庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2024年7月

17.ココロブルーに効く話 精神科医が出会った30のストーリー 小山文彦 金剛出版
 精神科医で産業医の著者が診療や相談で出会った事例を紹介し感想等を述べた本。
 統合失調症と診断された妻が失踪し海で溺死体として発見された夫が8歳の娘に妻/母の死亡やその原因を伝えることができずに長らく思い悩む様子(47~55ページ)や、過敏性腸症候群を抱えた受験生に寄り添う幼なじみ(71~80ページ)など、ほろりとくるエピソードが味わい深く思えました。
 また、急に話せなくなり歩けなくなった認知症患者を救急外来の医師は認知症のせいだと判断したが、不審に思った著者が診ると話せないのは顎関節脱臼を起こしていたため、歩けなくなったのは下痢が続いて体内のカリウムが排出されすぎたことによると推測される低カリウム血症とわかったというエピソード(137~143ページ)には、先入観の怖さ、医師という専門家でもそういう事態に陥るという怖さを実感しました。

16.消費者金融ずるずる日記 加原井末路 三五館シンシャ
 中堅消費者金融に勤務して取立や不動産担保ローンの勧誘等に従事していた著者の在勤中の経験と、自らが多重債務者となった顛末などを告白する本。
 著者の勤務先の消費者金融が、本文でもプロフィールでも「デック」と記載されています。明らかに違法な行為をしていたことも書かれているのでぼかしているのかと思いましたが、後半では後にシティグループに買収されてCFJになったとはっきり書いている(161ページ)のですから、素直に「ディックファイナンス」と書けばいいのにと思います。著者が「チンピラ風かつ対面型」でそこに勤める知人は「どう見ても一昔前の田舎ヤクザ」(61ページ)という「E社」は文句を言われるだろうからイニシャルというのはまぁわかりますが(私もかつてはE社の野太い声のH管理部長と夜間に電話で不穏なやりとりをしていました)。
 取立に行って借主(債務者)に他社から借りてでも払ってくれと言ったり(54ページ)、不動産名義人が明らかに認知症患者なのに医者に現金1万円入りの封筒を差し出して「問題なし」の診断書を書いてもらって不動産担保ローンを成立させた(147~154ページ)とか、違法行為をしていたことが堂々と書かれています(後者なんてもう犯罪でしょ)。まぁこういうことやってるだろとは思っていましたけど、実体験として書かれるとやはり重い。

15.はじめてのデッサン教室 60秒右脳ドローイングでパース・陰影がうまくなる 松原美那子 西東社
 60秒間で直感的に形を捉えるドローイングを繰り返すことを勧め、絵に説得力を与えるパース(perspective 透視図法、遠近法)と陰影について解説する本。
 サブタイトルの60秒右脳ドローイングについては、短時間で絵を描くことで右脳を強制的に働かせる練習法(2ページ、18~23ページ)というのですが、考え込むより手を動かせということなのでしょうね。そういわれてもやってみようかと思わないものぐさな読者にはあまり入ってきませんが。
 透視図法を用いて物の奥行きを理論的に(透視図法上)正しく描いたり見えるままに描いても不自然に見えることがあり、そういうときは奥行きは適当に決める、消失点までの長さの4分の1をめやすにする(66~67ページ)、地面や水平線が描かれず物の接地面がはっきり描かれていないと安定感がなくしっくりこない(174~175ページ)など、実践的なアドバイスがあり、参考になります。

04.~14.これは経費で落ちません!1~11 青木祐子 集英社オレンジ文庫
 中堅石鹸・入浴剤メーカー天天コーポレーションの経理部に勤務する1巻時点で入社5年27歳、11巻時点で入社7年29歳の森若沙名子と経理部の面々、営業部の山田太陽らの会社勤めと人間関係、仕事上の駆け引き等と恋愛関係を描いた小説。
 タイトルから、主人公の森若沙名子がごまかしを目論む営業部員が持ってくるいかがわしい伝票を厳しくはねつける場面を予想していましたが、森若は大半の場面で上司が承認しているのならと承認して行き、このタイトルは何だったのかと思いました。タイトル通りの言葉が出るのは、3巻末から登場した「タイガー美華」こと麻吹美華が4巻で山田太陽の出金をはねつけた場面(4巻15ページ。もっともこのときは「これは経費で落ちません」で「!」はなし。文字通りの「これは経費で落ちません!」は、営業部の謎のフィクサー山崎柊一が森若と麻吹との3人での喫茶店代を落としてくれというのを麻吹がはねつける6巻183ページで初登場)。森若が山田にデートのためにデパ地下で買ったお弁当代「経費で落ちる?」と聞かれて「落ちません!」という場面(4巻232ページ)はありますが、これまでのところ、森若が「これは経費で落ちません!」という場面は登場していません(私が見落としていなければ)。まだまだ続きそうですので、これから先に出てくるのかも知れませんが。
 各巻冒頭に6~8名の登場人物紹介がありますが、山田太陽の先輩の営業部員の嫌われ役鎌本は登場頻度割と高いのに1度も紹介されていません。同じく嫌われ役の馬垣和雄は3巻の登場人物紹介に出ているのに。なんだか哀れ。
 文庫書き下ろしなんですが、各巻4話+エピローグ(経理部員佐々木真夕視点の一部振り返りなど)の構成が踏襲されています。5巻だけ、別巻とか外伝ふうの脇役たちのエピソード5話+森若目線のエピソードで、サブタイトルが「落としてください森若さん」になっています(5巻以外は、すべてサブタイトルは「経理部の森若さん」:何のためにこのサブタイトルはある?)。

03.ちくま日本文学 岡本かの子 ちくま日本文学(文庫)
 1936年から1939年にかけて短期間に多数の作品を発表し亡くなった作家岡本かの子の短編・中編集。
 戦前の作品ですが、仮名遣いを現代風に変え、本が新しいというだけで、ずいぶんと読みやすくなるものだと感じました(多分に心理的なもの)。念のために同じ作品が収録されている岩波文庫と見比べるとかなり印象が違います。
 人情の機微やそこはかとない(当時の基準では相当なかも)エロティシズムを読む/味わう作品が多い感じですが、作品中よりも、年譜に表れた作者自身の人生の方が想像力と妄想力をそそるかも。
 息子太郎(岡本太郎画伯)への手紙が掲載されていますが、そのネームバリューを使うためにしても、趣旨を理解しやすくするためにも、太郎からの手紙も挟んでほしかったと思います。

02.水車小屋のネネ 津村記久子 毎日新聞出版
 合格した短大の入学金を母が入金しないで愛人に貢いでしまい短大に行けなくなった18歳の山下理佐が、母の愛人から怒鳴られ閉め出された小4の妹山下律とともに、住み込みで働けるところを探してたどり着いた、そば屋がそば粉をひくために使っている水車小屋で、石臼が空回りして傷むのを避けるために見張りをしている言葉をしゃべるヨウムのネネと過ごした日々(1981年)から、10年ごとにネネと理佐、律、そば屋の夫婦らに新たな登場人物を交えながら2011年の大震災と原発事故、2021年のコロナ禍までの時の移り変わりを描いた小説。
 当初は単にオウム返しに言われた言葉を覚えて繰り返しているだけで意味がわかっているかどうかは不明という扱いだったネネの言葉が、次第にどう考えても意味わかって言ってるねとなってきて、少しシビアに始まったシリアスで現実的なお話が、現実から少し離れたふわっとしたヒューマンというかほのぼの系に変化していく感じです。
 人が世話をしないと生き続けられないネネを中軸において描くことで、世話をする/すべき大人の側での動物や子どもとの関わりと責任、子どもの側の成長と自立といったことを考えさせる作品になっているのだと思いました。

01.魔女狩りのヨーロッパ史 池上俊一 岩波新書
 15世紀~18世紀のヨーロッパでの魔女狩り/魔女裁判について検討し解説した本。
 魔女狩りが、社会の底辺層の嫌われ者・弱者に対して行われたのか、中流層以上の妬まれた者に対して行われたのか、魔女の告発は民衆が妬みであるいは信仰心や良心の痛みから行ったのか、支配層が権力を固めるために行ったのか、支配層・準支配層が政敵を陥れるために行ったのか、そのあたりの説明はいろいろで、シンプルな説明は難しいようです。「はじめに」でも「こうした活発な研究により、ヨーロッパの諸地域の魔女と魔女裁判のありようは徐々に解明されてきているが、全体から眺めるとまだ道半ばで、最終的な像を描くことはできていない」とされています。
 裁判の実例を紹介している第3章を読むと、自白至上主義と共犯者の自白(巻き込み自白)により、簡単に「有罪」とされるようすが、悲しくも情けない。しかし、自白や共犯者の自白が簡単にそして強固に信用されて有罪とされるのは、日本の刑事裁判でも見られることで、笑ってられない気がします。ヨーロッパでは18世紀初めには魔女狩りは終わったとされていますが、アフリカでは19世紀から20世紀にかけてリンチ殺人に近い魔女狩りが続き、今日でさえサハラ以南では天候不順や原因不明の死亡や事故、疫病に絡んで魔女狩りが頻繁に起きていると紹介されています(218~219ページ)。中世の迷妄などと言っていられないわけです(ヨーロッパでも魔女狩りの最盛期は中世ではなくルネサンス期だったわけですが)。簡単に人間の性と言ってしまいたくはないですが。

**_**区切り線**_**

私の読書日記に戻る私の読書日記へ   読書が好き!に戻る読書が好き!へ

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ