たぶん週1エッセイ◆
映画「ICHI」

 盲目の居合いの達人座頭市を女性にした時代劇映画「ICHI」を見てきました。
 封切り2日目日曜午前の上映ですが、1064席のミラノ1ですから半分も埋まりません。でも、後から私の前に座った若い女性客が予告編の間ずっと腕を頭上に高く上げて自分の髪の毛をいじくり回してて、後から蹴り入れたくなりましたが、そういうふだん映画見てない客も来るくらいですからそこそこの興行成績は上げそうですね。

 生き別れた父を捜して宿場を訪れた盲目の離れ瞽女(こぜ)市(綾瀬はるか)と、子どものころに真剣を使っていて誤って母を失明させて以来刀を抜けなくなった浪人藤平十馬(大沢たかお)が、市が男に囲まれているのを十馬が助けようとして逆に助けられたことから絡み合い、宿場町を仕切る地場のヤクザ白河組と山を拠点として宿場町を荒らし牛耳る万鬼党の抗争に巻き込まれていくというお話です。十馬は、市といるときに襲ってきた万鬼党の5人を市が斬り殺したところへ駆けつけた白河組に、十馬が斬ったと誤解されて腕を買われて用心棒として雇われて万鬼党と戦うハメになり、市は盲目の居合いの達人であった父の情報を得るため自ら万鬼党の頭万鬼(中村獅童)の手に落ちます。
 基本的には、殺陣(チャンバラ)で見せる映画で、市は練習の甲斐あって違和感のない動きでしたけど、木刀なら市より強いという十馬はちょっと・・・市に打ち勝ったときも大振りで腹ががら空きだし、万鬼相手に最期にようやく真剣抜いたときも刀が安定してないし。笑いながら人を斬る万鬼の方が圧倒的に存在感がありました。

 現在でもいろいろあると思いますが、この頃の視覚障害者の境遇の過酷さには驚きます。市は父に瞽女業者に預けられて三味線を習い旅芸人「瞽女」となり、時々現れる父から剣術を習って居合いの達人となりますが、男にレイプされ、そのために瞽女業者から追い出され、離れ瞽女として1人で生きるハメになります。瞽女業界では、襲われた場合であっても男を知った者は仲間から追い出されるというのです。盲目であるだけでも大変なのに、犯された上にそのために仲間から追放される市の無念を思い、涙ぐんでしまいました。そして、市は居合いの達人だからその後襲われたら相手を斬り殺しますが、そんな腕のない盲目の女たちがどういう人生を歩まねばならなかったに思いを致すと・・・
 市の重い過去を反映して、市は口数も少なく、何かと付き添って歩く子ども小太郎(島綾佑)や十馬が話しかけてもほとんど答えません。その無言の間が、台詞があるよりも感じさせるものがあります。

 幕府の指南役に推されるほどの剣豪でありながら顔に火傷をして二目と見られぬ容貌となったがために職を追われ一度落ちた者は這い上がれないとはぐれ者の道を行く万鬼と、優しさと愛を説き「生きていたいとさえ思っていません」という市に「生き続けるんだ」と言う十馬が、市の心を奪い合うというテーマは、当然のように十馬が勝ち、愛の勝利路線です。万鬼もそのいきさつを考えればもう少し同情されてもいいところもあるように思えますし、市の父の仇でもないのですから、境遇に共通点を感じて迫る万鬼の言葉にもう少し説得力を持たせる展開もあったとは思うのですが。その点は、市に迷いの色さえ見えませんので、シンプル過ぎる感じもしますが、スッキリとしています。ただ、みんなであれだけ人を殺しておいて、愛とか希望とか言われてもなぁと思ってしまいますが。 

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