私の読書日記 2025年7月
17.基礎から応用までしっかりわかる 都市計画法の教科書 原田保夫 ぎょうせい
都市計画法と関連諸法について解説した本。
都市計画によって行われる(指定される)市街化区域と市街化調整区域の線引き、用土地域(用土区分)の指定によって、建築できる建物の条件や必要になる許可等の手続が変わり、一般市民の生活、居住環境に大きな影響があるので、こういった法規制が存在することはよく知られているのですが、多数の法や処分が重畳的にあって、その全体像や正確な内容を理解することはかなり困難です。この本を読めば、そこが明快にわかるかというと、それはやはり無理で、たださまざまな法規制や処分があるのだなぁという「感じ」はわかるというところかと思います。
弁護士としては、関連諸法とさまざまな計画・処分が挙げられているところで、相談があったり裁判を考えるときには処分関係の書類をよく確認してなされた処分を特定し理解する必要があるという意識を持てるのと、都市計画の決定手続を説明する第5章がどの手続の何を捉えて争うかを考えるのに参考になるかなと思いました。
法律の解説部分の他に、国土交通省官僚であった著者の経験で、部局間の縄張り争い(農業部局との間で:119~120ページ、港湾部局との間で:136~137ページ)や立法の建前と実態の乖離(街づくり3法など、大店法廃止の言いわけに都合よく街づくりが使われている:193~194ページ)などを指摘するコラムがあり、法律の解説に眠たくなる読者にはそちらの方が読みどころかも知れません。
16.明日、相談を受けても大丈夫! ハラスメント事件の基本と実務[第2版] 横山佳枝、倉田梨恵 日本加除出版
ハラスメント申告を受けた会社の担当者や弁護士がどのようなことを検討しどのように対応すべきかについて解説した本。
各種のハラスメントについて説明していますが、実質的にはセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)、パワー・ハラスメント(パワハラ)、マタニティ・ハラスメント(マタハラ)を扱い、実務対応について説明する第3章「実務 受任からの流れ(相談、交渉、訴訟等)」では基本的にセクハラ寄りの説明になっているように思えます。第3章のタイトル・内容からして、実質的には弁護士を読者として想定しているものと思われますので、問題ないともいえますが、事実認定(証拠の採否・評価、経験則)や損害論はセクハラとパワハラで相当違う考慮がなされていますので、業界外の一般読者に読ませるのであれば、そこをもう少し区別した書いた方がいいように思います。
第5章の裁判例一覧が、弁護士には助かります。これも、ここでピックアップされている事項だけではどうして違法性が認められたり否定されたのか、損害がこの額認められたのかはわかりませんので当然に判決文に当たる必要があり、業界外の一般読者が判決文に当たらずに一覧表だけで判断するときっと誤解するとも思いますが。
ハラスメントと退職の相当因果関係(ハラスメント後に被害者が退職しているケースで退職がハラスメントを原因とするものかどうか)に関しては、166ページに退職による逸失利益を認めた裁判例の一覧表が掲載されていますが、その判決でなぜ相当因果関係が認められたかの分析はありません。第二東京弁護士会労働問題検討委員会監修の「労働事件ハンドブック2018年版」作成時に、編集代表の私が担当者にハラスメントと退職の相当因果関係を認めた判例と認めなかった判例を検討して、何がその判断のポイントになったかを分析してくれませんかというリクエストをして、それは過大な要求だということで実現しなかったことを思い出しました。やっぱり、難しいんでしょうね。
15.フェルメールとオランダ黄金時代 中野京子 文春文庫
17世紀のオランダの社会・風俗について、都市、独立戦争、市民隊(自警団・市民軍)、女性たち、必需品(絵画、十字架、楽器)、宗教(プロテスタント、カトリック)、風車と帆船、東インド会社、実学志向、食材、チューリップ・バブル、悪場所(娼館)、事件、手紙、遊びの15項目に分け、ヨハネス・フェルメールや同時代の画家が描いた絵を用いながら解説した本。
フェルメールの絵は8点しか収録・紹介されておらず、タイトルからフェルメールがテーマと思って読むと期待を裏切られます。あくまでもフェルメールが生まれ生きた前後の時代のオランダのことを論じた本です。
17世紀のオランダには、アムステルダムに最盛期には700人もの画家がいて、500万点から1000万点もの絵画が制作され、小さな商店や庶民の家にさえ絵が飾ってあった(11ページ)というのに驚かされます。フェルメールも生前は地方の一画家扱いで世評も高くなくほぼ無名だったといいます(12ページ)。もっとも、例えば昨今ではフェルメールの代表的な作品とされる「真珠の耳飾りの少女」(表紙に掲載)では高価な顔料のラピスラズリが用いられていて、富裕な依頼者がいたのか、あるいは当時のオランダは無名な画家でもそれが使えるほど豊かだったのか。
絵はカラー図版で掲載されていますが、「デルフト眺望」の解説の「時刻は朝の七時十分過ぎ。そのことは画面中央に建つスヒーダム門の丸時計の針が示している」(13ページ)を少なくとも文庫本の本書の絵(14~15ページ)で確認するのは無理に思えます(大きな画像でもそれほどはっきりしていなくて、マウリッツハイス美術館のサイトの画像を拡大していってようやくそうかなと思える程度なんですが)。
絶対王政の時代に王を持たず比較的貧富の差の少ない社会で黄金時代を迎えたオランダの歴史と社会に、圧倒的な絵画の制作を支えた文化に、興味を誘われました。
14.外科医、島へ 泣くな研修医6 中山祐次郞 幻冬舎文庫
医師となって7年目、31歳の外科医(消化器外科医)雨野隆治が、勤務先の牛ノ町病院を離れて半年間三宅島付近の離島神仙島の診療所に派遣されたという設定でその半年間を描いた小説。
泣くな研修医シリーズは、2022年発行の4巻で雨野隆治が6年目となり、「研修医」のタイトルがそぐわなくなり、2023年発行の5巻で雨野隆治が研修医になるまでのいわばエピソード0となっていたので、もう打ち止めと思って5巻まで読んだ(1巻から5巻は2023年9月に紹介→こちら)後はノーマークだったのですが、2024年にこの6巻が出版されているのを見かけて、慌てて読みました(さらに7巻も出版されているとは…)。
7年目になり(消化器)外科医としては経験を積み自信を持って対応できるものの、他の分野では経験がない雨野隆治が、専門分野などお構いなしに何でもやらなければならない離島の診療所で奮闘する姿、離島での人間関係が新鮮に感じられます。弁護士の場合でも、専門分野・得意分野(私の場合でいえば、解雇・雇止め事件を中心とする労働事件等)でない分野では長くやっていても未経験の種類の事件はあるもので、生涯勉強だなと感じています。弁護士の場合は調べ考える時間が相当取れるのがふつうですが、医師の場合は緊急で待ったなしのことも多々あってたいへんだろうなと思います。そういったことを我が身に引き比べて感慨深く読みました。
13.ファージ・ハンター 病原菌を溶かすウィルスを探せ! 山内一也 岩波科学ライブラリー
特定の細菌に感染してその細菌を溶かすウィルスであるファージ(バクテリオファージ)の研究とそれを用いた治療(ファージ療法)の歴史を解説した本。
ファージ療法は以前有望視されていたが、ペニシリン等の抗菌剤の発見・実用化で下火になり忘れ去られていたが、耐性菌が増えて抗菌剤が効かなくなり感染症死亡者が急造している現在、再度注目を集めているのだそうです。
私は、タイトルを見て、免疫の1つのマクロファージ(貪食細胞)のことか、その仲間かと思って読み始めたくらいで、全然知りませんでした。
ファージの発見のエピソードで、ガンジス川(がヤムナー川と合流するあたり)では常にコレラ菌が見つかっているのにガンジス川下流ではコレラが発生していないことから、サンプルを採取した結果、ガンジス川の水は(煮沸していなければ)コレラ菌を3時間以内に殺すということがわかった、ガンジス川での水浴(沐浴)がコレラ治療を助けている可能性がある(11~13ページ)、不潔に見え死体が浮かんでいてもガンジス川の水は清浄と信じて飲んでいたヒンズー教徒が正しかったかもというあたりが白眉でした。
12.トラブルを未然に防ぐ「中小企業の契約書」読み方・作り方・結び方 池田聡 日本実業出版社
中小企業が業務上よく作成する契約書を念頭に、契約書作成の基礎と類型別の条項例と注意点を解説した本。
イラスト付きの問答例で読みやすく書かれていますし、初歩的なところから説明していて、入門書的な印象ですが、後半の類型別の契約書の解説はわりと充実していて、実務に使える部分が多いと思います。
雇用契約書の例(230~231ページ)で、第9条第3項の「従業員は、事前の了解を得ずに、第3条記載の場所以外の場所で仕事をしてはならない。」の「第3条」は明らかに「第2条」の誤りです。過去に作ったものを使い回ししていじっていると(あるいは繰り返し見直して修正していると)よくやるミスです。契約書作成に熟練した弁護士でも、こういうミスはけっこうやってしまう(実際、そうです)ということがわかるのも、むしろ一般の方には読書の収穫かも知れません(第4条の「従業員の労働時間は、午前9時から午後17時までとする。」はご愛敬として…)。
11.集団はなぜ残酷にまた慈悲深くなるのか 理不尽な服従と自発的人助けの心理学 釘原直樹 中公新書
集団の中での同調や迎合、危機に瀕したときの人々の行動などについて解説し論じた本。
タイトル・サブタイトルにある問題提起については、「残酷に」の方は服従実験の結果とその評価がポイントになります(なるはず)が、有名なミルグラムの服従実験(電気ショックを与える指示への服従:1963年、アメリカ)について時代と民族性・社会が違う現代日本での適応の検証をするという著者の実験が、被験者がわずか14名(36ページ)というのはいただけません。そんなわずかなサンプル数で服従率など出して傾向などを論じても説得力はないと思います。昨今は実験の倫理が厳しくさらなる追試が不許可になった(74~86ページ)という事情でしかたないということですが。また「慈悲深く」の方は、あまり説明がされていないように思えます。
そういったことから、タイトル等で提起された疑問についての納得感は薄いのですが、緊急事態では群衆がパニックに陥り理性的な行動を取れないという主張は真実ではないことが多数の事例と研究を挙げて説明されていて(155~232ページ)、ここが読みどころです。
また、内集団(自分が所属する集団)と外集団のバイアス、同じ行動に対して内集団の行動や特性はポジティブに評価し逆に外集団の行動はネガティブに評価する、外集団構成員のネガティブな行動は性格に起因するとされポジティブな行動は状況(偶然や運)に起因すると評価される、内集団構成員の犯罪はその詳しい背景や原因が取り上げられるが外集団構成員の犯罪は性格や民族の特徴にされて原因の追及はされないなどの説明(238~243ページ)も、外国人の犯罪や問題点を強調して非難し規制や排斥を求める人が顕在化している現在、肝に銘じておきたいところです。
10.不可解事件請負人火垂柚葉 安萬純一 南雲堂
失恋し失職したばかりのところをスカウトされて地方都市護国で探偵の助手(運転手)となった油杵島慎二が、上司の探偵火垂柚葉が事件現場に踏み込んで調査をし推理して行く様子を眺めながら語るスタイルのミステリー小説。
凡庸な男が切れ者の女性探偵の調査推理を語るスタイルは、真実を簡単に悟らせずに読者目線で謎を際立たせやすいので使いやすいのでしょう。そういうパターンで男性作家がおそらくは男性読者向けに書いた作品としては、剣崎比留子シリーズ(屍人荘の殺人~)を連想します。本作では、切れ者の女性探偵に加えてキレる妹刑事を登場させてお色気役を振っているのが特徴といえそうですが。
付録の「本格ミステリーを書きたい人のためのトリック作成法!」(273ページ~)で作者はトリックについて「誰からも不可能だといわれないような線を狙うと、まるでインパクトの弱いものになってしまうのは目に見えています。ですから作る側としては、批判は覚悟の上で少々無理スジを狙って作る。こういう気持ちを持つことが大切だと感じています。」などと語っています(274ページ)。なかなか悩ましいですね。そういうところが、むしろ参考になるかも。この作品のトリック・謎解きも、そして私には無理筋に見える警察との関係、警察内の関係での設定も、そのような観点で読むべきなのかも知れませんね。
09.じゃないほうの肩こり 歌島大輔 サンマーク出版
肩専門の整形外科医である著者が、首から肩、背中にかけての筋肉を慢性的に緊張させることによって生じる一般的な肩こりじゃない、別の病気が原因だけど自覚症状は肩こりというケースについて解説し、それぞれのケースに応じた医師への受診を勧める本。
医師が医師への受診を勧めるある種営業本のようにも見えますが、肩こりだけど実はそうじゃない、他に原因があるからその分野の医師に受診しろという点、つまり自分じゃなく別の医師への受診を勧めているのがユニークです(第3章の「じゃないほうの肩こり第3群」では整形外科医への受診を勧めているのですが、それが後ろの方にあるのが、奥ゆかしい…か)。
一般的な方の肩こりの予防、肩のヘルスケアについては、肩甲骨を背骨に寄せる(胸を張る)ポーズを「ハイパワーポーズ」と呼んで、仕事の合間に(同じ姿勢を続けたらそれをリセットするのに)それをするというものすごくシンプルな提案がなされています。さすがにこれだけなら、忘れずに実践できるかもと期待できます。
08.世界一わかりやすいリスクマネジメント実践術 勝俣良介 オーム社
リスクマネジメント(目的・目標に応じてリスクを洗い出し評価し対応するなど)を実践する考え方・姿勢・手法などを解説した本。
コンサルタントの丸山先生と勤務先でチームリーダーを務めるはるき・なつきの生徒2人の間の掛け合いの形式で読みやすく書かれています。
リスクの洗い出しに際して網羅性を意識しすぎない、リスク特定に時間をかけすぎるくらいならその時間をリスク対策やその実効性の検討に回せ(60~64ページ)とか、ネガティブなリスクばかりでなく目的・目標を前向きにする(改善を目標にする)ことでそれが実現できない要素を検討すればポジティブリスク(機会)のマネジメントもできる(109~113ページ)というあたりが、私には勉強になりました。
この考え方は、裁判での敗訴リスクのマネジメント、勝訴の機会の拡大・実現に向けたマネジメントにも使えるのかも。個人事業者である弁護士には、利用できる資源・リソースが乏しく、またことがらの性質上選択肢は少ないかなとは思いますが。
07.架空犯 東野圭吾 幻冬舎
東京都議会議員藤堂康幸と元女優の藤堂江利子夫妻の自宅が火事になり、その現場から江利子は首つりの形態で、康幸はソファ上で黒焦げの遺体として発見されたが、江利子の首の索条痕が2つあって首つりは偽装であること、康幸も火災前に死亡していたことが確認され、殺人事件として捜査本部が立てられて、警視庁捜査一課の切れ者五代努が真相解明に挑むというミステリー。
謎解きのキレの評価はさておいて、最後に残された謎が解けたとき、人間はこういうことができるんだという驚きを持つ、人のあり方、人の心情を考えさせる作品だと思いました。
特にどこが、というのでもないですし、具体的に記憶しているわけでもないのですが、その昔小峰元のシリーズを読んだときのことをイメージしました。
06.ゼロから始める 無敵のレポート・論文術 尾崎俊介 講談社現代新書
アメリカ文学・アメリカ文化を専門分野とする著者の卒論指導の経験を元に、テーマの設定、資料収集、書き出し、論文の読ませどころ(笑いどころとツッコミどころ)の選定、構成、注と文献目録の作成などのポイントを解説した本。
卒論のみならず、学生のレポートや社会人の報告書作成にも使えるということですが、はたと考えてみて、裁判での準備書面作成では…手持ち材料を俯瞰して全体の構成を考える際や読者の興味を引くに当たっての考慮は当てはまる点もありそうですが、書く側のモチベーションの関係でのテーマ設定とか、注や文献目録とかはだいぶ違うかなと思います(興味が持てないテーマでも書かなきゃいけませんし、注や文献目録が評価されたりはしませんから)。
アメリカ文化論としては、バスケットボールの成立(45~47ページ:水平ゴールなら喧嘩になりにくいというのはなるほどですが、当時はダンクシュートなんて思いもよらなかったのでしょうね)とか、セサミストリートの背景(52~57ページ)などが興味深く読めました。
05.裁判官も人である 良心と組織の狭間で 岩瀬達哉 講談社文庫
人事評価(配転と昇給等)による圧力と、最高裁や組織・裁判所内への忖度から裁判官が萎縮する様子を、さまざまな事件と角度から報じたノンフィクション。
業界人としては、多くは既にどこかで聞いた話ではありますが、多数の裁判官への取材により、裏付けを取っている点が貴重な読み物だと思います。
書いてあることには概ね共鳴するのですが、業界人としては、書かれていないことにいくつかの不足感を持ちます。
例えば冒頭で採り上げている岡口基一判事のツイッター発言を理由とする戒告の問題(その後にさらに罷免に至り、文庫版あとがきでそれに触れられていますが本文では戒告まで)。業界人としては、裁判官の戒告とそれによる萎縮を論ずるなら、寺西和史裁判官が組対法反対集会への出席と発言を理由に戒告を受けた事件も採り上げるのがふつうに思えますが、この本ではまったく触れられていません。「過去の戒告は、痴漢行為や判決文を完成させないまま判決を言い渡すなど、破廉恥罪や怠慢行為に下されたものばかりだ。」(23ページ)とされているのは、著者が寺西裁判官への戒告事件を知らないのか、裁判官が組対法反対集会に出席して発言するのは「破廉恥罪や怠慢行為」と考えているのか。それから、これはたぶん著者は知らないのかと思いますが、岡口判事は、「要件事実マニュアル」で有名なだけでなく、裁判所が判決をすべてワープロソフト「一太郎」で書いていた時代に、(1)などを全角1文字に収めるための外字マクロを作成して無償提供していて、当時の裁判官のほとんどはその恩恵を受けていたはずです(弁護士も使っていました)。岡口判事の件で裁判官に取材するならそういう恩のある裁判官が不当に見える懲戒(その後には罷免)を受けようとしているのに裁判所内で支援の動きは広まらなかったのか、広まらなかったならなぜか聞いて欲しかったと思います。そうすることで、より世俗的な・人間的な面での裁判官の思考や萎縮を浮彫にできたはずですが。
また原発を止める判決をした裁判官への人事とそれを見た周囲の萎縮について。大飯原発差止判決と高浜原発差止仮処分の裁判長だった樋口英明裁判官が福井地裁部総括から名古屋家裁に異動となったことを報復人事とし、それを見て他の裁判官が萎縮しているということを採り上げています。取材で他の裁判官が萎縮しているという裏付けを取っているのですから、そういう受け止めをすべきなのかも知れません。しかし、その2つの裁判の左陪席だった福井地裁が初任の裁判官は大阪地家裁、弁護士事務所での他職経験、山口地裁下関支部を経て現在は神戸地裁労働部にいます。大飯原発差止判決の右陪席は、そのすぐ後に東京地裁労働部に来て札幌高裁、東京地裁商事部を経て現在何と最高裁調査官、高浜原発差止仮処分の右陪席は東京地裁労働部、京都家裁を経て現在東京地裁建築紛争部にいます。最高裁が原発訴訟で住民側を勝訴させることを歓迎しているとは思えませんが、住民側を勝訴させたからといってそれほど報復人事がなされているようには見えません。私は、必要以上に怖れ萎縮しすぎだと思っています。また、高浜原発差止仮処分を覆した裁判官が最高裁局付経験者で占められていることが強調されています(61ページ)が、福島原発事故後原子炉設置変更許可(再稼働許可)を取り消した(行政訴訟で住民側を勝訴させた)唯一の判決(大阪地裁2020年12月4日判決)は、最高裁行政局付経験者で、時期的に見て判決を書くために送り込まれたとみられていた裁判長が出したものだということも事実です。
取材ができなかったためかも知れませんが、厳しい全体状況の中で頑張っている裁判官もいることにも目を向け、そういった裁判官への支援の気持ちが広がるような(2度と岡口裁判官のような裁判官を罷免させないような)本にしてくれるとよかったなと、私は思います。
04.健康寿命をのばす!整形外科医のカラダの痛み相談室 井尻慎一郎 創元社
整形外科医の立場からさまざまな体の痛みに対する予防・治療について説明した本。
著者は骨でない組織を骨にする「骨形成因子」というタンパク質の研究をして骨折部位に注射すれば骨折が早く治せるなどを目指していたものの実現に至らず(102ページ)、開業医として働き、自身も脳梗塞や食道癌を患い腰の手術も受けて来た医師で、そういった経験も反映してさまざまな領域で有益に思える助言と知識が披露されています。
「週刊実話」連載のコラムからということで、1テーマ1ページ(500~600字程度)の短さです。読みやすい(よくわからないところがあっても流しやすい)という面がありますが、深掘りできずもどかしいという印象があります。
ぎっくり腰などの腰や膝のケガを防ぐために、同じ姿勢を長く続けたときは腰を軽く前後左右に動かしてから動き出す、動き始めに「間」をおく、例えば床に落ちたものを拾うときはすぐに動かず0.5秒ほど間をおいてから拾う(172ページ)、腰痛持ちは横向きになり腰や股関節、膝の関節を少し曲げた状態で寝るのがベスト、寝返りが少ないと腰痛になりやすいので寝具は寝返りが打ちやすいものを(176ページ)、腰痛体操は種類や回数による効果の差のはない(178ページ等)など、腰痛持ちとしてはとても参考になりました。
03.【決定版】フリーランスビジネス大全 ゼロから月収100万円を達成する完全攻略ロードマップ 大坪拓摩 株式会社KADOKAWA
会社員からフリーランスに転身する際の心構えや準備、必要なことがらを解説した本。
前半は、フリーランスってどんなものかを理解せずに会社を辞めるなという話が続き、やや説教くさいけれども、自営業者(私もそうなので)の目からは確かに大切なことだと思います。
売りの部分では、屋号とプロフィールの大切さを説き、くどいくらいにそこをよく考えろと言っていて、これもまたなるほどです。
そして、たいていのフリーランスが苦手で面倒くさがる書面化(ヒアリングシートとか見積書、請求書、契約書)の話もあって、けっこう手堅い。
ただ、示されている契約書(238~241ページ、248~253ページ)については、相手(発注者)の料金支払が遅れたら自分が解除できるのに自分が納期に遅れた場合の制裁はまったく書かれていない(納期遅れによる発注者の解除権は規定されていない)とか、第8条で「納品物が本契約で提示した仕様を満たさない場合」という文言があるのに契約書中に仕様の記載がないだけでなく、仕様をどのように提示するか(例えば仕様書によりとか)の定めもないなど、ちょっとどうよと思うところが見られます(細かい話ですみません。専門家なもんで、気になります)。
あと、いろいろ有益な情報が多いのですが、サブタイトルの月収100万円を達成するという規模感ではそこまで要らないんじゃないかということがらもあり、そのクラスに絞った方が読みやすかったかなと思いました。
02.シンデレラの末永く幸せな変身 北村紗衣、小森謙一郎、嶋内博愛、戸塚学編 水声社
シンデレラあるいはシンデレラ系の作品について、12人の学者さんが自分の関心と専門分野・研究課題に応じて論じたものを寄せ集めた本。
タイトルの「末永く幸せな」からは、王子と結婚した後のシンデレラについての検討・考察の本かと思え、またシンデレラを採り上げるところから「10 あれもこれもシンデレラ?」(北村紗衣:206~223ページ)で論じられているようなフェミニズムからの批判も踏まえた作品論を想起して、読みました。
しかし、実態は、シンデレラ的な作品の世界各国での普遍的なルーツというような関心からそれぞれの執筆者が自分の関心と研究を語る、タイトルとしては「古今東西シンデレラ譚研究論集」というようなものがふさわしいものと思えます。さまざまな/バラバラな論文が並ぶのを、新たな知見が持てると喜べる人にはいいでしょうけど、関心を持てない領域の文章はなかなか読むのが辛い。
私は、シンデレラというとグリム童話の「灰かぶり」の印象が強いのですが、編者らはディズニーアニメからスタートするためペロー童話の「サンドリヨン」に寄せて、グリム童話の方はあまり論じないという姿勢です。他方で、東洋も含めて、継子いじめ+貴人との婚姻の要素があればシンデレラに分類するというのは、やや強引な感もあり、私には違和感がありました。
01.物語じゃないただの傷 大前粟生 河出書房新社
テレビのワイドショーに平等を主張するリベラル役として出演している後藤将生こと後藤将司が、隠れて壁にし続けていたことをし続けていたのを動画撮影していた白瀬と名乗る男の要求に従い自宅マンションで同居を始め、葛藤を抱えながら過去のあれこれを振り返り、悩むという小説。 リベラルな主張をする者も、マイノリティを非難し自己責任を強調する者も、どちらも偽物で中身がないという設定というか、作者の主張がなされていて、読者がそういうふうに人にラベルを貼り否定して、じゃああんたは何が言いたい?と思ったところで、あぁ自分もこの作者のように他人の主張や行動をそういうふうに簡単に片づけているよなということに思いを致し、自省させるのが目的、なのかなぁ。
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