庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

女の子が楽しく読める読書ガイド
アースヘイブン物語 (原題 : Spellfall)
ここがポイント
 地味な少女ナタリーが冒険をするうちに勇気と自立心を身につけていくところがいい
 ナタリーの親友ジョーも勇敢で格好いい
 好感の持てる登場人物がほぼ女性に偏っていて、やり過ぎ感もあるが女の子が読む分にはいい

 お薦め度:星イメージ星イメージわりとお薦め/

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キャサリン・ロバーツ作 2000年
 物語の設定というかお約束ごとが色々あるので、まずその説明から。
 アースヘイブンは、人間界とパラレルワールドの関係にある魔法界で、その境目の「しもべの石」が10月31日(ハロウィーン)の深夜に開き、その時だけ行き来ができるようになっています。アースヘイブンの住人以外の者はアースヘイブンではハロウィーンの日以外は目が見えません。この物語では、魔法は自由に使えるのではなくて、アーズヘイブンの魂の木の種(スペル)を使って魔法をかけることになっています。魔法使いは必ず動物と結びつけられていて、その動物を「ファミリア」と呼んでいます。自分のファミリアが他の魔法使い12人のファミリアを食べるとその魔法使いは「スペル卿」という特別な力を持つ魔法使いになることができます。
 物語は、過去にアースヘイブンを追放された魔法使いホークが復讐のためにアースヘイブンの魂の木を枯らす秘密兵器「ワタリガラス」を開発し、アースヘイブンに侵入して闘うためにスペル卿となろうとして、服従させる(ファミリアを食べさせる)魔法使い狩りをするところから始まります。
 魔法の話なんですが、魔法界が一方的に優位なのではありません。「人間のテクノロジーはわたしたちの想像以上に早く進歩している」(214頁)なんてことが出てきて、現に開発された化学物質を根の先端に少しかけただけでアースヘイブンの魂の木が死にかけます。そのあたり、環境問題とか文明論的な問いかけも感じる余地はありますね。
 主人公は12歳の地味な少女ナタリー。ナタリーの母はスペル卿でしたが、人間の男性と結ばれ、ナタリーを生んだ後、川で溺れて死んでしまいました(実はホークたちに殺された)。ナタリーは、潜在的には強い魔法の力を持っているのですが、もちろん、そのことを知りません。その能力を見抜いたホークはナタリーを誘拐し12人目の魔法使いとして服従させて自らがスペル卿になろうとします。
 ナタリーは勇気を出して、ホークの息子でありながらホークに虐待されているマーリンを説得し、ホークの下から脱走し、アースヘイブンに入り、魂の木を救うべく活躍します。
 ナタリーは魔法使いなのだけど、はっきりとした能力は、アースヘイブンでも目が見えることとしもべの石を(ハロウィーン以外の日でも)通り抜けられることくらい。結局は魔法も呪文も使わずに闘います。元々は地味な少女でしたが、物語が進むうちに勇気を出し、特にマーリンとの対比でかなり勇敢に見えますし、自立心も芽生えていきます。
 これに対して、マーリンは滑稽なほど臆病に描かれています。実際には瞬間移動の魔法を使うことができ(かなり不確実ですけど)、コンピュータオタクでその知識が魂の木を救うことにはなるのですが。
 その他の主要人物でも、ナタリーの親友のジョーが勇敢で格好いいです。
 登場人物が、好感が持てるのがナタリー、ジョー、ナタリーの母のアタナキ卿(の魂)、魂の木の議会のサイパリ卿、敵のスペル団の中で裏切ってナタリーに味方するクローディアと、ほぼ女性だけに偏っています。男性は、敵のホークだけじゃなくて、魂の木の議会でもプヴェリヤン卿とか、かなり不快な人物に描かれています。ナタリーの父のマーリンズも義兄のティムも最初はかなりいやな奴に描かれています。後でいい奴になりますけどね。
 ちょっと、そのあたり、やり過ぎの感じもあるけど、まあ女の子が読む分にはいいでしょう。世の中には逆の設定のファンタジーがごまんとありますしね。

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