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  ◆活動報告:原発裁判(柏崎刈羽原発運転差し止め訴訟)◆

更新弁論/福島原発事故の教訓
    
 福島原発事故でわかったことは、原発を推進する者たちは、もっともらしい計算や解析をして、大事故が起こる確率はきわめて小さいと言い、十分な安全対策をしているから大事故は防止できると言い、それは一見理論的にはそうかなと思えてしまうこともあるのですが、実はそれがまったく当てにならないということです。

 福島原発事故前、電力会社や政府機関の評価では、炉心損傷頻度は、100万炉年に1回未満とされていました。ここに示すのは電力会社の評価を原子力安全・保安院が取りまとめたものです。
 「炉年」は1つの原子炉を1年間運転して1炉年。E-07は1000万分の1、E-08は1億分の1です。
 これはBWR(沸騰水型軽水炉)についての一覧表ですが、福島第一原発も含めて炉心損傷頻度は、軒並み100万炉年に1回未満、それぞれの原発では100万年に1回未満しか炉心溶融など起こらないとされていたのです。

 福島原発事故前の2010年末で、IAEA(国際原子力機関)のデータによれば、世界の商業用原発の運転経験は1万4353炉年でした。
 福島原発事故の時点で、私たち人類の原発運転経験はトータルで1万4500炉年足らずでした。
 その間に、スリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故、そして福島第一原発1号機、2号機、3号機と、私たち人類は5回もの商業用原発での炉心溶融事故を経験しました。
 そうすると、炉心溶融事故の実績は2900炉年足らずに1回となります。
 計算では100万炉年に1回未満、実績では2900炉年に1回以上。計算と実績が3桁も違うのです。
 2900炉年に1回というと、頻度が低いように思えるかも知れませんね。しかし、福島原発事故当時、世界には440基もの原発がありましたから、このペースで原発事故が起これば、6.5年に1回も、世界中のどこかで炉心溶融事故が起こる、そんな恐ろしい頻度なのです。

 福島原発事故で爆発した福島第一原発1号機の安全審査書にはこのように書かれていました。福島原発事故で起こった電源喪失事故の記載を抜き出してあります。電源喪失事故が起こっても十分な対策があるから大事故は起こらないと書かれています。
 また、1年間の放射線被ばく線量が50mSvとか長期的に見て年間20mSvが避難のめやすとされていますから、福島第一原発1号機の安全審査での評価では「技術的見地からは起こるとは考えられない仮想事故」を仮定して評価してさえ敷地外の最大被ばく線量は7mSvにしかならない、つまりどんな大事故が起こっても住民が避難するような事故にはなり得ないとされていたのです。それが、福島原発事故では、その避難基準で、20数万人が強制的に避難させられ、その後も10数万人が避難を続けています。

 私たちが福島原発事故から学ぶべきことは、計算上確率が低いと評価されてもまったく当てにならず、大事故は起きるということ、書類上の審査で理論上十分に大事故は防げるとされてもまったく当てにならないということです。
 被告(東京電力)は、原告ら(周辺住民)の主張は被告の事故防止対策を踏まえておらず失当であると、毎回この法廷で繰り返し述べています。本日の被告準備書面(52)でも「原告らの主張は、被告が上記の炉心損傷防止対策を講じていることを踏まえず、本件原子力発電所7号機において実際に炉心損傷が発生し、圧力容器内に水素が大量に発生するとするその前提において失当である」としています。
 福島第一原発1号機でも、当時は十分な炉心損傷防止対策を講じていたとされていたのに、それでも炉心溶融、水素爆発が発生したのです。
 被告の主張は、その事実から目を背け、今なお、福島原発事故前の論理と手法で、安全だと繰り返すもので、福島原発事故から何一つ学んでいないものというべきです。

 福島原発事故の原因の多くは事故から10年経った今でもなお解明されていません。新潟県技術委員会は、津波以外の原因による電源喪失の可能性、地震による配管損傷の可能性は否定できないと結論づけています。また、福島原発事故での水素爆発の原因、水素の発生量、漏洩経路、漏洩量等はいまだに解明されていません。被告は本日の被告準備書面(52)では、水素の発生は炉心溶融が生じて燃料被覆管のジルコニウムと水が反応して生じたことなど多くのことがわかっているなどとして「一部未解明」に過ぎないなどと強弁していますが、水素の大量発生が炉心溶融と水-ジルコニウム反応によるなど当たり前のことで、現実の水素発生量や漏洩経路、漏洩量などの重要なことはいまだに何一つわかっていないのです。
 このような状態では、被告が福島原発事故の再発防止対策と称して講じた対策が有効かどうかは不明というほかありません。
    

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