民事裁判の話
まだ最高裁がある?(民事裁判編)
 高等裁判所の判決にも不満がある場合、最高裁判所に上告(じょうこく)をする道はあります。
 (民事事件では、第1審が簡易裁判所の事件は、控訴審が地方裁判所、上告審は高等裁判所です。この場合、高裁判決に憲法違反、憲法解釈の誤りがあるときには最高裁に「特別上告」をすることができます。以下では基本的に地方裁判所が第1審で第2審が高等裁判所、上告審は最高裁判所のケースを想定して説明します)

  上告理由:上告等ができる場合

 民事事件の場合、上告理由は、憲法違反とその他若干だけです。その他若干のほとんどは、手続上の、現実にはありそうにないことですが、その中に1つ「判決に理由を付せず、または理由に食い違いがあること」というものがあります。これは、弁護士がよく上告理由に使います。
 これと別に上告受理申立(じょうこくじゅりもうしたて)という制度があります。上告受理申立の理由は最高裁判例に反すること(最高裁判例がないときは高裁判例)その他法令解釈に関する重要な事項を含むことです。上告受理申立は、理由があれば必ず受理されるわけではなく、最高裁が受理するかどうかを自由に決められることになっています。要するに最高裁が、判断したいと思えば受理するし、そうでなければ受理しないということです。

  上告の手続

 上告も上告受理申立も、控訴審の判決書が送られてきてから2週間以内に行わなければなりません。上告状(じょうこくじょう)、上告受理申立書は、書類上の宛先は上告審裁判所宛で書きますが、提出先は控訴審裁判所です。上告状や上告受理申立書には、上告や上告受理申立の理由を書く必要はなく、普通は書きません。
 民事裁判では、上告や上告受理申立をすると、「上告提起通知書(じょうこくていきつうちしょ)」・「上告受理申立通知書(じょうこくじゅりもうしたてつうちしょ)」が送られてきます。これが送られてきた日から50日以内に上告理由書や上告受理申立理由書を提出しなければなりません。控訴理由書の場合と違って、これに遅れると、記録は最高裁に送られずに控訴審裁判所の段階で自動的に上告却下・上告受理申立却下となります。この50日の期間は、法定期間(ほうていきかん)で、不変期間(ふへんきかん)ではありませんので、裁判所の判断で延長することは可能です。普通の事件ではまず延長してくれませんけど。
 上告理由書や上告受理申立理由書が提出されると、事件記録が控訴審裁判所から上告審裁判所に送られます。記録が上告審裁判所に届くと、上告や上告受理申立をされた側にも「記録到着通知書」が送られます。これは文字通り事件記録が上告審裁判所に着いたというだけで、決して上告なり上告受理申立が受理されたという通知ではありません。

  最高裁での審理の実情

 最高裁は、日本に1つしかなく、3つの部(小法廷)に分かれていますが、3つの部15人の裁判官ですべての事件を担当します。そこに年間数千件の上告や上告受理申立がなされるわけです。
 最高裁では、上告を棄却する(控訴審判決通り。上告した側の全面敗訴)ときには、口頭弁論を開く必要がありません。もちろん、上告を棄却する場合でも最高裁側で口頭弁論を開くのは自由ですが、忙しい最高裁としては、法律上必要でないときに口頭弁論を開くことはまずありません。
 ですから、最高裁の場合、口頭弁論を開くという指定があれば、控訴審判決は何らかの変更がなされ、そうでなく判決なり決定が来れば、中身は見るまでもなく上告棄却・上告不受理となります。
 そして、最高裁の事件の大半は、口頭弁論が開かれることなく上告棄却・上告不受理となります。上告棄却の判決・決定も大抵理由は書かれておらず(適法な上告理由に該当しないと書かれているだけ)、上告不受理の決定には理由は書かれません。
 但し、その判決・決定がいつ来るかは、口頭弁論が開かれなければ予告されず、時期は予測できません。はっきりいって何でもない事件が何年も寝かされたり、それなりに理由があると考えられる事件でもあっという間に棄却されたりします。

  最高裁での弁護士の対応

 上告する側の場合、つまり高裁で負けた場合、上告審は、実質的に上告理由書一本に勝負をかけることになります。
 実際の審理では、上告理由書をみて調査官(エリート裁判官です)が調査官報告書を提出し、担当裁判長に異論がなければその線で判決・決定が出るといわれています。その意味では、調査官の説得が重要な意味を持ちますが、よほどの事件でなければ調査官は面会に応じてくれません。
 最高裁では、上告理由書の提出期限が厳しいので、期限内には一応の理由を書いて、後日補充書を提出するということを、弁護士はよくやります。しかし、私は、大野正男裁判官(第二東京弁護士会出身の著名弁護士です)が最高裁判事を定年退官した後で書いた本の中で、「上告理由の追加が理由補充書という形で提出されることがあるが、上告理由書の提出日は規則で定めてあるのだから、新しい主張はできないし、単なる補充であっても、よほどの理由のない限り精読しないのが通例である。」(弁護士から裁判官へ44頁)と書いているのを見て、補充書を出すのは、基本的にやめにしました。

 控訴審で勝った事件での上告審の対応は若干微妙です。最高裁が口頭弁論を開くことにならない限り、相手方が出した上告理由書は送られてきません。しかし、口頭弁論が開かれるときは事実上負けるときですから、黙って待っているというわけにも行きません。そこで自主的に委任状を出して事件記録の謄写の手続で相手方が出した上告理由書をコピーします。それを読んで、反論すべきかはまた悩ましいところです。依頼者は反論して欲しいということになりますが、たいしたことがないとかさらにいえば、多少は相手の言い分にも理由がありそうだが重要ではないというときは黙殺した方がいいと私は判断しています。なまじ大仰な反論をすることで何か重要な論点があると最高裁に注目されるとかえって損になりかねません。
 ただ、相手が国の場合は、たいしたことなくても反論しておく方が無難かなとは思います。最高裁は国の上告・上告受理申立については気をつかうでしょうから。

  まだ最高裁がある?

 まだ最高裁がある、とはいいますが、最高裁が事実誤認や実質的には事実誤認を他の理由(例えば理由不備)をつけて救った例は、60年近い最高裁の歴史の中でほんの数えるほどです。確率でいえば、まさに「万一」の世界です。
 ただ、法律論に関していえば、最近、最高裁がわりと活発に控訴審判決の取消をしている傾向はあります。従来の右とか左とか、治安とか人権とかそういうイデオロギー的な方向性と関係なく、意外に思い切った判決が書かれている(だから人権という観点からはプラス方向に感じるものもマイナス方向に感じるものもごちゃ混ぜにあります)感じです。ちょっとその辺は目が離せないですね。
(このページを、最高裁が原判決を破棄したり上告受理すること自体が「万一」という趣旨に誤って引用しているサイトがいくつかありますが、上に書いてあることは、事実誤認が実質的な理由で最高裁が救ったケースはかなり少ないが、他方、法律論の誤りを理由に原判決を破棄したり上告受理するケースはそれなりにはあるということです)

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