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  ◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆
   崩壊熱除去解析の誤り

  再処理工場と高レベル放射性廃棄物貯蔵施設で崩壊熱除去解析が誤っていることがわかりました。

  提出した準備書面の内容に若干手を加えて掲載します。(提出した準備書面は再処理工場と高レベル放射性廃棄物貯蔵施設で分けてあり、また証拠書類の番号が記載されています。ここではそれを省き一体にしました)

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  はじめに

 六カ所高レベル放射性廃棄物貯蔵施設の増設部分(B棟)及び再処理工場の高レベル廃液ガラス固化建屋(KA建屋)、第1ガラス固化体貯蔵建屋・東棟(KBE建屋)、第1ガラス固化体貯蔵建屋・西棟(KBW建屋)において安全審査の前提とされた崩壊熱除去解析に誤りがあり、ガラス固化体中心温度が安全審査で認められた温度を大きく超えることが判明した。
 これは、すべての施設について事業許可・事業指定処分(正確にはいずれも変更許可処分)がなされ、再処理工場のKA建屋、KBE建屋については設計及び工事方法の認可も終了して建設も終了し、高レベル放射性廃棄物貯蔵施設B棟及び再処理工場KBW建屋について設計及び工事方法の認可審査中の2005年1月14日に、原子力安全保安院が日本原燃に解析のやり直しを指示して発覚したものである。解析の誤りは事業変更許可の安全審査では全く指摘されることなく素通りし、2施設については設計及び工事方法の認可でも指摘されることなく素通りしていた。
 日本原燃が2005年1月28日に公表した崩壊熱の除去解析の再評価結果報告書によれば、解析の誤りはおよそ信じがたいような初歩的で明白な誤りによるものであった。
 後述するように、これらの施設の安全審査では崩壊熱除去解析によりガラス固化体中心温度等が一定の温度以下であることを理由として貯蔵等に対する考慮が妥当なものとしている。従って、その前提となる解析に誤りがあった以上、安全審査の判断自体にも看過しがたい過誤・欠落があったといわざるを得ない。
 また、安全審査書は、いずれもこれらの誤った崩壊熱除去解析について「これらの評価は、適切な計算方法及び計算条件により行われており、妥当なものであると認められる。」などとしている。このことは安全審査を行った行政庁及び原子力安全委員会の調査・審議の過程に看過しがたい過誤・欠落があったことを示しており、またその審査能力にも根本的な疑問を投げかけている。
 いずれにしても、上記の崩壊熱除去解析の誤りの存在及びそれを見過ごしたことから、本件安全審査に看過しがたい過誤・欠落があったことは明らかというべきである。

  設計変更の経緯

 これらのガラス固化体貯蔵施設においては、放射線の遮蔽のために冷却空気の流路に迷路板を設ける必要がある。高レベル廃棄物貯蔵施設の第1期工事分及び再処理工場の当初の設計では、この迷路板が入口シャフト及び出口シャフトの垂直部分に2枚ずつ設けられていたが、高レベル放射性廃棄物貯蔵施設の増設部分と再処理工場の設計変更では貯蔵ピット直近の水平部分に入口部・出口部ともに3枚の迷路板が設けられることとなった。この設計変更により冷却空気が短い区間で著しく流路を折り曲げられることとなり、冷却空気流量が大きく変わることとなった。それにもかかわらず、日本原燃は、変更前の設計とほとんど同じ冷却空気流量があるという前提での崩壊熱除去解析を行い、その結果にもとづいて安全審査が行われたのである。
 高レベル放射性廃棄物貯蔵施設においては、2001年7月30日付でB棟(ガラス固化体1440本分)の増設を内容とする事業変更許可申請がなされ、2003年5月に1次審査が終了し、2003年11月17日原子力安全委員会の答申(安全審査書)が出され、2003年12月8日変更許可がなされた。
 再処理工場においては、1996年4月26日付の変更許可申請の際に第1ガラス固化体貯蔵建屋のガラス固化体貯蔵設備の冷却風路の変更がなされ、1996年12月に1次審査が終了し、1997年7月14日原子力安全委員会の答申(安全審査書)が出され、1997年7月29日変更許可がなされた(なお再処理工場のガラス固化体貯蔵建屋・西棟については収納管の間隔を縮めるためにさらに2001年7月17日付で変更許可申請が行われ、最終的には2002年4月18日変更許可がなされている)。

  安全審査における「貯蔵等に対する考慮」

 高レベル放射性廃棄物貯蔵施設については、原子力安全・保安院の1次審査の安全審査書は、「発熱量2kWのガラス固化体が貯蔵ピットに全数収納された代表的な状態でガラス固化体の冷却を評価しており、この時の最も高温となる最上段のガラス固化体温度の計算値は表面で約280℃、中心部で約410℃となるとしている。また、上記の貯蔵条件下でガラス固化体の温度上最も厳しいのは、2.5kWのガラス固化体1本を収納管に収納した状態であるが、この時のガラス固化体温度の計算値は表面で約320℃、中心部で約470℃となるとしている。」(4頁)「これらの評価は、適切な計算方法及び計算条件により行われており、妥当なものであると認められる。」(5頁)としている。同じく原子力安全委員会の2次審査の安全審査書は、「貯蔵ピットに発熱量2kWのガラス固化体が全数収納された代表的な状態でのガラス固化体の冷却を評価し、最も高温となる最上段に設置されたガラス固化体の表面温度及び中心温度は、それぞれ、約280℃及び約410℃となるとしている。」(12頁)「なお、ガラス固化体の温度上最も厳しくなる、2.5kWのガラス固化体1本を収納管に収納した状態で評価し、ガラス固化体の表面温度及び中心温度は、それぞれ、約320℃及び約470℃となるが、その後の他のガラス固化体の収納によってガラス固化体温度は低下するとしている。」(13頁)「以上のことにより、本変更における貯蔵ピットでのガラス固化体の貯蔵時の冷却に対する考慮は、妥当なものであるとしている。これらの評価は、適切な計算方法及び計算条件により行われていることを確認した。」(13頁)「以上のことにより、本変更における貯蔵等に対する考慮は、妥当なものと判断する。」(13頁)としている。
 このように、高レベル放射性廃棄物貯蔵施設のB棟増設に関する事業変更許可の安全審査は、ガラス固化体温度が崩壊熱除去解析に示された温度通りであること、その解析の計算方法及び計算条件が適切であることを直接に前提としている。
 再処理工場については、旧科学技術庁の1次審査の安全審査書は「変更後において、貯蔵ピットに2.3kWのガラス固化体が全数収納された状態でのガラス固化体の中心温度及び表面温度は、それぞれ、高レベル廃液ガラス固化建屋については約420℃及び約260℃、第1ガラス固化体貯蔵建屋については約430℃及び約280℃と変更前と変わらず、ガラス固化体から発生する崩壊熱に対し、適切な冷却機能を有している。」「したがって、本再処理施設の貯蔵等に対する考慮は、変更後においても妥当なものと判断する。」としている。原子力安全委員会の2次審査の安全審査書は、「変更後において、貯蔵ピットに2.3kWのガラス固化体を全数収納した状態でのガラス固化体の中心温度及び表面温度は、それぞれ、高レベル廃液ガラス固化建屋については約420℃及び約260℃、第1ガラス固化体貯蔵建屋については約430℃及び約280℃と変更前と変わらず、ガラス固化体から発生する崩壊熱に対し適切な冷却機能を有する設計とする。」「以上のことから、本再処理施設の貯蔵等に対する考慮は、変更後においても妥当なものと判断する。」としている。
 このように再処理工場の設計変更の際の再処理事業変更許可の安全審査は、ガラス固化体温度が崩壊熱除去解析に示された温度通りであることを直接に前提にしている。

  崩壊熱除去解析の誤り

 ところが、日本原燃が2005年1月28日に公表した崩壊熱の除去解析の再評価結果報告書によれば、安全審査の前提となった崩壊熱除去解析では迷路板部での冷却空気の圧力損失の評価方法を誤り、その結果、冷却空気の流量の評価を誤り、その結果としてガラス固化体温度の評価を誤っていた。日本原燃が発表した誤りを訂正した再評価値では、ガラス固化体中心温度は、高レベル放射性廃棄物貯蔵施設B棟で500℃、再処理工場ガラス固化建屋(KA建屋)で463℃、再処理工場第1ガラス固化体貯蔵建屋・東棟(KBE建屋)で519℃、第1ガラス固化体貯蔵建屋・西棟(KBW建屋)で624℃である(13頁)。
 前述の通り、高レベル放射性廃棄物貯蔵施設のB棟増設にかかる事業変更許可の安全審査も、再処理工場の設計変更にかかる事業変更許可の安全審査もガラス固化体の温度が崩壊熱除去解析の通りであることを直接に前提としているのであるから、この崩壊熱除去解析が誤りであった以上、安全審査の判断に看過しがたい過誤・欠落があったというほかない。

  解析の誤りの原因

 加えて、日本原燃が発表した崩壊熱の除去解析の再評価結果報告書によれば、誤りの原因は、迷路板部での圧力損失に関する式の適用に当たって式に入力する冷却空気の平均流路断面積(S)及び管径(Ds)の解釈を誤ったことにあるとされている(4〜5頁、15頁)。平均断面積は「流量÷断面積」によって流速を算出するために用いられており、迷路板部での圧力損失を計算しようとしているのであるから、迷路板によって流路が狭くなっている部分の断面積を用いるべきことは誰の目にも明らかであるが、安全審査の前提となった崩壊熱除去解析では迷路板のない一番広い部分の断面積が用いられたという。管径は冷却空気の曲げの角度を算出するために曲げ方向の長さ成分を出す際に用いるのであるから、曲げ方向の流路長さであることは誰の目にも明らかであるが、安全審査の前提となった解析では曲げ方向と直交する高さ方向の長さを入れた相当直径が用いられたという。いずれの点も式の意味から考えれば、およそ考えがたいほど初歩的で明白な誤りである。
 このことは、日本原燃にはおよそ解析など行う能力がなく、技術的能力に欠けることを意味している。そして、旧科学技術庁、原子力安全・保安院、原子力安全委員会ともに、この程度の初歩的で明白な誤りさえチェックできないレベルの審査しかしていないのである。それにもかかわらず、「これらの評価は、適切な計算方法及び計算条件により行われていることを確認した。」などということが平気で安全審査書に記載されているのである。
 以上の点からも、日本原燃には技術的能力がないことが明らかであり、また安全審査の調査・審議の過程に看過しがたい過誤・欠落があったことが明らかである。

  まとめ

 日本原燃の発表した崩壊熱の除去解析の再評価結果報告書には、なお疑問が残り、未だに発表されていない真実があるかも知れない。
 しかし、現時点までに明らかになったことだけによっても、少なくとも、安全審査が直接に依拠していたガラス固化体温度が誤りであった以上、安全審査の判断に看過しがたい過誤・欠落があったことが明らかであり、また解析の初歩的で明白な誤りを見過ごした以上、安全審査の調査・審議の過程に看過しがたい過誤・欠落があったことが明らかである。そして解析に初歩的で明白な誤りがあったことは、使用済み燃料プール問題に引き続き、日本原燃の技術的能力の欠如を示しているというべきである。

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