庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「あのこは貴族」
ここがポイント
 主人公の2人よりもそれぞれの友人の方が魅力的に感じられるのはどうしたものか
 富裕層の華子がいつもビニール傘を差しているのはなぜ?
  
 松濤の豪邸に住む富裕層の娘華子と富山から上京し苦労して生きる美紀の生き様を描いた映画「あのこは貴族」を見てきました。
 公開3日目日曜日、WHITE CINE QUINTO(108席)(松濤が舞台の映画だしやっぱり渋谷で見たい…って関係ないですけど)午前10時の上映は3割くらいの入り。

 渋谷区松濤の豪邸に住む開業医の娘榛原華子(門脇麦)は、2016年元日の家族勢揃いの祝宴で紹介する予定だった婚約者にその日に別れを告げられ、見合いやさまざまな伝手で男を紹介してもらうがいい相手が見つからずに焦っていたところに、義兄から紹介された勤務先の顧問弁護士青木幸一郎(高良健吾)と出会う。幸一郎に好意を持った華子は幸一郎とのデートを重ねるが、青木家は高い家柄で親族には政治家もいて、幸一郎もいずれ政治家となることを嘱望されていた。幸一郎と婚約した華子は幸一郎の祖父に紹介されるが、その席で祖父はあなたのことは調べさせてもらった、この話は進めていいと言い放った。2人になってから幸一郎に、調べさせてもらったってどういうことと聞いた華子に、幸一郎は、興信所だろう、ふつうだろうと平然としていた。他方で、富山から上京して慶応大学に入学した時岡美紀(水原希子)は、内部進学者の富裕エリート層との落差を感じながら勉学に励んでいたが、父親が失業して仕送りを打ち切られ、キャバクラ勤めを始めた。長らくキャバクラ勤めを続けるうちに、学生時代にノートを借りていったまま返さなかった男と再会した美紀は、その男と関係を持つが…というお話。

 金持ちの家に生まれ、豪邸で暮らし、良家の子女に囲まれて育ち、誰かの妻となり母となること以外には人生設計を描けない華子。
 名門の家に生まれ、幼稚舎から一貫して慶応、東大のロースクールを経て弁護士になったものの将来は親族の地盤を継いで政治家になることが予定されている幸一郎。
 受験勉強の末慶応大学に合格しながら実家からの仕送りが途絶えてキャバクラ勤めを続け、金に苦労し続ける美紀。
 富裕層に生まれた2人も進路に自由はなく、庶民の生まれの者も思うような人生を送れない。3者はそう思い、嘆くのですが、そうなのだろうか、と考えてしまいます。
 幸一郎は、華子に対する接し方・態度(興信所問題も含め)、愛人問題など人間的にどうよと思いますし、弁護士として見て有能にも見えず(同業者の視線ですが…弁護士業務に関するシーンはほとんどなく、祖父の遺言についてひっくり返せないかと聞かれたときに、自分の祖父で生活状況がわかっているのに、また事実関係を確認しようともせずに抽象論しか答えないというか、いやいや事実関係を確認しないままに抽象論でも答えるなよ…)、魅力を感じません。
 華子と美紀の2人の生き様を描いているのですが、それぞれのほぼ同じ出自の友人、華子の同級生でヴァイオリニストとして、生計を立てるほどには仕事がなく苦しみながらも一人で生き続ける逸子(石橋静河)、美紀と同郷の同級生で地元に戻りながら東京での起業を試みる里英(山下リオ)の方が主人公の2人よりも伸びやかで魅力的に感じられます。
 私は、あぁ逸子さんいいなぁなどと思ってしまうのですが、主要な3人よりも脇役2人の方に目が行ってしまうと、映画としてのアピール力はどうなのかなぁと思ってしまいます。

 幸一郎が「雨男」だという設定のため、雨のシーンが多いのですが、富裕層の華子が差す雨傘が、いつもビニール傘、それも最初はビニール傘でもちょっとしゃれたデザインのものでしたが、その後はすべてふつうのビニール傘なのはどうしてなんでしょう。
【原作を読んで追記】(2021.3.14)
 原作では、後半の逸子が美紀を呼び出して華子と引き合わせる場面で、逸子が近松門左衛門の「心中天網島」を引き合いに出して女同士の義理を語り、美紀が女同士を分断する価値観を批判し、幸一郎が女同士を分断していると指摘する場面にクライマックスというか見せ場があります。映画では、そこが薄められぼかされてしまっているように思えました。
 原作では、里英(平田さん:原作では里英じゃなくて佳代ですし)の登場場面は少なく、また逸子と美紀の場面でも、その後も美紀がかっこよく描かれているのに、映画では美紀の台詞や役割を削って里英と逸子に配分して2人の脇役の比重を上げて、美紀がいまいちになっている感じです。
 テーマの明確性という点でも、美紀がカッコいいという点でも、私は、原作の方がいいように思いました。
(2021.2.28記、3.14追記)

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