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    ◆活動報告
   民主党のオウム犯罪被害者救済法案

 松本サリン事件、地下鉄サリン事件等のオウム真理教犯罪の被害者が、破産手続でも被害額の4割しか支払を受けられず、破産手続での救済が限界に達して、破産手続が終了することになりました。このままではオウム真理教による一連の犯罪の被害者が救済されないまま放置されることになってしまいます。そのような事態を避けるため、被害者救済のための特別立法が必要だということを、私たちは訴え続けてきました。
 民主党は、2月14日、オウム真理教の破産手続で届出をした人身被害者に対して、破産手続で支払を受けられなかった被害額を国が立て替えて被害者に支払い、国は支払った額をオウム真理教の残党から取り立てるという内容の法律案を、衆議院に提出しました。
 民主党の法律案は、私たちの希望をほぼ全て満たす内容です。民主党の法律案は、対象とする被害者を破産手続で届出をした被害者に限定する点で、(その点でだけ)自民党・公明党案より被害者救済の範囲が狭いように見えます。これが自民党が当初は私たちの要求に近い案を示したにもかかわらず、その後、破産手続で未届の被害者をも対象に入れるが支払額は一律の見舞金とする案に変更した理由と説明されています(自民党の説得に奔走した官僚の本音は別のところにあると思いますが。自民党案の変更などについてはこちらを見てください)。しかし、民主党案で法律ができれば破産手続での届け出期間を延長(再開)して未届の被害者にこれから届出をしてもらうことにより、未届の被害者も救済することができますから、被害者救済の観点からは民主党案には何の問題もありません。届出の再開については、当初、それが困難かと考えて私たちも未届被害者の救済は別枠で考える案を出したこともありますが、破産管財人にお願いしたところ、少なくとも今国会で法律が成立する限りは届出再開も可能と聞いています。実際、2008年3月26日の第16回債権者集会で、破産管財人は「最終業務報告、計算報告のための債権者集会日(2008年11月26日)までの間において被害者債権者の利益に属する特別の事情が生じた場合、管財人は裁判所の許可のもとに管財業務を再開するものとする。これは議員立法による救済のことも視野に入れてのことである。」と宣言しました。
 法案の審議については、自民党が民主党案とは異なる意見(被害の全額ではなく一律定額の「見舞金」を支給する。自民党案の問題点についてはこちらを見てください)で、店ざらしになっています。国会の動向により救済立法がどうなるか、まだわかりません。
 私たちは、被害者救済のためには、与党が民主党案に理解を示して民主党案で法律を成立させることが最善と考えています。
民主党が衆議院に提出している法律案は以下の通りです。

   オウム真理教犯罪被害者等を救済するための給付金の支給に関する法律案
 (趣旨)
第一条 この法律は、平成七年三月二十日に発生した地下鉄サリン事件等のオウム真理教による一連の犯罪行為の被害が未有のものであり、かつ、その被害者は暴力により国の統治機構を破壊する等の主義を推進する目的の下に行われた不特定又は多数の者の殺傷等の犯罪行為の犠牲となったものであること、オウム真理教に対する破産申立事件において各般の措置が講ぜられてもなおこれらの被害者等が十分な救済を受けるに至っていないこと等を踏まえ、国においてこれらの被害者等の救済を図ることの緊要性にかんがみ、オウム真理教犯罪被害者等に対する給付金の支給について定めるものとする。
 (定義)
第二条 この法律において「オウム真理教犯罪被害者等」とは、東京地方裁判所平成七年(フ)第三六九四号、第三七一四号破産申立事件(以下「対象破産事件」という。)に係る破産手続が終了する際、オウム真理教に係る破産手続における国の債権に関する特例に関する法律(平成十年法律第四十五号)第二条に規定する国以外の者が届け出た債権のうち生命又は身体を害されたことによる損害賠償請求権(以下「対象債権」という。)の債権者である者をいう。
 (給付金の支給)
第三条 国は、この法律の定めるところにより、オウム真理教犯罪被害者等に対し、給付金を支給する。
2 国は、オウム真理教犯罪被害者等(この項の規定により給付金の支給を受けることができる相続人を含む。)について相続があったときは、この法律の定めるところにより、その相続人に対し、給付金を支給する。 (給付金の額)
第四条 給付金の額は、対象債権の残額(対象債権について、破産法(平成十六年法律第七十五号)第四章第三節第四款の規定により確定した破産債権の額から対象破産事件に係る破産手続における配当の額を控除した残額をいう。)とする。
2 対象破産事件に係る破産手続における配当の実施に際し、広く一般に募集された寄附金等を原資としてオウム真理教犯罪被害者等に支払われた金銭の額は、前項の配当の額に含まれないものとする。
3 同一のオウム真理教犯罪被害者等について前条第二項に規定する相続人(以下単に「相続人」という。)が二人以上あるときは、給付金の額は、前二項の規定にかかわらず、これらの規定により算定した額を民法(明治二十九年法律第八十九号)第九百条から第九百二条までの規定によるその相続分により分して計算した額とする。
 (裁定の申請)
第五条 給付金の支給を受けようとする者は、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に申請し、その裁定を受けなければならない。
2 前項の申請は、対象破産事件に係る破産手続の終了の日(その日がこの法律の施行の日前であるときは、この法律の施行の日)から二年を経過したときは、することができない。
3 内閣総理大臣は、オウム真理教犯罪被害者等又はその知れている相続人に対し給付金の支給を受けることができる旨を通知する等、オウム真理教犯罪被害者等及びその相続人に対し、第一項の申請に関し利便を図るための措置を適切に講ずるものとする。
 (裁定等)
第六条 前条第一項の申請があった場合には、内閣総理大臣は、速やかに、給付金の支給に係る裁定(給付金を支給する旨の裁定にあっては、その額の定めを含む。以下同じ。)を行わなければならない。
2 給付金を支給する旨の裁定があったときは、当該申請をした者は、当該額の給付金の支給を受ける権利を取得する。
 (資料提出その他の協力)
第七条 内閣総理大臣は、裁定を行うため必要があると認めるときは、官公署に対して、資料の提出その他の必要な協力を求めることができる。
 (内閣府令への委任)
第八条 前三条に定めるもののほか、裁定の手続その他裁定に関し必要な事項は、内閣府令で定める。
 (事務の委託)
第九条 内閣総理大臣は、第五条第一項の申請の受付に関する事務、同条第三項の措置の実施に関する事務、第六条第一項の裁定のための審査に関する事務、給付金の支給の実施に関する事務その他内閣府令で定める事務を、対象破産事件における破産管財人であった者その他これらの事務を円滑に実施することができると認められる者に委託するものとする。
 (損害賠償との関係等)
第十条 国は、給付金を支給したときは、その額の限度において、当該給付金の支給を受けた者が有する損害賠償請求権を取得する。
2 国は、前項の規定により取得した債権について、その保全、取立てその他の管理に関する事務を厳正に行うよう努めるものとする。
 (不正利得の徴収)
第十一条 偽りその他不正の手段により給付金の支給を受けた者があるときは、内閣総理大臣は、国税徴収の例により、その者から、その支給を受けた給付金の額に相当する金額の全部又は一部を徴収することができる。
2 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。
 (時効)
第十二条 給付金の支給を受ける権利は、二年間行わないときは、時効により消滅する。
 (給付金の支給を受ける権利の保護)
第十三条 給付金の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。
 (公課の禁止)
第十四条 租税その他の公課は、給付金を標準として、課することができない。
 (戸籍事項の無料証明)
第十五条 市町村長(特別区の区長を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区長とする。)は、内閣総理大臣又は給付金の支給を受けようとする者に対して、当該市(特別区を含む。)町村の条例で定めるところにより、オウム真理教犯罪被害者等又はその相続人の戸籍に関し、無料で証明を行うことができる。
 (政令への委任)
第十六条 この法律に特別の定めがあるもののほか、この法律の実施のための手続その他この法律の施行に関し必要な事項は、政令で定める。
   附 則
 (施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。
 (検討)
2 国は、犯罪による被害の補償に関する制度の在り方に関し、テロリズムによる被害者等の救済についてその特殊性を踏まえた措置を講ずること、犯罪による被害者等が加害者から損害賠償を受けることが困難である場合に国が損害賠償金を立替払する制度を創設すること等について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

理 由
 平成七年三月二十日に発生した地下鉄サリン事件等のオウム真理教による一連の犯罪行為の被害が未有のものであり、かつ、その被害者は暴力により国の統治機構を破壊する等の主義を推進する目的の下に行われた不特定又は多数の者の殺傷等の犯罪行為の犠牲となったものであること、オウム真理教に対する破産申立事件において各般の措置が講ぜられてもなおこれらの被害者等が十分な救済を受けるに至っていないこと等を踏まえ、国においてこれらの被害者等の救済を図ることの緊要性にかんがみ、オウム真理教犯罪被害者等に対し、給付金を支給する措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
本案施行に要する経費
 本案施行に要する経費としては、約二十五億円の見込みである。

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