庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  ◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆
   六ヶ所再処理工場の耐震脆弱性

 日本原燃が2012年4月27日に公表したストレステスト報告書では、六ヶ所再処理工場の耐震裕度は、当時の最大加速度450ガルの基準地震動(Ss)に対して1.50〜1.74倍でした。その耐震裕度も通常の評価方法では1.50未満となるものを「ミルシート適用」によってかさ上げしたり、消防ポンプによる冷却コイルへの直接注水やエンジン付き空気コンプレッサーからの圧縮空気供給といった可搬式の対策は常に有効・適切に行われるという想定をして導き出したもので、これらの手法を用いずに評価すれば、耐震裕度は最大加速度450ガルの基準地震動に対してさえ1.1〜1.2程度と考えられます。そして2016年2月19日の適合性審査会合で六ヶ所再処理工場に適用される基準地震動の最大加速度は700ガル(450ガルの1.56倍)に引き上げられましたから、普通に評価する限り、六ヶ所再処理工場はこれに耐えることができないことになります。

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 提出した準備書面の内容を基本的にそのまま掲載します。法廷での説明用のパワーポイントスライドも挿入してあります。
 この裁判の「被告」は、現在は、原子力規制委員会です。
 書証としてプラントエンジニアとして長い経験を持つ川井康郎氏の意見書を引用しています。これについては、現段階では掲載は見合わせます。

 ☆原告準備書面(147) 本件再処理工場の耐震脆弱性

第1 はじめに
 本件再処理工場について、日本原燃が2012年4月27日に公表したストレステスト報告書では、当時前提としていた最大加速度450ガルの基準地震動(Ss)に対する耐震裕度は4種類の事故パターンに対して1.50〜1.75と評価されていたが、これは、耐震裕度の計算が1.50未満となった機器配管について「ミルシート値」を用いたとするものであり、後述のとおり、不適切な操作によるかさ上げであった疑いが濃厚であり、本件再処理工場について日本原燃が評価した4種類の事故パターンに対する正しい耐震裕度は1.1〜1.2程度と考えられる。日本原燃は、事故の進展が比較的遅いと見られる廃液系についてのみ耐震裕度を評価し、より事故進展が速いと考えられる主工程での事故のパターンについては耐震裕度の公表を回避している。これらの事実から、本件再処理工場の大事故対策の耐震裕度は、最大加速度450ガルの基準地震動との対比でもほとんどなかったと評価せざるを得ない。
 そして、本件再処理工場については、基準地震動の最大加速度を700ガル(450ガルの1.56倍)に引き上げるべきことが決まっているところ、日本原燃が不適切な操作によりかさ上げした疑いが濃厚な評価結果でさえ、最大加速度450ガルの基準地震動との対比で1.50〜1.75しか耐震裕度がなかったものであるから、最大加速度700ガルの基準地震動が適正に策定されれば、日本原燃の評価を前提としても、本件再処理工場の大事故対策は耐震裕度がほとんどないと評価されることになる。
 本準備書面では、日本原燃が行い公表したストレステスト報告書に基づき、上記のとおり、本件再処理工場は、正しく評価すれば最大加速度450ガルの基準地震動に対してさえ耐震裕度がほとんどなく、日本原燃による評価をそのまま採用しても最大加速度700ガルの基準地震動が正しく策定されれば耐震裕度がほとんどないことを指摘する。(なお、本準備書面の主張は、主として、データについては日本原燃のストレステスト報告書に、知見については東洋エンジニアリング鰍ナ長らくプラント設計に携わってきた技術者川井康郎氏の意見書=甲E第105号証に依拠している)

第2 日本原燃のストレステスト報告書
 1 原子力安全・保安院の指示

 福島第一原発事故を踏まえ、原子力安全・保安院は、2011年7月21日に原子力発電所について、2011年11月25日に本件再処理工場を含む核燃料サイクル施設について、ストレステストの実施を指示した。
 核燃料サイクル施設に対して示された評価手法及び実施計画では、「地震、津波及びこれらの重畳といった自然現象により、並びに自然現象によらない何らかの原因により」、「全交流電源喪失」「崩壊熱除去機能喪失」「水素の滞留防止・供給停止機能喪失」「これらの重畳」(起因事象)が生じ、起因事象のうち施設の特徴に応じた事象が進展することにより、「放射性物質を含む溶液の沸騰」「水素、TBPの錯体等による爆発」「放射性物質を放出する火災」「臨界」「放射性物質・放射線の漏えい」「これらの事象の同時発生、あるいは一つの事象の複数箇所での発生」にまで進展すると仮定し、評価対象施設がどの程度まで「設計上の想定を超える事象」に至ることなく耐えることができるか、施設の特徴に応じて、安全裕度を評価することが求められた(「核燃料サイクル施設の安全性に関する総合的評価の評価手法及び実施計画」=甲E第106号証)。

 2 日本原燃のストレステスト報告書作成状況:さまざまな耐震裕度評価回避
 日本原燃は、原子力安全・保安院から指示された提出期限の2012年4月末日直前の2012年4月27日、「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた六ヶ所再処理施設の安全性に関する総合評価に係る報告書(使用前検査期間中の状態を対象とした評価)」(本準備書面では「日本原燃のストレステスト報告書」という。)(甲E第107号証)を提出し公表した。
 日本原燃のストレステスト報告書は、1つには本件再処理工場が操業前でありかつ使用済み燃料を用いた総合試験(アクティブ試験)で予定していた使用済燃料の処理が既に終了していることを口実として現状においては放射性物質を内包していない機器についての耐震裕度評価を回避し、2つには事業指定時の安全評価で検討した事象についてさえ検討した結果「起こりえない」とか重大事故に至らないなどと主張して、ストレステスト報告書における「設計上の想定を超える事象」としないことにして、耐震裕度評価を回避している。
 前者の例としては、冷却失敗に起因する「放射性物質を含む溶液の沸騰」のうち、「清澄機からの不溶解残渣排出機能喪失による内包液の沸騰」、「換気停止によるせん断機内使用済燃料の温度上昇」(甲E第107号証30ページ)、全電源喪失に関して「全交流電源喪失によるせん断機から外部への放射性物質の漏えい」(甲E第107号証32ページ)、地震に起因する「水素、TBPの錯体等による爆発」について「TBP等の錯体等、化学物質に係る爆発」一切(甲E第107号証33ページ)が、明示的にストレステスト報告書上の「設計上の想定を超える事象」から除外され、耐震裕度が評価されていない。
 後者の例としては、冷却失敗に起因する「放射性物質を含む溶液の沸騰」のうち高レベル廃液ガラス固化建屋及びガラス固化体貯蔵建屋の貯蔵ピットにおける崩壊熱除去機能喪失(甲E第107号証29〜30ページ)、換気停止によるガラス固化体検査室におけるガラス固化体温度上昇(甲E第107号証30ページ)、「水素爆発」に関して一般空気等のプロセス気体、計装用空気の供給停止による水素濃度の上昇(甲E第107号証31ページ)、全交流電源喪失に関して「全交流電源喪失によるガラス溶融炉から外部への放射性物質の漏えい」(甲E第107号証32ページ)、地震に起因する「放射性物質を含む溶液の沸騰」に関して「固化セル内での溶融ガラスの漏えい」(甲E第107号証32〜33ページ)、地震に起因する「臨界」一切(甲E第107号証33〜34ページ)、地震に起因する「放射性物質・放射線の漏えい」一切(甲E第107号証34ページ)が、明示的にストレステスト報告書上の「設計上の想定を超える事象」から除外され、耐震裕度が評価されていない。

 日本原燃が耐震裕度の評価を回避した領域を確認すると、「放射性物質を含む溶液の沸騰」に関しては、本件再処理工場の廃液系を中心とするごく一部の貯槽類等(下図の赤・黄緑着色の機器)以外は検討対象からも外れ、主工程の機器がまるっきり除外されている。そして、原子力安全・保安院の指示の中心をなすはずの、地震による「TBPの錯体等による爆発」「臨界」「放射性物質・放射線の漏えい」はすべて評価対象外とされているのである。

 日本原燃の前者の言い訳である本件再処理工場が操業開始前でありかつアクティブ試験における使用済燃料処理が終了したことから現時点における放射性物質内包機器のみを対象とした(操業すれば放射性物質を内包する主要な機器を対象から除外した)ことは、本件再処理工場の本来の安全裕度を評価していないことにほかならない。しかも、日本原燃は、その後、2013年5月31日に、「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた六ヶ所再処理施設の安全性に関する総合評価に係る報告書(使用済燃料のせん断・溶解等を行う場合の状態を対象とした評価)」を提出し公表したが、耐震裕度については、耐震に係る新規制基準の検討が行われている最中であるなどの言い訳をして、全く記載していない。日本原燃は、操業すれば放射性物質を内包する主工程の機器の耐震裕度評価を回避する姿勢をとり続けているのである。

 そして、日本原燃の後者の言い訳の十分な対策をしているから、あるいは日本原燃の評価では、そのような事態に至らないという主張は、ストレステストの評価対象を限定する理由となり得ない。そもそもストレステストは、福島原発事故前は事業者も規制当局もあのような事故は起こりえないと評価していたものであり、そのような楽観的な事故評価を反省して実施が求められたものである上、指示文書(甲E第106号証)おいても、「放射性物質を含む溶液の沸騰」「水素、TBPの錯体等による爆発」「放射性物質を放出する火災」「臨界」「放射性物質・放射線の漏えい」「これらの事象の同時発生、あるいは一つの事象の複数箇所での発生」にまで進展すると仮定し、そこに至るまでの耐震裕度を示すことを明示しているのである。日本原燃の姿勢は、福島原発事故の教訓から何ひとつ学ばないものであるとともに、原子力安全・保安院の指示に真っ向から反するものである。また、日本原燃のストレステスト報告書は「落雷」について「建物及び構築物または油槽等の工作物並びにその他のもの、屋内外設置の開閉所設備や所内電源設備等の電力設備及び計測制御設備の対雷設計が適切に施されていることを確認した。また、雷インパルス試験を行い、その結果を踏まえて主排気筒周辺設置網の増強等の対策を実施したことを確認した。これらのことから、落雷による施設への影響は考えられない。」(甲E第107号証37ページ)と大見得を切っているが、2015年8月2日の落雷により、本件再処理工場で安全上重要な機器に属する計測制御装置の多数が故障して正しい値を示さず運転状況の正確な把握に影響を与えたことは原告ら準備書面(140)で指摘したところであり、日本原燃が、起こりえないとか起こってもたいした影響がないなどと評価しても、それを信頼することは全くできない。
 日本原燃は、以上のように、再処理工場の危険の主要な部分であり、事故の進展が急速なものとなる危険性が高い主工程の事故、とりわけ原子力安全・保安院から評価するよう明示された地震による「TBPの錯体等による爆発」「臨界」「放射性物質・放射線の漏えい」に関する安全余裕、すなわち耐震裕度の評価・公表を回避し続けている。
 この日本原燃の態度自体、本件再処理工場において、主工程での大事故の危険性、とりわけ主工程での「TBPの錯体等による爆発」「臨界」「放射性物質・放射線の漏えい」に関する耐震裕度が日本原燃が公表できないほど小さいことを推認させるというべきである。

 3 日本原燃のストレステスト報告書の耐震裕度評価概要
 日本原燃のストレステスト報告書は、2で指摘したとおり、さまざまな言い訳をして本件再処理工場の大地震による大事故発生までの安全余裕、すなわち耐震裕度の評価を回避する姿勢をとり続け、最終的に耐震裕度を明示的に評価したのは、「安全冷却水系の機能喪失による放射性物質を含む溶液の沸騰」(甲E第107号証46〜51ページ)、「安全冷却水系(使用済燃料の受入れ施設及び貯蔵施設)及びプール水冷却系の機能喪失による燃料貯蔵プールにおける沸騰」(甲E第107号証58〜63ページ)、「ウラン・プルトニウム混合酸化物貯蔵建屋における貯蔵室からの排気系の機能喪失による混合酸化物貯蔵容器の過度の温度上昇」(甲E第107号証68〜71ページ)、「安全圧縮空気系の機能喪失による水素の爆発」(甲E第107号証76〜81ページ)の4ケースのみである。
 前3者が、原子力安全・保安院の指示の「放射性物質を含む溶液の沸騰」に関するもの、最後の1つが「水素、TBPの錯体等による爆発」(のうち「水素爆発」)に関するものである。
 日本原燃のストレステスト報告書は、「安全冷却水系の機能喪失による放射性物質を含む溶液の沸騰」については耐震裕度は最大加速度450ガルの基準地震動(Ss)に対して1.54〜1.74倍(甲E第107号証51ページ)、「安全冷却水系(使用済燃料の受入れ施設及び貯蔵施設)及びプール水冷却系の機能喪失による燃料貯蔵プールにおける沸騰」についてはSsに対して1.75倍(甲E第107号証62ページ)、「ウラン・プルトニウム混合酸化物貯蔵建屋における貯蔵室からの排気系の機能喪失による混合酸化物貯蔵容器の過度の温度上昇」についてはSsに対して1.50倍(甲E第107号証71ページ)、「安全圧縮空気系の機能喪失による水素の爆発」についてはSsに対して1.50倍(甲E第107号証80ページ)としている。

第3 安全冷却水系による冷却失敗への耐震裕度
 1 はじめに:安全冷却水系による高レベル廃液等の冷却とその失敗

 再処理工場においては、使用済燃料をせん断し核燃料と核分裂生成物を硝酸溶液中に溶解し、そこから核分裂性のプルトニウムとウランを抽出精製するが、その際それらの核分裂性のプルトニウムやウランとその他の核分裂生成物が主工程の貯槽・配管内に硝酸溶液または有機溶媒中に存在するとともに、大量の核分裂生成物と抽出しきれなかったプルトニウムやウランを含む硝酸溶液が高レベル放射性廃液として廃液の処理・貯蔵工程に滞留する。これらの核分裂生成物等を内包する溶液においては、核分裂生成物が崩壊熱を放出し続け、冷却をし続けなければ温度上昇し沸騰に至り、高温蒸気となってフィルタを損傷して施設外への放射性物質の放出に至ったり、蒸発乾固後の発熱により機器の損傷に至る危険も生じうる。
 本件再処理工場では、高レベル放射性廃液を内包する貯槽類を冷却するため、貯槽類の中を通した冷却コイル(伝熱管/細管)中に冷却水を循環させ(内部ループ)、この内部ループを循環する冷却水を中間熱交換器で外部ループの循環水により冷却し、外部ループの冷却水は冷却塔により冷却するという仕組みの「安全冷却水系」を設けている。
 この安全冷却水系の冷却機能の喪失原因としては、まず内部ループの構造損傷(内部ループの配管の損傷)が考えられる。この場合、高レベル放射性廃液を内包する貯槽類を直接冷却する冷却水自体が漏えいしてなくなるのであるから、高レベル放射性廃液を冷却することができなくなる。その他の安全冷却水系の機能喪失原因としては内部ループのポンプ等の動的機器が機能喪失することによって冷却水が循環しなくなる場合、電源喪失によりやはり冷却水が循環しなくなる場合、外部ループの構造損傷や動的機器の機能喪失によって外部ループによる内部ループ循環水の冷却ができなくなって結果的に内部ループの冷却水の温度が上昇して内部ループが冷却機能を失うに至る場合が考えられる。

 2 冷却失敗についての日本原燃のAM策の概要
 本件再処理工場においては、安全冷却水系の機能喪失に対するAM(アクシデントマネージメント)策、つまり重大事故防止対策としては、以下の6つのものが挙げられている(甲E第107号証49ページ)。
AM-@:運転予備用ディーゼル発電機からの給電
AM-A:電源車からの安全冷却水系への給電
AM-B:一般冷却水系からの給水
AM-C:使用済み燃料の受入れ施設及び貯蔵施設の安全冷却水系からの給電
AM-D:中間熱交換器バイパスによる冷却水供給
AM-E:消防ポンプによる冷却コイルへの直接注水
 これらのAM策のうち@とAは電源関係であり、配管等の構造損傷や動的機器の機能喪失に対するものはB〜Eである。電源関係の@Aを除いたAM策を日本原燃が図示したものが次の図である(青字は原告代理人による加筆)。

 これを見ると、内部ループの配管・機器の構造損傷については、日本原燃の挙げるAM策はいずれも効果がなく、後述のとおり内部ループの構造損傷以外では常に有効と評価されているEの消防ポンプによる冷却コイルへの直接注水も、内部ループの構造損傷では対策として有効性がない(注水しても損傷部分から漏えいしてしまい高レベル放射性廃液を内包する貯槽類を冷却できない)。

 3 内部ループの機器配管の構造損傷の耐震裕度
 2で指摘したとおり、内部ループの構造損傷の場合は、AM策は効果を持ち得ないので、内部ループを構成する貯槽類や配管自体の耐震裕度が、直接に「設計上の想定を超える事象」である「安全冷却水系の機能喪失による放射性物質を含む溶液の沸騰」に対する耐震裕度となる。
 日本原燃のストレステスト報告書は、例えば分離建屋内の高レベル放射性廃液を内包する貯槽類については、次の表のように評価している(甲E第107号証添付8.1.3.1-5(1/18))。

 高レベル廃液濃縮缶については、Ssによる発生値(基準地震動によりその機器に生じる力の計算値)と評価基準値(許容値)の比である「耐震裕度」は1.10であるのに「ミルシート適用」により1.80とされている。
 日本原燃のストレステスト報告書では、ガラス固化建屋内の高レベル放射性廃液を内包する貯槽類については、次の表のように評価されている(甲E第107号証添付8.1.3.1-5(6/18))。

 ここでも供給槽A、Bの耐震裕度は1.12であるのに「ミルシート適用」により2.38とされ、高レベル廃液混合槽A、Bの耐震裕度は1.24であるのに「ミルシート適用」により2.02とされている。

 ミルシートとは、機器の製造に使用された金属材料の材料試験証明書である。耐震裕度は、当該機器の許容値をSs(基準地震動)による発生応力値(Ssが生じた場合に当該機器にかかる力)の計算値で割ったものであり、ミルシートを使用することにより発生応力値に変化が生じる余地はないから、ミルシート適用により生じる耐震裕度の変化は「許容値」を通常の当該金属材料一般の規格値から現実に使用した材料の材料試験結果に変更することによるものである。
 プラント設計に長らく携わってきた川井康郎氏の経験上、材料試験結果が規格値から大きく外れることはなく、その差はせいぜい1〜2割程度である(甲E第105号証4ページ)。原子力施設においても、柏崎刈羽原発3号機の炉心シュラウドの鋼材のミルシートを見ても、材料試験結果は、降伏点(塑性変形開始点)で規格値の17%増し(規格値18に対して試験結果21kgf)、破断点で規格値の4%増し(規格値49に対して試験結果51kgf)にとどまる(甲E第108号証)

 日本原燃のストレステスト報告書が、「ミルシート適用」を理由に耐震裕度を高レベル廃液濃縮缶で1.10を1.80へと1.64倍(64%増し)、供給槽で1.12を2.38へと2.13倍(113%増し)、高レベル廃液混合槽で1.24を2.02へと1.63倍(63%増し)にしているのは、工業的常識から大きく外れており(川井意見書=甲E第105号証4ページ)、何らかの不正が行われている疑いが濃厚である。

 このミルシート適用を行わずに、本来の評価方法で内部ループの構造損傷に起因する「安全冷却水系の機能喪失による放射性物質を含む溶液の沸騰」の耐震裕度を評価すると、1.1〜1.2程度にとどまるものと考えられる。

 4 内部ループの機器配管の構造損傷以外の場合の耐震裕度
 日本原燃のストレステスト報告書では、評価対象とした内部ループの系統ごとに19の系統(分離建屋内の高レベル放射性廃液を内包する貯槽類5系統、精製建屋内の高レベル放射性廃液を内包する貯槽類2系統、ウラン・プルトニウム混合脱硝建屋内の高レベル放射性廃液を内包する貯槽類2系統、高レベル廃液ガラス固化建屋内の高レベル放射性廃液を内包する貯槽類10系統)について、内部ループの構造損傷を含めて全体として5つの「起因事象」とそれに対応するAM策の耐震裕度を評価し、その中で5つの起因事象別に起因事象とそれに対応するAM策の耐震裕度の最大値を採り、その5つの起因事象ごとの数値の最小値を当該系統の耐震裕度としている。
 日本原燃のストレステスト報告書の表(甲E第107号証添付8.1.3.1-6)はかなり理解しにくく、概念上の混乱があるように思える。
 日本原燃のストレステスト報告書の説明に従った評価方法により、川井康郎氏が、高レベルガラス固化建屋内の高レベル放射性廃液を内包する貯槽類の1系統であるKA−1−D−A系について整理して作表すると次のようになった(甲E第105号証4〜5ページ)。
《起因事象》
(aア):安全冷却水系内部ループ配管の構造損傷
(aイ):安全冷却水系外部ループ配管の構造損傷
(bア):第2非常用ディーゼル発電機の機能喪失
(cア):安全冷却水系外部ループ機器(冷却塔、ポンプ、電気盤等)の機能喪失
(cイ):安全冷却水系内部ループ機器(ポンプ、電気盤等)の機能喪失
《AM策》
AM@:運転予備用ディーゼル発電機からの給電
AMA:電源車からの安全冷却水系への給電
AMB:一般冷却水からの給水
AMC:使用済み燃料受け入れ施設及び貯蔵施設の安全冷却水系からの給水
AMD:中間熱交換器バイパスによる冷却水供給
AME:消防ポンプによる冷却コイルへの直接注水
 起因事象        AM策 最大裕度値 
 @
 aア  1.65   −  −  −   −   −     −  1.65
 aイ  1.50  −  −  −   −   −   影響なし  十分あり
 bア  1.66  <1.0  2.0   −   −   −   影響なし  十分あり
 cア  1.63  −   −  <1.0 <1.0   −   影響なし  十分あり
 cイ  1.50  −   −  −   −   2.09  影響なし  十分あり
“ - “はAM策の適用外を示す。
Eの「消防ポンプは地震の影響がないよう保管」するので地震の影響を受けない

 日本原燃のストレステスト報告書は、内部ループの構造損傷以外の起因事象については、起因事象の耐震裕度が1.50などと比較的低いもの(外部ループ配管の構造損傷、内部ループの動的機器の機能喪失)についても、それに対応するAM策が、特に消防ポンプによる直接注水が「地震の影響を受けない」と評価され常に機能するという前提となるので、結局はその起因事象に対する耐震裕度が十分ある(無限大)とされ、その机上の理論では絶対無敵のAM策である消防ポンプによる直接注水が使えない「内部ループの構造損傷」の耐震裕度を系統別に最も耐震裕度が低いものとして代表値としている。
 このように、日本原燃のストレステスト報告書は、内部ループの構造損傷以外の起因事象については耐震裕度が小さい部分があっても結局は「消防ポンプによる冷却コイルへの直接注水」により収束でき「消防ポンプは地震の影響がないように保管」するから地震の影響を受けないという宣言だけの同語反復により耐震裕度が十分あることにしてこれを無視し、内部ループの構造損傷については耐震裕度が小さい部分を「ミルシート適用」により工業的な常識ではあり得ないほどのかさ上げをし、その結果として、「安全冷却水系の機能喪失による放射性物質を含む溶液の沸騰」については耐震裕度は最大加速度450ガルの基準地震動(Ss)に対して1.54〜1.74倍(甲E第107号証51ページ)としているものである。
 川井康郎氏が、上記の日本原燃の数字のマジックないしトリックというべき消防ポンプによる冷却コイルへの直接注水とミルシート適用等の本来の耐震裕度評価を外れた方法を採らずに上記のKA−1−D−A系について整理して作表すると次のようになった(甲E第105号証5〜6ページ)。
 起因事象        AM策 最大裕度値 
 @
 aア  1.12   −  −  −   −   −   −  1.12
 aイ  1.15  −  −  −   −   −   −  1.15
 bア  1.42  <1.0  2.0   −   −   −   −  2.0
 cア  1.46  −   −  <1.0 <1.0   −   −  1.46
 cイ  1.08  −   −  −   −   2.09  −  2.09

 以上のように、本件再処理工場の「安全冷却水系の機能喪失による放射性物質を含む溶液の沸騰」についての耐震裕度は、消防ポンプによる冷却コイルへの直接注水という作業員の積極的対応が適切に行われるという楽観的な期待に依存せず、「ミルシート適用」による粉飾をしなければ、最大加速度450ガルの基準地震動に対してさえ、1.1ないし1.2程度しかないものである。

第4 水素爆発に対する耐震裕度
 1 再処理工場における水素爆発の危険

 再処理工場においては、核分裂性物質を溶液状態で取り扱うため、臨界による連鎖的爆発的な核分裂反応を引き起こす危険があるとともに、核分裂性物質、核分裂生成物が常時崩壊し(その際に発生する熱が崩壊熱であり、核分裂性物質、核分裂生成物は常時自己発熱している)、その際に発生する放射線によって水が分解され水素が発生する。この水素が貯槽等に滞留すると水素爆発に至る危険があるので、本件再処理工場では、水素が発生しやすい貯槽類に安全圧縮空気系から空気を送って水素を貯槽外に押し出し(掃気し)ている。この安全圧縮空気系が機能喪失すると、水素爆発に至る危険がある。

 2 水素爆発に対する日本原燃のAM策の概要
 水素爆発に対する日本原燃のAM策は下図のとおりであり(青字は原告代理人による加筆)、安全冷却水系の機能喪失の場合と同様、水素掃気対象機器や水素掃気配管の構造損傷についてはAM策は存在しない。他方それ以外の起因事象については、可搬式の「エンジン付き空気コンプレッサーからの圧縮空気供給」が理論上万能の対策となっている(川井意見書=甲E第105号証6ページ)。

 3 水素掃気対象機器や水素掃気配管の構造損傷の耐震裕度
 水素掃気対象機器及び配管に構造損傷を生じた場合、対応するAM策はなく、これらの構造損傷に対する耐震裕度が、そのまま水素爆発の危険に対する耐震裕度となる。
 日本原燃のストレステスト報告書では、分離建屋内の機器配管について次の表のように評価している(甲E第107号証添付8.1.3.4-4(2/7))。

 同様に精製建屋内の機器・配管については次の表のように評価している(甲E第107号証添付8.1.3.4-4(3/7))。

 ここでは水素掃気配管の構造損傷の耐震裕度が1.16であるのに「ミルシート適用」で2.37へと2.04倍(104%増し)にかさ上げされていることが注目される。
 高レベルガラス固化建屋内の水素掃気対象機器については、次の表のように評価されている(甲E第107号証添付8.1.3.4-4(4/7))。



 このように、水素爆発に対する耐震裕度も、ミルシート適用による工業的常識に反する粉飾をしない限り、本件再処理工場の耐震裕度は、最大加速度450ガルの基準地震動にたいして1.1ないし1.2程度にとどまるものである。

第5 最大加速度700ガルへの引き上げ
 日本原燃は、被告からの指摘を受けて、2016年2月19日の適合性審査会合において、本件再処理工場の基準地震動を最大加速度700ガルに引き上げることを了承し、その旨の説明をしている。
 そうすると、日本原燃は、具体的な基準地震動の策定と耐震評価で最大加速度はスパイク状(時刻歴波形で細い線が髭状に一本だけ飛び出した格好)にしたり、耐震評価上厳しくなる周波数(固有振動数)を外したり、耐震評価がブラックボックスとなっていたり「機微情報」と称して情報公開を回避できるのをいいことに、本準備書面で指摘した「ミルシート適用」に類似したさまざまな手法を駆使して、それでもなお最大加速度700ガルの基準地震動に耐えられるという評価結果を出すであろうが、ごく常識的な評価方法を採用する限りは、「ミルシート適用」等の粉飾後でさえも最大加速度450ガルの基準地震動に対して1.5倍程度の耐震裕度しかない本件再処理工場は、最大加速度700ガルの基準地震動に対して耐えられるはずがない(川井意見書=甲E第105号証3ページ)。

第6 まとめ
 以上のとおり、本件再処理工場は、日本原燃のストレステスト報告書によっても、耐震裕度は最大加速度450ガルの基準地震動に対して1.5倍程度しか耐震裕度がなかったのであるから、最大加速度700ガルの基準地震動に耐えられるはずがなく(耐えられるという評価が出てくればその評価こそがおかしい)、また日本原燃のストレステスト報告書を検討すればその耐震裕度は「ミルシート適用」と称して工業的常識を遥かに超えたかさ上げを行い、消防ポンプによる冷却コイルへの直接注水が常に適切に行われるという楽観的な想定を前提とするものであるから、本来的な評価をすれば最大加速度450ガルの基準地震動に対してもほとんど耐震裕度がなかったものであるから、ましてや最大加速度700ガルの基準地震動に耐えられるはずがないものである。

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