たぶん週1エッセイ◆
映画「王妃の紋章」
ここがポイント
 衣装と小道具のゴージャスさが一番の見どころ
 戦闘後何もなかったように後片付けされる様に凄みが感じられる

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 唐滅亡後の混乱の中で成立した後唐時代を舞台に王族の腐敗と愛憎を描いた「王妃の紋章」を見てきました。

 王妃と皇太子の不義を知り眠れぬ夜を過ごしたが、王妃の父が国王である他国との関係上あからさまに殺害することもできず、病死に見せかけようと王妃に少しずつ毒を盛る国王(チョウ・ユンファ)。継子の皇太子と長年にわたり密通を続け、毒が入っていることを知りつつ1刻ごとに「薬」を飲み続けざるを得ない王妃(コン・リー)。王妃との不義の関係を続けながら若い愛人も持ち愛人と2人になるために辺境への赴任を求める皇太子。父である国王から評価され戦地から呼び戻されて後継を打診されるとともに、母から国王の陰謀を知らされ母の謀反の計画も聞かされて悩む第2王子(ジェイ・チョウ)。父母から高く評価されずにいることを妬む第3王子。王家の一族が一堂に会して永遠の繁栄を祝う重陽節(9月9日:菊の節句)に際して集まった王家の者たちの呉越同舟ぶりは凄まじいものがあります。
 これに加えて、宮廷医の家族との関係も錯綜します。宮廷医はもちろん、国王の味方。娘は王妃の薬係で王妃に毒を盛る実行役で皇太子の愛人。しかし宮廷医の妻はなんと王妃のスパイで、実は・・・(あまりにネタバレなのでぼかします)。王家の人間関係が複雑濃密なのはありがちですが、宮廷医の家族も含めてのこの濃密ぶりは、ちょっとでき過ぎ・やり過ぎの感じ。

 基本的には、第2王子が一番格好良く描かれ、王妃は被害者の立場ではありますが身から出た錆的なところがあり、またしたたかでもあり、見ていてちょっと複雑な思いを持ちます。他方、悪役の国王は生き残ったものの妻には裏切られ1日のうちに世継ぎをすべて失い孤立しますし、彼の行為は王家を守るという観点からはまぁそういうものとも考えられ、これも複雑な思いを残します。ラストで反乱軍の側についた第2王子に罪を許す条件として今後第2王子が自ら母親に「薬」を飲ませることを求めたことも、残酷に見えますが、反乱を企てた母と国王のどちらを選ぶのか、国王への忠誠を見せるために反乱の首謀者である母親への忠誠を断つことを求めるのは国王の地位を保つためには仕方ないとも評価できます(そういう条件を付けてでも反乱を許すこと自体、国王としては例外的な寛容といえるでしょう)。そのあたりの王妃と国王の陰影が描かれ愛憎劇としてもいいできだと思います。
 ちょっと脇道にそれますが、第2王子、俳優じゃなくてポップスターなんですね。まぁひねった役柄じゃないからできたのかも知れませんが、それであれだけできるというのもすごい。

 でも、この映画の見どころは何といっても、ストーリーより俳優より、映像の、セットの、衣装・小道具の、ゴージャスさです。東京ドームがいくつ入るのかわからない宮殿の前庭いっぱいに菊の花を敷き詰めたり、その庭を衛兵で埋めたり、数千か数万の衛兵(銀色)も反乱軍(金色)も王妃の衛兵(黒に紅)もそろいの甲冑で入り乱れ(国王の親衛隊というか忍びの者は黒装束だけどこれはゴージャスとはいいにくい)と、これぞ映画という感じの力の入れ方というか金のかけ方。王家の人々の衣装は、特に国王と王妃は金ずくめだし、それ以外でもいかにも手のかかった刺繍だらけ。これだけ見ても、あぁ映画見たなあという気持ちになれます。
 ただ1カ所、宮殿の門扉が金細工も少し付けてはいるけどただ茶色のペンキを塗ったのっぺりしたもので、これがいかにも安っぽい。これをもう少し重厚な造りにしてくれたら、う〜ん、ゴージャス、満足満足って帰ってこれるんですが。

 戦闘シーンは迫力があり、数の力でもありますが、見応えがあります。最初の方の国王と第2王子のチャンバラはちょっとやり過ぎで不自然な感じですが。

 戦闘シーンにはけっこう残虐なシーンがありますが、それ以上に凄みを感じたのは、反乱軍が鎮圧され死体と流血にあふれた前庭を家来たちが片付け、絨毯を敷き、菊の花を敷き詰め、あっという間に何事もなかったかのように復元したシーン。数千・数万の人の死もまるで何事でもないように取り扱う国のシステムと人のありように、人の死ぬシーン以上に戦慄を覚えました。

(2008.4.30記)

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