庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」
ここがポイント
 アカデミー賞最多ノミネート作品だが、観客動員は難しいと思う
 基本的には中高年女性が、人生での選択を振り返り、自分も活躍できるかもと夢想するというニーズに答える映画と思う
    
 2023年アカデミー賞最多ノミネート作品「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」を見てきました。
 公開2週目日曜日、新宿バルト9シアター4(80席)午前10時10分の上映は、7割くらいの入り。アカデミー賞最多ノミネート作品ですが、公開初週末興行成績は5位、アメリカでも公開初週末はトップ10にも入らず口コミで拡がって上映館が増えたものの週末興行成績は最高でも4位という作品ですので、アカデミー賞の主要部門で受賞して大きな話題にならなければ日本での観客動員は厳しいところでしょう。

 コインランドリーの経営に追われる中、税金の申告で問題を指摘され(カラオケセットの導入がどうしてコインランドリーの経費になる?)、頑固な父親ゴンゴン(ジェームズ・ホン)のサプライズパーティーの準備中に娘ジョイ(ステファニー・スー)が白人女性の恋人ベッキー(タリー・メデル)を連れてきた挙げ句、夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)からは離婚を求められ、たくさんの問題を同時に抱えて煮詰まったエヴリン(ミシェル・ヨー)は、税務署のエレベーターの中で夫から、実は自分はマルチバースの別の世界から来た、巨悪から世界を救うことができるのはエヴリンしかいないなどと言われ、みんなの指がソーセージの世界などさまざまな世界を行き来しながら悪漢と戦うことになり…というお話。

 公式サイトの紹介で「悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ! カンフーの達人である別の宇宙の〈私〉の力を得たエヴリンの全宇宙を舞台にした闘いが幕を開ける――!」とされていますし、エヴリンとジョイが石になって話し合うこの作品でもっとも哲学的なシーンが挟まれているのを見ると、実際に行き来しているという設定のように思えますし、バカなこと(お漏らしをするとか、鼻に噛みつくとか)をするとエネルギーが蓄積されてパワーアップするということから、コミカルなSFアクションという位置づけなのでしょう。しかし、私には、見ていて、人生のさまざまな場面での選択について、エヴリンがこうすればよかった、こうしていればこうなったかもしれないという妄想のように感じられました。そういった中高年の後悔と悲哀に満ちた人生へのノスタルジーと現実逃避がテーマなのではないかと思います。
 基本的には、中高年、特に中高年の女性が、自分にあり得た人生を思い起こし、さらには自分のような平凡な人間にも活躍の機会がありうると想像をたくましくする/夢想するというニーズに応える作品でしょう。

 年齢制限なしの映画ですが、久しぶりに映画館でモザイク・ぼかしを目にしました。そのぼかしたもののわりとリアルな形状のおもちゃは堂々登場して、何が隠されるべきなのか、ちょっと考え込みました。
(2023.3.12記)

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