庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「ラスト・クリスマス」
ここがポイント
 ドジを踏み続け、一夜限りの男の部屋を泊まり歩くケイトの立ち直りがテーマの反省・成長もの
 ラブコメにも移民やホームレスなどの弱者への目線が示されるのが社会と文化の余裕か
 クリスマスソングに乗せたラブコメ映画「ラスト・クリスマス」を見てきました。
 公開3日目日曜日、11月22日に新装オープンしたばかりのWHITE CINE QUINTO(108席:渋谷PARCO8階)午前11時30分の上映は、2割弱の入り。さまざまなイベントもあって客が詰めかけ至るところで行列ができ入場制限もなされているPARCOで、このフロアは寂しい限りでした。

 90年代にはユーゴスラヴィアの聖歌隊でソロシンガーとして活躍していたケイト(エミリア・クラーク)は、ロンドンに移住し45歳となった今は、クリスマスショップでエルフの衣装を着て勤めているが、母を嫌って自宅に寄りつかず友人宅やパブで声をかけてきた男の部屋を泊まり歩き、仕事にも打ち込めずドジを踏み続け、オーディションを受けて落ち続ける日々を送っていた。そんなある日、店の外で空を見上げていた青年トム(ヘンリー・ゴールディング)に出会ったケイトは、その後度々トムと出くわすようになり、トムが気になるようになってしばらく会わないといても立ってもいられなくなって、ホームレスの救護所でボランティアをしているというトムを探し歩くが…というお話。

 店の仕事をきちんとせずに店主(ミシェル・ヨー)に迷惑をかけ、泊まり歩いた友人宅でも次々と友人が大事にしている物を壊して迷惑をかけ、心配する母や姉にも冷淡な態度を取り、ホームレスの救護所でも上から目線でものを言って疎まれ…という態度だったケイトが、トムとの出会いを契機に自分を取り戻し、態度を和らげ関係を回復していくという、反省・成長ものです。
 かなりシンプルな構成で、繰り返し使われる「ラスト・クリスマス」を始めとする音楽が気に入るか、ケイトの境遇と立ち直りに素直に共感できるかで評価が決まる作品です。ストーリー上の関心は、トムが何者かにほぼ尽きてしまいますので、さすがにそこは見てのお楽しみにするしかないでしょう。

 父が弁護士で、本人も聖歌隊のソロシンガーという母国では恵まれた地位にあったとはいえ、移住してきたロンドンでは父はイギリスの弁護士資格を取るための学習の費用が払えずタクシー運転手をしているという一家が、ちゃんとした家に住み、心臓移植手術を受けられ、姉は勤務先は不明ですが昇進しているというのを見ると(その設定が、イギリス人の目からリアリティがあるのかどうかは、私には判断できませんが)、サッチャリズムの下で大幅に後退させられてもなお、イギリスは福祉国家なんだと思います。姉が黒人のガールフレンドと同居していることも合わせ、日本では、イメージしにくい環境です。バスの中で外国人は出て行けと怒鳴る青年も登場し、排外主義的なグループの存在も描かれていますが、怒鳴られた外国人に対してケイトに私たちは外国人を歓迎しますといわせ、群れをなすホームレスとともに歌うケイトの楽しげな姿を見せて、移民や弱者への暖かめの視線を投げています。ラブコメにそういうスタンスが示されるあたりが、社会と文化の余裕でしょうか。
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(2019.12.8記)

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