庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「闇金ウシジマくん Part2」
ここがポイント
 ヤミ金からの借り主をギャンブルやホストクラブ通いのためとして自己責任を強調する姿勢には疑問
 実際には消費者金融の取立に耐えられないとか嘘の広告がきっかけの場合が多いと思えるが、そういう借り主はまったく出てこない

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 10日で5割の違法高利のヤミ金融を主役に金に群がる人々の欲望を描いた映画「闇金ウシジマくん Part2」を見てきました。
 封切り6週目日曜日、ヒューマントラストシネマ渋谷シアター2(173席)午後1時40分の上映は4〜5割の入り。観客の多数派は若者層。

 暴走族愛沢連合の総長愛沢浩司(中尾明慶)は、自分のバイクに勝手に乗って事故った加賀マサル(菅田将暉)を袋叩きにして、カウカウファイナンスに連れ込み、バイクの損害と慰謝料で200万円こいつに貸してくれと申し入れる。丑嶋(山田孝之)は愛沢を追い返したが、暴走族と渡り合ったマサルに興味を示し、カウカウファイナンスで働かせることにした。中卒で喫茶店でバイトする彩香(門脇麦)はゲームセンターで知り合ったホストの麗(窪田正孝)に一緒に夢を実現しようなどと口説かれ、バイト代をつぎ込むが足りず、体を売り、丑嶋にも金を借りに来るが、5万円しか貸せない、稼ぎたいなら割のいい商売を紹介すると言われて本番AVにも出演して貢ぐが、太客牧子(キムラ緑子)を得てナンバー1を目指す麗は彩香にはつれなくしながら次々と金を要求する。金を返せなくなった母親を裸にして写真を撮れと丑嶋に命じられてできないと土下座しカウカウファイナンスをクビにされたマサルは、カウカウファイナンスの顧客名簿を使って自分でヤミ金を始め、羽振りがよくなったところを愛沢に捕まって殺されかけ、丑嶋に愛沢から要求された金を貸してくれと頼むが、逆に名簿を使って営業妨害をした損害として300万円を要求され、それを10日で5割で貸したと宣言される。暴力団幹部の熊倉(光石研)の配下で凶暴なヤミ金の犀原(高橋メアリージュン)から200万円の返済を迫られ窮地の愛沢に、マサルは、丑嶋の部下の高田(崎本大海)と柄崎(やべきょうすけ)が銀行から金を下ろしたところを襲おうと持ちかけるが…というお話。

 ヤミ金に金を借りる借り主がギャンブルのためやホストに貢ぐために金を借りていて、借りるときは10日で5割とわかっても返せると軽く考えて借り、返せなくなったら見苦しく逃げるか開き直るという姿が繰り返し登場し、ヤミ金が違法なことはもちろんではあるが、借りる客も借りる客だ(借りる側にも相当に落ち度がある)というニュアンスで描いています。
 確かに経験上ヤミ金まみれになって弁護士のところへやってくる借り主には人間的に壊れた人が多くて、私自身、かつてヤミ金相手の事件を多数やっていた頃、ヤミ金と喧嘩することよりも壊れた依頼者とつきあうことの方がしんどくて、そっちの方で嫌気がさしていたことも事実です。
 しかし、ヤミ金から借入をする借り主の大多数は、最初からヤミ金に手を出すことはなく、消費者金融からの借入が増えて消費者金融に返済できなくなり消費者金融の取立に追われて消費者金融に返済するためにヤミ金から借入を始めていました。最初からヤミ金融から借りた少数の借り主は、金利が年数%という嘘の広告を見てヤミ金の事務所に行き、あれこれ書類を書かされた上でそんな安い金利では貸せないとかあなたにはそういう条件では貸せないとか言われて既にいろいろ情報を与えてしまい既に事務所にも行っていてまた金が必要で行っていて金をちらつかされると矢も楯もたまらずというような経緯で借りています。そういう過去の私が借り主から聞き取った経緯からすれば、ヤミ金からの借入は、消費者金融の取立に耐えられずとか、嘘の広告がきっかけになっていることが多く、消費者金融や、嘘の広告を掲載する夕刊紙や雑誌に問題があると思えます。この作品ではそういう経緯の借り主はまったく登場せず、消費者金融や雑誌社に矛先が向くことを回避しています。企業の問題点には触れず、借り主の落ち度を強調する姿勢には疑問を感じます。

 家庭環境に恵まれず、リストラされた父親は酒浸りで就活もせず、姉には高校中退を詰られ、健気に喫茶店でアルバイトしながらもゲームセンターで憂さ晴らしをしていた彩香が、ゲーセンで知り合ったホストのイケメン男にむしられ貢がされて体を売り風俗に沈んで行く様、さらには不気味なストーカー男に付きまとわれながら、ホストにも相手にされなくなる様は哀れで泣けてきます。しかし、この作品では、ヤミ金が主人公というくらいですから、彩香への同情は示されず、ただドライに金利の取り立てがなされていきます。ホストに入れ込むのも風俗に沈むのも自己責任という描き方です。
 もう一つのヤミ金の犀原茜の暴力への躊躇のなさ、キレっぷりは、徹底していて、ある意味で突き抜けています。
 この2人の女性を通じて、この作品がたくましい女性像を提示していると見る余地もないではありません。若い女性の貞操の危機が直前で救われる普通のパターンと異なり、むしろ誰とやっても自由だ、それで悲観することなんてないというメッセージを見るべきなのかも知れません。しかし、彩香がホストにいいように貢がされ、ストーカーの暴力にもただ脅えるだけ、犀原も熊倉の言いなりということからすると、女が愚かで理解不能な存在と描いていると見た方がよさそうです。

 丑嶋の昼食、「中華にしよう」というのがカップラーメンという倹約ぶり、ホットケーキ(今どきの言い方だとパンケーキか)にシロップをたっぷりかける甘党ぶりが少し笑えるというか、ホッとします。 
(2014.6.22記)

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