庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2024年10月

07.70歳までに脳とからだを健康にする科学 石浦章一 ちくま新書
 認知症/アルツハイマー病やダイエットなどを取り上げて生命科学の立場から解説した本。
 健康になるためにどうすればいいかを述べる本ではなく、人間の体のしくみやなぜそうなるのかの説明をする本です。
 他人の腸内細菌を移植する(便を濾過して肛門から注射するかカプセル化して飲む)ことで、潰瘍性大腸炎が治ったとか癌が治った、自閉症やうつにも効くとかいう報告がある(136~138ページ)と書かれていてビックリです。
 「脳科学の専門家または自称“脳科学者”、脳科学の第一人者などとしてマスコミに出ている人は、そうでない人が多い」(170ページ)、「市販のサプリメントはほぼ効かず、生命科学関係のベンチャーなどはほぼすべて役に立たないかそれに近いものを扱っているにもかかわらず、それが一般の皆さんには素晴らしいもののように思われている」(242~243ページ)などのはっきりした記述が目を引き、参考になります。

06.イスラエル、ウクライナ、アフガン戦地ルポ 憲法9条の国から平和と和解への道 西谷文和 かもがわ出版
 ハマスからの攻撃への報復ないし自衛を主張してヨルダン川西岸とガザ地区で、イスラエル人被害者よりも遙に多数のパレスチナ人を虐殺し続けるイスラエル軍/政府の攻撃とパレスチナ人への虐待が続くエルサレムとヨルダン川西岸地区、ロシア軍の民家や多数の民衆が集まる場所への攻撃とウクライナ軍の反撃が続いているウクライナ、中村哲の用水路事業とその後10年を経たジャララバードを訪問して現地の様子を報じたルポ。
 イスラエル訪問が2024年3月、ウクライナは2023年5月と10月、アフガンは2022年8月までなので、その後事情が変わっているところはありますが、それでも近年のそこで生活する人々の様子が書かれているのに興味を惹かれます。
 イスラエル兵の蛮行とともに「虐殺をやめろ」というプラカードを持つユダヤ人の姿を紹介し(表紙の写真にも使用)、中村哲の事業と姿に焦点を当てる著者のスタンスは、紛争当事国と軍事同盟になく(NATO加盟国でない)平和憲法を持ち他国と戦争をしないことを国是とする日本の政府が紛争解決に取り組めばいいのにというものです。ラストワードの「これからは岸田文雄(あるいは新しい総裁)ではなく、中村哲の時代だ」が印象的です。

05.報道、トヨタで学んだ伝えるために大切なこと 富川悠太 PHP研究所
 元「報道ステーション」のメインキャスターで、今はテレビ朝日を退社してトヨタ自動車に入社し「トヨタイムズニュース」のキャスターを務める著者が、相手への伝え方について論じた本。
 取材/話を聞くときには相手の視点を理解して、話すときは話す内容(ニュース:できごと)の当事者の視点に立ちそれが「自分ごと」と感じ意識できるように(もちろん、話す内容をきちんと理解して)、そして聞いている人(世間一般)の感覚/目線を意識するというようなことが、取材やキャスターとしての経験を交えて説明されていて、なるほどと思えます。
 しかし、この本で度々豊田章男の会話・スピーチ術、人心掌握術に感心するという話題があり、グループ企業の不祥事があった際たった1人で責任を背負う発言をしたこと(50~51ページ)、アメリカでのリコール問題で米議会の公聴会で謝罪と説明をしたこと(68ページ、191ページ)は触れているのに、今年(2024年)5月に発覚したトヨタ自動車自身の日本での認証不正(意図的な試験車両の加工、虚偽記載、データ改ざん等)問題には一言も触れていません。巻末の豊田章男会長との特別対談がいつ行われたのかは記載されていませんが、あとがきは2024年7月と記されており、少なくとも著者は執筆中には認証不正問題を認識していたはずです。「報道ステーション」のフィールドレポーターとして12年ほど、メインキャスターとして6年報道に携わった著者でさえ、トヨタ自動車の社員となればくさい物に蓋なのか、そもそもネガティブなことを隠す/隠蔽するのではなくいかに誠実な対応をしそれを伝えるかは企業広報としても今や必須ではないか、「伝え方」の本でそれをしないとはどういうことでしょうか。この本の「はじめに」で、トヨタ専属ジャーナリストになる際、豊田章男から報道でやっていたようにストレートに疑問をぶつけ、現場を取材して伝えるやり方で関わって欲しいと言われたことを紹介している(7ページ)のは何なのか。報道ステーションのキャスターでさえ、社畜になってしまう、そういうことなのかということがとても衝撃的な本でした。

04.記憶の深層 〈ひらめき〉はどこから来るのか 高橋雅延 岩波新書
 記憶のメカニズムとよりよく記憶するための方法等を心理学の手法と立場から解説した本。
 タイトルからは、脳科学系の本かと思いましたが、記憶にまつわるさまざまなことを心理学の実験をこまめに紹介しながら説明しているところが特徴となっています。実験を説明されると、その実験からそこまで言っていいのかとか、その程度の標本数でどれくらい普遍的に評価できるのかとか、次々と疑問は湧きますが、根拠を説明しようとする姿勢には好感が持てます。
 記憶の定着に関しては、イメージとの結びつきや繰り返し、特に覚え込む(インプット)ことよりもアウトプットを繰り返すのが有効ということですが、それはよく聞く話です。
 サブタイトルのひらめきについては、「はじめに」でも個人の記憶の蓄積=個性が創造性の基礎となると述べていることもあって、そちらの話を期待しながら読みましたが、最後の10ページ程度で言及しているだけで、それも、ひらめきは問題から一時的に離れて休んでいる間に無意識的な活動が行われ続けることによって得られる、ただし、このような無意識的な活動の前には徹底的に集中して考え抜くことが重要(167ページ)というようなよく聞く話にとどまっています。
 著者は、それに一人ひとりの記憶や知識や人生経験の違いに根ざした無意識の働きである連想の独自性はAIには真似のできないもので人間は誰もがみな創造性に溢れた存在という主張(175~176ページ等)を追加していて、それはいいとは思いますが、それまで積み重ねてきた話との関連性が、私には今ひとつ感じられず、ちょっと浮いた感じがしました。

03.Q&A現代型問題管理職対策の手引 高井・岡芹法律事務所編 民事法研究会
 使用者側の弁護士が、管理職の取扱をテーマにした使用者(会社)からの質問に回答する本。
 特に問題ないと思える管理職やどう見ても会社側の要求が身勝手だろと思う質問も見られますが、使用者側から見るとあれもこれも「問題管理職」ということなのか、単に管理職を切り口にしているだけでタイトルは人目を引くためだけなのか…
 基本的に使用者目線での解説で、執筆者によりスタンスに若干のでこぼこはありますが、裁判例は踏まえられています。プロジェクトリーダーの管理職が自分の都合でミーティング日時を頻繁に変えているとか勝手に欠席しているというケースで「解雇を有効に行うことができる可能性が高いと考えます」(169ページ)というのは、私にはずいぶんと強気に思えますし、他方で定年前に譴責処分を受けている労働者に対して定年再雇用拒否をしたいという質問に「再雇用の拒否は無効と判断されるリスクが高いものと思われます」(261ページ)というのは、私の目には使用者側の先生でもこう言ってくれる良心的な人がいるのだなとホッとします。

02.老化は予防できる、治療できる テロメアをムダ使いしない生き方 根来秀行 ワニ・プラス
 染色体の末端にあり細胞分裂の度に減少して細胞分裂できる回数を規定しているテロメアの研究の現状を紹介し、老化と老化を遅らせる試みについて解説した本。
 細胞分裂の度に減少し短くなるテロメアを再生することができれば細胞分裂が可能な回数が増えて若返りなり老化を遅らせるなりの可能性が出てくる、そしてテロメアを修復するテロメラーゼという酵素が発見されたというのですが、テロメアとテロメラーゼの関係はまだまだわからないことが多いとか、そもそもテロメアを長くしたら不老不死と言うより癌細胞になるリスクがあるのではなど、「予防できる、治療できる」というタイトルは、あまりに希望を持たせすぎに思えます。せいぜい「将来は予防できるようになるかも」くらいじゃないでしょうか。

01.名医・専門家に聞く すごい健康法 週刊新潮編 新潮新書
 「週刊新潮」に掲載された健康関係の記事を13本集めて出版した本。
 いびきは慢性的な疲労の原因になっている(121ページ)、「いびきは、毎晩、眠っている間に細いストローで4000個の風船をふくらませているようなもの」(122ページ)って。いびきをかくというだけでそんなに体力を消耗するんだ。「寝床に入ってあっという間に眠ってしまうのであれば、かなりの睡眠負債を抱えている状態にあると思います。睡眠が足りている人は、照明を消してから脳波上の眠りに入るのに15分程度はかかるのが通常なのです」(155ページ)。ドラえもんののび太は3秒で眠れるというのですが、子どもながらにそんなに疲れていたのですね。
 体に適した温度と脳に適した温度は違い、脳には22℃~24℃が最適(124ページ)だとか。以前からかなり涼し目が快適に思えていたのですが、そうだったのか。
 さまざまな人がいろいろ書いているので、若干混乱もしますが、いろいろ勉強になりました。

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