庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2015年5月

06.摩擦のしわざ 田中幸、結城千代子 太郎次郎社エディタス
 摩擦による熱、電気(静電気)、音、摩耗などの摩擦力によって生じる現象について解説する本。
 身近な題材を用いながら、さまざまな問題を読みやすく説明しています。
 スキーやスケートは、板やブレード(スケート靴の刃)が接触した面の雪や氷が圧力で溶けて水になりその潤滑作用ですべると、一般的に説明されていますが、最近氷そのものの摩擦係数は非常に小さく、氷は溶けなくてもすべることが確認され、スキー場の粉雪も個体でも流体でもない「粉体」ということもあり、すべる理由は結局まだ解明されていないと説明されている(72ページ)のと、大気圏に突入した宇宙船(説明でははやぶさ)が燃え尽きるのは、大気との摩擦熱で燃えるのではなく、宇宙船のスピードで宇宙船の前方の大気が急激に押しつぶされて断熱圧縮で発熱し温度が3000℃にも達するためと説明されている(89ページ、91ページ)のが、私には新鮮でした。

05.美しき一日の終わり 有吉玉青 講談社文庫
 夫に先立たれて娘夫婦と暮らす70才の藤村美妙が取り壊しを目前に控えた祖父の代からの生家を訪ね、呼び出した入院中の63才の異母弟の秋雨とともに過ごす一日の間に、55年にわたった忍ぶ恋を振り返る純愛小説。
 愛人が死んだために一人になった8才の秋雨を父が連れてきてともに住まわせることになり、憤激して秋雨を物置部屋に追いやる母の思いに当初は同調しつつも、居場所なく心細く過ごす秋雨をやるせなく思って寝室に招いた美妙が眠ってしまった秋雨を抱き寄せたところ、乳首の上をこりりと噛まれて白く傷跡が残った15才の思い出と、京大に進学し東京を去りつれない態度をとり続ける秋雨を追って美妙が秋雨の下宿を訪ね、秋雨の学生運動にのめり込む姿と同居する女子学生千夏の姿を見て帰りの新幹線の中で奥歯をきつく噛みしめ後にはそれが高じて顎関節症になった29才の思い出を対比させながら、異母弟を慕う気持ちとそれを抑制しようとする意思の拮抗・葛藤を描き出しています。
 料理と裁縫が上手な美しい控えめな女性が、誠実で優しい夫と堅実で恵まれた夫婦生活を送り、そのことに感謝の気持ちを持ちながら、秘めた忍ぶ恋心を持ち続け、しかし55年にわたりその思いを抑え続けるという、古風な美しさを読む作品です。その抑えた思いに共感できれば、美しい作品として評価でき、自分の意思を抑え込み続けることのバックボーンにある因習的な道徳観への反発を覚えれば抑圧的な作品と評価することもできるでしょう。
 新婚旅行の夜、31才の美妙の「少しの刺激にも敏く感応し、身体じゅうから水があふれ出す」熱い思いが、夫から乳首の上の傷痕を指摘されそこに口づけされた途端に「身体に湛えられた水はたちまち引いて、美妙の泉は乾いて涸れた」こと、70才の美妙が乳首の上の傷痕に秋雨がそっと唇をあてるや「美妙の涸れた泉に水が湧き出した」ことの対比が印象的です。灰になるまで、やはり恋心が大切ですね。
 忍ぶ恋と言えば、天徳の歌合(私も、技巧的には壬生忠見かもと思いつつ、直截な平兼盛の「忍ぶれど色に出にけりわが恋はものや思うと人の問うまで」の方が好きです)を思い起こしてしまう、意外に古風な私には、沁みる作品でした。

04.驚異の小器官 耳の科学 杉浦彩子 講談社ブルーバックス
 耳の構造と音を聞くしくみ、耳の病気、難聴と補聴器、耳垢などについて説明した本。
 耳の中の蝸牛で捉えられた音情報は、延髄にある蝸牛神経核に到達した後、さまざまな神経核を経由し左右で交叉し合い、大脳の聴覚野に達するというしくみで、その経路はまだ明らかになっていない点があるが、複数の神経核を経由する過程でさまざまな抑制・活性化などの処理を受けることになり、そのために雑音の中から聞きたい音を聞き出すことができるという聴覚の特色があるのだろうと考えられているそうです。会話の聞き取りなどでは脳の推測・補完が働いて、実際に聞こえている音と脳が聞いている会話は同じでないことがあるようです(70〜76ページ)。不思議でも便利でもあり、同時に不安になる話でもあります。
 補聴器は、メガネ同様にその人の難聴の程度に応じて度を変える必要があり、欧米では補聴器の販売の際に資格のある Audiologist が調整しているが、日本では補聴器の販売は野放し状態で(以前は全くの野放し、現在でも販売経験が1年以上で1万2000円の講習会を受ければ「補聴器」の販売ができ、それがなくても「集音器」の販売はできるとか)、ドイツやイギリスでは7〜8割の人が補聴器に満足していると答えているのに、日本では満足と答えた人は36%だそうです(133〜135ページ)。ヨーロッパでは、マイクの音をFMで補聴器に送るシステムがかなりの講演会場・劇場に普及しているが、日本では聾学校など以外ではあまり使用されていないとか(141ページ)。高齢化社会が進む日本の社会は、まだまだ高齢者や弱者への配慮が薄い住みにくい社会なのだなと再認識しました。
 耳垢は、耳垢腺から分泌された油脂、皮脂腺の分泌物、脱落した外耳道表層の角化細胞、耳毛、その他ほこりなどの耳内の異物が一緒くたになったもの(171ページ)だが、外耳道では鼓膜から外側に向かって皮膚の表面が移動していくマイグレーション (migration)という現象があり、表皮が外耳道の骨部から軟骨部に移るところで剥がれ落ちて耳垢の一部となるのだとか(173〜174ページ)。私は、子どもの頃から耳垢がたくさん出る体質で、子どもの頃は母親が、近年ではカミさんが、たくさん取れるのをおもしろがって耳掃除をしたがるくらいなのですが、どうして耳垢がたくさん出るのかを考えると乾燥度の高いかさぶたのようなものなのではないかと思っていました。少し謎が解けたような気がしました。

03.つながる セックスが愛に変わるために 代々木忠 祥伝社
 素人女性を中心にインタビュー形式から入るAVで名を馳せたAV監督が、自分の作品を振り返りながら、セックスを論じた本。
 「中でイクために重要なのが、セックスする相手との関係性である。もっと端的に言えば、相手と心でつながれるかどうか。中でイケない子はここができていない」「イッたときに目をつぶっていたら快感はそこで終わるが、相手の目を見てつながれたとき、"心の射精"とでもいうべき、さらに深い快感が津波のように押し寄せてくる。これがオーガズムだ」(29ページ)というあたりが、著者の言いたいエッセンスのようです。だからタイトルも「つながる」。
 しかし、セックスのハードルが低くなった現代の若い女性は「彼氏や夫といった責任感をともなう人間関係がまともに築けなくなって、セフレのような浅い人間関係しか結べなくなってしまうように思う。手軽に取り替えがきく関係に囲まれていると、いつしか相手を思いやったり、他者を尊重する感覚すらも失われていくのではないだろうか」(19ページ)「20代前半にして500人はさすがに多いが、最近三桁の子はそう珍しくもなくなった。50人クラスになるとごく普通。セフレがいるのは当たり前で、同時進行でつきあっているセフレの数も増えている」(13ページ)って、言われると、時代の流れというか、世代の差を感じます。っていうか、AVの監督がそういって嘆く?
 オーガズムを味わうことで変われるということもテーマになっていますが、3才になるのに言葉が出ずおむつが取れなかった子の母親がAV出演でオーガズムを体験して帰ると子どものおむつが取れ言葉も出た(185ページ)とか、大きな子宮筋腫があり近々手術する予定だった女性がAV出演でオーガズムを体験したら子宮筋腫が消えた(187〜188ページ)となると、どこか新興宗教めいてきてうさんくさく感じます。

02.「AV男優」という職業 セックス・サイボーグたちの真実 水野スミレ 角川文庫
 AV制作の現場、AV男優の仕事とプライベートについて、AV男優へのインタビューを細切れにつなぎ合わせた構成と若干の解説で紹介した本。
 十数人のAV男優へのインタビューが中心なんですが、実はまえがきの一人の女である著者の言葉の方が引っかかったりする。「女にとって、目下恋愛中の男とのセックスほど快楽を味わえるものはない」「恋から醒めたとたん、彼女の中であなたのセックスレベルが一気に地に落ちていることまではご存じないだろう」「恋愛感情抜きでセックスのうまい男は存在しない」(6ページ)…(-_-;)
 月間販売タイトル4500本とされる昨今のアダルトビデオ業界で、プロと評価されている男優は70人だとか。インタビューを受けた男優阿川陽志は、1か月で最高72現場をこなした、現場によっては二出しのところもありますから(24ページ)という。やっぱりプロは違うというべきか。「射精しない日は一日もないですね。大変っていうか、工場と一緒ですよね。毎日出しといた方がいいものが出来るじゃないですか。反射神経を養うというか、毎日バッティングしてバットをふっておけば球がよく当たる、みたいな感じですよね」(74ページ)という声も…
 トップクラスの男優加藤鷹が「セックスって何ですか」と問われて「そんな哲学なんてわかんないからやってる仕事」と答え(195ページ)、さらに「愛って何ですか」と問われて「だから、わかんないからこの仕事26年もやってるわけで」と答えている(204ページ)のを読むと、それだけ経験を重ねてもたどり着けない奥底があるのねという妙な安堵感とともに寂しさも感じます。

01.「粘膜パワー」で若返る超健康になる 金城実 プレジデント社
 目、鼻、口、消化器、呼吸器、生殖器等の粘膜をケアしていい状態に保つことで健康を図ろうと提唱する本。
 ストレスや緊張があると交感神経が優位になり粘液の分泌が減って粘膜は悪い条件にさらされる、リラックスして血流をよくすることで粘膜の健康が保たれるそうです。う〜ん、仕事がら、そこは厳しいかな。
 いい粘膜を作るために必要な栄養素はビタミンA/ベータカロチン(緑黄色野菜、レバー、卵、チーズ等)で、これを油とともに摂取する必要があるとか(30〜32ページ)。そしてオメガ3(イワシ、サンマ、マグロ、鮭、ウナギなど)をできるだけ加熱しないで摂るとよいそうです(32〜33ページ、46〜47ページ)。年をとるにつれて、魚介類は少し加熱した方がおいしく感じられるようになってきているのですが、日本人はやっぱり刺身を食べろということでしょうか。さらに粘膜を守るためにはネバネバ食品(モズク、納豆、オクラ、山芋等)がいい(74〜75ページ)といわれると、なんかそれはただの連想じゃないかなとも。ヨーグルトもお薦めに挙げられていることも合わせて、近時歳も経て日本食回帰の傾向にある私の食生活は、ちょうどよさそうにも思いますが、避けるべき食品がトランス脂肪酸(マーガリン、生クリーム)と白糖だ(96ページ)というのはちょっと辛い:ジュースもケーキも和菓子もダメって…

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