庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

   ◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆

 低レベル放射性廃棄物処分場1審判決を読んで

 青森地方裁判所第2民事部は、2006年6月16日、六ヶ所低レベル放射性廃棄物処分場の事業許可取消訴訟について住民側の請求を棄却する判決を言い渡しました。

  原告適格について

 青森地裁判決は、六ヶ所村在住の16名の原告についてだけ訴えを起こす資格(原告適格:げんこくてきかく)を認め、それ以外の原告については原告適格がないとして門前払いしました。
 この原告適格についての判断は、これまでの原子力施設に関する裁判の中で最も原告の範囲を狭くしたものです。そして、これまでの原子力施設に関する裁判の中で、原告適格を施設から原告居住地の距離によってではなく行政区画で区切ったのは、青森地裁のウラン濃縮工場についての1審判決とこの判決だけです。何故か青森地裁では放射性物質は村境で止まると考えているようです。他の全ての判決は行政区画ではなく施設からの距離で原告適格を判断しています。この判決の他に行政区画で原告適格を判断した唯一の判決だったウラン濃縮工場の1審判決(原告適格を六ヶ所村とその隣町の横浜町の住民に限定しました)は、つい1月ほど前の5月9日、控訴審の仙台高裁判決で、行政区画で判断するのはおかしいとして施設から20km以内という距離で原告の線引きを直されています。
 そして、行政事件訴訟法は、危険・迷惑施設の周辺住民の原告適格の判断の基準について、処分がその根拠となる法令に違反してされた場合の被害を考慮して判断することと定めています。つまり、原子力施設について言えば、安全審査が誤っていた場合にどのような被害が起こりうるかを考慮しなければならないということです。ところが、青森地裁判決は、安全審査での被曝評価を引用して、それを根拠に廃棄物処分場の潜在的危険性が低いとして原告適格を認める範囲を判断しています。この青森地裁の判断は、明らかに安全審査が正しいことを前提にしていますから、行政事件訴訟法に違反した判断です。
 この青森地裁判決の原告適格に関する判断は、全体として狭すぎる点で不当なものですが、少なくとも行政区画によって判断したことと安全審査の被曝評価が正しいことを前提としていることの2点では、過去の裁判例や法律に明確に反するもので、全く非常識なものです。

  地震・地盤問題について

 六ヶ所低レベル廃棄物処分場の敷地には、敷地内に少なくとも2本の断層(f−a断層、f−b断層と呼ばれています)が走っています。事業者の日本原燃(当時は原燃産業)はこの断層に関するデータを隠してきました。判決は、日本原燃のデータ隠しについては、原告の主張を認めました。
 「確かに@原燃産業は、(略)、多数の箇所でボーリング調査をしながら5孔の地質柱状図しか公表していないこと(略)、A本件廃棄物埋設施設内にある2本の断層に近い位置にある5−c孔(f−b断層に最も近い)、D−5孔(f−a断層に最も近い)、2−d孔(f−a断層に2番目に近い)の各地質柱状図が掲げられていないのは不自然であること、B(略)f−b断層近くの4−b孔では掘進長がわずか約16mにすぎず、斜めになっているf−b断層に届く手前でボーリング掘進が中止されたかのようになっており、D−5孔でもあとわずかの掘進によりf−a断層に到達するのにその手前で柱状図が途切れているのは極めて不自然であること(略)、Cこれらについて本件訴訟において被告から合理的な説明がないことからすると、原燃産業は地盤条件が相対的に良好な5孔のみの地質柱状図を意図的に選んで掲げ、しかも4−b孔についてはf−b断層に、D−5孔についてはf−a断層に、それぞれ到達する手前で柱状図を切って公表したのではないかという合理的な疑いがある。」(判決144頁。証拠や文書の引用部分を省略しました)、「確かに、原燃産業は、最初の本件事業許可申請の際には、既に2本の断層の存在を認識していたにもかかわらず、『地盤については、本施設を設置する基礎地盤は全体に砂岩・凝灰岩類であり、過去に地すべり、陥没の発生した形跡はなく、本施設に影響を与えるような断層も認められない。』などと申告し、2本の断層(f−a断層及びf−b断層)の存在を隠していたから(略)原告らが不信感を抱くのも自然なことである。」(判決146頁)
 このように、青森地裁判決は、日本原燃が断層隠しのためにボーリングデータを意図的に隠蔽し、申請書にも嘘を書いたことを認定しました。しかし、判決は、安全審査では他のデータも検討され、申請書も補正の時に断層のことが書かれたから問題ないとしています。
 しかし、原子力施設という危険性のある施設を、このような嘘つき業者に操業させること自体問題があります。JCOという嘘つき業者に原子力施設を操業させたことで臨界事故を引き起こしたことの教訓はどこに行ったのでしょうか。
 低レベル廃棄物処分場の耐震設計は、一般産業施設並みのレベルで、六ヶ所沖の海底活断層による地震等の大きな地震を想定していないことなどについて、この判決は、安全審査での放射性物質の長期の漏洩の被曝評価を挙げて、「仮に大地震により埋設設備が損傷し、その閉じ込め機能が破壊されたといった場合においても、一般公衆の受ける線量当量が著しく大きくなることは考えにくい」(判決152頁)として、正当化しています。
 この判決の根底には、低レベル放射性廃棄物処分場の危険性を甘く見る考えがあります。低レベル放射性廃棄物処分場には、かなり大量の放射性物質があります。それがセメントなどで固化されている(固められている)分漏洩しにくくはなっていますが、ゴミですからどの程度きちんと固化しているか疑わしいものです。現にドラム缶から液だれが生じていたりしているものが時々見つかっています。
 それに加えて、安全審査で出されている長期の被曝評価は、長期間たってコンクリートピットがひび割れして意味がなくなったときの評価ですから、コンクリートピットの閉じこめ機能がないことは前提にしていますが、周囲の地盤は健全なものであることを前提にしています。大地震で埋設設備が損壊する場合は周囲の地盤にもひびや割れ目が生じることになります。ですから、この場合に安全審査で行った長期の被曝評価を持ってくるのは、見当違いです。

  地下水の問題について

 低レベル廃棄物処分場は、放射性廃棄物を詰めたドラム缶をコンクリートピットに並べて埋めてしまう施設ですから、長期的にはコンクリートピットもドラム缶も腐食し放射性物質が出てきます。そのとき地下水の流れが速いと、早期に放射性物質が人間の居住する環境に再度放出されることになります。その意味で、地下水位の変化があるところや地下水の流速の速いところに処分場を立地するのは不適切です。
 地下水位の変化については、アメリカの基準では地下水位の変動領域にはいかなる場合にも放射性廃棄物処分場の立地は許可されません。日本での基準について安全審査を担当した証人は口を濁しましたが、地下水位の変動領域への設置が望ましくないことは認めています。地下水位の観測データは、安全審査で1988年3月までのデータのみが提出されました。安全審査は1990年10月まで続いていたのに、何故か1988年4月以降の地下水位のデータは全く提出されていないのです。六ヶ所低レベル放射性廃棄物処分場は不思議なことに地下水位の変動領域の下側に立地されました。常に地下水に浸っていることで安定しているというのです。さて、その地下水位は1988年3月まで一貫して低下傾向にありました。そうするとその後さらに地下水位が低下して地下水位の変動領域が低レベル放射性廃棄物処分場の高さ(深さ)に達する危険性があります。この点について判決は、原告らが指摘した地点についてコンクリートピットの上端の高さが標高35m、1988年3月時点のその地点の地下水位が標高38mであるのに、1987年3月から1988年3月の1年間の地下水位の低下が約1mで1986年6月から1987年10月の1年4ヵ月の地下水位の低下が約3mだったのと比べると水位低下の速度が半分以下に鈍化していることから、その後も地下水位が低下し続けて標高35m地点まで下がるとは考えがたいとしました(判決158頁)。低下速度が鈍ってもなお1年間に約1mも低下していること、その後低下が止まっていれば日本原燃が観測データを出していないはずがないことを考えれば、判決の認定はかなり疑問です。
 地下水の流速が速い「水みち」ができているのではないかとの点については、判決は、「f−a断層及びf−b断層に沿って割れ目が存在し、その割れ目部分が連続しており、水が通りやすくなったいわゆる『水みち』が存在しているのではないかという疑いがないわけではない」(判決159頁)としながら、最終的には「断層部分に沿って透水係数の大きい部分が部分的に存在していることまでは認められるものの、それらの透水係数の多い断層部分が全て連続していわゆる『水みち』(地下水の浸透路)になっているとまで認めることはできない」(判決160頁)としました。
 その上で判決は、仮に「水みち」が形成されているとしてもその水は尾鮫沼に流れ込むから被曝量は大きくならないと安全審査が述べていることを理由に「水みち」についての住民の主張を退けています(判決160〜161頁)。放射性物質の漏洩が多くなっても沼に垂れ流せばいいという考えには、やはり疑問があります。
 この判決は、このほかにも、管理建屋に航空機が墜落した場合の大事故の危険性についても、航空機の墜落確率が低くこの施設の潜在的危険性が低いから航空機事故の評価の条件に不適切なものがあっても許されるという判断も示しています(判決183〜184頁)。大地震で破壊されても一般公衆の被曝は著しく大きくなることは考えにくいとか、地下水から漏洩しても沼に流れていけばいいとかいうこととあわせて、全般にこの施設の危険性について、かなり甘く見ている判決というしかありません。
 原子力施設というのは、こんなにお手軽に評価してよいものなのででしょうか。

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