庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  ◆活動報告:原発裁判(柏崎刈羽原発運転差し止め訴訟)◆

原告準備書面(84)
 
本件原発における水素爆発対策の不備
ここがポイント
 福島原発事故では原子炉建屋で水素爆発が発生し、原子炉建屋を破壊しました。この水素爆発の経緯、発生した水素の量や水素の漏洩経路、水素の漏洩の速度、着火源などは、福島原発事故後10年が経過した今でも、ほとんど何も解明されていません。
 福島原発事故ではオペレーティングフロア(原子炉建屋の最上階)以外でも(最上階の下のフロアでも)水素爆発が発生しているのに、東電は柏崎刈羽原発で水素を処理する装置等をオペレーティングフロア(それも上部ではない壁際)のみに設置するとしています。
 福島原発事故では格納容器ベントが行われた(成功した)1号機と3号機でベントの後に水素爆発が発生していて(他方、ベントに失敗した2号機では水素爆発に至りませんでした)、ベントが水素爆発を促進した可能性もいまだ否定できていません。それなのに東電は水素漏洩を検知したら格納容器ベントをする、それが水素爆発対策だというのです。
 東電が柏崎刈羽原発で行うという水素爆発対策は、有効性が確認できていないというだけでなく、対策の内容が不合理で対策になっているか自体疑問です。
    
 基本的に裁判所に提出した準備書面のままですが、一部解説を差し込んだり、表現を変えた部分もあります。 
第1 はじめに
 原告らは,2015年12月2日提出の原告ら準備書面(39)において,「福島原発事故については,今なお,その事故原因,事故経過の多くが未解明であり,被告が福島原発事故の教訓をもとに実施したないし今後実施すると主張する対策が有効と評価できるか否か自体が今なお不明であるといわざるを得ない」ことを指摘し,その一環として,「福島原発事故の際に発生した水素爆発の経過及び原因はまったく解明されていないのであるから,被告主張の安全対策に効果があるのか自体,評価できない。そして,福島原発事故において水素爆発が原子炉建屋最上階のみならず,その下の階でも発生している以上,原子炉建屋最上階のみを対象とする被告主張の安全対策はピント外れであり,有効とはいえない」ことを指摘した(同準備書面10〜11ページ)。
 被告は,本訴において,原告らの準備書面(39)に対しては未だに反論をしていない。
 このような状況の下で,最近になって,新潟県技術委員会,さらには原子力規制委員会において,水素の漏洩経路や水素を含む漏洩ガスの挙動に関連して,被告の従前の推定等と異なる知見が現れているが,被告は従前の不合理な対策を根本的に見直すことなく再稼働を進めようとしている。
 本準備書面においては,福島原発事故における水素爆発に至る経緯が未だにいかに解明されていないかを改めて確認し,被告主張の水素爆発対策が不合理であり水素爆発を防止できないことを論じる。
第2 福島原発事故における水素爆発に至る経緯の未解明状況
 1 被告による「未解明問題の検討」報告書

 被告は,福島原発事故について2012年6月20日に報告書を公表した後,「福島第一原子力発電所1〜3号機の炉心・格納容器の状態の推定と未解明問題に関する検討」と題する報告書を5回にわたり公表しているところ,現時点で最新のものは2017年12月25日に公表された(第5回進捗報告)。
 この第5回進捗報告においても,課題リスト共通−11の「原子炉建屋の水素爆発について」は,「これら原子炉建屋の水素爆発は,主にジルコニウム−水反応で発生した水素が,蒸気とともに最終的に原子炉建屋へ漏えいし,水素爆発に至ったものと推定されるが,その水素発生量や漏えい経路について明らかにする必要がある。」とされており(第5回進捗報告添付2−12ページ),水素発生量や漏洩経路については未だ解明されていないことを自認している。


第5回進捗報告添付2−12ページより抜粋

 この第5回進捗報告において,被告は,1号機については「主に水−ジルコニウム反応で発生した水素が,蒸気とともに最終的に原子炉建屋へ漏えいし,水素爆発に至ったものと推定される。その漏えい経路や量,爆発の様相,着火源について完全に特定することは困難であるが,爆発の特徴については明らかとなった。(共通−11:検討完了(添付資料1−10))」と記載している(第5回進捗報告15ページ)が,この「資料1−10」における検討はもっぱら水素爆発が原子炉建屋4階でも発生したという見解に否定的な解析を行っただけで,水素爆発が仮に5階でのみ発生したとする場合でもその水素の漏洩経路も,時間を追った漏洩量も,着火源も何一つ特定できない代物である。
 2号機については,第5回進捗報告においても,「2号機で水素爆発が発生しなかった原因としては,ブローアウトパネルや天井の穴を通して水素が漏えいした可能性,水素の発生自体が1,3号機と比較して少なかった可能性が考えられるが,前述の強制減圧後の原子炉圧力の上昇時に水−ジルコニウム反応による水素が大量に発生していると考えられることから,2号機で水素爆発が発生しなかった原因としては,水素が爆発する前に原子炉建屋から漏えいしたことによる可能性が大きいと考えられる。ただし,水素発生後の水素の原子炉から原子炉建屋への漏えい挙動については現時点では解明されていないため,今後の検討が必要である。(2号機−13:検討中(添付資料2−9))」とされており(第5回進捗報告31ページ),水素の漏洩挙動が何ら解明されていないことを被告も自認している。
 3号機については,第5回進捗報告においても,「その後,3月14日11時01分,原子炉建屋で水素爆発が発生し,最上階から上部全体と最上階1階下の南北の外壁が破損した。主に水−ジルコニウム反応で発生した水素が,蒸気とともに最終的に原子炉建屋へ漏えいし,水素爆発に至ったものと推定されるが,その漏えい経路や量,爆発の様相,着火源については不明であり,検討が必要である。(共通−11)」とされており(第5回進捗報告46ページ),水素の漏洩経路,漏洩量,爆発の様相,着火源等,すべてがまったく未解明であることを被告も自認している。
 このように,被告は,福島原発事故から10年が経過した現在もなお,福島原発事故において発生した水素爆発の経緯,とりわけ水素の漏洩経路,時間を追った水素の漏洩量(漏洩の速さ),着火源等については,何一つ解明できていないのである。
 2 新潟県技術委員会の指摘
 新潟県技術委員会は,被告立ち会いの下で8年余にわたり議論を重ね,1号機については,被告の解析とは反対に「爆発起点は5階よりも4階の可能性が高い」と結論づけ(福島第一原子力発電所事故の検証報告書9ページ),さらに水素の漏洩経路について圧力容器主フランジ部から格納容器内への漏洩及びこれに伴う格納容器最上部の主フランジのシール機能の喪失という新たな経路の可能性があることを指摘した(福島第一原子力発電所事故の検証報告書11ページ)。
 後者について,新潟県技術委員会は,「炉心が溶融している状態にあっては,炉心からの輻射で原子炉圧力容器(RPV)の温度が設計温度を大きく超えて上昇し,それに伴い植込みボルトの温度も同程度の温度になっていたと考えられる。そのような状況下では,植込みボルトの内部に『高温クリープ』による永久ひずみが生じ,そのため植込みボルトの初期締め付け力が低下する『ストレスリラクゼーション』(応力緩和)が起こり,その結果RPV主フランジのシール機能が失われ,当該フランジ部から原子炉内部の水素や放射性物質を含むガス,水蒸気などが,高圧のまま格納容器の頭頂部付近に噴出したのではないか。」「RPV主フランジからの高温ガスの噴出は,近傍に位置する原子炉格納容器上蓋部フランジのシール機能を維持していたシリコンゴム製Oリングを短時間で破損させた可能性がある。確認されているコンクリート製ウェルプラグの上方へのずれは,原子炉格納容器上蓋部フランジから漏れた高温の水素ガスがウェルプラグ直下に堆積し,自然発火によれ爆発したためではなかったか。」(福島第一原子力発電所事故の検証報告書11ページ)としており,水素爆発が5階で発生した場合において,被告が従前想定していたものとは異なるシナリオを提供している。

 3 原子力規制委員会の指摘
 原子力規制委員会は,2021年3月5日,福島原発事故に関して,改めて現地調査を行った上で,「東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間とりまとめ案」を公表した(同日の第19回東京電力福島第一原子力発電所における事故の分析に係る検討会提出版)。
 その中で原子力規制委員会は,非常用ガス処理系配管の汚染状況について,現地調査の結果,2号機の配管の方が1号機の配管よりも汚染の程度が高い,フィルタトレイン(フィルタを格納した容器)は1号機の方が2号機より汚染の程度が高い,1号機・2号機共用排気筒は底部の汚染の程度が高いことが確認された(「東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間とりまとめ案」12ページ)が,さまざまなシミュレーションを試みても「観測された配管系の汚染状況を発生させたメカニズムを十分には理解することができなかった」としている(同14ページ)。
 また,この報告書の中で原子力規制委員会は,確認されたフィルタの汚染状況から「1号機及び3号機のいずれにおいても,自号機への相当量のベントガスの逆流があったと判断する。」(同16ページ),「1号機への自号機逆流は2号機への流入量の数倍になると評価される。」「ベントガス中のCsと水素の量などは判明していないが,有意な量の水素がベント時に1号機に逆流した可能性がある。」(同17ページ)とも指摘している。
 さらに,この報告書では,3号機の水素爆発が単純な非常に短時間での爆発ではなく「多段階事象」であったという新たな見解が示されている(同22〜26ページ)。
 このように,福島原発事故時の水素及び放射性物質を大量に含む漏洩ガスの挙動については,事故後10年を経てなお新たな事実が確認され,しかもその際の現実のメカニズム,漏洩ガスの挙動が未だにわからないのである。
 ベントガスの逆流については,原告らが原告ら準備書面(39)で「福島原発事故では,1号機では3月12日14時30分から50分にかけて格納容器ベントの成功が一応確認されたところ,同日15時36分に原子炉建屋で水素爆発が発生した。3号機では,3月13日9時24分に格納容器ベントが実施され,3月14日6時10分にもベント操作がなされベント弁の開放が確認された(ただしドライウェル圧力の低下は確認されなかった)ところ,同日11時01分に原子炉建屋で水素爆発が発生した。2号機では,現在までラプチャーディスクの破壊が確認できず,ベントが成功したという証拠はない。2号機では水素爆発は発生していない。このような事態の下,次項で述べるように福島原発事故においては,水素爆発の経緯及び原因はまだまったく解明されていない。そうすると,自然的な前後関係を考えれば,格納容器ベントが水素爆発に何らかの影響を及ぼしている可能性は否定できない。」として,ベントがむしろ水素爆発を促進した可能性さえ否定はできないのであるから,格納容器ベントを水素爆発対策と位置づけることには疑問があることを指摘していた(同準備書面10ページ)ことの正しさを示唆するものとさえ言えよう。

第3 本件原発7号炉における水素爆発対策
 被告が,新潟県技術委員会において,圧力容器主フランジ部からの水素漏洩の可能性の指摘を受けて,本件原発7号炉で実施することを説明している対策(格納容器破損防止対策及び水素爆発対策)は,@原子炉水位が燃料の下端より10%に到達した時点で逃がし安全弁の手動操作により原子炉を減圧する,A格納容器主フランジのシール材を改良するとともに,格納容器頂部に手動で注水して(注水をする基準は明示されていない)格納容器トップフランジを冷却する,B原子炉建屋最上階(オペレーティングフロア:本件原発7号炉においては地上4階)に静的触媒式水素再結合装置を56台設置する,C水素濃度計により格納容器からの水素の顕著な漏洩が検出されたら(オペレーティングフロアの水素濃度が2.2%または格納容器内の酸素濃度が4%に達したら)格納容器ベントを実施するの4点である(柏崎刈羽原子力発電所の安全対策について15ページ)。


柏崎刈羽原子力発電所の安全対策について15ページ

第4 被告の対策の不合理性
 1 原子炉の減圧について

 被告の対策は,原子炉水位が燃料下端から10%に達したら,逃がし安全弁を手動で開放して原子炉を減圧し,圧力容器の主フランジ部が過圧によりシール機能を失ってそこから大量の水素が漏洩することを防止するという目的のものであるが,これは第1に原子炉水位が正しく計測できることを前提とし,第2に逃がし安全弁が事故時に手動開放できることを前提とするものであり,第3に圧力容器主フランジ以外からの漏洩については意味がないものである。
 福島原発事故においては原子炉水位計が誤った水位を指示していたものであり,原子炉水位計については福島原発事故後も特段の改良はなされていないから,原子炉水位計が事故時に正しい水位を計測することは期待できない。
 福島原発事故時には,1号機では逃がし安全弁が作動しなかったとみられており(福島第一原子力発電所事故の検証報告書9ページ),2号機及び3号機では当初手動操作可能であったが,その後手動操作ができなくなった。
 被告の対策は,このような福島事故時に機能しなかった装置に依存するものであり,しかも自動ではなく運転員の積極的操作を前提とするものであって,対策としての信頼性がかなり低いものといわざるを得ない。
 また,圧力容器を含む系統(圧力バウンダリ)に配管の損傷その他の何らかの開口部を生じて漏洩した場合については,漏洩をいくぶん緩和する効果はあっても漏洩を防止する効果はないものである。

 2 格納容器頂部注水等
 格納容器フランジのシール材の改良は,改良されてもしょせん樹脂製のもので耐用温度が若干高くなるとしても,200℃に耐えられるというにすぎない。炉心溶融が生じた場合の圧力容器の過熱,それによる輻射熱にさらされ続けた格納容器の温度が200℃に止まることは到底期待できず,この対策は,格納容器頂部が注水冷却されることとセットでしか対策として意味はない。
 そして,格納容器頂部への注水は,運転員による積極的操作により行われるものであり,福島原発事故時には結局は功を奏さなかった消防車による注水等を期待するものであり,やはり対策としての信頼性は低いというべきである。
 また,水素の性質上,格納容器内に水素が大量に漏洩すれば,格納容器主フランジのシール機能がそれなりに維持されたとしても,漏洩量,漏洩速度を緩和することはできても,漏洩を完全に防止することはできない。
 そして,この対策も,格納容器内に漏洩した水素が格納容器最上部の主フランジから漏洩する場合以外の漏洩に対してはまったく効果がない。


柏崎刈羽原子力発電所の安全対策について5ページ

 3 静的触媒式水素再結合装置
 被告は,静的触媒式水素再結合装置56台をオペレーティングフロア上部に設置するとしている。
 しかし,まず静的触媒式水素再結合装置はもともと原子炉の通常運転時に水の放射線分解により発生する水素への対策のための装置であり,徐々に発生する水素を酸素と結合させて水にするものであって,短時間に大量に発生する水素への対応を予定していない。
 その上,被告は,これをオペレーティングフロア上部ではなく,またオペレーティングフロア内のあちこちにでもなく,広大なオペレーティングフロアの壁に設置するというのである。


柏崎刈羽原子力発電所の安全対策について17ページ

 これでは水素がゆっくりと滞留する場合であっても,静的触媒式再結合装置近傍を通らないまま天井付近に滞留して爆発に至る危険がある。
 また,水素が徐々にオペレーティングフロアに漏洩するのではなく,比較的高濃度高温の水素が比較的急速に流入した場合,均一に拡散することなく爆発に至る危険があり,その場合にも静的触媒式再結合装置による処理ができず,また爆発前に十分な処理ができない危険がある。
 また,被告は,水素爆発対策の要と位置づけるこの装置を最上階であるオペレーティングフロア(本件原発7号炉では4階)にのみ設置し,他のフロアへの設置を予定していない(柏崎刈羽原子力発電所の安全対策について17ページ左図では,まるで格納容器外は一体で床や天井,内壁等がないかのように見えるが,実際は床や内壁により空間が区分されている:下図参照)。


設置変更許可申請書断面図から作成

しかし,福島原発1号機においても4階での水素爆発があったと考えられ(甲A第42号証9ページ),また少なくとも福島原発3号機ではオペレーティングフロア(福島原発では5階)のみならずその1階下の4階でも水素爆発が発生したことは被告も争わない事実である。そして,前述したように,未だに福島原発3号機の水素爆発に関しての水素の漏洩経路も漏洩量も着火源もまったく解明されていないことは被告も自認しているのである。それなのにどうして被告は,本件原発ではオペレーティングフロア以外には水素爆発対策が不要だと断じているのだろうか。
 結局,触媒式水素再結合装置による水素爆発対策は,水素がオペレーティングフロア以外に滞留して爆発する場合はまったく効果がなく,水素がオペレーティングフロアに滞留する場合でも壁際のみに設置されるために,水素の漏洩箇所,漏洩する水素の濃度・温度・漏洩速度によって効果がない恐れがある。

 4 水素漏洩検知と格納容器ベント
 被告は,水素濃度計を設置してそれにより格納容器からの有意な水素の漏洩を検知したら手動で格納容器ベントを実施するとしている。


柏崎刈羽原子力発電所の安全対策について27ページ

 被告の説明資料を見ると,水素濃度計は,格納容器内では何故か上部ではなく下部に設置されることとなっている(柏崎刈羽原子力発電所の安全対策について27ページ左下図)。水素は軽い気体であるから格納容器内に漏洩すれば通常は格納容器内上部に滞留する。格納容器内に漏洩した水素を検知するなら,当然水素濃度計は格納容器内の上部に設置するべきであるのに,被告はそうしないでいる。これでは格納容器内の水素漏洩を有効に検知できないことが明らかである。
 格納容器外の水素濃度計は,オペレーティングフロア以外では,やはり格納容器外の上部ではなく,格納容器のドア・ハッチ付近に設置される(柏崎刈羽原子力発電所の安全対策について27ページ右下図)。
 ドアやハッチは格納容器貫通部であり漏洩しやすい箇所ではあるが,水素が漏洩するときにドアやハッチを通るとは限らない(ドアやハッチが開いていれば当然にまずドアやハッチから漏洩するであろうが,原子炉運転中は当然ドアやハッチは閉めている)。被告も,2011年12月2日に公表した「福島原子力事故報告書(中間報告書)」では,福島原発事故の際の格納容器からの水素漏洩箇所としては,主フランジとドアやハッチとともに電気ケーブル等の貫通部(電気ペネトレーション)を想定していた。


福島原子力事故調査報告書(中間報告書)80ページ

 それにもかかわらず,被告は本件原発7号炉での水素濃度計設置箇所として電気ケーブル等の貫通部(電気ペネトレーション)をまったく選択しないというのである。被告の対策は,いかにも形だけ何かやったように見せかけるだけのものであり,被告自身が福島原発事故での漏洩を想定したところさえカバーしない驚くほど手抜きのものである。
 いずれにしても,被告が本件原発7号炉に設置するとしている水素濃度計は,格納容器のドアやハッチを経由しないで格納容器外の原子炉建屋のオペレーティングフロア以外のフロアに漏洩した水素をまったく検知できない。

 そして被告は格納容器から水素が漏洩していることを検知したら格納容器ベントを実施するというのであるが,一方で被告は福島原発2号機ではベントに失敗し,3号機でも4回行ったベントのうち2回は失敗したとみられている。格納容器ベントが水素爆発対策であるとした場合,やはりその信頼性はかなり低いといわざるを得ない。
 他方,前述したように,格納容器ベント後のベントガスの逆流の水素爆発への影響はまだまったく解明されていない。福島原発事故においては,ベントの実施がむしろ水素爆発を促進した可能性も残されているのである。そのような,水素の漏洩経路,漏洩量等の水素爆発に至る経緯が未解明の段階で,格納容器ベントを水素爆発対策とすること自体,到底合理性を有するものではないというべきである。
第5 まとめ
 以上に述べたとおり,福島原発事故における水素爆発の経緯,とりわけ水素の漏洩経路,漏洩の量や速さや着火源,さらにはベントガスの逆流の水素爆発への影響が,事故後10年を経た現在でもまったく解明されていないことから被告が本件原発で実施するという水素爆発対策の合理性は担保されておらず,また被告の対策の内容自体を見ても水素爆発防止のために合理的とは考えられない。
 よって,被告が本件原発7号炉において実施するという水素爆発対策は不合理であり,本件原発は十分な安全性を有するものとは言えないから,本件原発の運転は許されるべきではない。
    
(2021.5.25記)

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