庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「人生スイッチ」
ここがポイント
 6話オムニバスのブラックコメディ
 アルゼンチン市民の交通警察や検察官・弁護士に対する見方が感じられて興味深い

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 アルゼンチンで「アナと雪の女王」を抜いて歴代興行収入1位を記録したというブラックコメディ映画「人生スイッチ」を見てきました。
 封切り2週目日曜日、全国20館、東京で4館の上映館の1つヒューマントラストシネマ有楽町シアター1(161席)午前11時25分の上映はほぼ満席。

 @近くの席の若い女性に声をかけてその女性が自分がかつて酷評したミュージシャン志望者の元カノであったことを知り、それを契機に乗り合わせた乗客がすべてそのミュージシャン志望者の知り合いと知った音楽評論家(ダリオ・グランディネッティ)、A雨の夜にやってきた一人客が、かつて父親を破滅させ、父親が死んだ後母親に言い寄った高利貸しであることに気づいたウェイトレス(フリエタ・ジルベルベルグ)、B前を行く車を追い越しざまに田舎者と罵り先行したが、タイヤがパンクして慣れないタイヤ交換作業中にその車に追いつかれたドライバー(レオナルド・スバラーリャ)、C駐車禁止の表示がないのに車をレッカー移動され役人に抗議しても記録上は駐車禁止区域だと無視されて罰金を払わされ、そのために娘の誕生パーティーに間に合わず妻からも愛想を尽かされた爆破技術者(リカルド・ダリン)、Dバカ息子が妊婦をひき逃げして錯乱して戻り、弁護士を通じて検察官を買収し使用人を身代わりにしようとする富豪(オスカル・マルティネス)、E新郎の招待客の同僚の女性との関係を知り逆上して式場から飛び出して声をかけてきた見知らぬ調理師の男を屋上でセックスしているところを新郎に見られて開き直り、結婚したのだから財産は自分のもの、これからも優しげな男を見たら毎晩セックスしてやると毒づく新婦(エリカ・リバス)らの突っ走った先は…というお話。

 6話のオムニバスで、何らかの関わりを作るかと思いながら見ていましたが、最後までまったく関係なく6つの短編映画が並べられているだけです。
 第1話「おかえし」、第2話「おもてなし」、第3話「エンスト」は、まぁ意外な結末と言えば意外な結末ですが、単純なストーリーで、第1話はアイディア一発勝負、第2話はアイディアとしても不発気味で笑えず、第3話はだいたい予測できるけどその予測をくどく愚直にやるところで笑いを取るというところです。
 第4話「ヒーローになるために」は、日本で言えば交通警察のネズミ取りのような、姑息な手段で一般市民を引っかけて罰金をかき集め、抗議しても平気な役人の姿に対する一般市民の恨みの集積を感じさせます。役人の卑劣なやり口と傲慢な態度に怒りながら、妻には離婚を言い渡され、会社には解雇されと追い込まれ凋落していく技術者の姿が、哀れを感じさせますが、最後に技術者が打った手が、ささやかな快感を呼びます。この作品の中で一番ストーリー展開が考え抜かれ、主人公だけでなく庶民の気持ちも代弁されており、秀作だと思いました。
 第5話「愚息」は、ひき逃げをして家に逃げ込み泣き崩れるどうしようもないバカ息子を父親が雇った弁護士が検察官と交渉して金で取引して使用人を身代わり犯人にしようとするという展開で、弁護士も検察官も金で正義を売ろうという人物に描かれています。このあたり、アルゼンチンでの司法に対する評価が表れているのでしょうか。日本の感覚では、検察官が金で買収されるということはほとんど考えられず、弁護士もそうと知りながら身代わり犯人を立てようなどということはまず考えられないと、私は思いますし、ドラマ・映画レベルでもそういうのはほとんど見ないと思います。司法制度への信頼感の違いが見られるところに、弁護士としては興味を持ちました。
 第6話「HAPPY WEDDING」は、どう見るべきでしょうか。新郎が同僚と関係を持っていたというのは、少なくとも交際中も二股かけていたわけですから非難されて然るべきだとは思うのですが、でもそれで結婚式の最中に見知らぬ男とやっちゃう新婦って、いくらなんでも酷くない?やっぱり結婚前の浮気と結婚後の浮気は同列には見れないと思いますし。文化の違い、なんでしょうか。
(2015.8.2記)

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