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たぶん週1エッセイ◆
アベンジャーズ3は日本で「アメコミ映画はヒットしない」という定説を覆す?
ここがポイント
 アベンジャーズ3の公開初週末興行成績をもって、「日本でも『アメコミ映画はヒットしない』という定説が覆りそうだ」と、朝日新聞は書いている
 客観的事実を無視した記事は、マスコミへの信頼をさらに失わせるだけだと思う
 朝日新聞は、2018年5月3日付朝刊で、「スパイダーマンら超人が活躍する映画が世界を席巻している。日本でも『アメコミ映画はヒットしない』という定説が覆りそうだ。」(1面の要約記事)と書いています。
 「アベンジャーズ3」(アベンジャーズ インフィニティー・ウォー)は、公開初週末(2018年4月27〜29日)興行収入で全米新記録の約2億5700万ドルを稼ぎ出し、世界興収でも歴代1位の約6億3000万ドルとのことですので、1面の要約記事前段の「世界を席巻している」は正しい評価です。
 しかし、日本での公開初週末(2018年4月28〜29日)興行成績は、43万7000人、6億7200万円(朝日新聞記事は、この数字ではなく2018年4月27日〜5月1日で約99万人、約14億5000万円という数字を紹介)と、もちろんヒット作と評価はできますが、前作(アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン)が公開初週末(2015年7月4〜5日)50万5521人、7億9390万8800円だったのに比べて目減りしています。前作の最終興収32億1000万円は、日本での歴代100位にも遠く及ばず(現在の歴代100位が64億6000万円)、2015年公開作品中で洋画で8位、邦画・洋画合算では15位止まりの、記録に残らない程度のヒット作品でした。アベンジャーズ3が、前作を遙かに超える集客をしているというのであれば、今後に期待をかけて、定説が覆る「かも」と書くのもありでしょう。しかし、前作よりも低調な出だしだというのに、「日本でも『アメコミ映画はヒットしない』という定説が覆りそうだ。」と書けるのは、一体どういう神経なのでしょう。

 朝日新聞の記事(22面)は、「アメコミ映画 無敵のパワー」という大見出しを立てた上で、「日本のファン層 手堅く拡大 過去18作 興収は平均15億円」という小見出しを立てて、本文で、マーベル作品について、「日本での過去18作の興行収入の合計は約270億円。世界興収のごく一部だが、平均すると1作15億円。『アメコミ映画はヒットしない』という定説を揺るがし、ファン層を手堅く広げているといえる。」としています。こう書かれると、相当ヒットしているような印象を受けますが、日本市場で、興収15億円というのは、シリーズものでいえば「クレヨンしんちゃん」(2013年13億円、2014年18億3000万円、2015年21億1000万円、2016年21億1000万円、2017年16億2000万円)より少しマイナークラスです。 「アメコミ映画はヒットしない」というときの「ヒット」の程度はある意味自由に設定できますから、15億円は従来のものより大幅にヒットしていると言い張るつもりかもしれません。しかし、ここで挙げられている過去18作は2008年の「アイアンマン」以降アベンジャーズ3の前(つまり2018年の「ブラック・パンサー」)までのマーベル作品を意味しています。実は、アメコミ原作の実写映画で日本で歴代100位までに入っているのは、「スパイダーマン」(2002年、75億円で現在歴代72位)、「スパイダーマン3」(2007年、71億2000万円で現在歴代80位)、「スパイダーマン2」(2004年、67億円で現在歴代93位)の3作品だけです。ちなみに公開初週末興行成績は「スパイダーマン」(2002年5月11〜12日)が12億円超、「スパイダーマン3」(2007年5月5〜6日)が92万人、12億0790万円、「スパイダーマン2」(2004年7月10〜11日)が80万人、10億8500万円とのことで(この時期の興行成績の発表が「先行上映」の扱いなど不明瞭なところがあり議論の正確性にやや疑問が残るものの)、いずれもアベンジャーズシリーズを上回る結果を出しています。朝日新聞記事が持ち上げている「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)のシリーズ開始後の過去18作が「『アメコミ映画はヒットしない』という定説を揺るがし、ファン層を手堅く広げているといえる。」というのは、事実には合わず、むしろ、それ以前はマーベル作品でも日本で歴代100位までに入るようなヒット作が出ていたが、MCUのシリーズ開始以降そのようなヒット作は現れず、新作のアベンジャーズ3も、アメリカや世界では記録的大ヒットが予想されるものの日本では前作を超えられそうになく、相変わらず苦戦しているというのが、事実に即した評価というべきでしょう。
 朝日新聞記事が振りまく誤ったイメージと正しい事実の関係を図示すると、こんな感じになります。
 朝日新聞記事が快調を印象づけるマーベル作品では、ごく最近、「ブラック・パンサー」が、現時点での累積興収で全米で歴代3位、全世界で歴代9位の大ヒットを飛ばしながら、日本では公開初週末(2018年3月3〜4日)2位(ドラえもんに勝てない)、2週目4位、3週目7位、4週目10位で、最終興収はまだ未確定ですが15億円程度と見込まれています。「ブラック・パンサー」の興行成績は、私には、アメリカでいくら流行っても日本で無名のアメコミを映画化しても日本では受けないのだなぁということを再確認させるものでした。それに加えてこのアベンジャーズ3(アベンジャーズ インフィニティー・ウォー)も、公開初週末興行成績が全米でも全世界でも歴代1位にもかかわらず、日本では(歴代ではなく)その週の2位(3週目のコナンに勝てない:正確には、観客数では2位、興収では1位)で前作よりも低調だったのですから、全米と全世界で大ヒットしても、日本では「アメコミ映画はヒットしない」という定説は、むしろ、より強固なものになっている(「無敵」ではなく、「残された敵は日本市場」)と評価するのが常識的な見方でしょう。
 同じ事実を見ながら、まったく逆の、日本でも「アメコミ映画はヒットしない」という定説が「覆りそうだ」という論調の記事を掲載する朝日新聞の姿勢は、映画産業への迎合と追従だけを意図して読者を欺こうとしているのでなければ、私にはまったく理解できないものです。

 私は、マーベル作品同様ディズニーに買い取られて以降の「スター・ウォーズ」について、「エピソード7 フォースの覚醒」(2015年)が全米歴代1位の大ヒット、スピン・オフ作品の「スター・ウォーズ ローグ・ワン」(2016年)が全米歴代9位(現時点。当時は7位)の大ヒットを飛ばしながら、日本での公開初週末興行成績ではいずれも「妖怪ウォッチ」に土をつけられたことに溜飲を下げている(「妖怪ウォッチ」が「エピソード8 最後のジェダイ」(2017年)にダブルスコアで敗北したことは残念に思い、スピン・オフ作品の「ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー」がこれまでの12月中旬公開を避けて、「妖怪ウォッチ」とも「ドラえもん」とも「コナン」ともバッティングしない2018年6月末公開になったことも、もちろんまさか日本の事情で公開時期を変えたわけではないとは思いますが、残念に思っています。さすがに「アンパンマン」じゃ「スター・ウォーズ」に勝てないでしょうねぇ)人間なので、もちろん、私の見方も相当バイアスのかかったものですが。(アベンジャーズについての私の評価を見ればなおさら (^^ゞ →映画「アベンジャーズ」映画「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」
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(2018.5.3記、4更新、6更新)

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