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活動報告:原発裁判
柏崎刈羽原発運転差し止め訴訟

Tweet  はてなブックマークに追加 柏崎刈羽原発運転差止訴訟 庶民の弁護士 伊東良徳

 柏崎刈羽原子力発電所は1号機から7号機までの7基の原子炉があり合計電気出力821万2000kWに及ぶ世界最大の原発でしたが2007年7月16日の中越沖地震で被災して全機停止に至り(中越沖地震直後の様子は「中越沖地震後の柏崎刈羽原発に行ってきました」を見てください)、その後3年あまりをかけて7号機、6号機、1号機、5号機と運転再開をしました(中越沖地震から3年8か月近く経っても2号機、3号機、4号機は運転再開できない状態でした)が、東日本大震災・福島原発震災を経て、全号機停止しています。
 この東日本大震災・福島原発震災後の2012年4月23日、柏崎刈羽原発全号機について、改めて周辺住民の人格権に基づく運転差し止め訴訟が新潟地裁に提起されました。第1回口頭弁論期日は2012年7月12日に行われました。
 私は、2012年の前半は、国会事故調の協力調査員なるものをやらされていたので、この裁判には、訴状から名前は連ねていましたが、訴状作成や第1回口頭弁論には関わっておらず、第2回口頭弁論(2012年10月15日)から実働しています。
 2024年3月28日の口頭弁論(第43回)では、原告の吉田隆介さんが能登半島地震の実情から見ても避難計画(特に屋内退避)が非現実的であることなどについて意見陳述を行い、能登半島地震により活断層に関する知見の不足、基準地震動の甘さ、活断層の連動、大規模な地盤の隆起などさまざまな点から柏崎刈羽原発の立地や耐震性に不備があることを指摘する準備書面2通と、同様に能登半島地震の実情から実効性ある避難計画はできないことを指摘する準備書面を陳述し、取水口の鉄筋の配筋図を東電が提出拒否し続けていることに関する求釈明を行いました。被告東京電力は、敷地内及び敷地近傍の断層の活断層性についての原告側の前回の準備書面に対する反論の準備書面と東京電力は周辺住民の事故時の被ばくを1mSv以下にする義務はないなどとする準備書面を陳述しました。
 次回は2024年7月17日午後3時から第44回口頭弁論が行われます。次回は裁判長の交代に伴い、双方がこれまでの主張の概要を説明する更新弁論を行う予定です。

  私が担当した主張 

更新弁論/福島原発事故の教訓:第33回口頭弁論期日(2021年7月29日)で説明
 福島原発事故でわかったことは、原発を推進する者たちは、もっともらしい計算や解析をして、大事故が起こる確率はきわめて小さいと言い、十分な安全対策をしているから大事故は防止できると言い、それは一見理論的にはそうかなと思えてしまうこともあるのですが、実はそれがまったく当てにならないということです。

更新弁論/福島原発事故の教訓

本件原発における水素爆発対策の不備:第32回口頭弁論期日(2021年5月24日)で主張
 福島原発事故では原子炉建屋で水素爆発が発生し、原子炉建屋を破壊しました。この水素爆発の経緯、発生した水素の量や水素の漏洩経路、水素の漏洩の速度、着火源などは、福島原発事故後10年が経過した今でも、ほとんど何も解明されていません。
 福島原発事故ではオペレーティングフロア(原子炉建屋の最上階)以外でも(最上階の下のフロアでも)水素爆発が発生しているのに、東電は柏崎刈羽原発で水素を処理する装置等をオペレーティングフロア(それも上部ではない壁際)のみに設置するとしています。
 福島原発事故では格納容器ベントが行われた(成功した)1号機と3号機でベントの後に水素爆発が発生していて(他方、ベントに失敗した2号機では水素爆発に至りませんでした)、ベントが水素爆発を促進した可能性もいまだ否定できていません。それなのに東電は水素漏洩を検知したら格納容器ベントをする、それが水素爆発対策だというのです。
 東電が柏崎刈羽原発で行うという水素爆発対策は、有効性が確認できていないというだけでなく、対策の内容が不合理で対策になっているか自体疑問です。

原告準備書面(84)

関連ページ:柏崎原発の水素爆発対策について規制庁に聞いてみました
福島原発事故における電源喪失原因と配管損傷:第31回口頭弁論期日(2021年1月25日)で主張
 福島原発事故について、原告らは、この裁判の初期から@福島第一原発1号機A系の非常用交流電源喪失の原因は津波ではない、AIC(非常用復水器)配管等の重要配管が地震により損傷した可能性があるということを主張し、東京電力はこれを否定する主張をしてきました。新潟県技術委員会は、8年余の検討を経て2020年10月26日に発表した報告書で、いずれの点についても、原告らの主張が正しい可能性を否定できないと結論づけました。
 これらの点で原告らの主張が正しければ、福島原発事故をすべて想定外の津波に帰そうとする東電や原子力規制委員会の姿勢は誤りで、現在東電が行い原子力規制委員会が安易に認めた重大事故対策が拙速であり福島原発事故の再発を防ぐために十分とは言えないことになって、現状での再稼働は許せません。

原告準備書面(80)

緊急時対策所の欠陥と被告の主張の信用性:第19回口頭弁論期日(2017年5月18日)で主張
 重大事故対応の要と位置づけられる免震重要棟が、柏崎刈羽原発では大地震(基準地震動)に耐えられないため使用できなくなり、その結果唯一の緊急時対策所となった5号炉原子炉建屋内緊急時対策所には重大な欠陥があり、結局柏崎刈羽原発にはまともな緊急時対策所がないということになりました。荒浜側防潮堤が大地震時には液状化に耐えられないことが発覚した(原告準備書面(52))ことと合わせ、東京電力の重大事故対策の根幹部分が破綻しています。これらの経緯から見ても、東京電力には重大事故対策の立案・実施能力がなく、重大事故対策全般の有効性に疑問が生じます。また、東京電力が免震重要棟の耐震性についても虚偽説明を続けていたことから、東京電力の主張の信用性に強い疑問が生じます。

原告準備書面(53)

本件原発での重大事故の危険性 格納容器バイパスLOCA :第16回口頭弁論期日(2016年8月3日)で主張
 福島事故後の大事故対策の最終防衛ラインは格納容器(格納容器を破裂させないようベントやフィルタベントが予定されている)ですが、格納容器を貫通する配管は多数あり、それが破断して隔離(隔離弁閉止)に失敗すれば、放射性物質も水素も容易に格納容器外に放出されてしまいます。電源喪失等によって破断部の隔離ができない状態が続けば、炉心溶融と水素爆発に至り、水素爆発の起こり方によっては使用済み燃料プールの損傷の危険があり、炉心溶融+プール燃料溶融というとんでもない大事故に至る危険があります。

原告準備書面(46)

被告主張の安全対策と福島原発事故原因の未解明:第13回口頭弁論期日(2015年12月24日)で主張
 東京電力は、「福島原発事故から得られた教訓をもとに」と称して柏崎刈羽原発の安全対策を論じていますが、福島原発事故の経緯や原因がいまだに十分に解明されていないのに、その対策が大事故を防止できるのか、大事故の際に有効に働くのかをどうして判断できるのでしょう。福島原発事故の現場での調査・検査と原因解明をおざなりにして柏崎刈羽原発の再稼働を口にすることは許されないというべきです。

原告準備書面(39)

被告の津波対策懈怠について:第10回口頭弁論期日(2015年3月5日)で主張
 設計水位(福島第一原発1〜4号機ではO.P.+5.6m)を超える津波が襲来すれば敷地高(福島第一原発1〜4号機ではO.P.+10m)未満でも海水ポンプが機能喪失して、短期的にはしのげても長期的には炉心損傷に至る可能性があり、敷地高を超える津波が襲来すれば炉心溶融事故が避けられないことは、福島原発事故以前から当然にわかっていました。そして敷地高を超えるような大津波が来る可能性があることが何度も指摘され、原子力安全・保安院サイドから度々対策を求められていたにもかかわらず東京電力は対策を取らずに放置していました。福島原発事故は、被告が主張するような「想定外の津波」によるものではなく、予想されていた津波に対して被告が対策を怠ったことによる人災と考えるべきです。

原告準備書面(32)

福島原発1号機のIC配管の損傷:第6回口頭弁論期日(2013年12月16日)で主張
 福島原発1号機の原子炉建屋では4階で激しい損傷があり、5階大物搬入口の蓋が閉められていたため4階の損傷は5階での爆発による爆風によるものではあり得ず、その5階大物搬入口の蓋がどこかに吹き飛ばされたことや4階大物搬入口の北側安全柵の変形・移動方向などから、4階でも水素爆発が発生したことはほぼ確実です。水素爆発が発生するためには相当量の水素が漏洩して酸素(大気)と混合することと水素温度が発火温度まで高まるか着火源があることが必要ですが、原子炉から原子炉建屋4階に直結している非常用復水器(IC)配管が4階部分で損傷していればこれらの条件をクリアすることが容易です。他方、IC配管以外のルートでの水素漏洩では、漏洩量の点でも温度の点でも原子炉建屋4階での爆発の条件を満たすことはかなり困難と考えられます。このような事実から、福島原発1号機では、水素爆発より相当前にIC配管の損傷が生じていたと考えられ、その損傷は地震が原因だと考えるのが合理的です。
原告準備書面(17)
国会事故調調査妨害事件と被告の信用性:第4回口頭弁論期日(2013年5月16日)で主張
 国会事故調は福島原発1号機原子炉建屋4階で地震によって配管が破損したのではないかと疑い、現地調査をさせるように東京電力に要請しました。これに対し東京電力の窓口であった玉井俊光企画部部長は、今は建屋カバーをつけたので真っ暗だと虚偽説明をして国会事故調の現地調査を断念させました(この問題については東京電力はどこまで嘘つきなのか/国会事故調調査妨害事件で詳しく説明しています)。東京電力が設置した「第三者検証委員会」によれば、玉井企画部部長は、建屋カバーの外観を見て光を通さないと思い込み、それを誰にも確認せず、上司にまったく相談せずに国会事故調に説明したそうです。まったく信じられませんが、仮にその見解によるとすると、玉井企画部部長は技術者としてはもちろん一社会人としても根本的に資質に欠ける人物ということになります。さて、東京電力がこの裁判で、福島原発事故を踏まえて本件原発(柏崎刈羽原発)で行った/これから行う対策は、企画部部長となる前は柏崎刈羽原発技術総括部長だった玉井氏が担当し、それを新潟県技術委員会でも説明していたものです。東京電力とその「第三者検証委員会」がいうとおりだとすれば、無能で資質に欠ける人物ということになる玉井氏が担当していた本件原発の対策はそれだけで信用できないということになると思われます。
 法廷では、準備書面の陳述の後、「裁判官は、いくら何でも裁判所を騙そうとはしないだろうと、心のどこかで思っているだろうと思います。私は、この事件の時は国会事故調の調査員として業務に当たっていて、振り返ってみれば、当時、いくら何でも国会を騙そうとはしないだろうという心の緩みがありました。そうすると、騙されるんです。現に私は東京電力に騙されました。裁判所も、心してかかってください」と述べました。

原告準備書面(10)

福島原発1号機の地震による配管等損傷:第3回口頭弁論期日(2013年2月4日)で主張
 福島原発1号機で炉心溶融が生じたことは疑いありませんが、この炉心溶融が生じるためには炉心の冷却水が、本来その中にとどまっているべき「圧力バウンダリ(圧力容器・配管等)」から漏洩して炉心の水位が下がることが必要です。東京電力・旧保安院・政府事故調・原発推進派は、逃がし安全弁が作動して蒸気が放出されて水位が下がったために圧力バウンダリの損傷なく炉心溶融に至ったと主張しています。しかし、国会事故調が運転員に対して行ったヒアリングの結果、2号機と3号機の運転員は逃がし安全弁の作動音を聞いているのに、1号機の運転員は、電源喪失後は中央操作室は人の話し声以外は音がしない状態でとても静かだったのに、誰1人として逃がし安全弁の作動音を聞いていません。逃がし安全弁の作動で炉心溶融に至るためには少なくとも数十回は逃がし安全弁が作動する必要があります。この事実から逃がし安全弁は1号機では作動していないことが明らかです。それでも炉心溶融が生じたということは、炉心溶融に先立って圧力バウンダリが損傷してそこから冷却水が漏洩したと考えるほかありません。他にもいろいろと1号機での配管損傷を示唆する事実はありますが、あれこれ言うまでもなく、この事実だけでも、1号機で炉心溶融前に配管等の損傷が生じたことは、論理的に明らかです。

原告準備書面(4)

福島原発事故津波原因説の誤り:第2回口頭弁論期日(2012年10月15日)で主張
 福島原発事故で致命傷となった全交流電源喪失の原因は、少なくとも1号機については津波によるものではない(津波到達前に1号機は全交流電源喪失に至った)こと、この件に関して東京電力は原発の延命のためには平然と嘘をつく会社であり東京電力の主張は信用できないことを論じています。
 基本的に「福島原発全交流電源喪失は津波が原因か(その2)」と同じ主張ですが、1号機に的を絞り、たぶんこれまで書いた中で一番整理されていますので、裁判所に提出したものと同じものをpdfで提供します(38ページ5MB以上あって重いけど)。
原告準備書面(1)

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