私の読書日記 2025年4月
09.プレゼン資料の図解化大全 前田鎌利、堀口友恵 ダイヤモンド社
短時間で説明をして自分の推すものを通すためのビジネスプレゼンでの資料の作り方、構成のしかたを解説した本。
図解は左でメッセージ(説明)は右(100ページ)、横幅がある図表ではキーメッセージが上で図表が下(101~102ページ)、比較するときは横に並べる(88~89ページ)、推したいものは右上に配置(78~79ページ)、ポジティブメッセージは青でネガティブメッセージは赤(114~115ページ)、グラフでは目立たせたいところだけカラーリングして他はグレーアウト(84ページ、115ページ、142~143ページ)、キーメッセージは13文字以内(97ページ、107ページ)…一目でわからせる、考えさせない、読ませないを徹底しています。
なるほどとは思いますし、それがテクニックなのでしょうけど、考えさせずに決めさせるというのが、ある種のマインドコントロールにも感じられてしまいます。
説明を、直感的にではなく内容をきちんと理解してもらうことを必要としている業種では、そうも行かないんだけどねと思ってしまいます。
08.認知症の親が満足する最高の介護術 榎本睦郎 永岡書店
認知症患者の主観を説明し、家族としての接し方を解説する本。
本人(の言い分)を否定せず、味方だと思わせる、特に物がなくなって困っているときは責めると敵だと考えてこの人が盗ったに違いないと思い込まれて行くので、一緒に探そうなどということで味方だと感じてもらうことが大切だとか、ご飯を食べてないとか(自宅にいるのに)家に帰りたいとかいうのにも否定ではなく受け入れたうえでもう少し後でねなどと問題を先送りして落ちつく(そうしたいというのを忘れる)のを待つなどの対応が推奨されていて、なるほどなぁと思いました。
認知症にも情緒が不安定で怒りっぽく徘徊や暴力行為などの問題行動が目立つ介護者がもっと落ちついて欲しいと感じる陽性アルツハイマー型認知症タイプと、比較的穏やかでむしろ自発性が低下している陰性アルツハイマー型認知症タイプがあり、投薬すべき薬が違う(129~31ページ)、薬の飲み忘れを防ぐためにカレンダーにその日飲む分の薬を貼り付けておく(132~134ページ)なども、勉強になりました。
07.北緯43度のコールドケース 伏尾美紀 講談社文庫
大学院で博士号を取ったもののあるできごとを機に大学院を辞めて警察官採用試験を受けて警察官となり、警部補昇任に伴い北海道警察本部から所轄に配属となった沢村依理子が、5年前に誘拐されて警察が犯人を死亡させて発見できなかった当時3歳の少女の死体遺棄事件に遭遇し、その謎に取り組むというミステリー小説。
警察の目の上のこぶとして、人権派弁護士兵藤百合子が度々立ち現れるのですが、最後に警察が別件逮捕したが詰め切れず裁判官が勾留状請求を却下して釈放した容疑者への任意の取調べに1回8時間まで3回、取調の録音録画、取調は沢村が行うの3条件で応ずるという設定、弁護士の感覚ではちょっと考えられません。警察が逮捕できないときに弁護士が条件を出すなら第1は取調への弁護士立会でしょうし、1回8時間なんてとんでもない、せいぜい2~3時間でしょう。
06.烏帽子と黒髪 中世ジェンダー考 野村育世 同成社
中世:平安~鎌倉時代のジェンダーについて、服装、髪型に着目して論じた本。
男は元服しておかっぱの童髪から伸ばして後ろで括り(ポニーテール様)さらに頭上にまとめて結って髻(もとどり)をつくりそれに冠(公式の場)、烏帽子(非公式の場)を固定する、身分の低い者は元服せずに童のまま、男になった者は人前で烏帽子を脱ぐことはなく烏帽子を取られることは屈辱であった(ふんどしを外すより恥であった)のだそうです。上層身分の女は垂髪のままだが成人すると顔の両脇の鬢の髪を肩から胸ぐらいの長さに削ぐ「下がり端:さがりば」を作る(さがりば以外の場所、例えば額や頬の脇などはカットしないと強調されています)、髪の長さが身分とつながっていたと論じられています。そういったあたりは、知らなかったことが、図示された文献を引用して語られていて、興味深く読みました。
中世の女の地位・暮らしやすさについて、女が私的領域に押し込められ活躍できなかったという指摘と、女性に力があった、近世現代よりもジェンダー平等であったという指摘が双方書かれていて、著者の言いたいことが今ひとつ見えにくい感があります。
05.婚活マエストロ 宮島未奈 文藝春秋
40歳の在宅Web雑文ライター猪名川健人が、家主の紹介で婚活業者ドリーム・ハピネス・プランニングの紹介記事を書くという依頼を受け、婚活パーティーに参加することとなり、司会を務める従業員の鏡原奈緒子に惹かれて行くという体裁のほのぼの系小説。
版元(文藝春秋)のサイトでの紹介(こちら)では、「本屋大賞受賞『成瀬は天下を取りにいく』を超える、爆走型ヒロインが誕生!」とされているのですが、鏡原奈緒子は、とても「爆走型」とは思えません。先に(予約してから確保するまで長~くかかったので)このキャッチを見てしまい、読んでいる間中違和感に苛まれました。そもそも、前作の成瀬あかりだって、生真面目で空気を読まないだけで、爆走型には、私には見えませんでしたし。ましてや、成瀬が空気を読まない我が道を行くタイプなのに対して鏡原はむしろ人の思いを読んでうまく場を調整するタイプで、このキャッチは、版元の編集者が読めてないのかと、「読まれる覚悟」(↓)の桜庭一樹の恨めしげな思いさえ感じてしまいます。
私には、むしろ、成瀬といい、鏡原といい、それほど外れている設定でもないのに、微妙な違いで人物をおもしろく描いてしまうところに作者の作風があるのかなと思えました。
「ホームページ・ビルダー」で作ったサイトは、2023年10月に更新されているだけで「マジか」「このホームページ、生きている」と驚かれてしまい(13ページ)、ホームページがそういうものだというだけで「令和の世の中で評判になるような会社とは思えない」(27ページ)そうです。ホームページビルダーでサイトを手作りしている者としては、忸怩たる思いを持ちました。どーせ、そーですよ。ウジウジ…
04.読まれる覚悟 桜庭一樹 ちくまプリマー新書
既にベテランの域に達した著名な作家である著者が、小説を書き出版したとき、読者の反応、評論・文芸批評などを受けたときなどに思ってきたこと、自分が取ってきた態度等について書いた本。
タイトルからは、これから小説を書くことを考えている読者(ちくまプリマー新書ですから、基本、中高生想定)に、小説を書く以上、あんなこと、こんなことがあります、覚悟して臨んでねという本のような印象を受けます。しかし、実際には、小説家の側の覚悟よりも、経験を語りながら、小説家だって傷つくんだ、無責任な評論家は許せないというニュアンス、ただし他方で自分も読者として偏見を持ち、またそういう読み方をしていることも多々あるので簡単ではない、みたいな反発とためらいを語っている感じです。あと、マイノリティが受ける差別、屈辱と他方で自分がマジョリティ側である領域で自分が犯しているかも知れない問題など…
誤読については、小説家に限らず、私自身、自分のサイトに書いたことについて、どうやったらそういうふうに読めるのか全くわからないような誤読をしてくる人がいるのを少なからず経験しています。小説の場合、本来的に想像の幅を持たせているので作者としてそれを縛らないという姿勢になるわけですが、法律や裁判実務のことで誤解を放置するとよくないことが起こるので、とても悩ましく思っています。
03.原発と司法 国の責任を認めない最高裁判決の罪 樋口英明 岩波ブックレット
2014年5月21日に大飯原発3号機・4号機の運転差し止めの判決(住民側勝訴)を書いた裁判長であった著者が2023年と2024年に行った講演の講演録に加筆して出版したブックレット。
原発の本質的な危険性、特に他の施設と異なり事故時に運転を止めてもなお高熱を発して燃料が溶け落ちて放射能を放出するという特殊な危険性を語るとともに、未来の危険性を想定して現在の運転を差し止めるよりも容易に認められるはずの実際に発生した事故による損害の賠償請求の裁判で最高裁が国の責任を否定したことに対する危機感がにじみ出ています。
原発の危険性について理解しやすいことに加えて、業界的には、国の責任を否定した最高裁判決の裁判長を名指しして、42年も裁判官を続けてこの判決を書いた翌月には東電から多数の裁判等を依頼されて多額の報酬を受けている弁護士事務所に就職したのは、下級裁判所の裁判官に「公正らしさ」を求めてきた最高裁にあるまじきことと強く批判しているところ(41~42ページ)が注目されます。おーっ、よく言ったと…
02.ロンドンの姉妹、思い出のパリへ行く C.J.レイ 東京創元社
2022年春、ロンドンに住む画廊主アーチー・ウィリアムソンが97歳になる2人の大伯母ペニーとジョゼフィーンにフランス政府からレジオン・ドヌール勲章が授与されることになって2人をパリに連れて行き、パリで騒動が起こるというエピソードに過去のエピソードを組み合わせた小説。
人名を覚えるのが実は苦手な私には、登場人物の一覧があるにもかかわらずそこに記載のない名前が多数登場し、時代が行きつ戻りつし、場所も転々とする展開に、スムーズについて行けず、頭に入りにくくて読みにくい作品でした。
姉妹間で長らく相手に言えない自分の秘密を抱えているというのが、人生そういうものかなという感慨を持たせ、しかしそれを秘密と思っていたのは自分だけで実はバレていたとかいうのにもまた、それもありなんと思い、しみじみしました。
01.イニシエーション・ラブ 乾くるみ 文春文庫
地味で口下手な静岡の大学4年生鈴木夕樹が、合コンで知り合った2つ年下の歯科衛生士成岡繭子から積極的なアプローチを受けて交際するようになり…という展開の恋愛小説。
女性と付き合ったこともなかった(47ページ)地味男が、合コン相手の女性から積極的にアプローチされ、のみならず「芸能人以外にもこんな人がふつうに世の中にいるんだ」と思うほどきれいな(151~152ページ)「アイドルも顔負けという美人」(235ページ)の同僚からも迫られ、という男の妄想を満開にしていると、ふつうに読んでいるとそう思う設定です。
裏側カバーの紹介に「最後から2行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する」とされています。で、その最後から2行目を読んでも、石丸美弥子の性格設定の方に着目すると、それもありなんとも思えてしまいます。
読んでいるうちに、作者が成岡繭子の裏側を書いたどんでん返しをしないはずがないという違和感が募りながら、一読目では、なんでそれがなく終わったの?と思ってしまったのが不覚でした。確かに再読してみると作者が多数のヒントを並べてくれているのがわかります(最速だと132ページ)。せめて繰り返し登場した「男女7人」にちゃんと注目していればと悔しく思いました。
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