庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

   ◆活動報告:原発裁判(JCO臨界事故)◆

  4 規制当局の巡視状況

  4.1 はじめに

 3で述べたように、JCOでは、転換試験棟に限らず、主要施設である第2加工施設棟、第1加工施設棟でも、長年にわたり、違法操業を行い続けてきた。市民の立場からは、このような違法操業は、規制当局の巡視等により発見されることを期待したいところである。しかし、科学技術庁による立入調査は、かつては年1回程度行われていたが、JCOの違法操業を全く発見・指摘することなく、1993年以降は調査自体行われなくなっていた。動燃東海再処理工場の事故や不祥事を受けて杜撰操業をチェックするために設けられた運転管理専門官も、月1回程度巡視はしていたが、設備の腐食や錆、故障等は指摘していたものの、違法操業については発見・指摘することはなかった。
 その背景には、巡視の日を予告し、巡視対象も予告したり事業者と話し合って決めるという馴れ合い検査であったことがある。以下に詳述するようにJCOは事前に巡視対象施設を事前パトロールして違法操業の隠蔽を準備し、虚偽説明の想定問答を作って対応していた。そしてそのような事情を規制当局は見抜くことができずあるいは見抜こうという意思がなかった。

  4.2 保安規定遵守状況調査

 科学技術庁による保安規定遵守状況調査は次の8回行われ、1993年以降は行われないままになっていた。

 1984年3月15日
 1985年4月9日
 1987年1月21日
 1988年6月2日
 1989年8月1日
 1990年7月16日
 1992年1月23日
 1992年11月26日

 この保安規定遵守状況調査の日、第1加工施設棟は1988年6月2日以外は全て操業中、第2加工施設棟は全て操業中であった。他方、転換試験棟は1987年1月21日のみ操業中で他は操業していなかった。
 保安規定遵守状況調査については、刑事記録上も具体的な内容の記録が出されていないので不明であるが、JCOにおいて日常的に行われていた違法操業を発見・指摘することはなかった。

  4.3 運転管理専門官による巡視

   4.3.1 概説

 動燃の再処理工場アスファルト固化処理施設火災・爆発事故を始めとする一連の不祥事への反省から1998年に東海原子力施設運転管理専門官事務所が設けられた。この運転管理専門官による巡視は、1998年4月からほぼ月1回行われていた。
 運転管理専門官の巡視は、加工施設(JCO、三菱原子燃料株式会社、原子燃料工業株式会社)については木曜日に行われ、JCOについては、原則として毎月第1木曜日に行われていた。
 現実の実施日は次の通りである。
 1998年4月16日
 1998年5月21日
 1998年6月4日
 1998年7月30日
 1998年9月3日
 1998年10月1日
 1998年11月5日
 1998年12月3日
 1999年1月7日
 1999年2月4日
 1999年3月4日
 1999年4月8日
 1999年6月3日
 1999年7月29日
 1999年9月9日
 なお、次回は1999年10月7日に予定されていた。

 しかし、JCO側が作成した議事録やJCO側の立会者が当日JCO幹部に報告した電子メールの記録を見ても、第1回の巡視(1998年4月16日)で「保安規定遵守状況調査を本庁が行っているので、記録類は個人的には見ようとは考えていない」と発言し(JCO側からこのごろは保安規定遵守状況調査はやっていないと指摘されると「エーやらなきゃいけないのかな」と驚いていた)、「通常、書類は確認しない。もし行うときは何を見たいのか予めこちらから言う」「動燃のように細かく見る気はない。運転状況を把握することを目的としており、細かくやるつもりはない。」「なるべく手間をかけないように実施しようと考えている。あまり、手間をかけると不満が出てくるだろうから。」「動燃には細かいこと、例えば金のかかることまで言っている。加工にはそこまで言う気はない。」と発言するなど厳しく巡視する姿勢は始めからなかった。そして、結局、違法操業について発見・指摘することはなかった。
 以下の記述は専らJCO側が作成していた議事録とJCO幹部社員の電子メールの記録によっている。電子メールの保存状況が時期により波があるように思われ、電子メールの記録のない時期は詳細でない。

   4.3.2 第1回巡視

 第1回の巡視は1998年4月16日午前8時45分から午後1時30分にかけて行われ、第1加工施設棟、UF6保管棟、第2粉末保管棟、転換試験棟、廃棄物保管棟を巡視した。
 運転管理専門官は4.3.1で紹介したような発言をしている。
 この第1回の巡視前JCO側では3日前に下見して社内で問題点を確認しそれに対し、第1加工施設棟では当日製品缶が40缶床置きすることになり問題だがよい解決方法がない、「品管棟分を送ります。設備のほとんどが設工認を受けていません。今後どうするか検討が必要です。」等の反応があったが、第1加工施設棟の製品缶は巡視中は第2加工施設棟に運び込み、品質検査棟は巡視対象とならなかった。
 なお、この第1回の巡視では転換試験棟にも入り、JCO側の記録では全ての部屋を見せたとされているが、操業中ではなかったので、運転管理専門官の発言としては、ダストモニターが動いていない(操業していないため)こととフィルターボックスについてこれは何かと質問したことが記録されているだけである。
 巡視終了後、JCOの担当者は、運転管理専門官の「東海運転管理官としては記録類等よりも施設の運転状況を把握しておきたい、あまり施設側に迷惑をかけるつもりはない」との発言や、巡視対象の選び方(どちらかと言うと古い施設を視察した)、「あら探しをするという姿勢は特になく動燃には金がかかっても厳しく言っているが民間には金がかかるからと改善指摘のようなものはなかった」などを三菱原子燃料株式会社、原子燃料工業株式会社の担当者に情報交換として電子メールで報告している。

   4.3.3 第2回巡視

 第2回の巡視は1998年5月21日午前8時45分から午前11時50分にかけて行われ、粉末保管棟、第2加工施設棟を巡視した。
 JCO側ではやはり3日前に立会者が事前パトロールして社内で問題点を指摘し、5月21日午前8時までに対応を終えるように電子メールで指示していた。
 運転管理専門官からはスクラップ缶のウラン濃縮度の表示で設計から外れたもの(UNK=Unknown)を実態と関係なく9.99%とか0.00%としているのは疑問だとの点及び分析室で閉め切られたフード前にウラン溶液入りのビーカーが放置されていた点について指摘があったが、施設等については特段の指摘はなかった。
 次回の巡視については運転管理専門官からJCOは第1週か第2週の木曜日である、都合が悪ければ予め連絡してくれてもよい、調整すると発言があった。

   4.3.4 第3回巡視

 第3回の巡視は1998年6月4日午前8時45分から午前10時にかけて行われ、第2加工施設棟内で核的及び熱的制限値を持つ設備(つまり臨界事故や火災・爆発事故の可能性がある設備)を巡視した。
 この巡視の前に三菱原子燃料株式会社の担当者からJCOの担当者に運転管理専門官の三菱原子燃料株式会社への巡視の報告の電子メールがあり、JCOの担当者から社内に回覧された。
 JCO側では巡視の1週間前に担当者が事前パトロールして問題点を指摘していた。
 前日、運転管理専門官から「制限値を設定している設備について現場で説明して欲しい。動燃で用事ができたため巡視は1時間程度を予定。時間がないので第1加工施設棟、第2加工施設棟どちらでもよい。」と連絡があり、JCOの担当者は、製造グループと打ち合わせをして第2施設加工棟を巡視させることに決めた。当初巡視する予定だった廃棄物処理棟、品質検査棟は巡視しないことになった。
 運転管理専門官からは管理方法と表示について細かい質問がなされ、JCO側で説明して終わった。

   4.3.5 第4回巡視

 第4回巡視は1998年7月30日午前8時45分から午前11時にかけて行われ、第1加工施設棟内で核的及び熱的制限値を持つ設備について行われた。
 運転管理専門官は、8月は来ない、9月からはJCOは第1木曜日に来ると発言した。 巡視内容は第3回とほぼ同じであった。
 巡視終了後、運転管理専門官から「茨城県から廃棄物の調査依頼が来ているはずだが、布告した報告書をFAXでよいから送って欲しい。」との話があり、JCO側は廃棄物の問題に触れられたくなかったため、予備に予定していた日本照射サービスに案内して、それ以上の話をさせないようにした。

   4.3.6 第5回巡視

 第5回巡視は1998年9月3日午前8時45分から午前11時にかけて行われ、転換試験棟の核的及び熱的制限値のある設備、これまで巡視していなかった施設(固体廃棄物処理棟及び品質検査棟)を巡視した。
 品質検査棟では運転管理専門官から湿式分析室のフードが青いビニールで養生されているのを見て「フードは設工認に載っているのか」という質問がなされ、JCO側は「載っている」と説明した。
 転換試験棟は操業していない時期であり、JCO側はしゃあしゃあと加水分解から沈殿まで1バッチで管理していると1バッチ縛りを実行しているように説明している。

   4.3.7 第6回巡視

 第6回巡視は1998年10月1日午前8時45分から午前11時にかけて行われ、第1加工施設棟内の空間線量率測定ポイント、工程の説明、周辺監視区域空間線量率ポイントを巡視した。
 第1加工施設棟加水分解室で床に水が溜まっていることについて、実際には冷却配管からの結露であったが、JCO側は床掃除の水であると虚偽の説明をした。
 第1加工施設棟については工程順に説明したが、特段の質問はなかった。

   4.3.8 第7回巡視

 第7回巡視は1998年11月5日午前8時45分から午前11時40分にかけて行われ、第2加工施設棟を巡視した。
 この巡視は新たに配属された技術参与の工程見学を主な目的としており、運転管理専門官からの指摘はほとんどなかったが、「今までに比べてゴミがかなり落ちているね」との指摘があった。

   4.3.9 第8回巡視

 第8回巡視は1998年12月3日午前8時45分から午前11時30分にかけて行われ、第2加工棟及び周辺監視区域の空間線量率測定ポイントを巡視した。
 JCOの巡視点検記録について、1人で全部まわれるのかと疑問が出され、JCO側が2人でまわっていると答えると運転管理専門官は2人でまわっているのに担当者の印は1人しか押していないので誰がどこをチェックしたのかわからなくなってしまうと指摘した。
 第2加工施設棟溶解室2階のフードから出ている配管がベコベコになっているのを見て運転管理専門官は「随分叩いてるね。普通は肉厚が厚いところを叩くけどなー」と述べた。
 運転管理専門官は巡視終了後、「来年1月は7日に来る。巡視内容はまだ考えていない。残り3ヵ月は1時間くらいにしても良いと思っている。加工工場をざっと見て、倉庫関係を見る程度にしても良い。但し、年度の初めは全部の部屋を見てまわり、その後は今年度と同じような感じで巡視しようと考えている。」と述べた。
 巡視終了後、JCOの担当者は、計画グループに対し、運転管理専門官から指摘はなかったが第2粉末貯蔵室の2段棚に粉末缶が2段重ねで置かれていたことを注意した。

   4.3.10 第9回巡視

 第9回巡視は1999年1月7日午前8時45分から午前10時にかけて年始の挨拶と情報交換で終わり現場の巡視はしなかった。

   4.3.11 第10回巡視

 第10回巡視は1999年2月4日午前8時45分から午前11時にかけて行われ、第2加工施設棟を巡視した。
 この巡視については社内の事前パトロールの電子メールが残されている(第4回から第9回までは電子メールが見あたらないが事前パトロールを行っていなかったとは考え難い)。1週間前の時点で酸化ウラン粉末の原料缶が約100缶あり、臨界問題の担当者からは、そんなに置くとなると臨界上保障できないとの意見が出された。巡視の際には原料缶を2階の精製室に避難させることになりJCOの担当者は2階の精製室が巡視対象にならないよう努力すると答えている。前日のパトロール結果に基づく指示では「加水分解室加水分解塔裏に設置されているバケツの撤去」「キャリーオーバータンクの片づけ」「溶解室溶解槽を接続している仮配管の撤去」「2階乾式化学処理室UO2缶を正規配列に」等の違法操業隠蔽が具体的に指示されている。
 第2加工施設棟の巡視では結果的に精製室も見せたが運転管理専門官から特に指摘はなかった。
 次回の巡視対象は第1〜第4固体廃棄物保管棟、転換試験棟、品質検査棟、固体廃棄物処理棟と予告された。

   4.3.12 第11回巡視

 第11回巡視は1999年3月4日午前8時45分から午前11時30分にかけて行われ、第1〜第4固体廃棄物保管棟、転換試験棟、品質検査棟、固体廃棄物処理棟を巡視した。
 運転管理専門官からはゴミが落ちている、床に水が溜まっている、錆がある、表示がはぜれている、電球が切れている等の指摘が相次いだ。

   4.3.13 第12回巡視

 第12回巡視は1999年4月8日午前9時から午前11時にかけて行われ、第2加工施設棟を巡視した。
 運転管理専門官は配管のサポートが効いていない、流量計が非常に汚れており流量が確認できない等の指摘をしている。また抽出塔脇に仮置きしてあった振動ミルを見て何かと質問し、JCO側が振動ミルの予備品であると答えると「形状制限されている設備の予備品はまずい。施設検査を受けていないのだから。」と指摘したが、そこまでで終わっている。
 JCOの担当者は運転管理専門官の指摘を元に各グループに対応を指示しているが、振動ミルの予備品の件については「今回の巡視で振動ミルの筒の予備品を指摘されたときには返答のしようがなかった。」と記載しつつ対応の指示はしていない。

   4.3.14 第13回巡視

 第13回巡視は当初5月6日に予定されていたが、5月の巡視は中止になり6月となった。JCO側では第2加工施設棟の沈殿工程以降の巡視が予定されていたので沈殿槽の質量管理について検討した。そこで「質量管理の方法は、正直ベースでは確実に質量制限以下に管理されているとは言えません。」として「回答案1 手順3のレベル計は質量制限以下になるためのレベル計であると説明する(実際の設定は非常に難しいが、とりあえずこれで逃げて実際の方法を検討する)。回答案2 張り込み量をその都度作業者が確認していると説明する(現実的にはほとんど困難か?)。回答案3 張り込み量をかなり多くの頻度で、作業者が確認していると説明する(頻度については決めなければならないが、核的制限値の担保の理由から頻度はかなり多くしなければ説得力がない)。」という虚偽の説明案をまとめていた。
 また数回にわたり事前パトロールを行い、前日の指示でも「U3O8ホッパー裏に仮配管あり(移動)」「キャリーオーバータンク(移動)」等の違法操業隠蔽を指示し、「沈殿槽No2、3前の側溝にウランが付着(除染)」等の杜撰操業の隠蔽を指示している。
 第13回巡視は1999年6月3日午前8時45分から午前11時にかけて行われ、第2加工施設棟の沈殿から仮焼までの工程を巡視した。
 運転管理専門官からはゴミ、設備の腐食、配管サポートのはずれ、設備の破損等を中心に指摘がなされた。
 沈殿槽の質量管理については話題にならなかったようで議事録には記載されていない。

   4.3.15 第14回巡視

 第14回巡視は運転管理専門官側の事情で1回、JCOの担当者の出張のため1回延期され、結局、1999年7月29日午前10時から11時にかけて行われ、第2加工施設棟の固液分離機、仮焼還元から振動ミルまでの工程を巡視した。
 このときは時間がなかったこともあり、運転管理専門官側からはほとんど指摘がなかった。
 8月は巡視せず、9月も第1週をパスして9月9日に行うことが予告された。

   4.3.16 第15回巡視

 第15回巡視は1999年9月9日午前8時45分から午前11時にかけて行われ、第2加工施設棟の振動ミル以降の工程を巡視した。
 運転管理専門官からは、一般的に休業日の換気停止について再検討するよう指摘があり、現場では従前同様腐食、錆等の指摘がなされた。
 次回の巡視について、10月7日と予告され、巡視対象については、JCO側から「予定では転換試験棟が動いているかも知れない。その後はまた当分動く予定がない」と発言があり、運転管理専門官も「転換試験棟でよい」と答え、次回の巡視対象は転換試験棟と決まった。

5 臨界事故に至る経緯に進む

**_****_**

原発訴訟に戻る   私の意見・活動報告に戻る

トップページに戻る  サイトマップ