◆私のお薦め本◆
  ミレニアム
  

 1巻:ドラゴン・タトゥーの女(原題:MAN SOM HATAR KVINNOR) 2005年
 2巻:火と戯れる女(原題:FLICKAN SOM LEKTE MED ELDEN) 2006年
 3巻:眠れる女と狂卓の騎士(原題:LUFTSLOTTET SOM SPRANGDES) 2007年

 スティーグ・ラーソン著
 (日本語版は ヘレンハルメ美穂他訳 2008年〜2009年 早川書房)
 硬派の月刊誌「ミレニアム」の共同経営者で記者のミカエル・ブルムクヴィストが、スウェーデンの経済と裏社会に関わる事件に巻き込まれ、また自ら事件の真相に迫ろうとするサスペンス小説。
 1巻では、大企業のスキャンダルを暴露した記事がガセネタをつかまされたものであったため名誉毀損の刑事裁判で負け失意の日々を送ることになるミカエルが、老経営者からミカエルの宿敵の企業のスキャンダルの提供を餌に調査を依頼され、その調査を進めるうちに知られざる連続殺人事件の犯人に行き当たり・・・というお話。1巻は、ミカエルが主人公で、ミカエルが調査の助手を依頼することになる無能力者とされているのに実は映像記憶能力(見た文書を読まなくても映像としてそのまま記憶できる)と天才的なハッキング技術を持つリスベット・サランデルがサブの役割になっています。1巻はおそらくは、これで完結と考えて書かれたものだと思いますが、その後作者はたぶんリスベット・サランデルのキャラに惚れ込み、リスベット・サランデルを主人公にして続編を書いていったのだと思います。
 2巻、3巻は、「ミレニアム」の特集記事のために少女買春と人身売買組織の調査取材をしていた記者が殺害され、その陰に自らの母親を虐待し続けた自らの父でありかつてその殺害を試みた亡命スパイザラチェンコの姿をかいま見たリスベットがザラチェンコを追い、しかし警察はリスベットに記者らの殺害の容疑をかけて全国指名手配し、リスベットと犯行グループ、警察、ミカエルらの逃走と追跡の末、リスベットはザラチェンコらと対決、その後事件の真相、とりわけザラチェンコを守るために権力の濫用を続けてきたことが公表されることを恐れた公安警察の特別分析班が関係者の抹殺とリスベットの再度の精神病院送りを画策し、警察内の良心的なグループ、ミカエルらジャーナリストとの間で闘いが再燃する・・・というお話。
 作者は4巻執筆中に死亡し、未完成の4巻の原稿をどうするかについて相続人と作者の伴侶が対立、今のところ、他人の手を加えて未完成の原稿を出版することに強く反発している伴侶の意向が勝利を収めていると言われています。

 スウェーデンの経済や政治、裏社会といった日本人には取っつきにくく堅めのテーマを扱っているにもかかわらず、テンポのいいストーリー展開と場面切り替えで読みやすく仕上がっています。
 リーガル・サスペンスではありません(3巻の終盤で法廷シーンも出てきますが)が、ジョン・グリシャムのファンというかグリシャムが読める人なら、十分に読めますし、たぶん、はまります。
 主要な登場人物が、いずれも(多くの)日本人の基準からはかなり奔放な性生活を送っており、それがテーマの硬さを和らげている面もあります。

 各巻のテーマとは別に、女性に対する暴力と虐待に対するアンチテーゼが、巻を追って色濃くなってきています。登場する女性のたくましさと奔放な性生活の描写と併せ、女性はつつましくと思っている人には耐え難いかとは思います。それから「国家」や「国益」が好きな人にも。

 作者のそういった志向とも相まって、登場する女性キャラにはとても魅力的なキャラが多くなっています。
 2巻以降は主人公となっているリスベット・サランデルは、人づきあいが苦手で尖った性格で、女性を虐待する男を許せないという点では強い正義感を持ち、類い希な映像記憶能力とハッキング技術を持つという設定です。このリスベット・サランデルを好きになれるかどうかで、この作品に対する評価はかなり変わってくると思います。私は1巻でリスベットファンになりましたし、たぶん作者もそうなったのだと思います。
 3巻で初めて登場する正義感の強いボディビルダーの公安警察官モニカ・フィグエローラも、とても魅力的です。
 それ以外にも「ミレニアム」の編集長のエリカ・ベルジェや、ミカエルの妹の弁護士アニカ・ジャンニーニなど、魅力的な女性キャラが登場します。

 テーマと好みの問題はありますが、単純にエンターテインメントとしてみても、かなりいい線をいっていると思います。読書好き・ミステリーファンにはお薦めのシリーズです。 

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