庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「ラスト5イヤーズ」
ここがポイント
 I will follow you で飽き足りなくなった妻はどうするかが問われる
 クリスマスにオーディションに落ちてへこむキャシーをジェイミーが「物語」で慰め励ますシーンが感動的

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 作家として成功する夫と女優を目指すが実を結ばない妻のすれ違いを描いたミュージカルを映画化した映画「ラスト5イヤーズ」を見てきました。
 封切り3週目日曜日、全国10館東京で2館の上映館の1つヒューマントラストシネマ有楽町シアター2(62席)午後5時05分の上映は6割くらいの入り。

 作家を目指して投稿していたジェイミー(ジェレミー・ジョーダン)は、ランダムハウス社から20万ドルの稿料での出版のオファーを受け、ガールフレンドのキャシー(アナ・ケンドリック)と深い仲になる。キャシーは地元のオハイオ州でオーディションを受け続けるがなかなかうまくいかない。作家として成功の階段を上るジェイミーはキャシーに結婚を申込み2人はニューヨークで暮らし、ジェイミーは出版社の開くパーティーの主賓となりキャシーも同伴するが、知人らに囲まれるジェイミーをまのあたりにして自分は知らぬ人の中に埋もれジェイミーの付き人かと思われるキャシーは心穏やかではない。ニューヨークでもオーディションに受からないキャシーは、ジェイミーの励ましを受けながらも沈み込み、ジェイミーのパーティーに出席することを拒否するようになり…というお話。

 夫の作家としての成功を、当初は喜び祝福していたキャシーが、私は夫の一部と歌い、それも当初はそれでいいという姿勢だったのが、私は夫の後ろを歩くようになった、並んで歩くのではなく、となり、自分が女優として成功できないこととあわせて、それが我慢ならないこととなって亀裂が生じていきます。
 夫婦が協力し合うという気持ちではなく、ライバルとして張り合うような心情とも見え、そこが哀しいようにも思えます。
 しかし、それは、「では、I will follow you でいいのか」という問いかけでもあり、当初は I will follow you でいいという姿勢を見せたキャシーがやはりそれでは飽き足りない、情けないという思いを持つようになったことは、評価しておきたいところです。
 もっとも、ジェイミーは、自分の成功のみを追ってキャシーに付いて来いと主張していたわけではなく、キャシーの成功を願い励まし続けています。クリスマスにオーディションに落ちてへこみ沈み込むキャシーをジェイミーが「物語」で慰め励ますシーンは感動的です。ジェイミーは、キャシーが自分の夢を追うことを批判も邪魔立てもせずに、ただ自分のパーティーには気が進まなくても出て欲しいと求めますが、キャシーはそれも我慢ならなくなります。このあたり、夫側の視点で見ると切なくもの悲しくなります。

 キャシーの物語は別れが決まってからジェイミーとの始まりまで遡り、ジェイミーの物語はキャシーとの始まりから別れまで順に進む形で、交互に進みます。そのため、最初から2人が別れに至ることは既定事実とされ、観客の興味は、2人のすれ違いの描かれように絞られます。エピソードが時間軸をクロスするという趣向は、2人の思いや人生のすれ違いを象徴する意味でしょうけれども、途中から次のシーンが予測できるようになり、その観客の予測をどうあしらうか、予測通りの線で情的に深めるか、視点(話者)が変わることでその場面の意味づけを大きく変えて観客の予測を裏切るかがストーリー展開の味を左右することになります。その点では、私には、キレがあまり感じられませんでした。
(2015.5.10記)

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