庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「おまえの罪を自白しろ」
ここがポイント
 原作と比べて出番を減らされているものの堤真一が中堅与党政治家の気概と悲哀で存在感を示している
 犯人像の原作からの変更は心情的には納得感があるがミステリーとしてはどうかと思う
   
 真保裕一の小説を映画化したサスペンス映画「おまえの罪を自白しろ」を見てきました。
 公開3日目日曜日、配給会社松竹のメインシアター新宿ピカデリーのメインスクリーンシアター1(580席)での午前10時40分の上映は、公開初週末から入場者プレゼント(晄司:中島健人の写真付き名刺)配布の特典をつけて、3割くらいの入り。観客の大方半分は若い女性で、女性2人コンビが目に付きました。主演のジャニーズタレント中島健人(ケンティ)ファンなのでしょう。それでも大宣伝の結果がこれかと心配になりました。

 埼玉県が荒川に建設する上荒川大橋の予定地が変更され夏川総理(金田明夫)のお友達企業が評価額1億円だった土地を埼玉県に8億円で売却することとなったことが、総理の指示で埼玉県選出の衆議院議員で現在は内閣府副大臣の政治家宇田清治郎(堤真一)が差配したものではないかとの追及が続いている最中、宇田清治郎の5歳の孫緒形柚葉(佐藤恋和)が誘拐され、犯人から我々の要求は金ではない、明日午後5時までに宇田清治郎が記者会見を開き政治家として犯してきたすべての罪を自白しろというメッセージが届いた。取り乱して全部自白してと泣きすがる長女緒形麻由美(池田エライザ)を残して宇田清治郎が議員会館に戻る際、経営していた企業が倒産して宇田清治郎の秘書となった次男宇田晄司(中島健人)は麻由美に必ず柚葉は助けると言ったが…というお話

 原作は、政治家同士の駆け引きを読ませる作品と読みましたが、映画では序盤中盤の宇田清治郎があちこちに手を回しそれが功を奏さない中でどう判断しどう行動するかを見切り決断していく過程の大半をすっ飛ばしているのでその趣はあまり感じられません。
 原作を読んだときに、最初は感情的で視野の狭い小粒な人物と見える宇田晄司が、途中から突然大胆不敵で読みがある動きとなるのが不自然に感じられましたが、映画では途中がすっ飛ばされているのでますます何だろうと思います。どうしてだかわからないけど、晄司を立てて晄司が事件を仕切り解決していくということに素直に馴染めれば、シンプルでわかりやすい作品になっていると評価できるでしょう。
 映画では、なすすべもなく動けない宇田清治郎ですが、中堅与党政治家の気概と悲哀という点では、堤真一が存在感のある演技をしています。

 事件の犯人について、設定が変えられています。因果応報を出したかったのでしょう。心情的には原作の結末よりも納得感があり、それが狙いとは思います。しかし、この犯人像は当然原作者も考えはしたが捨てたアイディアのはずです。これでは警察が犯人に迫れなかったことに納得しにくいのではないでしょうか。映画では原作と異なり警察の捜査をほとんど描いておらず、晄司が思いつきで犯行動機を言い当てるような描写なので警察が無能でもいいという判断なのかもしれませんが。

 原作とは誘拐される柚葉が5歳(原作は3歳)、宇田清治郎の妻は故人(原作では存命)、宇田清治郎は内閣府副大臣(原作では6期目の衆議院議員だが無役)、中央テレビの記者神谷美咲との関係は特に触れられない(原作では同じ大学のよしみで知り合い事件中も連絡している)、原作では随所で安倍晋三がモデルと示唆されている総理の名前は夏川(原作は安川:原作と名前が変えられているのは総理と犯人の1人だけ)など、設定も微妙に変更されています。大した意味はないのでしょうけれども。
(2023.10.22記)

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