庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「キング・オブ・マンハッタン」
ここがポイント
 成功した大富豪の内実は…というお話ですが、悪気があってやってるんじゃないところ少し同情を引きます
 捏造写真を突きつける警察の恐怖:現実にやられたらなかなか覆せない

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 成功した大富豪が損失隠しの帳簿改ざんと交通事故隠しの偽装工作で追い詰められていくサスペンス映画「キング・オブ・マンハッタン」を見てきました。
 封切り4週目日曜日、全国で16館、東京で2館の上映館の1つヒューマントラストシネマ有楽町シアター1(162席)午前10時05分の上映は2〜3割の入り。実は先週日曜日昼過ぎまさかの満員で「ザ・マスター」に転進した挙げ句の再トライでしたが、ガラガラで拍子抜けです。

 ニューヨークのヘッジファンド経営者ロバート・ミラー(リチャード・ギア)は、60歳の誕生日を迎え、一族の家族全員がそろう中、私の最大の業績はここにいる家族だとスピーチする。事業も家庭生活も順風満帆に見えるロバートだが、パーティーの後会社に行くと妻(スーザン・サランドン)に伝えて向かった先は投資先の愛人ジュリー(レティシア・カスタ)宅で、離婚する気はないのねとなじるジュリーを慰め、明けて向かう先ではロシアへの投資で被った赤字を隠すために借りた4億ドルあまりの借金の返済を迫られ、金曜日には資金を引き揚げると宣告された。ロバートはスタンダード銀行への会社売却交渉中で、買収が成立するまで損失隠しのための帳簿改ざんと借金を隠し続けようとするが、スタンダード銀行の代表メイフィールドは2時間経っても交渉に姿を現さず、交渉は進展しない。約束に遅れたために怒るジュリーをなだめて別荘で一夜を過ごそうと車を運転するうちに居眠りをしたロバートは事故を起こし、ジュリーは即死、車は爆発炎上してしまう。事故の発覚を恐れたロバートは、ロバートに恩のある黒人青年ジミー(ネイト・パーカー)を公衆電話で呼び出して自宅まで送ってもらう。ロバートの娘で投資管理者のブルック(ブリット・マーリング)は帳簿改ざんに気づいてロバートを追及し始め、担当刑事のブライヤー(ティム・ロス)はロバートを疑い、ジミーに対してかばうと司法妨害で10年間は刑務所行きだと迫る。次第に追い詰められたロバートは…というお話。

 仕事も家庭も充実しているように見える成功した大富豪の内実は…という仕立てですが、ロバートは悪人ということでもなく、リチャード・ギアの飄々とした焦り・苛立ちとでも表現すべき演技と相まって、懸命に努力してきたのにどこかもの悲しいという印象です。
 仕事の面での挫折は、ロシアの銅鉱山への投資。これが100万ドルの投資で事業としてはもくろみ通りにいっていたのにロシア政府の方針転換のために利益が出なくなってそれが4億ドルあまりの赤字に転化という泣くに泣けない話。それ自体は本来問題にならないはずが、買収話があったために赤字を隠そうとして帳簿を改ざんし一時的に借金で乗り切ろうとしたことが問題を深刻にしてしまいます。これとて、メイフィールドにとっては、それを知ってもそんなことは気にする必要もないということがらに過ぎないわけですが。
 妻からは、愛人の存在は先刻ご承知で「耐え続けていた」ということなのですが、破産寸前の綱渡りを続けるロバートからすれば、贅沢三昧をして慈善事業への寄付を要求し続ける妻は重荷でしかなく、そういう妻の様子からすれば愛人への逃避もニワトリが先か卵が先かの話かなという気がします。ワーカホリックで家庭を顧みなかった夫が定年後妻とゆったりしようとしたときには妻に愛想を尽かされて三行半を突きつけられるという構図は近年ではありきたりにさえなってきていますが、夫の稼ぎを湯水のように使いその苦労を思うことなく罵り引退に当たってはできる限り搾り取って後は「金の切れ目は縁の切れ目」ということだとやはり夫の側に同情してしまいます。
 事故についても、疲れて居眠りしてしまった過失犯で、被害者も自身が運転者にもたれかかって寝ている同乗者ということですから、すぐに申告していれば大事にならないものが、これまた買収への影響と愛人の発覚を恐れて逃亡してしまったというもの。ただ呼ばれて車で自宅まで送っただけのジミーを10年間刑務所に放り込むと脅す警察の方が悪辣に思えます。

弁護士の視点
 仕事柄、警察がジミーに対して捏造した証拠写真を見せ、存在しない証拠をあると騙して追及するシーンは、気になり、また悩ましいところです。偽造を見破るには、偽造の可能性を追求する諦めない心、検証方法を考える頭とセンス、対象物を比較検討して偽造を見抜ける目が必要です。現実の世界では、怪しくても、なかなかそれを立証できません。それでたいていは諦めてしまうのですが、やっぱりけっこうあるかもねぇとも思ってしまいます。
(2013.4.14記)

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