判決があることは紹介してほしかった
 ビジネスだからというならそれに見合う高い賃金を払えと、労働者側弁護士としては思う
 恋愛禁止の契約に違反したとして芸能事務所が起こした損害賠償請求訴訟を映画化した「恋愛裁判」を見てきました。
 公開2週目日曜、新宿バルト9シアター1(69席)午後1時20分の上映はほぼ満席。

 デビュー4年の5人組アイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」の菜々香(仲村悠菜)がファンのYouTuberゆうやと誕生日デートをするのに付き合わされたセンターの山岡真衣(齊藤京子)は、パントマイムの大道芸をしている中学の同級生だった間山敬(倉悠貴)と再会する。ゆうやとの写真を裏アカにアップしそれが流出したことで大騒ぎになり、菜々香はゆうやと別れるが菜々香のコアなファンが握手会を襲撃する事件が起こり、それまでに敬に惹かれ接近していた真衣は敬と失踪する。その後所属事務所から800万円の損害賠償請求訴訟を起こされた真衣と敬は…というお話。

 アイドルの恋愛禁止違反を理由として芸能事務所が損害賠償請求をした裁判としては、業界では2つの判決が知られています。1つは芸能事務所の請求を認め元アイドルに65万円の支払いを命じた東京地裁2015年9月18日判決。この映画は、こちらの判決(事件)を意識して作られています。もう1つは、恋愛禁止を損害賠償の制裁を課してまで要求するのはやり過ぎとして芸能事務所の請求を棄却した東京地裁2016年1月18日判決です。

 恋愛禁止条項の有効性については、まずそもそも恋愛を禁止すること自体が許されないという考え方があります。実際裁判で主張する場合は、公序良俗違反で無効(民法第90条)ということになります。条項自体が無効とは言っていませんが、損害賠償までは請求できないという東京地裁の2016年1月18日判決も、実質的に同じような考え方です。
 禁止の内容・性質の問題とは別に、内容を理解して納得して契約したんでしょうということに関して、事業者である会社が、未熟な未成年と交わした契約だという点から、その効力を認めてよいのかというアプローチもあり得ます。言ってみれば、対等な当事者間の合意を前提とする民法の領域ではなく、明らかな優劣関係がある場合の消費者法・労働法領域での考え方です。実際の裁判やこの映画ではそういう視点は出てきませんが、この作品で(年齢は明らかにされていませんが)菜々香も真衣も契約時には未成年だったはずで、優越的な地位にある事業者が年端もいかない未成年から得た同意の効力をどこまで認めるべきかは問題となりうるはずです。
 加えて、ビジネス契約だとしても、本当にそこまでの拘束を合意したと解すべきかも検討の余地があると思います。私の得意分野である解雇事件で、労働者の能力不足を理由とする解雇は簡単には有効と認められませんが、労働契約自体が高い能力を要求していたと解されると、労働者の能力・実績がそれに見合わない場合の解雇が有効と判断されやすくなります。労働契約も契約ですから、労働者に高い能力を要求する合意をしてそれが契約内容となっている以上は、それに足りない労働者は(通常の能力があっても)解雇されても仕方ないというわけです。実際の裁判では、企業側が高い能力を要求する契約だったと主張しても、それに見合う報酬(賃金)が支払われていない場合、裁判所は高い能力が労働契約の内容となっていたと認めません。月給30万とか40万でそういう主張をしてくる図々しい企業もありますが、実務感覚としては年俸1000万円クラスにならないと、そういった主張は簡単には認められません。さて、多額の投資をしているのだからという芸能事務所は、アイドルに一体いくらの賃金を支払っているでしょうか。宣伝費等に多額の金をつぎ込むのは、事務所が儲けるためにそうしているだけです。アイドルに私生活上の制約を飲ませるなら/負担を課するなら、合意したビジネスだからというなら、芸能事務所はそれに見合う報酬を支払うべきではないでしょうか。低廉な賃金で働かせておいて、ビジネスとしての合意もないでしょう。この映画でも、ビジネスとしてやっているという芸能事務所に、その面での問いかけはなされていません。

 問題提起をしつつ、多方面に配慮している/よく言えばさまざまな要素を考えさせる構成になっていますが、裁判としての結論に至らせるのであれば、芸能事務所の請求を棄却した東京地裁2016年1月18日判決の存在も紹介する/意識させるべきであったと私は思います。
(2026.2.1記)

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