庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

    ◆弁護士の仕事
  初動が大事

 起訴前の時間は普通は23日間しかありません(事件が1件だけでなくて別事件で再逮捕されればまた延びますが)。逮捕されている人や関係者にとっては23日間はとても長いですが、弁護する立場からは時間がなくて焦りがちです。
 多くの起訴前弁護は、逮捕後3日して裁判所で勾留質問(こうりゅうしつもん)があり、勾留の決定がなされてから被疑者国選弁護人として選任されるか、そうでなければやはり勾留質問があったときに当番弁護士制度(身柄拘束された被疑者や家族から弁護士会に連絡すれば、その日の当番で待機している弁護士が初回は無料で面会に行く制度)を知らされて当番弁護士が呼ばれて始まりますので、現実には多くても20日間しかありません。
 被疑者から事実関係を聞いて事情を把握し、弁護方針を固めるのに2、3回の面会を要することがわりとあります。
 起訴前の段階では捜査側の資料は弁護士には見ることができません。確実にとれる文書は勾留状(こうりゅうじょう)謄本(とうほん:写しのこと)だけです。勾留状には被疑者がどのような犯罪を犯したと疑われて身柄拘束されているかが書かれています。被疑者の話を聞いても犯罪の現場や被害者を特定できないことがままありますし、恐喝なんかだとどういう言葉で脅迫したと疑われているかなど被疑者が正確に再現できることはほとんどありません。ですから勾留状謄本はすぐに請求します。勾留状謄本の請求は弁護人選任届を検察庁に提出した後でないとできません。請求してもその日にもらえることはまずなく2、3日かかります。
 現実には、勾留状謄本が取れてから再度被疑者と面会して事実関係を確認してようやく事件の骨格が見えることが多いです。
 また、関係者との面会も捜査側が事情聴取を繰り返した後とその前では感触が違うことがままあります。現場もそうです。
 ですから、弁護人に選任するかどうかが即断できず、しばらく考えるなんて言われると、それだけで貴重な数日が空転し、起訴前の弁護活動の有効性はかなり減ってしまいます。
 それで私は、当番弁護士で出動したときは原則として全件法律扶助協会(資力がない人のために弁護士費用の立て替えなどをするところです。2006年10月から民事関係は「日本司法支援センター」になりました。)の被疑者援助制度(被疑者援助制度は以前は被疑者には請求しないのが原則でした)を使い(さすがに被疑者の親が会社社長と言われたときは扶助はあきらめましたが)「あなたは弁護士費用を負担する必要はないですよ」と言ってその場で受任しました。私選弁護の場合よりも弁護士費用はかなり少なくなりますが、とにかく早く受任することが大事ですので、それでやっていました(2003年4月から扶助協会が財政逼迫を理由に受任契約書に、あとで費用を負担させると決まったときには支払うことを誓わせる文章が入って、そこに署名するように求めるようになりました。それを機に私は当番弁護士名簿から外してもらいました)。
 起訴前弁護を依頼するならば、1日でも早く弁護士に会うこと、1日でも早く弁護人選任届に署名することがとても大事です。 

  【弁護士の仕事の刑事事件関係の記事をお読みいただく上での注意】

 私は2007年5月以降基本的には刑事事件を受けていません。その後のことについても若干のフォローをしている場合もありますが、基本的には2007年5月までの私の経験に基づいて当時の実務を書いたものです。現在の刑事裁判実務で重要な事件で行われている裁判員裁判や、そのための公判前整理手続、また被害者参加制度などは、私自身まったく経験していないのでまったく触れていません。
 また、2007年5月以前の刑事裁判実務としても、地方によって実務の実情が異なることもありますし、もちろん、刑事事件や弁護のあり方は事件ごとに異なる事情に応じて変わりますし、私が担当した事件についても私の対応がベストであったとは限りません。
 そういう限界のあるものとしてお読みください。

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