たぶん週1エッセイ◆
映画「マイレージ、マイライフ」
ここがポイント
 解雇通告された労働者の反応が意外な見どころ
 リストラ宣告人は労働者からの訴訟が少なく解決金も低い日本では存在しにくいビジネス
弁護士の視点

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 1年のうち322日を出張で過ごすリストラ宣告人のビジネスライフを通じて人とのつながり方を描いた映画「マイレージ、マイライフ」を見てきました。
 封切り3日目祝日午前中は8〜9割の入り。

 1年のうち322日を出張で過ごし、空港を我が家と感じるライアン・ビンガム(ジョージ・クルーニー)は、会社が解雇すると決めた人物に会社に代わって面接し解雇を宣告して説得し事件や訴訟を防止するのが仕事。マイルをためてこれまで6人しかいない1000万マイルに到達するのが夢で、淡々と出張をこなし、旅先で知り合ったキャリアウーマンのアレックス(ヴェラ・ファーミガ)と大人同士の「気楽な関係」を結び逢瀬を重ねている。そこに登場したのが上司が期待の新人ともてはやすナタリー(アナ・ケンドリック)。ナタリーはネット上での解雇通告を提案し、面談のための出張など無駄と主張、それでうまく行くはずがない、現場がわかっていないと反論するライアンに、上司はナタリーの実地指導を命じ、ライアンはナタリーを連れて解雇通告の出張を続けるハメになる。解雇された労働者から反発され、出張中に電子メールで恋人から別れを通告されたナタリーは落ち込むが、ライアンに引き合わされたアレックスに慰められて立ち直り、アレックスとの「気楽な関係」を続けるライアンを批判する。そこに妹の結婚式の当日に新郎が自信をなくし結婚をやめるという事件があり、ライアンは、人生で一番大切だった瞬間を思い出して、その時君は一人だったかいと説得して翻意させる。これまでバックパックに詰め込める以上の荷物は背負わないがポリシーだった自分の人生に疑問を感じたライアンはアレックスとの関係を考え直そうとするが・・・というお話。

 ライトコメディのタッチで話が展開し、客席から時々笑いの漏れる映画です(もっとも私には、予告編の「本年度アカデミー賞作品賞最有力候補だ」のテロップが一番笑えますが)が、扱っているテーマは重く、簡単な解決はありません。そうならざるを得ないとは思いますが、映画としてはラストにもう少し工夫なりインパクトが欲しかったような気がします。このラストだとむしろ考え直さない方がよかったとも読めてしまうのが、哀しい。

 メインの3人の演技もよかったと思いますが、予想外の見どころは、解雇通告された労働者の反応。感情的になるのが少数派なのはどうかなとも思いますが、淡々とまた切々と訴える台詞に切迫感があり、メインテーマとは違うのですが、こちらの方で考えさせられます。

弁護士の視点
 会社が自ら解雇通告せずに、代わりに解雇通告するというビジネスが成り立つのは、卑怯な経営者が多いことの反映でもありますが、同時に労働者から訴訟を起こされたときのダメージが大きいことが基礎になっています。日本では、労働者が訴訟を起こすこと自体がかなり少ない上に、解雇の裁判で労働者が何らかの解決金を得る確率は高いものの解決金の水準が低いので、訴訟の予防のために全解雇にプロを雇って手数料を払うより争われてから個別対応した方がコストが安くなると判断する会社が圧倒的多数派となり、こういうビジネスは成り立たないでしょう。日本でも不当解雇をした会社にはそれなりのダメージが与えられるようなしくみが欲しいところです。
 映画のメインテーマとは別に、労働者側の弁護士としては、頑張らなくっちゃと、改めて考えさせられました。

(2010.3.22記)

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